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組み込みエンジニア不足を受託・ニアショアで補完する進め方
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- 組み込みエンジニアの有効求人倍率は5.88(厚労省jobtag令和5年度)と高水準で、採用一本足では補完に限界があります
- 受託開発・ニアショア・ラボ型にはそれぞれ異なる向き不向きがあり、要件と体制に応じた使い分けが重要です
- 委託先を選ぶ際は組み込み実績・対象ドメイン(IoT/車載/産業機器)・機能安全への理解を軸に評価することで、品質リスクを抑えられます
目次
組み込みエンジニアが不足する理由:専門性の高さと需要拡大の両面
組み込みエンジニア不足とは、RTOS(リアルタイムOS)・ハードウェア制御・セマフォ(排他制御の仕組み)といった高度な専門知識を要する組み込みソフトウェア開発人材が、需要に対して慢性的に不足している状態を指します。厚生労働省の職業情報提供サイト(jobtag)によれば、令和5年度の組込みソフトウェア開発者の有効求人倍率は5.88と報告されており、求職者1人あたり約5.88件の求人が存在する高水準です*1。
不足の背景には、参入障壁の高さがあります。組み込み開発では、C言語やアセンブラによるハードウェア直接制御に加え、RTOS上でのスレッド管理・セマフォによる排他制御・割り込みハンドラの設計など、汎用的なWebやアプリ開発とは異なる専門知識が求められます。独学で習得できる領域ではなく、実機での経験を積まなければ戦力になれないため、人材の自然増が需要の増加に追いつきません。
需要面では、IoT(モノのインターネット)・車載(自動車の電子制御ユニット)・産業機器・医療機器・家電など幅広い分野で組み込みソフトウェアの搭載が進んでいます。自動車1台あたりの電子制御ユニット(ECU)数は年々増加しており、電動化(EV化)・ADAS(先進運転支援システム)の普及に伴い車載ソフトウェアの開発量は拡大を続けています。
IT人材不足全体の規模については、経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年)が2030年時点で約79万人不足と試算しており(上位シナリオ)、組み込み領域はその中でも特に供給が逼迫している分野のひとつです*2。
不足を放置するリスク:開発遅延・品質劣化・既存メンバー疲弊
組み込みエンジニアの不足を補わないまま開発を進めると、プロジェクトと組織の双方に連鎖的なリスクが生じます。
開発遅延とリリース計画の破綻
組み込み開発は、ハードウェアの設計・製造スケジュールと密接に連動しています。量産タイミングや製品発表日に合わせたソフトウェアのリリースが遅れると、製品全体の投入時期がずれ込み、機会損失や取引先との契約上のリスクが発生します。採用が決まってから実戦投入できるまでには、組み込み経験者でも業務への習熟期間が必要なため、「人が入れば解決する」という短絡的な見通しは立ちにくい状況です。
品質・信頼性リスクの増大
人員不足の状態でテスト工程を圧縮すると、リアルタイム制御の不具合が見落とされるリスクが高まります。車載・医療・産業機器の組み込みソフトウェアは機能安全規格(ISO 26262やIEC 61508など)への準拠が求められる場合があり、品質上の問題は製品リコールや重大インシデントにつながるリスクがあります。不具合が量産後に発覚した場合の是正コストは、開発段階での投資を大きく上回ります。
既存メンバーへの過負荷と離職リスク
少ない人員で開発量をこなそうとすると、既存のシニアエンジニアへの負荷が集中します。設計・実装・レビュー・後輩指導を同時に担わざるを得ない状況が続くと、生産性の低下だけでなく離職につながります。経験豊富な組み込みエンジニアを失うと、ノウハウの流出・採用コストの再発生という二重の損失が生じます。
補完の選択肢:受託・ニアショア・オフショア・ラボ型と内製育成の比較
採用一本足に頼らない補完策として、受託開発・ニアショア(国内地方)委託・オフショア(海外)委託・ラボ型契約・内製育成の5つの選択肢があります。それぞれの特徴を整理します。
| 補完手段 | 向いているケース | 留意点 |
|---|---|---|
| 受託開発 | 機能・仕様が固まっており、成果物単位で委託できる工程がある場合 | 要件定義の精度が成否を左右します。 途中の仕様変更は追加費用が発生します。 |
| ニアショア (国内地方拠点) |
時差・言語・法規制のリスクを避けたい場合。 東京/大阪拠点のエンジニアと同等の品質を求める場合 |
首都圏と比べコスト優位が生じる場合があります。 委託先の組み込み実績を事前に確認することが必要です。 |
| オフショア (海外拠点) |
コスト圧縮を優先し、管理コストを許容できる場合 | 言語・時差・法制度の違いがコミュニケーションコストを増やします。 機能安全規格対応には追加の品質管理が必要です。 |
| ラボ型 (専属チーム常駐) |
継続的な開発・改良が必要な場合。 ノウハウを徐々に内製チームへ移転したい場合 |
月額固定費が発生します。 チームの立ち上げまでに一定の準備期間が必要です。 |
| 内製育成 | 長期的な自社技術の蓄積を優先する場合 | 実戦投入までに時間がかかります。 組み込み開発経験者によるOJT環境が前提条件となります。 |
実務上は受託開発とラボ型を組み合わせるケースが有効です。短期・単発の工程を受託で外出しし、継続的な改良フェーズをラボ型で担うことで、コストと品質のバランスを取りやすくなります。
受託・ニアショアで補完する進め方:4つのステップ
受託・ニアショアによる補完を成功させるには、委託前の準備と体制設計が成否を分けます。以下の4ステップで進めると、品質・スケジュール両面のリスクを抑えられます。
ステップ1:要件と体制を定義し、委託スコープを明確にする
委託を開始する前に、「何を外に出すか」と「何を社内に残すか」を文書化します。組み込み開発では、アーキテクチャ設計・セキュリティ要件・機能安全対応の判断は社内に残し、コーディング・単体テスト・ドキュメント整備を委託するという切り分けが一般的です。
委託仕様書には、対象プロセッサ・使用RTOS・通信プロトコル・コーディング規約(MISRA Cなど)を明記します。これを省略すると、委託先が異なる前提で開発を進めてしまい、結合テスト段階で大規模な手戻りが発生します。
ステップ2:RFPで候補先を絞り込み、実績と体制を評価して契約する
RFP(提案依頼書)に要件・品質基準・対象ドメインを記載して複数社に送付し、提案を比較します。評価では、類似ドメインでの組み込み実績・エンジニアの経験年数・テスト環境の有無を確認します。
契約には、成果物の著作権帰属・ソースコードの引き渡し義務・バグ修正の対応範囲とSLA(サービスレベルアグリーメント)を明記することが必要です。これらを曖昧にすると、委託先変更時に知的財産の移転が困難になります。
ステップ3:レビューサイクルと品質基準を事前に設計する
週次のコードレビュー・マイルストーンごとの結合テスト・静的解析ツールの導入範囲を、開発開始前に合意します。組み込み開発ではバグの修正コストが後工程になるほど増大するため、早期発見の仕組みを契約段階で組み込むことが大切です。
リモート委託の場合は、テスト用実機環境の共有方法(実機貸し出し・クラウドエミュレータの活用など)を取り決めることで、コミュニケーションの齟齬を減らせます。
ステップ4:知見をドキュメント化し、内製チームへ移転する
委託後に「知見が委託先に貯まるだけ」という状況を防ぐため、設計書・テストケース・ノウハウのドキュメント整備を委託スコープに含めます。ラボ型であれば、担当エンジニアが自社チームとペアで作業する期間を設けることで、組み込み技術の内製移転を計画的に進められます。
委託先の選び方:組み込み実績・ドメイン知識・機能安全の3軸
組み込み開発の委託先を選定する際、一般的なIT開発会社の選定基準だけでは不十分です。以下の3軸で評価することで、組み込み特有のリスクを抑えられます。
軸1:組み込みの実績と使用技術スタックの一致
委託先が過去に手がけた組み込みプロジェクトの技術スタックが、自社の要件と一致しているかを確認します。使用するRTOS(FreeRTOS・VxWorks・Zephyrなど)・プロセッサ(ARM Cortex・RH850など)・通信プロトコル(CAN・UART・SPI・I2Cなど)が異なれば、学習コストが発生し品質に影響します。実績を確認する際は、「類似ドメイン・類似技術スタックの案件を何件担当したか」を具体的に聞き取ることが有効です。
軸2:対象ドメイン(IoT・車載・産業機器)の業務・規制知識
車載ソフトウェアであれば機能安全規格ISO 26262への理解、医療機器であればIEC 62304への対応経験が求められます。産業機器・インフラ向けではセキュリティ要件(IEC 62443など)への対応実績も確認対象になります。技術力だけでなく、対象業界の規制・認証プロセスを理解しているかどうかが、実際の開発品質を左右します。
軸3:品質保証体制とセキュリティ管理の実態
静的解析ツール(MISRA C準拠チェック・カバレッジ計測)の導入実績、バグトラッキングシステムの運用方法、情報セキュリティマネジメントシステム(ISO/IEC 27001)の認証取得状況を確認します。特に組み込みソフトウェアはソースコードの流出・改ざんリスクが製品の信頼性・品質に直結するため、セキュリティ管理の実態を開発委託前に確認することが必要です。
内製でこれらの評価を行うには、組み込み開発経験を持つ技術者が評価チームに必要です。技術評価のリソースが自社に不足している場合は、元請(プライムベンダー)が評価・調整を担う形も選択肢のひとつです。組み込み・受託開発の知見
まとめ:補完策を選ぶ3つの判断軸
本稿では、組み込みエンジニア不足の背景・放置リスク・補完手段の比較・進め方・委託先の選定基準を整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、有効求人倍率5.88(厚労省jobtag令和5年度)が示す通り、採用のみで即戦力を確保するのは困難であり、受託・ニアショア・ラボ型の活用が現実的な補完手段となります。第二に、補完方法を選ぶ際は「工程が固定か継続的か」「コスト優先か品質優先か」「ノウハウを内製移転するか否か」の3軸で選択することで、目的に合った手段を選べます。第三に、委託先の選定では組み込み実績・対象ドメインの知識・品質保証体制の3軸を評価することが、開発遅延や品質問題を防ぐ実践的な出発点となります。
よくある質問
組み込みエンジニアと一般のソフトウェアエンジニアは何が違いますか?
組み込みエンジニアは、特定のハードウェア上で動作するソフトウェアを開発する専門職です。RTOS(リアルタイムOS)上でのスレッド管理・セマフォ(排他制御)・割り込みハンドラの設計など、ハードウェア寄りの知識が必要で、一般的なWebやアプリ開発とは異なるスキルセットが求められます。そのため参入障壁が高く、慢性的な供給不足が生じています。
ニアショアとオフショアはどちらが組み込み開発に向いていますか?
組み込み開発は仕様変更への対応速度と品質保証の重要性が高いため、言語・時差・法規制の障壁が少ないニアショア(国内地方拠点)が向いているケースが多くあります。オフショアはコスト面での優位はありますが、機能安全規格対応や実機テスト環境の共有に追加の管理コストが発生します。委託内容の複雑さと品質要件に応じて使い分けることをお勧めします。
受託開発を依頼する際に最低限用意すべきドキュメントは何ですか?
最低限、対象プロセッサ・使用RTOS・通信プロトコル・コーディング規約(MISRA Cなど)・テスト環境(実機または評価ボードの有無)を記載した委託仕様書が必要です。加えて、機能要件一覧・品質基準・成果物の定義を盛り込むことで、委託先との認識のずれを防げます。仕様書の精度が低いと、結合テスト段階での手戻りコストが大きくなります。
委託先が機能安全規格に対応できるかどうかはどう確認すればよいですか?
車載向けにはISO 26262、産業機器向けにはIEC 61508、医療機器向けにはIEC 62304への対応実績を具体的な案件ベースで確認します。認証取得の有無だけでなく、開発プロセス(要件管理・設計レビュー・テスト証跡管理)が規格に沿って文書化されているかも評価の対象です。実績のない委託先に機能安全対応を依頼すると、認証審査で多大な修正対応が発生するリスクがあります。
ラボ型契約でノウハウを内製移転するにはどうすればよいですか?
ラボ型では、担当エンジニアと自社メンバーがペアで作業する期間を計画的に設けることが有効です。設計書・テストケース・ノウハウのドキュメント整備を委託スコープに明示することで、委託先に知見が蓄積されるだけの状況を防げます。移転期間の目安は技術の複雑さにより異なりますが、OJT形式での引き継ぎ計画を契約前に合意しておくことをお勧めします。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:厚生労働省「職業情報提供サイト(jobtag)組込みソフトウェア開発者」(令和5年度)
- *2 出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年)