2026年4月1日
出社回帰に逆行するオランダ──「テレワーク権」を持つ国の、ぶれない理由 | テレリモ総研
出社回帰に逆行するオランダ──
「テレワーク権」を持つ国の、ぶれない理由
でもオランダだけは、まったく違う方向を向いています。
なぜオランダは揺らがないのか。その答えは、制度にあるのではなく、「働く場所」を社員に権利として認めた文化と法律の根っこにあります。
Amazonが動き、JPモルガンが動き、世界が出社に向かった
2025年1月2日、Amazonは約35万人のコーポレート社員に「週5日出社」を義務づけました。JPモルガン・チェースも2025年3月に全社員の週5日出社を完全実施。Dellも同年3月から「ハイブリッド廃止・フル出社」を宣言。米国ではトランプ大統領が1月の就任初日に「連邦職員リモートワーク廃止」の大統領令に署名しました。
「出社回帰(Return to Office)」というワードが、2025年の働き方をめぐる議論でよく耳にされるようになりました。一部のメディアは「リモートワークの時代が変わりつつある」と伝え、「うちの会社もそうなるのだろうか」と感じたビジネスパーソンも少なくなかったと思います。
でも、少し立ち止まって見てみましょう。これは本当に「世界の流れ」なのでしょうか。
オランダで起きていること
2023年、オランダは欧州統計局(Eurostat)のデータで、EU加盟国の中でリモートワーク率1位を記録しました。労働人口の約51.9%が少なくとも部分的にリモートワークを行っており、EU平均の22%を大きく上回ります。
出典:Eurostat Labour Force Survey 2023(TradingView/Invezz, 2024)
さらに2024年。Fortune誌がEurostatの最新分析として報じたデータによれば、オランダ人の平均週労働時間は32.1時間。欧州で最も短い労働週を実現しており、男性の83%、女性の72%が柔軟な働き方を利用しているとされています。
出典:Eurostat 2025年分析(Fortune, 2025年8月)、(SeatsMach Flexible Work Europe 2025)
こうした動きが注目を集める中、オランダは少し違う道を歩み続けています。なぜでしょう。
答えは「法律」ではなく「対話の文化」にある
オランダには2016年に施行された「柔軟な働き方法(Wet flexibel werken)」があります。この法律は、従業員が勤務場所の変更を使用者に申し出る権利を保障するもので、使用者は申請から1か月以内に対応し、拒否する場合はその理由を明示しなければなりません。
2022年には、より強力な「希望の場所で働く法(Wet werken waar je wilt)」が下院を通過しましたが、2023年に上院で否決されました。国境をまたいだ在宅勤務に伴う税務・社会保険の問題や、すでに現行法で労使対話が十分機能しているという判断が理由でした。
重要なのは、「より強い法律が否決された」ことではありません。「現行法で十分に機能している」と上院が判断したことです。法律がなくても対話が成立している、それがオランダの本当の強さです。
在宅勤務を「法律で守られた権利」としてではなく、「当たり前の選択肢」として社会全体が受け入れている——この文化的な土台が、出社回帰の波を跳ね返している本質です。
出典:柔軟な働き方法(Wet flexibel werken)関連情報(RemoteLaws.com, 2025年12月更新)
「出社回帰」した大企業でも、オランダでは話が違う
実は、Amazon自身がこの構造に直面しています。2025年1月に週5日出社を命じたAmazonは、ヨーロッパでは各国の労働法やワークカウンシル(労使協議会)の壁にぶつかりました。オランダを含む欧州の従業員は、アメリカの従業員よりも強い交渉力を持っており、出社義務の適用が事実上緩和されるケースも報告されています。
出典:Allwork.Space, 2025年1月(Fortune記事より転載)
オランダは単に「リモートワークが多い国」ではありません。「働く場所を巡る対話が、制度として社会に組み込まれている国」なのです。アメリカの大企業がRTOを叫んでも、法的・文化的な仕組みが別の答えを出してしまう。そういう国です。
既存の記事でも触れた「なぜ強いのか」をデータで確認する
以前の記事(「なぜオランダは世界一リモートワークしやすい国なのか?」)では、ING・Philipsの企業事例や法制度の詳細をお伝えしました。今回はその「続き」として、出社回帰トレンドの時代における「オランダの揺らがなさ」の理由を整理します。
| 指標 | オランダ | EU平均 | 出典 |
|---|---|---|---|
| リモートワーク率(少なくとも部分的に) | 51.9% | 22% | Eurostat 2023 |
| 平均週労働時間(20〜64歳) | 32.1時間 | 約38時間 | Eurostat 2025年分析 |
| 男性の柔軟な働き方利用率 | 83% | データなし | SeatsMach 2025 |
| 女性の柔軟な働き方利用率 | 72% | データなし | SeatsMach 2025 |
| 失業率 | 3.7% | 5.9%(EU、2025 Q2) | Eurostat 2025 |
出典:TradingView/Invezz、Fortune 2025年8月、SeatsMach 2025
失業率が低く、生産性は高い。週32時間働いて成果を出している。「リモートワークは生産性を下げる」という反論に対する、オランダ自身が出している答えがこの数字です。
「出社回帰 vs. リモートワーク」という問いの立て方が、そもそも違う
オランダが示しているのは、「どちらが正しいか」という二択ではありません。
「なぜ出社するのか、なぜ在宅にするのか、その目的を労使で対話して決める」という構造です。オフィスは協働・育成・創造の場として再定義され、在宅は集中・成果・ライフのための時間として使われる。どちらが「勝ち」ではなく、目的によって使い分けるのが当たり前になっています。
- 出社 or リモートの二択思考
- 「出社=頑張っている」文化が残存
- RTOは経営トップからの一方的通達
- 制度が先行し、対話が後回し
- 目的に応じた場所選択が前提
- 「信頼ベース」の成果評価文化
- 労使対話で合意形成が標準
- 法律は「対話の最低ライン」を定める
企業が今日から変えられること
オランダ全体を真似することはできませんが、考え方は借りられます。オランダ流の本質は、三つのことに凝縮されています。
① 「なぜ出社するか」を一文で書いてみる
「協業・育成・顧客接点」など、出社の目的を言語化できているチームは、場所の使い分けが自然にできます。言語化できていないチームは、惰性で全員出社か惰性で全員在宅になりがちです。
② 「場所」をルールではなく合意として設計する
全社一律ではなくチーム単位で、固定出社日や応答の目安を四半期ごとに見直す習慣を持つ。これだけで職場の納得感は変わります。
③ 在宅の質を上げることに投資する
INGは月45ユーロの在宅手当と5年で最大1,600ユーロのホームオフィス補助を設けています。「在宅でも働きやすい環境」への投資は、リテンションに直結します。
出社回帰の波は、確かにあります。でもそれは「大企業数社のCEOが声高に叫んでいる」話であって、世界全体の働き方がそっちに向かっているわけではありません。
オランダは今日も、週32時間働いて、EU最高水準の雇用率を維持して、世界一リモートワークしやすい国として静かに存在し続けています。
「出社に戻るか、リモートを続けるか」より大事な問いがあります。「働く場所を、誰がどうやって決めるか」です。
その問いに、日本はまだ答えを出し切れていないかもしれません。オランダの答えは、27年前の法整備から始まっていました。
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