LASSIC Media らしくメディア
SESエンジニア比較|契約形態と費用で選ぶ判断軸
LASSIC IT事業部|プライムベンダーとしてシステム保守・運用を受託

この記事のポイント
- SESエンジニア比較の軸は「契約形態(準委任・派遣・請負)」「費用構造」「指揮命令権の所在」の3つに整理できる
- 準委任契約のSESと労働者派遣の区別は、厚生労働省「37号告示」が判断基準となる
- 2030年に最大約79万人のIT人材不足が試算される環境下では、契約形態の使い分けが内製・外注の意思決定を左右する
目次
SESエンジニア比較は契約形態・費用・指揮命令権の3軸で整理すると判断精度が上がる
SESエンジニアの比較とは、システム開発・運用に投入する外部エンジニアの契約形態(準委任・派遣・請負)・費用構造・指揮命令権の所在を比較し、自社のプロジェクト特性に合った調達方式を選ぶ取り組みである。経済産業省が2019年4月に公表した「IT人材需給に関する調査」によると、IT人材の需給ギャップは2030年に高位シナリオで最大約79万人に拡大すると試算されており*1、外部リソース活用の意思決定はコストだけでなく契約形態のリスク管理まで含めて判断する必要がある。
比較の前提:SESとは「準委任契約に基づく技術者派遣サービス」である
SES(System Engineering Service、システムエンジニアリングサービス)とは、準委任契約(民法第656条)に基づきエンジニアを発注者の開発案件に従事させる契約形態である*2。成果物の完成ではなく業務遂行(役務の提供)を目的とする点で請負契約と区別される。
3つの比較軸:契約形態・費用・指揮命令権
SESエンジニアを比較する場合、検討すべき軸は契約形態・費用・指揮命令権の3点に集約される。契約形態は法的責任範囲を、費用は調達コストを、指揮命令権はマネジメント可否と偽装請負リスクをそれぞれ規定する。この3軸を整理しないまま発注すると、後述する偽装請負の問題や、想定外の追加コストが発生する。
準委任・派遣・請負は指揮命令権と成果物責任の所在で明確に区別される
SESエンジニアの調達で実務上比較されるのは、準委任契約(SES)・労働者派遣契約・請負契約の3形態にあたる。それぞれ指揮命令権・成果物責任・契約期間の制約が異なり、プロジェクトの特性で使い分ける必要がある。
| 比較軸 | 準委任契約(SES) | 労働者派遣契約 | 請負契約 |
|---|---|---|---|
| 指揮命令権 | SES企業(受託側) | 派遣先企業(発注側) | 請負企業(受託側) |
| 成果物責任 | なし(善管注意義務) | なし | あり(完成責任) |
| 許認可 | 不要 | 労働者派遣事業許可必須 | 不要 |
| 契約期間制約 | 原則なし | 同一組織3年抵触日 | 案件完了まで |
| 向いている案件 | 仕様変動が多い開発・運用保守 | 自社主導のチーム拡張 | 仕様確定済みの開発 |
準委任SES:仕様変動が多い開発・運用保守と相性が良い
準委任契約のSESは、成果物の完成を契約条件としないため、要件が固まりきっていないアジャイル開発や、システム保守運用のように継続的な業務遂行が必要な案件と相性が良い。エンジニアへの指揮命令権はSES企業側にあり、発注側は業務範囲の定義とレビューを通じてコントロールする。
労働者派遣:自社の指揮命令下でチーム拡張する局面に適する
労働者派遣は、派遣先企業が指揮命令権を持つため、自社のプロジェクトマネジメント体制に外部エンジニアを組み込みたい場合に選択する。ただし派遣会社は厚生労働大臣の許可が必要であり、同一組織への派遣は最長3年の抵触日制限がある*3。
請負契約:仕様が確定した案件で成果物責任を移転する
請負契約は、仕事の完成を目的とする契約形態で、受託側が成果物責任を負う。仕様が固まっている開発案件・パッケージ導入案件に向くが、仕様変更時の追加費用交渉が発生しやすい。指揮命令権は請負企業側に残るため、発注側がエンジニアに直接指示を出すことはできない。
月額単価・精算幅・諸経費の3層を総コストで比較することで実質差が見える
SESエンジニアの費用は、月額単価・精算幅・諸経費の3層で構成される。比較時には単価の絶対額だけでなく、精算幅(160時間±20時間等の控除・超過ルール)と諸経費(交通費・PC支給・遠隔開発費)まで含めて評価する必要がある。
月額単価はスキルレベルと地域で変動する
月額単価は、エンジニアのスキルレベル(PM・テックリード・シニア・ミドル・ジュニア)と勤務地域(首都圏・地方)により大きく変動する。具体的な相場感は事業者ごとに開示が異なるため、複数事業者から見積を取得し、スキル要件と単価レンジを並べて比較することが現実的である。
精算幅は超過・控除時のリスクを左右する
SES契約の月額単価には、月稼働時間の上限・下限(精算幅)が設定される。下限を下回ると控除単価で減額され、上限を超えると超過単価で加算される。残業が常態化するプロジェクトでは超過分の積み上がりで予算超過になりやすいため、見積段階で控除・超過単価の倍率を確認する。
諸経費の取扱いは契約事業者で異なる
交通費・宿泊費・PC・開発環境ライセンス・遠隔開発時の通信費といった諸経費は、月額単価に含まれる場合と別途請求される場合がある。比較見積を行う際は「単価に含まれる項目」「別途請求される項目」を明示的にすり合わせ、月次の総コストで比較する。
厚労省37号告示で判別される偽装請負リスクと回避策

SES契約で最も注意すべき法的リスクは偽装請負である。形式上は準委任・請負契約でも、実態が労働者派遣に該当する場合、労働者派遣法違反として処罰される。SES企業が労働者派遣事業の許可を得ていない場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性がある*4。
判断基準となる厚労省「37号告示」は業務遂行・労務管理・自己完結性の3要件を規定する
労働者派遣と請負・準委任を区別する基準は、厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)に示されている*5。具体的には「業務遂行に関する指示・管理を自ら行うこと」「労務管理を自ら行うこと」「自己の責任で業務を処理すること」の3要件を実質的に満たす必要がある。
失敗コスト:偽装請負認定で生じる罰則と契約解除の連鎖
偽装請負と判断された場合のリスクは、罰則だけでなく契約解除の連鎖につながる。SES企業の派遣事業許可が無い場合は労働者派遣法違反となり、発注側も労働契約申込みみなし制度の対象となる可能性がある。リスクを正確に伝えるため、契約締結時から発注側・受託側双方で37号告示の要件を満たす運用設計を行う必要がある。
回避策:作業指示書・チャットツール・勤怠管理を契約書類と一致させる
偽装請負を回避するには、契約書の文言と実態運用の整合が欠かせない。準委任契約であれば、発注側からエンジニア個人への直接指揮・作業指示を行わず、SES企業側のリーダーを通じた業務指示ラインを構築する。チャットツール上のやり取り・勤怠管理の主体・残業承認フローも、契約形態と整合する形で設計する。
自社開発・中長期保守・PoCはそれぞれ最適な契約形態が異なる
SESエンジニアの選定は、自社プロジェクトの性質によって最適解が異なる。本節では実務で多く見られる3つの状況を取り上げ、推奨される契約形態と注意点を整理する。
状況1:仕様変動が多い自社開発では準委任SESを軸に体制を組むと柔軟性が保てる
新規サービス開発・社内DXプロジェクトのように要件が確定しきっていない案件では、準委任SESを軸に体制を組むケースが現実的である。仕様変更を都度反映できる一方、指揮命令権はSES企業側に残るため、発注側はリーダー経由での業務指示ラインを設計する。
状況2:中長期の運用保守では業務範囲を明文化した準委任SESが長期体制維持に向く
システム保守運用のように業務が継続する案件では、業務範囲・SLA・対応時間帯を明文化した準委任SESが向く。準委任契約は契約期間の上限が原則ないため、長期の保守体制を維持しやすい。元請(プライムベンダー)として一括で受託する形態を採れば、二次・三次SESの再委託リスクも管理できる。
状況3:PoC・短期検証では請負契約で成果物範囲を確定させるとリスクを抑えられる
PoC(Proof of Concept、概念実証)や短期検証フェーズでは、検証範囲・成果物を確定させた請負契約が向く。PoC終了後に本開発フェーズへ移行する場合は、本開発の契約形態を準委任・派遣に切り替える設計が現実的だ。
委託先選定で起こりやすい3つの失敗とその回避策

SESエンジニアの委託先選定では、契約形態の理解不足に起因する失敗が起こりやすい。事前に発生パターンを把握し、契約段階で対策を組み込むことが回避につながる。
失敗1:単価のみで選定し、二次請け・三次請け構造を見落とす
月額単価の安さだけで委託先を選んだ結果、エンジニアが二次・三次の再委託先所属であり、品質・コミュニケーションに支障が出る事例が見られる。元請(プライムベンダー)契約で受託する事業者を選ぶことで、再委託リスクを低減できる。
失敗2:契約書と実態運用がずれ、偽装請負と判定される
準委任契約を締結しているにもかかわらず、発注側がエンジニア個人へ直接指示を出し、結果として偽装請負と判定される事例がある。契約締結時に37号告示の要件を契約書・運用ルール双方に反映し、定期的な運用監査でずれを修正することが有効な対策だ。
失敗3:技術スキルの評価軸が曖昧で、要件と人材ミスマッチが発生する
「Java経験5年」のような大枠スキル要件だけで人選した結果、フレームワーク・ライブラリ・業務知識でミスマッチが発生する事例が見られる。スキルシート上の使用技術・担当工程・直近案件規模を細かく確認し、可能であれば技術面談を組み合わせることでミスマッチを抑えられる。
必要スキル・工数:内製で同等体制を組むには複数領域の専門人材が必要
SESエンジニア活用の代替として内製でチームを組む場合、要件定義・設計・実装・テスト・運用の各工程ごとに専門人材を確保する必要がある。経済産業省が2019年4月に公表した「IT人材需給に関する調査」では、2030年に高位シナリオで最大約79万人のIT人材不足が生じると試算されており*1、必要人材の採用・育成リードタイムを考慮した中長期計画が欠かせない。
まとめ:SESエンジニア比較の3つの判断軸
SESエンジニアを比較する際は、契約形態・費用・指揮命令権の3軸を整理することが出発点だ。準委任(SES)・労働者派遣・請負はそれぞれ指揮命令権と成果物責任が異なるため、プロジェクト特性に応じた使い分けが不可欠だ。費用は月額単価だけでなく精算幅・諸経費を含めた総コストで比較しないと、想定外の追加費用が発生する。偽装請負リスクは厚生労働省「37号告示」の3要件に基づき、契約書と実態運用の整合性を確保することで回避できる。これら3軸を意思決定段階で押さえることが、外部エンジニア活用の成否を左右する。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査(概要)」(2019年)
- *2 出典:民法第656条(準委任)(e-Gov法令検索)/SESの業界定義については一般社団法人情報サービス産業協会(JISA)の業態定義も参照
- *3 出典:厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(令和7年6月版)
- *4 出典:労働者派遣法第59条第2号(e-Gov法令検索)
- *5 出典:厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)」(1986年)