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2026.06.19 らしくコラム

保守費用を削減する外注見直しの進め方|契約棚卸しと再委託判断

LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託

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この記事のポイント

  • 保守費用が膨らむ主な要因は「過剰SLA・属人化・ベンダーロックイン・不要常駐」の4つであり、契約棚卸しで整理できます
  • 委託契約の見直しは「現状把握→SLA適正化→再委託先評価→移管計画」の順で進めると費用削減と品質維持を両立しやすくなります
  • 外注見直しには対応範囲・品質・移管リスクの精査が欠かせません。進め方を誤ると二重コストや障害頻度増加につながるおそれがあります

保守費用の外注見直しとは何か

contract paper review desk

保守費用の外注見直しとは、現行の保守委託契約の内容・費用・品質を再点検し、SLA(サービスレベル合意書)の適正化や委託先の再選定を通じてコストを適正化する取り組みです。

単純な値下げ交渉ではなく、「対応範囲の明確化」「サービス水準の再設定」「委託先の能力評価」を組み合わせることで、品質を維持しながら費用を削減できます。

現状把握 契約書・費用 一覧の棚卸し SLA評価 対応範囲・ 水準の再設定 委託先評価 再選定・複数 社見積比較 移管計画 引き継ぎ・ 切り替え設計 費用削減 品質を維持 しながら適正化
保守費用外注見直しの5ステップ:現状把握→SLA評価→委託先評価→移管計画→費用削減

経済産業省の「DXレポート」(2018年9月)では、日本企業のIT予算の約8割が既存システムの維持・運営(ラン・ザ・ビジネス)に費やされており、ラン・ザ・ビジネス比率が9割以上の企業が全体の4割を超えると指摘されています*1。この状況を放置すると、新規投資の余力が失われる一方で保守費用だけが積み上がるという課題が深刻化します。

保守費用の見直しを行う目的は、ただコストを下げることではありません。「適切なサービス水準を、適切な費用で確保する」という原則のもと、委託契約の実態と費用の整合性を点検することが出発点です。

保守費用が膨らむ4つの要因

保守費用が年々高止まりする背景には、いくつかの構造的な要因があります。以下の4点は多くの企業で共通して見られる課題です。

過剰なSLAと対応範囲の肥大化

契約当初に設定した「24時間365日対応」「障害発生から1時間以内に一次対応」といったSLAが、システムの利用実態に合わないまま継続されているケースがあります。夜間や休日の障害発生頻度が低いシステムに高コストの常時対応体制を維持していると、費用対効果が著しく低下します。

また、契約締結時に「念のため」と追加した対応範囲が、見直されないまま累積して費用増加の原因となることも見られます。対応範囲が曖昧なまま運用されると、ベンダー側の裁量で「範囲外」と判断された作業への都度追加請求が発生し、実態として費用が契約金額を上回ることもあります。

属人化による委託依存の固定化

担当ベンダーの特定エンジニアにシステム知識が集中している状態(属人化)が発生すると、そのエンジニアの継続的な関与が事実上の必要条件となり、委託先を変更しにくい状況が生まれます。委託先との良好な関係や過去の対応実績を重視するあまり、市場価格との乖離が放置されることも少なくありません。

属人化は、設計書・仕様書・変更履歴などのドキュメントが整備されていない場合に起きやすい問題です。ドキュメント不足がそのまま「そのベンダーでなければ対応できない」状態につながります。

ベンダーロックインによる交渉力の低下

ベンダーロックイン(特定ベンダーへの過度な依存)は、保守費用の割高化を招く主要因のひとつです。独自フレームワークや非公開仕様で構築されたシステムは、他社への移管が技術的に困難なため、ベンダー側が価格設定の主導権を持ちやすくなります。

著作権がベンダー側に帰属している場合も同様です。ソースコードの開示がないまま保守委託を継続すると、移管検討の段階で高額な移行費用を提示されるリスクがあります。

不要な常駐体制とライセンス費用

システムの安定稼働期には不要になった「常駐SE(システムエンジニア)」の体制や、実際にはほとんど使用していない監視ツール・ライセンスが費用に含まれたままになっているケースがあります。リリース直後の手厚い体制が、数年経過した後も見直されないまま継続されているのは典型的な無駄コストです。

契約棚卸しの手順と確認項目

保守費用削減の第一歩は「現在どんな契約を、いくらで結んでいるか」を一覧化する契約棚卸しです。複数のベンダーや複数のシステムに分散した保守委託を整理することで、費用の全体像が初めて見えてきます。

Step 1:保守委託契約の一覧化

まず、社内で有効なすべての保守委託契約を一覧表に整理します。確認すべき情報は「システム名・対象範囲・委託先・月額・契約更新日・SLA内容・担当窓口」の7項目が基本です。

契約書が見当たらない、更新日が不明という状態のシステムは、交渉余地の検討も困難なため優先的に調査します。「毎年自動更新」になっているものは特に注意が必要です。費用が市場水準から乖離していても、見直しの機会を逃しやすい契約形態です。

Step 2:費用の妥当性チェック

一覧化した後は、各契約の費用が市場参考値と比較して妥当かどうかを点検します。年間保守費用は「開発費の15〜20%程度」が業界内で参考値として使われる水準ですが、これはあくまで目安であり一次資料ではありません。対象システムの規模・複雑性・リリースからの経過年数によって適正値は異なります。

費用の妥当性を判断する際は以下の観点で確認することが大切です。

  • 開発費に対する年間保守費用の比率は適正範囲か
  • SLA(稼働率・応答時間・対応時間帯)の定義が契約書に明記されているか
  • 実際に発生した問合せ・障害件数と費用が見合っているか
  • 担当者の属人化リスクがあるか(ドキュメント整備状況)
  • 過去2〜3年の見積もり比較や複数社との競合があったか

Step 3:削減優先度の設定

棚卸した契約を「費用規模が大きいもの」「SLAが過剰と思われるもの」「ドキュメントが整備されていて移管しやすいもの」の順で優先度をつけます。すべてを同時に見直そうとすると担当者の工数が不足するため、契約更新時期や業務繁忙期を考慮した計画的な順序が重要です。

SLA適正化で費用を抑える判断軸

SLA(Service Level Agreement:サービスレベル合意書)とは、委託先が提供するサービス品質の基準を定めた合意書です。対応時間・稼働率・障害対応の優先度などを数値で定義します。SLAが過剰に設定されていると、実態以上の体制費用が発生します。

システム重要度に合わせたSLAの分類

保守対象のシステムを「ビジネス停止時の影響度」と「障害発生頻度」の2軸で分類することが、SLA適正化の出発点です。

重要度ランク 対象システムの例 推奨SLAの考え方 コスト傾向
高(ミッションクリティカル) 決済・受発注・基幹業務 24時間対応・1時間以内の一次対応・稼働率99.9%以上 高めの委託費用が妥当
中(業務継続に必要) 社内業務システム・CRM 営業時間内対応・翌営業日以内の対応・稼働率99.5%程度 体制を絞ることで削減余地あり
低(停止しても当日は許容) 社内ツール・分析用BI 翌営業日対応・稼働率99%程度・障害対応は月次確認 大幅な削減が期待できます

高重要度のシステムに過剰なSLAをかけることよりも、中〜低重要度のシステムにかかっている「気づかれにくいコスト」を削ることが実務上の効果につながります。

SLA再設定の交渉ポイント

SLAを変更する際は、単に「水準を下げる」ではなく「利用実態に合わせて最適化する」という姿勢でベンダーと交渉することが大切です。交渉では、「過去1年間の障害発生件数」「実際の問合せ時間帯の分布」「夜間・休日の対応実績」などの実績データを提示することで、現在のSLA水準が過剰であることを客観的に示せます。

また、SLAが契約書に明文化されていない場合は、まず定義を行うことから始めます。SLAが不明確なままでは、追加費用や対応範囲をめぐる認識のズレが生じやすく、結果的にコスト超過につながります。

再委託先を選ぶ際の評価ポイント

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現行ベンダーへの再交渉が難しい場合や、複数社から競合見積もりを取得してコスト適正化を図る場合は、委託先の再選定が選択肢になります。

選定時に確認すべき5つの観点

保守委託先を選定する際は、費用の低さだけでなく以下の観点を総合的に評価することが重要です。

  • 対応技術領域の適合性:対象システムの技術スタック(使用言語・フレームワーク・インフラ構成)に精通しているか
  • 元請(プライムベンダー)か下請けか:元請として直接対応するか、さらに外注するかで品質管理の精度が変わります
  • ドキュメント引き継ぎ能力:仕様書・変更履歴・設計書が不完全な状態でも移管対応できる体制があるか
  • SLA定義の明確さ:稼働率・対応時間・障害レベルの分類が契約書に明記されているか
  • 継続的な改善提案の有無:保守実績を通じた効率化・自動化の提案を行う姿勢があるか

複数社見積もり取得の実務

同一仕様のRFP(提案依頼書)を2〜3社に送付し、費用・体制・SLA定義を比較することが有効です。RFPには「システム概要」「対象範囲と除外範囲」「現在の障害頻度・問合せ件数」「求めるSLA水準」「移管期間」を明記します。

見積もりの比較においては、「月額費用」だけでなく「障害1件あたりの対応費用」「初期移管費用」「追加作業の単価」も確認しておくことが大切です。月額が安くても都度追加費用で総額が上がるケースは実務上よく見られます。

移管・切り替えで陥りやすい失敗と対策

保守委託先の切り替えは、適切に進めなければ障害対応の遅延や二重コストが発生するリスクがあります。移管期間の設計と引き継ぎの精度が成否を分けます。

失敗1:ドキュメント不備による引き継ぎ遅延と障害増加

仕様書や変更履歴が整備されていないまま移管を開始すると、新しい委託先がシステムの構成を把握するのに時間を要し、その間に障害が発生した場合の対応が遅くなるおそれがあります。旧委託先との契約終了前に、必要なドキュメントをすべて整備・受領することが前提条件です。

ドキュメント整備は「現行委託先に作成を依頼する」か「自社で棚卸しを行う」かを事前に決め、費用と工数を計上しておく必要があります。これを軽視すると切り替え後の障害頻度が増加するリスクがあります。

失敗2:旧委託先との切り替えタイミングのズレ

旧委託先の契約終了日と新委託先の開始日が重ならないと、保守が空白になる期間が生じます。最低でも1〜3か月の並行期間を設け、新旧委託先が同時稼働する期間を確保することが一般的な対策です。並行期間中は二重コストが発生しますが、リスク低減のために必要な投資です。

失敗3:移管後の追加費用を想定していない

新委託先が実際にシステムを引き継いだ後に、「想定外の複雑な実装」「ドキュメントにない非公式な設定」が発見され、追加費用が発生するケースがあります。移管前に新委託先へシステムの概要資料を開示し、「リスク洗い出しセッション」を設けることで、事前の費用見積もり精度を高められます。

削減と品質維持を両立するための対応範囲の明確化

保守費用削減を進める一方で、品質が低下すれば障害頻度増加や業務停止リスクが高まります。「費用を下げながら品質を維持する」ためには、対応範囲の明確な定義が不可欠です。

保守範囲の「含む・含まない」を契約書に明記する

保守委託契約でよくある問題のひとつが、「バグ修正は有償か無償か」「既存機能の仕様変更対応は含まれるか」が曖昧なことです。一般的な考え方として、既知の欠陥の修正(バグ修正)は保守範囲に含まれ、新機能の追加や仕様変更は追加費用とすることが多いですが、契約書に明記されていなければベンダーごとに解釈が異なります。

「保守範囲に含むもの」「含まないもの」「別途費用が発生するもの」の3分類を契約書のチェックリストとして整備することが大切です。これにより追加費用の頻発を防ぎ、予算の予測可能性が高まります。

自動化・監視ツール活用でコストを抑える

定型的な監視作業(サーバリソース確認・ログ集計・定期バッチ確認)を自動化ツールで代替することで、人的な保守工数を削減し費用を抑えられます。監視ツールの導入費用は発生しますが、月次・週次の定型確認作業の工数削減と組み合わせると費用削減効果が期待できます。

ただし、自動化できるのは「定型的で判断不要な確認作業」に限られます。障害対応・根本原因の調査・ユーザー対応などは人的対応が引き続き必要で、自動化で完全に代替することはできません。「どこを自動化し、どこに人的対応を残すか」を明確にすることが、品質維持と費用削減の両立につながります。

対応スキルと工数を必要とする作業の内訳

保守業務を委託する際に、自社で必要となる管理工数も見落としがちです。委託先への対応指示・進捗管理・SLA遵守の確認・月次報告レビューといった「委託管理業務」は、内製で対応する必要があります。委託先が増えるほどこの管理工数も増加するため、委託先の集約もコスト最適化の観点で検討に値します。

まとめ:保守費用見直しの3つの判断軸

本稿では、保守委託契約を見直してコストを削減するための実務的な手順を整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。

第一に、保守費用の高止まりは「過剰SLA・属人化・ベンダーロックイン・不要常駐」という4つの要因が絡み合って生じています。費用が気になり始めたときは、まず契約棚卸しを行い、どの要因が自社のコストに効いているかを特定することが出発点です。

第二に、見直しは「現状把握→SLA評価→委託先評価→移管計画」の順で進めることが大切です。特にSLA適正化は、システムの重要度に応じた分類から始めると交渉の根拠が明確になります。再委託先の選定では費用だけでなく、元請(プライムベンダー)としての直接対応能力や引き継ぎ実績を確認することが品質維持につながります。

第三に、移管・切り替えにはドキュメント整備と並行稼働期間の設計が不可欠です。ドキュメント不備を軽視すると切り替え後の障害頻度が増加するリスクがあり、結果的にコスト削減効果が打ち消されます。「適正な費用で適正なサービス水準を確保する」という観点で、外注見直しを継続的なプロセスとして位置づけることが重要です。

よくある質問

保守費用の見直しはいつのタイミングで行うのが適切ですか?

契約の更新時期が実務上もっとも動きやすいタイミングです。自動更新になっている場合は更新日の3〜6か月前に検討を開始すると、交渉や複数社見積もりに十分な時間を確保できます。また、システムのリリースから2〜3年が経過した時点で一度棚卸しを行うことも有効です。利用実態とSLAの乖離が蓄積されやすい時期であるためです。

SLAが契約書に記載されていない場合、どのように対処すればよいですか?

まず現在の委託先との合意内容をメールや議事録で確認し、「稼働率・障害応答時間・対応時間帯」を書面に残すことから始めてください。その後、次回の契約更新時にSLAを契約書本体に明記することを目指します。SLAが不明確な状態では追加費用や対応範囲のトラブルが発生しやすく、費用の予測可能性も低下します。新規の委託先を選定する際は、SLA定義が契約書に含まれることを選定基準のひとつとすることが大切です。

ベンダーロックインから脱却するために最初にすべきことは何ですか?

最初に確認すべきは「ソースコードと設計書の所有権が自社にあるか」です。著作権がベンダー側に帰属している場合、移管には高額な費用が発生するリスクがあります。次に、システムの構成ドキュメント(インフラ構成・データ構造・API仕様)が整備されているかを確認します。ドキュメントが揃っていれば、他社への移管可能性が高まります。いずれも現行ベンダーに整備を依頼するか、自社で作成するかを計画的に進めることが脱却への第一歩です。

委託先を変更すると一時的にコストが増えることはありますか?

はい、切り替え期間中は旧委託先と新委託先が並行稼働するため、一定期間の二重コストが発生することがあります。また、ドキュメント整備費用・移管対応費用・新委託先の初期立ち上げ費用も計上が必要です。一般的には移管コストを1〜2年で回収できる水準の月額削減効果が見込める場合に委託先変更が費用対効果として成立しやすいとされています。ただしこれは市場参考値であり、個々の契約内容や移管難易度によって異なります。

保守費用削減を進める際に品質低下を防ぐポイントは何ですか?

費用削減を目的としてSLAを下げる際は、「下げても業務に支障が出ないか」をシステムの重要度と過去の障害実績で判断することが重要です。過去1年間の障害件数・問合せ件数・時間帯分布のデータを使うと、現行SLAが過剰かどうかを客観的に評価できます。また、対応範囲を「含む・含まない」で契約書に明記することで、追加費用による予算超過を防げます。定型作業の自動化と人的対応の組み合わせも、コスト削減と品質維持を両立する実務的な手段のひとつです。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑

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  1. *1 出典:経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」(2018年9月)※同レポートのデータはJUAS「企業IT動向調査報告書2017」を参照


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