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需要予測AI開発を外注で進める方法
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてAI開発・システム運用を受託
この記事のポイント
- 需要予測AIは在庫最適化・自動発注・生産計画・人員シフトなど複数の業務に活用でき、販売実績と外部要因データの組み合わせが精度を左右します。
- 予測の枠組みは、過去の実績から未来を推定する時系列モデルと、価格や曜日などの説明変数を使う回帰モデルの2系統に整理できます*3。
- 精度評価にはMAPE・WAPE・RMSE・MASEなど複数の指標があり、データ不足や過学習への備えも欠かせません*2*3。
目次
需要予測AIとは——販売実績と外部要因から将来の需要を推定する仕組み
需要予測AIとは、過去の販売実績や在庫の動き、気象・イベント・価格といった外部要因のデータを組み合わせ、将来の需要を統計・機械学習の手法で推定する仕組みを指します。小売・製造・物流などの現場では、この推定値をもとに発注量や生産計画、人員シフトを調整する使われ方が一般的です。
従来の需要予測は、担当者の経験則や単純な移動平均・前年同月比といった手法が中心でした。需要予測AIはこれに加え、価格変更やキャンペーン、天候、曜日といった複数の要因を同時に扱える点が異なります。時系列データを扱うクラウドサービスの公式解説でも、小売・金融・物流・ヘルスケアなど幅広い分野で在庫や人員、Webトラフィックなどの予測に使われていると説明されています*1。
なお本稿で扱う需要予測AIは、販売数量や来店数といった「需要そのもの」を推定する用途に絞っています。取引データの異常なパターンを検知する異常検知AIや、顧客ごとに商品を提示するレコメンドAIとは目的が異なる仕組みですので、混同しないよう整理しておく必要があります。
需要予測AIの活用場面——在庫最適化・自動発注・生産計画・人員シフト
需要予測AIの活用場面は、業種によって重なりつつも力点が異なります。小売業では在庫最適化と自動発注への応用が中心です。店舗別・商品別の需要を予測し、欠品と過剰在庫の両方を抑える方向で発注量を調整する使い方が一般的です。クラウドの時系列予測サービスの公式ドキュメントでも、「小売の需要計画」を代表的なユースケースの一つに挙げ、店舗ごとに在庫や価格を細かく変えられるようになる点を利点として説明しています*1。
製造業では生産計画への組み込みが軸になります。原材料やサービスなど、製造に必要な投入量を事前に見積もる「サプライチェーン計画」としての活用です*1。需要予測の結果を生産スケジュールに反映することで、急な増産や過剰な仕掛品の発生を減らす狙いがあります。
物流・サービス業では、人員配置や設備稼働の計画に使われる場面も増えています。スタッフの必要人数や広告出稿量、エネルギー消費量、サーバー容量といった「リソース計画」も、時系列予測の代表的な応用分野です*1。繁忙期・閑散期の見通しを立てたうえでシフトを組む使い方は、コールセンターや倉庫の人員配置でも検討されています。
いずれの用途でも共通するのは、単発の予測結果を出すだけでなく、発注システムやシフト管理システムなど既存の業務プロセスに予測値を継続的に取り込む設計が必要になる点です。この接続部分の設計を誤ると、予測の精度が良くても現場での活用にはつながりません。
予測精度を左右するデータ——販売実績・在庫・気象・イベント・価格の組み合わせ
需要予測AIの土台になるのは、時間軸に沿って記録された販売実績データです。時系列予測を扱う公式ドキュメントでは、最低限「時間を表す列」と「予測対象の数値列」があればモデルを構築できるとしつつ、実務ではSKU(在庫管理単位)や価格、キャンペーンの有無といった列を加えた、より複雑なデータセットを扱う場合が多いと説明しています*3。
具体的には、販売実績(数量・金額)、在庫の推移、価格改定やキャンペーンの実施履歴、気象データ、展示会や地域イベントの開催情報などが、需要を左右する要因として組み合わされます。これらのうち、将来の値があらかじめ分かっている情報(曜日や祝日、決まっている販売価格など)は、予測モデルに組み込みやすい特徴量です*3。一方で天候のように将来の値が不確実な要因は、予測期間が長くなるほど扱いが難しくなる点も踏まえておく必要があります*3。
データの前処理では、欠損値の補完や、曜日・祝日といったカレンダー特徴量の自動生成、過去の実績値を用いたラグ特徴量や移動平均などの特徴量エンジニアリングが行われます*3。また学習に使えるデータの期間についても目安があり、予測したい期間(フォーキャストホライズン)やラグの設計に対して、十分な長さの実績データが確保できていないと、モデルの学習自体が成立しにくくなる点が指摘されています*3。データを集める段階から、どの程度の期間・粒度の実績を保持しているかを棚卸ししておくことが、後工程の手戻りを防ぐことにつながります。
予測の仕組みの考え方——時系列モデルと回帰モデルという2つの枠組み
需要予測AIで使われる手法は、大きく2つの枠組みに整理できます。ひとつは、対象の過去の実績値だけから将来を推定する「時系列モデル」です。もうひとつは、価格や曜日、キャンペーンの有無といった説明変数を使って将来の値を推定する「回帰モデル」です*3。
時系列モデルの代表例としては、単純な移動平均や指数平滑法、ARIMA系のモデルなどが挙げられます*3。これらは過去の値の推移そのものに規則性を見出す考え方で、外部要因の影響を明示的に組み込みにくい面があります。一方の回帰モデルは、勾配ブースティング系の手法や決定木、深層学習モデルなど幅広い手法が対象になり、価格変更のように将来の値があらかじめ分かっている変数を使って予測を組み立てます*3。ただし回帰モデルの前提として、使用する特徴量は予測したい期間まで値が判明している必要があり、この前提が崩れると予測の実用性が下がる点には注意が必要です*3。
実務では、これら複数のモデルを試したうえで、検証データでの精度を比較して採用するモデルを選ぶ「モデルスイープ」と呼ばれる進め方が取られる場合があります*3。特定のアルゴリズムが常に優れているとは限らず、対象とする商品特性やデータの季節性によって適したモデルは変わります。どの手法が向いているかは、事前に断定せず、実データでの検証を通じて見極める姿勢が実務的です。
精度評価とよくある落とし穴——MAPE・WAPEなどの指標とデータ不足・過学習への注意
需要予測AIの評価では、実績データの一部を学習に使わず取り置き、そこで予測値と実測値を突き合わせる「バックテスト」と呼ばれる手法が使われます*2。学習に使っていないデータで検証することで、見かけ上の精度と実際の予測力のずれを確認しやすくなります。
代表的な精度指標には、MAPE(平均絶対パーセント誤差)、WAPE(加重絶対パーセント誤差)、RMSE(二乗平均平方根誤差)、MASE(平均絶対スケール誤差)などがあります。それぞれの特徴を整理すると次の通りです。
| 指標 | 何を測るか | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| MAPE | 誤差率(実測値に対する誤差の割合)の平均*2 | 時点ごとの値の差が大きい場合や外れ値の影響を受けやすい*2 |
| WAPE | 実測値の合計に対する誤差合計の割合*2 | RMSEに比べ外れ値の影響を受けにくいとされる*2 |
| RMSE | 誤差を二乗した値の平均の平方根*2 | 誤差を二乗するため大きな誤差の影響を強く受ける*2 |
| MASE | 季節性を考慮したスケーリング誤差*2 | 季節性のある需要データの評価に向くとされる*2 |
指標の値をどこまで良いとみなすかは、商品特性や業種によって変わるため、一律の目安を断定することはできません。同じ指標でも、需要の変動が大きい商品と安定した商品とでは、目指すべき水準は自然と異なります。
データ不足や過学習も見落としやすい落とし穴です。学習データの期間が短い、あるいは季節変動を含む十分なサイクル数がない場合、モデルが季節性を学習しきれず、実運用に入ってから精度が崩れることがあります*3。また複数モデルを組み合わせる「スタッキング」的な手法は、時系列データに対して過学習しやすい傾向があるとされ、既定で無効化されているケースもあります*3。トレンドが強く、平均や分散が時間とともに変化する「非定常」な系列では、そのままモデルへ投入すると学習期間外のデータに対する精度が下がりやすいとも指摘されています*3。差分を取るなどの前処理で、こうした非定常性を緩和する工夫が必要になります*3。
PoCから本番運用へ——検証・実装・再学習までの流れと外注時の確認点
需要予測AIの導入は、いきなり全社展開するのではなく、対象を絞ったPoC(概念実証)から始める進め方が一般的です。時系列予測サービスのチュートリアルでも、検証にはクロスバリデーション(データを複数回に分けて学習・検証を繰り返す手法)を設定し、正規化RMSEなどの指標をもとにモデルを選定する流れが示されています*4。PoCの段階で、対象商品や店舗を絞って予測精度と業務への効果を確認したうえで、段階的に対象範囲を広げる進め方は、失敗時の手戻りを小さくする効果があります。
PoCで一定の精度が確認できた後は、モデルをAPIやWebサービスとしてデプロイし、発注システムなど既存システムと接続する工程に移ります*4。ここで見落としやすいのが、本番運用後の再学習体制です。需要のトレンドは季節や市場環境の変化に応じて変わるため、一度学習したモデルをそのまま使い続けると、時間の経過とともに精度が徐々に低下していく可能性があります。定期的に実績データを追加してモデルを更新する運用ルールを、事前に設計しておくことが実務的です。
クラウドサービス自体の提供状況が変わる場合がある点も、外注検討時に踏まえておきたい観点です。実際にAWSは、時系列予測サービスであるAmazon Forecastについて、2024年7月29日付で新規顧客への提供を終了し、既存顧客は利用を継続できる一方、後継としてAmazon SageMaker Canvasへの移行を案内しています*5。特定のマネージドサービスに処理を一任する設計であっても、将来的な移行や運用の引き継ぎがしやすい構成にしておくことは、長期的な安定運用の観点から検討に値します。
外注を検討する際は、元請(プライムベンダー)が要件定義からモデル構築、既存システムとの連携、運用後の再学習までを一括して担えるか、あるいは工程ごとに担当が分かれるのかを、契約前に確認しておく必要があります。特に再学習やモデルの精度モニタリングは、開発が終わった後も継続する業務のため、開発フェーズだけを外注する契約では、運用フェーズで対応が抜け落ちる懸念があります。自社の販売・在庫データの整備状況とあわせて、どこまでを外注し、どこを内製で担うかを整理したうえで相談することをおすすめします。
まとめ:需要予測AI導入で押さえる3つの判断軸
本稿では需要予測AIの仕組みと導入の勘所を、公式情報をもとに整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、需要予測AIは在庫最適化・自動発注・生産計画・人員シフトなど複数の業務に活用でき、異常検知AIやレコメンドAIとは目的が異なる仕組みです*1。第二に、予測の枠組みは時系列モデルと回帰モデルの2系統に整理でき、どちらが向いているかは対象データの特性によって変わります*3。第三に、精度評価にはMAPEなど複数の指標があり、データ不足・過学習・非定常性といった落とし穴を踏まえたうえで、PoCから本番運用・再学習までを見据えた体制づくりが導入の成否を分けます*2*3*4。
よくある質問
需要予測AIは異常検知AIやレコメンドAIとどう違うのですか。
需要予測AIは販売数量や来店数といった需要そのものを将来に向けて推定する仕組みです。取引データの異常なパターンを見つけ出す異常検知AIや、顧客ごとに商品を提示するレコメンドAIとは、扱うデータも目的も異なります。導入を検討する際は、解決したい課題がどの用途に該当するかを先に整理しておく必要があります。
需要予測AIの導入にはどの程度のデータ量が必要ですか。
必要なデータ量は、予測したい期間(フォーキャストホライズン)や特徴量の設計によって変わります。時系列予測の公式解説でも、予測期間やラグの設計に対して十分な長さの実績データが必要になるという考え方が示されています*3。自社にどの程度の期間・粒度の実績データが蓄積されているかを、事前に棚卸ししておくことをおすすめします。
精度指標(MAPEなど)はどのくらいの値を目安にすればよいですか。
MAPEやWAPEなどの指標は、需要の変動幅や商品特性によって目指すべき水準が変わるため、一律の目安を示すことはできません*2。同じ業種でも、安定した定番商品と変動の大きい季節商品とでは適切な評価の考え方が異なります。バックテストで複数の指標を確認しながら、自社の商品特性に合わせて判断する進め方が実務的です。
PoC(概念実証)から本番運用まではどのくらいの期間がかかりますか。
対象とする商品数やデータ整備の状況によって期間は変わるため、一概にはお答えできません。一般的には、対象を絞ったPoCで精度と業務効果を確認したうえで、段階的に対象範囲を広げ、本番運用への移行と合わせて再学習の運用ルールを整える進め方が取られています*4。
需要予測AIの開発を外注する場合、何を確認すればよいですか。
要件定義からモデル構築、既存システムとの連携、運用開始後の再学習・精度モニタリングまでを、どの範囲まで委託先が担えるかを契約前に確認します。開発フェーズのみの契約だと、運用開始後の再学習体制が抜け落ちる場合があるため、工程の切れ目を事前にすり合わせておくことが大切です。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:AWS「What Is Amazon Forecast?」(Amazon Forecast Developer Guide)(https://docs.aws.amazon.com/forecast/latest/dg/what-is-forecast.html)
- *2 出典:AWS「Evaluating Predictor Accuracy」(Amazon Forecast Developer Guide)(https://docs.aws.amazon.com/forecast/latest/dg/metrics.html)
- *3 出典:Microsoft「Overview of forecasting methods in AutoML」(Azure Machine Learning documentation)(https://learn.microsoft.com/en-us/azure/machine-learning/concept-automl-forecasting-methods?view=azureml-api-2)
- *4 出典:Microsoft「Tutorial: Demand forecasting & AutoML」(Azure Machine Learning documentation)(https://learn.microsoft.com/en-us/azure/machine-learning/tutorial-automated-ml-forecast?view=azureml-api-2)
- *5 出典:AWS Machine Learning Blog「Transition your Amazon Forecast usage to Amazon SageMaker Canvas」(https://aws.amazon.com/blogs/machine-learning/transition-your-amazon-forecast-usage-to-amazon-sagemaker-canvas/)
- *6 出典:経済産業省「AI導入ガイドブック 需要予測(小売り、卸業)」(2021年3月発行、meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/AIguidebook_DemandForecasts_FIX.pdf、アクセス制限によりリンク非掲載)