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クラウドアーキテクト不足を外部支援で補う進め方
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- クラウドアーキテクトはマルチアカウント設計・IaC(インフラのコード化)・移行戦略を横断する上流人材であり、クラウドエンジニアやセキュリティアーキテクトとは役割が異なります。
- 経済産業省の調査では2030年のIT人材不足が高位シナリオで約79万人に達すると試算されており、クラウドアーキテクト領域の採用難は特に深刻です。
- 外部の技術アドバイザリ・設計委託・スポット支援を組み合わせることで、内製チームの設計品質を維持しながら事業を前進させられます。
目次
クラウドアーキテクトとは何か:役割の定義と他職種との違い
クラウドアーキテクトとは、組織のクラウド全体設計を担う上流人材であり、マルチアカウント構成・ネットワーク設計・セキュリティ・コスト設計・IaC(Infrastructure as Code:インフラをコードで管理する手法)・移行戦略を横断的に意思決定する役割を指します。
クラウドアーキテクトを理解するうえで重要なのは、隣接する職種との役割の違いです。
クラウドエンジニアは個別サービスの構築・運用が中心であり、アーキテクトが決定した設計を実装する担当です。一方、セキュリティアーキテクトはセキュリティドメインに特化した設計を担います。クラウドアーキテクトはこれらの上位に位置し、クラウド全体の整合性・コスト・セキュリティ・運用をひとつの設計思想のもとに統合します。
主要クラウドベンダーはいずれも認定資格でこの役割を定義しています。AWS(アマゾン ウェブ サービス)は「AWS Certified Solutions Architect」*1、Microsoft Azureは「Microsoft Certified: Azure Solutions Architect Expert」*2、Google Cloudは「Professional Cloud Architect」*3を設けており、それぞれ上流設計・Well-Architected原則・マルチドメイン統合を試験範囲に含めています。
採用難の実態:IT人材不足とクラウドアーキテクト希少性の背景
経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年)*4によれば、2030年のIT人材不足は需要の伸びが高い高位シナリオで約79万人に達すると試算されています。中位シナリオでも約45万人の不足が見込まれており、いずれのシナリオでも人材確保は容易ではありません。
この不足の中でも、クラウドアーキテクトは特に希少な層に位置します。理由は3点あります。
- AWS・Azure・Google Cloudのいずれかで上位認定(Professional/Expertレベル)を持つ人材が市場に少ない
- ネットワーク・セキュリティ・コスト・IaCを横断的に設計できる経験は、個別の専門家では代替しにくい
- クラウド移行案件の増加に伴い需要が急拡大しており、供給側の育成が追いついていない
採用市場では、クラウドアーキテクト経験者への求人競争が激化しています。特定ベンダー認定+実案件経験を持つ人材は、複数社から同時にオファーを受けるケースが珍しくありません。
内製採用が難しい3つの理由:専門性・コスト・育成期間
クラウドアーキテクトの採用が困難な根本要因を「専門性の幅」「コスト水準」「育成期間」の3点に分けて整理します。
専門性の幅:単一スキルでは補えない
クラウドアーキテクトに求められるスキルセットは広範です。マルチアカウント管理・VPC(仮想プライベートクラウド)設計・IAM(ID・アクセス管理)ポリシー・コスト配賦設計・IaCツール(TerraformやAWS CloudFormationなど)・移行戦略の全域に精通している必要があります。
ネットワークエンジニアとセキュリティエンジニアと開発エンジニアを3名採用しても、クラウドアーキテクトの代替にはなりません。横断的に判断できる人材が1名不在であれば、設計の整合性が失われます。
コスト水準:市場の人件費は高止まり
クラウドアーキテクト経験者の正社員採用は、市場全体として人件費が高い水準にあります。正確な金額は企業規模・地域・経験年数によって大きく異なるため、自社の採用予算と照合する必要があります。
採用が成立しても、在籍期間中に社内にノウハウが十分移転されなければ、退職時に設計知識がゼロになるリスクがあります。これは長期的な組織リスクです。
育成期間:既存人材の内製化には時間がかかる
既存のインフラエンジニアやクラウドエンジニアをクラウドアーキテクトへ育成する場合、実案件を通じた経験積み上げが必要です。認定資格取得は学習進捗の目安になりますが、設計判断力が実務で機能するまでには相応の時間を要します。
この育成期間中に進行中のクラウド移行・マルチクラウド整備が止まることは、事業面での損失につながります。外部支援はこの空白を埋める手段として機能します。
外部支援の3形態:アドバイザリ・設計委託・スポット支援
クラウドアーキテクト不足を外部で補う手段は、関与の深さに応じて3形態に分けられます。それぞれの特性を比較します。
| 形態 | 内容 | 適した場面 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 技術アドバイザリ | 月次・週次での設計レビュー・意思決定支援。 内製チームの判断を外部の専門家が確認する形。 |
内製チームがある程度機能しており、設計の品質確認・壁打ちが必要な場合 | アドバイザーが設計を直接実装しないため、実行力は内製チームに依存します。 |
| 設計委託 | アーキテクチャ設計書・IaCコード・移行計画の成果物を外部が作成。 内製チームは承認・実装を担当。 |
設計フェーズの人材がおらず、成果物として設計ドキュメントが必要な場合 | 成果物の品質は委託先の選定に左右されます。 要件定義を自社で行えるかどうかが前提条件です。 |
| スポット支援 | 特定プロジェクト(移行・マルチアカウント整備・セキュリティ強化)に限定した期間支援。 | 緊急性が高いプロジェクトや、一時的な人員不足を補いたい場合 | 支援終了後の知識定着を計画に組み込まないと、同じ課題が再発します。 |
3形態は排他的ではなく、組み合わせて利用できます。たとえば「設計委託でアーキテクチャドキュメントを整備→技術アドバイザリで内製チームの判断力を底上げ」という段階的な活用が実務上よく見られます。
外部支援を進める4ステップ:要件定義から運用移行まで
外部支援を活用してクラウドアーキテクト不足を補う際、以下の4ステップで進めると整合性を保ちやすくなります。
ステップ1:設計課題と支援スコープを明確化する
外部支援の失敗の多くは、発注側が「何を決めてもらいたいか」を言語化できていないことに起因します。まず社内で「現在の設計上の課題(マルチアカウント整理・IaC未整備・セキュリティポリシー未策定など)」を優先度付きでリスト化します。
支援スコープを「アーキテクチャ設計書の作成まで」「IaCコードのレビューまで」など成果物レベルで定義することで、委託先との認識齟齬を減らせます。
ステップ2:委託先を評価する3つの軸
パートナー選定では以下の3軸で評価します。
- 対象クラウドの上位認定資格保有者(AWS Solutions Architect Professional / Azure Solutions Architect Expert / GCP Professional Cloud Architect など)が実際に担当するか
- 類似業種・規模のクラウド移行・マルチアカウント設計の実績を説明できるか
- 設計ドキュメント・IaCコードの納品形式と知識移転の方針が契約に明記されているか
認定資格は「設計の語彙・知識体系が揃っているかどうか」の目安です。実案件の経験と組み合わせて判断します。
ステップ3:知識移転の仕組みを設計に組み込む
外部支援をただ受けるだけでは、支援終了後に内製チームの設計力は向上しません。設計判断の根拠をドキュメントに残す・週次レビューに内製エンジニアを同席させる・IaCコードにコメントを付与するなど、移転の仕掛けを支援開始時から組み込みます。
知識移転の設計を怠ると、外部パートナーへの依存が長期化します。これは費用の増大だけでなく、自社の設計力が育たないという組織リスクです。
ステップ4:段階的な内製移行と評価サイクルを設ける
外部支援は恒久的な状態ではなく、内製への移行を前提とした暫定措置として位置づけます。「支援開始から6か月後に設計レビューを内製が主担当にする」「1年後にIaC管理を完全内製化する」のように、移行のマイルストーンを支援契約時に設定しておくことが実務上の目安です。
評価サイクルでは「内製チームが説明できる設計判断が増えているか」を定性的に確認します。定量的な指標としては、設計レビューでの外部コメント件数の推移が目安になります。
外部支援の失敗パターンと防止策:依存・品質・引き継ぎ
外部支援の活用が期待通りの結果にならないケースには、共通するパターンがあります。
失敗1:外部依存が長期化し内製力が育たない
「外部に任せれば回る」という状態が続くと、内製エンジニアが設計判断に関与する機会が失われます。支援終了時に「設計の経緯がわかる人が社内にいない」という状況になると、次の改修・移行で再び外部に依存するサイクルに入ります。
防止策は、ステップ3で述べた知識移転の仕組みを契約段階で合意することです。月次での知識共有セッション・設計判断ログの蓄積を、成果物の一部として定義します。
失敗2:要件定義が甘く設計品質が期待値と乖離する
「クラウド移行の設計をお願いします」という曖昧な発注では、委託先は業界標準のテンプレートを適用します。自社の業務要件・非機能要件・規制対応・既存システムとの連携を整理しないまま外部に丸投げすると、完成した設計が実環境に合わない事態が生じます。
RFP(Request for Proposal:提案依頼書)に要件を文書化し、設計のレビューポイントを明確にすることで、この問題を事前に防ぐことができます。
失敗3:成果物の引き継ぎが不完全で運用段階に支障が出る
IaCコードやアーキテクチャ設計書が納品されても、内製チームがそのコードを変更・拡張できなければ価値は半減します。コードの読み方・変更手順・運用上の注意事項を含むランブックを成果物に含めることを発注時に明記します。
引き継ぎ期間を設けず「納品=完了」とした場合、運用段階で問題が発生した際の対処コストが大きくなります。
まとめ:外部支援を判断する3つの軸
本稿では、クラウドアーキテクト不足の実態と外部支援の活用方法を整理しました。要点を3点に集約します。
第一に、クラウドアーキテクトは「クラウド全体設計の上流判断」を担う職種であり、クラウドエンジニアやセキュリティアーキテクトとは代替関係にありません。この違いを認識しないまま採用や外部支援を検討すると、スコープの不一致が生じます。
第二に、経済産業省が2019年に公表した試算(高位シナリオで2030年に約79万人不足*4)が示すIT人材不足の構造の中で、クラウドアーキテクトのような上流設計人材は供給が限られています。短期での採用解決が難しい場合、外部支援(技術アドバイザリ・設計委託・スポット支援)は現実的な選択肢です。
第三に、外部支援を活用する際は「知識移転の仕組み」「スコープの明確化」「内製移行の計画」の3点を支援開始前に合意しておくことが、長期的な設計力の維持につながります。
よくある質問
クラウドアーキテクトとクラウドエンジニアは何が違いますか?
クラウドアーキテクトはマルチアカウント設計・ネットワーク・セキュリティ・コスト・IaC・移行戦略をクラウド全体として統合設計する上流の役割です。クラウドエンジニアはアーキテクトが決定した方針をもとに個別サービスを構築・運用する担当です。両者は上下関係ではなく役割分担の関係にあります。
外部支援に向いている企業はどのような状況ですか?
クラウド移行を計画しているがアーキテクチャ設計の経験者がいない、IaCが未整備でコード化を急いでいる、あるいは既存の設計を第三者にレビューしてもらいたいという状況の企業に外部支援は向いています。採用活動が長期化しており設計フェーズを止められない場合にも有効です。
外部支援はどのくらいの期間を見込めばよいですか?
支援形態と業務内容によって異なります。技術アドバイザリは月次契約で継続するケースが多く、設計委託は対象スコープ(マルチアカウント整備のみ・移行計画まで含むなど)によって期間が変わります。内製移行を前提にする場合は、知識移転期間として追加で数か月を見込むことが実務上の目安です。具体的な期間は要件整理の段階でパートナーと合意します。
AWS・Azure・GCPのどのクラウドに対応した支援を選べばよいですか?
自社が利用中または移行先として検討しているクラウドに合わせて選定します。AWSはAWS Certified Solutions Architect Professional*1、AzureはAzure Solutions Architect Expert*2、GCPはProfessional Cloud Architect*3という認定資格が上位設計の目安になります。マルチクラウド環境では複数の認定を持つ人材またはチームで対応できるかを確認します。
外部支援で作成した設計書やIaCコードは自社に帰属しますか?
契約内容によって異なります。成果物の著作権・利用権の帰属を契約書に明記することが必要です。IaCコードについては「ソースコードの完全な引き渡し」「変更・派生物の作成に関する権利」を含めて確認します。ランブック(運用手順書)の納品もあわせて確認しておくと、支援終了後の自社運用がスムーズになります。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:Amazon Web Services「AWS Certified Solutions Architect – Professional」(公式認定ページ・2026年確認)
- *2 出典:Microsoft「Microsoft Certified: Azure Solutions Architect Expert」(公式認定ページ・2026年確認)
- *3 出典:Google Cloud「Professional Cloud Architect 認定資格」(公式認定ページ・2026年確認)
- *4 出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査 調査報告書」(2019年4月)