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DX人材が育たない原因と育成の進め方
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- DX人材が育たない背景には、目的が曖昧なまま研修だけを実施する、育成をOJTに任せきりにするといった経営側の設計不足があります。
- 経済産業省・IPAの「デジタルスキル標準」は、全社員向けのリテラシー標準と推進人材向けのスキル標準という2階層で人材要件を整理しています。
- リスキリングは全社の底上げと専門人材の育成を両輪で進める取り組みであり、内製育成と外部活用の組み合わせ方が進め方を左右します。
目次
DX人材が育たない理由 — 目的化・OJT依存・言語化不足
DX人材とは、経済産業省・IPAが策定した「デジタルスキル標準」(DSS)に基づき、全ビジネスパーソンに求められるDXの基礎知識・マインドと、DX推進の専門的な役割・スキルを備えた人材を指します*1。多くの企業で研修やeラーニングを導入しているにもかかわらず、DX人材が育たないという声が経営層から上がる背景には、いくつかの共通した原因があります。
第一の原因は、育成そのものが目的化してしまうことです。「研修を何時間受講したか」「資格を何名取得したか」が評価指標になり、その学びが実際の業務変革にどうつながったかが問われないまま終わるケースが見られます。研修の実施が目的にすり替わると、学んだ知識を使う機会が用意されず、数か月後には元の業務に戻ってしまいます。
第二の原因は、育成をOJT任せにしてしまうことです。DX推進の実務は前例が少なく、上司や先輩が体系立てて教えられる領域ではありません。だからこそ「現場で覚えろ」という育成方針は機能しにくく、担当者が孤立して手探りのまま疲弊する事態を招きやすくなります。
第三の原因は、必要なスキルが言語化されていないことです。「DX人材」という言葉は使われても、それが具体的にどの役割で何のスキルを指すのかが社内で共有されていなければ、採用基準も育成計画も曖昧なままになります。目標が定義されていない育成は、進捗を測る物差しを持たない状態と同じです。
第四の原因は、育成した人材が定着しないことです。専門性を高めた人材に見合う役割やキャリアパスを用意できなければ、外部からより良い条件で引き抜かれる、あるいは自ら転職を選ぶという結果になりかねません。育成投資が流出してしまう構図は、経営として看過できない問題ではないでしょうか。
デジタルスキル標準が示すDX人材像 — DSS-LとDSS-Pの2階層
前節で挙げた「スキルの言語化不足」という課題に対し、経済産業省とIPA(情報処理推進機構)が公表しているのが「デジタルスキル標準」(DSS)です*1。DSSは2023年9月にver.1.0が公開され、2024年7月のver.1.2改訂を経て、2026年4月にver.2.0が公表されました*2。生成AIの普及やAX(AIトランスフォーメーション、AIを前提とした事業・業務の変革)の進展を踏まえ、データ活用に関わる役割の重要性が一段と高まったことが、直近の改訂の背景です*2。
DSSは「DXリテラシー標準」(DSS-L)と「DX推進スキル標準」(DSS-P)という2つの標準で構成されています*1。DSS-Lは、全てのビジネスパーソンが身につけるべきDXの基礎知識・マインドを定義した標準です。経理・営業・製造など職種を問わず、企業に所属する人であれば誰もが対象になります。
DSS-Pは、DXを推進する専門人材の役割とスキルを定義した標準です。DSS-Lが底上げを目的とするのに対し、DSS-Pは変革の実務を担う専門人材の育成・採用の指針として設計されています*1。企業がDX人材の育成計画を立てる際は、まず全社員に求めるDSS-Lの水準を確認し、そのうえでDSS-Pが定める専門役割のどこに人材を投じるかを検討する順序になります。
この2階層構造を理解せずに「DX人材を育てる」と一括りにすると、全社リテラシーの底上げと専門人材の育成という異なる性質の施策が混同されます。研修予算や育成期間の設計を誤る一因になるため、まずはこの2階層を経営層と人事が共通言語として持つことが出発点になります。
DX推進スキル標準の6類型 — 誰にどのスキルを求めるか
DSS-Pは、DX推進人材の役割を6つの類型に整理しています*2。ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、データマネジメント、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの6類型です。2026年4月のver.2.0改訂では、データ活用の重要性の高まりを受けてデータマネジメント類型が新設され、ビジネスアーキテクトとデザイナーの役割定義も見直されました*2。
ビジネスアーキテクトは、事業や業務の変革目的を定義し、経営視点でビジネスモデルと業務プロセスを設計する役割です。戦略を実行可能な計画に落とし込み、関係者を巻き込みながら変革を牽引する立場にあたります。
デザイナーは、顧客・ユーザー視点から製品やサービスの方針を策定し、コミュニケーション設計まで担う役割です。データサイエンティストは、データの収集・解析やAIシステムの設計・実装・運用を担い、業務変革や新規事業の実現を支えます。
データマネジメントは、データの安全性・信頼性を確保しながら組織全体でのデータ利活用を促進する役割です。ソフトウェアエンジニアはシステム・ソフトウェアの設計から運用までを担い、サイバーセキュリティはデジタル環境のリスクを抑制する対策を担当します。
経営層が押さえるべきなのは、自社の変革フェーズにおいてどの類型が最も不足しているかを見極めることです。新規事業の立ち上げ段階であればビジネスアーキテクトの不在が課題になりやすく、既存システムのデータ活用が進まない段階であればデータマネジメントの不足が課題になりやすいと考えられます。6類型すべてを一律に育成しようとすると、投資が分散して効果が見えにくくなります。
育成の進め方 — 可視化から定着までの5ステップ
DX人材の育成は、現状のスキル可視化・目標設定・学びの提供・実践機会・評価と定着という5つの段階で組み立てると、施策の抜け漏れを防ぎやすくなります。
第一段階はスキルの可視化です。DSS-Pが示す6類型を基準に、自社の従業員が現時点でどの役割にどの程度対応できるかを棚卸しします。感覚的な人選ではなく、標準に沿った物差しで現状を把握することが、次の目標設定の精度を左右します。
第二段階は目標設定です。可視化した現状と、自社の変革フェーズで必要な役割とのギャップを特定し、どの部門にどの類型の人材を何名育成するかという目標を定めます。目標が曖昧なままでは、研修の効果測定自体ができません。
第三段階は学びの提供です。DSS-Lに基づく全社リテラシー研修と、DSS-Pの特定類型に絞った専門研修を分けて設計します。全社員向けと専門人材向けの学習内容を混在させると、専門性を深めたい人材には物足りず、リテラシーを身につけたい人材には難しすぎるという不一致が起こります。
第四段階は実践機会の提供です。研修で得た知識は、実際の業務課題に適用する機会がなければ定着しません。小規模でもよいので、学んだスキルを試せる実プロジェクトへの参画機会を用意する必要があります。
第五段階は評価と定着です。習得したスキルを人事評価やキャリアパスに反映し、専門性を発揮できる役割を用意します。育成した人材が社内で活躍の場を得られなければ、前述の「定着しない」という課題が再び顕在化してしまいます。
リスキリングの考え方 — 全社の底上げと専門人材育成の両輪
リスキリングとは、既存の従業員が新しい業務や役割に対応するために必要なスキルを再習得する取り組みを指します。DX人材育成の文脈では、DSS-Lによる全社リテラシーの底上げと、DSS-Pによる専門人材の育成という両輪で捉える必要があります。
全社リテラシーの底上げだけでは、実際に変革を推進する専門人材が育たず、DXの実務は特定の担当者に偏ったままになります。逆に専門人材の育成だけに投資しても、周囲の従業員がDXの基礎知識を持たなければ、専門人材が提案する変革案が現場で理解されず、実行に移せません。
両輪を回すうえで欠かせないのが、スキルの見える化です。DSSが「デジタルスキル標準」として全国共通の物差しを提供している狙いも、企業ごとに異なる基準でスキルを定義してしまう状態を避け、育成の仕組みに結びつけやすくする点にあります*1。自社独自の評価基準だけに頼ると、採用市場や他社との比較が難しくなり、リスキリングの投資対効果を説明しにくくなるという事情もあります。
リスキリングを一過性の研修イベントで終わらせないためには、前節で整理した5ステップのサイクルを年次で回し続ける仕組みが求められます。スキルの可視化結果は毎年更新し、目標も事業の変化に応じて見直す運用が欠かせません。
内製育成と外部活用の組み合わせ方
DX人材の育成には一定の期間が必要であり、事業の変革を待たせるわけにはいかない場面も出てきます。内製育成を進めながら、不足する専門性は外部の受託・委託パートナーで補うという組み合わせが、現実的な選択肢になります。
内製育成だけで6類型すべてを短期間に確保しようとする場合、必要になる知識は多岐にわたるでしょう。ビジネスアーキテクトの育成には経営戦略と業務プロセス設計の両方の理解が要り、データマネジメントの育成にはデータガバナンスと技術的な実装知識の双方が要ります。これらを自社の教育担当者だけで体系立てて教えるのは容易ではなく、外部の専門知見を借りる場面が生じやすくなるといえます。
外部活用の効果は、単に人手を補うことにとどまりません。専門パートナーと協働するプロジェクトを実践機会として位置づければ、前述の育成ステップにおける「実践機会」の不足を同時に解消できるでしょう。委託先の技術者と伴走しながら業務にあたることで、社内人材が実務を通じてスキルを吸収する、いわゆる伴走型の育成効果も期待できます。
内製で対応する場合に必要となる工数の目安も踏まえておく必要があります。専門類型ごとの育成プログラム設計・教材整備・実践機会の確保を人事部門と事業部門が兼務で担うと、通常業務と並行できず育成計画自体が停滞しがちです。外部の受託・委託パートナーに一部の開発・運用業務を任せ、社内人材は変革の企画・推進に集中するという役割分担が、現実的な進め方になります。
外部活用と内製育成のバランスは、事業の変革フェーズによって変わります。立ち上げ期は外部パートナーの比率を高めて速度を確保し、定着期に向けて徐々に内製比率を高めていくという段階的な移行を設計しておくと、育成投資と事業スピードの両立を図りやすくなります。
まとめ:DX人材育成で経営が握るべき3つの判断軸
本稿では、DX人材が育たない原因と育成の進め方を経営視点で整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、育成の目的化・OJT依存・スキルの言語化不足・人材の定着不足という課題は、いずれも経営が育成の仕組みを設計する段階で解消できる問題です。第二に、デジタルスキル標準が示すDSS-LとDSS-Pの2階層を共通言語として持ち、自社の変革フェーズに応じて6類型のどこに投資するかを見極める必要があります。第三に、内製育成と外部活用は対立する選択肢ではなく、実践機会の確保という観点から組み合わせて設計すべきものです。
よくある質問
DXリテラシー標準とDX推進スキル標準はどちらから取り組めばよいですか。
多くの場合、全社員を対象とするDXリテラシー標準(DSS-L)の底上げから着手し、並行してDX推進スキル標準(DSS-P)の専門人材育成を進める形が現実的です。専門人材だけを先に育てても、周囲がDXの基礎知識を持たなければ提案が現場に浸透しにくいためです。
デジタルスキル標準ver.2.0で何が変わりましたか。
2026年4月に公表されたver.2.0では、データ活用に関わる役割の重要性の高まりを踏まえ、データマネジメント類型が新設されました*2。あわせてビジネスアーキテクトとデザイナーの役割定義も見直されています。自社の育成計画がver.1.0時点の6類型以前の情報に基づいている場合は、最新版との差分を確認する必要があります。
中小企業でも6類型すべての人材を育成する必要がありますか。
必要ありません。自社の事業規模や変革フェーズに応じて、優先度の高い類型に絞って育成計画を立てる進め方が現実的です。全類型を一律に育成しようとすると投資が分散し、かえって効果が見えにくくなります。
育成した人材が定着しないのはなぜですか。
育成投資に見合う役割やキャリアパスを用意できていないことが主な要因として挙げられます。スキルを習得しても発揮する場がなければ、社外により良い条件を求めて離職する可能性が高まるでしょう。評価制度とキャリアパスへの反映をあらかじめ設計しておく必要があります。
外部の委託先に依頼すると内製化が遅れませんか。
役割分担の設計次第では遅れません。委託先の技術者と社内人材が伴走する形でプロジェクトに取り組めば、実践機会の提供という育成ステップを兼ねることができるでしょう。委託を「丸投げ」ではなく「伴走」として位置づけることが、内製化を進めながら外部活用する鍵になります。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「デジタルスキル標準(DSS)策定の背景・目的」https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/about.html
- *2 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「デジタルスキル標準ver.2.0を公開」(2026年4月16日)https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2026/press20260416.html