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IT予算の立て方と配分の考え方
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- IT予算は情報システム部門だけの話ではなく、事業戦略と結びつけて経営が判断すべき投資配分の問題です。
- 現状把握・事業戦略との整合・守りと攻めの配分方針・単年度と中期計画という順序でIT予算を組み立てる考え方を整理します。
- ラン・ザ・ビジネス比率の可視化と優先順位付けの判断軸、内製と外部委託の使い分けを経営判断の観点から解説します。
目次
IT予算とは何か — 経営判断が必要な理由
IT予算とは、情報システムの維持・運用や新規のデジタル投資に充てる年間の資金計画を指します。単なるコスト管理ではなく、事業戦略の実現手段をどこに配分するかという経営判断そのものです。
経済産業省が公表した「DXレポート」では、多くの企業でIT予算の約8割が既存システムの維持・運用(ラン・ザ・ビジネス)に充てられていると指摘されています*1。さらに、ラン・ザ・ビジネスの予算比率が9割以上に達している企業も一定数存在するとされます*1。
この状態が続くと、新規事業やデジタル技術を使った攻めの投資に予算を振り向けられません。IT予算の配分は、情報システム部門の技術的な検討事項である以前に、事業のどこに資金を張るかという経営マターです。
守りの予算とは、既存の基幹システムやインフラを安定稼働させるための維持・保守・運用コストです。攻めの予算とは、新規事業立ち上げやDX(デジタルトランスフォーメーション)、業務変革につながる投資です。この2つの配分バランスを、事業戦略に基づいて経営層が決めることが、IT予算策定の出発点になります。
現状把握から中期計画へ — IT予算の立て方4段階
IT予算は、思いつきで積算するものではありません。現状把握、事業戦略との整合、配分方針の決定、単年度と中期計画への落とし込みという順序で組み立てることが実務上の基本形です。
最初の段階は現状把握です。既存システムごとの運用保守費、ライセンス費、クラウド利用料、人件費を洗い出し、何にいくら使っているかを可視化します。この段階を飛ばすと、次に述べる守りと攻めの配分比率が把握できません。
次の段階は事業戦略との整合です。中期経営計画や事業部門の目標を確認し、IT投資がどの事業目標に貢献するのかを紐づけます。経済産業省の「デジタルガバナンス・コード3.0」は、経営者が中心となってビジョンを示し、戦略・体制・成果指標を一体で整備することをDX経営の要件として位置づけています*2。IT予算も同様に、事業戦略から独立した積算ではなく、経営ビジョンと接続した計画にする必要があります。
三段階目は配分方針の決定です。守り(運用維持)と攻め(新規投資)の比率をどこまで動かすか、どの事業領域に優先的に投資するかを経営層が判断します。この判断には、後述するラン・ザ・ビジネス比率の可視化が前提として必要です。
四段階目は単年度予算と中期計画への落とし込みです。単年度の予算は事業年度ごとの資金計画として確定させる一方、システム刷新やクラウド移行のような複数年にまたがる投資は、3〜5年程度の中期計画として別枠で管理します。単年度予算だけで判断すると、大型投資の是非が短期のコスト増減だけで評価されてしまい、長期的な事業価値が見落とされます。
ラン・ザ・ビジネス比率の可視化 — 配分判断の出発点
ラン・ザ・ビジネス比率とは、IT予算全体のうち既存システムの維持・運用に充てられている金額の割合を指します。この比率を可視化することが、配分判断の出発点になります。
前述の経済産業省「DXレポート」では、IT予算の約8割が既存システムの維持・運用に振り向けられている実態と、技術的負債が解消されない場合には維持管理費がIT予算の9割超に達する可能性があるという見通しが示されています*1。技術的負債(過去に構築したシステムの複雑化・老朽化が積み重なり、改修コストや対応の手間として将来に残る負担)が大きいほど、この比率は上昇しやすくなります。
ラン・ザ・ビジネス比率を可視化する際は、システムごとに「維持・運用に必要な最低限のコスト」と「本来は見直せる可能性があるコスト」を分けて整理します。老朽化したシステムの保守費用や、利用実態が薄いライセンス費用は、削減や統合の余地がある領域です。
比率が把握できたら、経営層はこの比率を許容できる水準まで下げるのか、それとも一定期間は維持しつつ攻めの予算を別枠で確保するのかを判断します。ラン・ザ・ビジネス比率をゼロにすることは現実的ではありません。既存システムの安定稼働は事業継続の前提であり、守りの予算を過度に削ると障害対応や情報漏えいのリスクが高まります。重要なのは、可視化した比率をもとに、削減余地のある支出と維持すべき支出を区別し、攻めの予算に回せる原資を意図的に生み出すことです。
TCOと技術的負債 — 見えないコストへの対応
IT予算の策定でつまずきやすいのが、初期投資額だけを見て、その後にかかり続けるコストを見落とすことです。ここではTCO(総所有コスト。導入時の費用だけでなく、運用・保守・更新まで含めた総費用)の考え方を整理します。
システム導入や刷新を検討する際、初期の開発費・導入費だけで投資判断をすると、稼働後の保守費用やライセンス更新費用、将来的な機能追加のコストが予算計画から抜け落ちます。TCOで評価すると、初期費用が安く見えた選択肢が、数年単位では割高になるケースもあります。予算策定の段階で、導入後3〜5年程度の運用・保守コストを見積もりに含めることが実務上の前提になります。
技術的負債も見えないコストの一種です。老朽化したシステムを放置すると、仕様の把握やドキュメントの整備が追いつかず、改修のたびに想定以上の時間と費用がかかるようになります。前述のとおり、経済産業省のDXレポートはこの技術的負債の蓄積を「2025年の崖」という表現で問題提起し、対応が遅れた場合に生じ得る経済損失の規模として、2025年以降に12兆円/年規模(レポート公表時点の年間損失の約3倍)にのぼり得るとの試算を示しています*1。
技術的負債への対応を先送りすると、将来の保守費用がさらに膨らみ、攻めの予算に回せる原資が減っていきます。IT予算を策定する際は、当年度の維持費だけでなく、技術的負債を放置した場合に将来増加するコストも合わせて検討材料にすることが望まれます。
投資対効果の考え方 — 優先順位付けの判断軸
限られたIT予算をどの投資に振り向けるかを決めるには、優先順位付けの判断軸が必要です。ここでは投資対効果を検討する際の考え方を整理します。
第一の判断軸は、事業戦略への貢献度です。売上拡大・コスト削減・リスク低減のうち、どの経営目標に直結する投資かを明確にします。事業目標との結びつきが曖昧な投資は、優先順位が下がりやすくなります。
第二の判断軸は、投資回収の時間軸です。短期間で効果が見えるコスト削減型の投資と、中長期で事業価値を生む新規事業型の投資では、評価の物差しが異なります。単年度の収支だけで新規投資を評価すると、本来価値のある中長期投資が予算配分から外れる可能性があります。
第三の判断軸は、実行しなかった場合のリスクです。既存システムの更新を先送りした場合の障害リスクや、競合他社との差が広がるリスクを考慮します。投資対効果はKPI(重要業績評価指標。目標達成度を測る指標)による定量評価が基本ですが、リスク回避の観点は数値化しにくいため、経営判断として別途考慮する必要があります。
これら3つの判断軸を組み合わせ、限られた予算の中でどの投資を優先するかを経営層が決定します。情報システム部門だけに優先順位付けを委ねると、技術的な実現性は評価できても、事業戦略への貢献度やリスクの重み付けが不十分になりがちです。
内製と外部委託 — 予算配分の使い分け
IT予算の配分を検討する際、内製と外部委託のどちらに資金を振り向けるかも重要な判断です。両者は代替関係ではなく、目的に応じた使い分けが基本になります。
内製に予算を配分する典型的な場面は、自社の事業に直結する差別化領域です。競合との差別化につながる機能や、頻繁な仕様変更が見込まれる領域は、社内にノウハウを蓄積しながら開発した方が長期的な投資効率に優れます。ただし、内製を維持するには専任の人材確保・育成コストが継続的に発生します。
外部委託に予算を配分する典型的な場面は、既存システムの保守・運用のように定型化された業務や、社内に専門人材を確保しにくい領域です。外部委託の予算は、人件費として固定費化させず、必要な期間・規模に応じて変動費として管理できる点が特徴です。IT人材の採用・育成には相応の期間を要するため、繁閑差がある開発案件やニアショア開発(国内の地方拠点を活用した委託開発。海外オフショアより時差やコミュニケーションの制約が小さい)の活用は、予算配分の選択肢として検討する価値があります。
内製化を将来的に見据える場合でも、外部委託の契約条件に設計思想や運用手順のドキュメント化を含めておけば、委託期間中に得た知見を段階的に社内へ移転できます。守りの予算は外部委託で効率化し、浮いた原資を攻めの予算に回すという配分の考え方は、多くの企業で実務上の選択肢になっています。
まとめ:IT予算配分を決める3つの判断軸
本稿では、IT予算の立て方と配分の考え方を経営視点で整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、IT予算は情報システム部門任せの積算ではなく、事業戦略と結びつけて経営が判断すべき投資配分の問題であり、守り(運用維持)と攻め(新規投資)の比率を意図的に設計する必要があります。第二に、現状把握・事業戦略との整合・配分方針の決定・単年度と中期計画への落とし込みという順序で予算を組み立て、ラン・ザ・ビジネス比率やTCO・技術的負債といった見えないコストを可視化することが判断の前提になります。第三に、事業戦略への貢献度・投資回収の時間軸・実行しなかった場合のリスクという3つの軸で優先順位を付け、内製と外部委託を目的に応じて使い分けることが、限られた予算を十分に活かす実務上の判断軸になります。
よくある質問
IT予算は売上に対してどの程度の比率を目安にすればよいですか。
業種・事業規模・システム依存度によって適正な比率は大きく異なり、一律の目安を示すことは適切ではありません。自社の過去数年の実績値を可視化したうえで、事業戦略上必要な投資額を積み上げて検討する方法が現実的です。他社比較よりも、自社のラン・ザ・ビジネス比率の推移を継続的に把握することが優先度の高い取り組みになります。
守りの予算はどこまで削減してよいのですか。
守りの予算をゼロに近づけることは推奨できません。既存システムの安定稼働は事業継続の前提であり、過度な削減は障害対応の遅れやセキュリティリスクの増加につながります。削減を検討する際は、老朽化したシステムの統合や利用実態の薄いライセンスの見直しなど、削減余地がある支出とそうでない支出を切り分けて判断してください。
IT予算は単年度と中期計画のどちらで管理すべきですか。
両方を並行して管理することが実務上の基本です。日常の運用維持費は単年度予算で管理し、システム刷新やクラウド移行のような複数年にまたがる投資は3〜5年程度の中期計画として別枠で扱ってください。単年度の収支だけで大型投資を評価すると、中長期の事業価値が見落とされるおそれがあります。
投資対効果が見えにくい案件はどう予算化すればよいですか。
短期のKPIで効果を測りにくい投資は、実行しなかった場合のリスク(既存システムの障害リスクや競合との差の拡大など)を判断材料に加えてください。定量評価だけに頼らず、事業戦略への貢献度と合わせて経営判断として位置づけることが必要です。
外部委託の予算はどのように確保すればよいですか。
外部委託の費用は、定型化された保守・運用業務であれば変動費として管理し、必要な期間・規模に応じて配分する考え方が基本です。将来的な内製化を見据える場合は、設計思想や運用手順のドキュメント化を契約条件に含めておくと、委託中に得た知見を段階的に社内へ移転できます。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)」(2018年)https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/DX_report_summary.pdf
- *2 出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」(2024年)https://www.meti.go.jp/press/2024/09/20240919001/20240919001.html