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スクラムマスター・アジャイル人材の不足を外部支援で補う進め方
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- スクラムマスターが不足する背景には、資格取得者の増加とは裏腹に実践経験者が少ない現実があります
- 外部支援には常駐・伴走・内製化支援の3形態があり、自社の開発フェーズに応じた選択が重要です
- 外部パートナーの評価では「チームの自律を促せるか」という視点が、進捗管理者との違いを見極める鍵になります
目次
スクラムマスター不足がDX推進を止める理由
スクラムマスター不足の外部支援補完とは、アジャイル開発への移行を進める企業が、社内に不足するスクラムマスター・アジャイルコーチ(チームの自律を促す役割)を、外部の専門パートナーで補う取り組みを指します。
DX推進の文脈でアジャイル開発への移行を検討する企業が増えています。しかし「アジャイルを導入したい」と経営層が宣言しても、実際にスプリントを計画し、デイリースクラムを回し、チームの課題を取り除くスクラムマスターがいなければ、移行はかけ声だけに終わります。
スクラムマスター(Scrum Master)とは、スクラムフレームワークにおいてチームがスクラムを正しく実践できるよう支援し、組織的な障害(インピーダンス)を取り除く役割を担う専門職です。スクラムフレームワークはKen SchwaborとJeff Sutherlandが提唱し、現在はScrum Alliance Inc.やScrum.orgといった国際団体が認定資格を提供しています。
アジャイル移行で露わになる「回せる人材」の不在
ウォーターフォール型の開発では、要件定義・設計・実装・テストの各フェーズをプロジェクトマネージャーが計画と進捗で管理します。一方、スクラムではスプリント(通常1〜4週間の開発サイクル)ごとに計画・実行・振り返りを繰り返し、チームが自律的に判断を重ねます。
この違いが大きな問題を引き起こします。従来のPM経験者がスクラムマスターに任命されると、スプリントレビューやレトロスペクティブ(振り返り)のファシリテーションではなく、ガントチャートの更新や進捗報告に注力してしまいます。チームは自律する機会を奪われ、アジャイル移行の恩恵を受けられません。
スクラムマスターとPMOの役割の違い
PMO(Project Management Office)は、プロジェクトの計画策定・進捗管理・リスク管理・ステークホルダー調整を担います。これに対してスクラムマスターは、チームがスクラムの価値観(コミットメント・勇気・集中・オープン性・リスペクト)を体現できるよう支援し、チームの外側にある障害を取り除く役割です。
PMOとスクラムマスターは補完関係にあり、どちらかが不要になるわけではありません。両者が混同されると、スクラムマスターが進捗報告者に格下げされ、アジャイルの本来の価値が失われます。PMO人材不足の解決については別の視点が必要であり、本記事では「スクラムマスター・アジャイルコーチとしての役割不足」に絞って解説します。
スクラムマスター・アジャイル人材が不足する3つの背景
スクラムマスターやアジャイルコーチの不足は、日本のDX推進において広く共通する課題です。IPA(情報処理推進機構)が2025年に公表した「DX動向2025」では、アジャイル開発手法の導入状況と人材育成が主要テーマとして取り上げられています*1。以下では不足が起きる背景を3点整理します。
資格取得者は増えたが実践経験者は少ない
スクラムマスターの認定資格としては、Scrum Alliance Inc.が提供するCSM(Certified ScrumMaster)、Scrum.orgが提供するPSM(Professional Scrum Master)、Scrum Inc.が提供するRSM(Registered Scrum Master)の3種類が代表的です。Scrum Alliance Inc.は世界で約180万人以上の認定プロフェッショナルを擁する非営利団体であり、CSMは最も広く普及した資格のひとつです*2。
資格保有者の数は増えています。しかし、資格の取得と実際のチーム支援には大きな開きがあります。研修や試験でスクラムの知識を習得しても、複数チームの摩擦を調整し、経営層との橋渡しをし、レトロスペクティブで本音を引き出すといった実践スキルは、現場経験を積まなければ身につきません。資格取得後に実務機会のないまま別部署に異動してしまうケースも珍しくありません。
社内育成だけでは追いつかないスピード要件
アジャイル開発への移行は、多くの場合「DX推進の一環として今期から着手する」という経営判断から始まります。しかし社内でスクラムマスターを育成するには、資格取得の時間に加えて、実際のプロジェクトで経験を積む期間が必要です。採用でアジャイル経験者を確保しようとしても、市場での競争は激しく、採用活動に半年から1年以上かかるケースもあります。
移行スケジュールが先に決まっている場合、育成・採用を待っていては移行が遅延します。外部から即戦力を補うことで、内製化の準備と並行してアジャイル開発を動かす選択肢が現実的なものになります。
スクラムマスターを「進捗管理係」と誤解した配置ミス
スクラムマスターの役割を誤解していると、既存のプロジェクトリーダーや優秀なエンジニアをスクラムマスターに任命するという判断が起きます。しかしスクラムマスターは、チームの自律を促すサーバントリーダーシップを発揮する役割であり、詳細タスクの割り振りや進捗の督促は担いません。
誤解したままの配置が続くと、チームは指示待ちになり、スプリントごとの改善サイクルが機能しなくなります。アジャイル開発の形式だけが残り、実態はウォーターフォールと変わらない状態になります。この状態を「アジャイルの名ばかり採用」と呼び、実際に現場で問題化しているケースがあります。
外部支援の3形態:常駐・伴走・内製化支援の特徴と選び方
スクラムマスター・アジャイル人材の外部支援には、大きく3つの形態があります。自社の状況・フェーズ・目標に合わせた選択が、支援効果を左右します。
| 支援形態 | 特徴 | 適したフェーズ | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 常駐スクラムマスター | 外部の経験者をチームに常駐させ、スプリントを直接ファシリテート。 即戦力として現場に入り込む形態。 |
アジャイル移行直後・初のスクラム立ち上げ期 | 常駐期間が長期化すると依存が生まれやすい。 内製化の計画と並行して進めることが大切です。 |
| アジャイルコーチ(伴走型) | チームの外側に立ち、課題を指摘・助言しながら自律を促す。 週数日の訪問や定期レビューで支援する形態。 |
スクラム経験が少しある状態からの改善期 | 即座の成果が出にくい。 チームと組織が変わる意志を持てているかが前提になります。 |
| 内製化支援 | 社内のスクラムマスター候補を育成しながら、並行してプロジェクトを進める。 支援終了後に自社で自走できる状態を目標とする。 |
アジャイルを中長期的に内製化したい成長期 | 育成には時間が必要。 育成対象者の選定と時間的余裕の確保が成功の鍵です。 |
常駐スクラムマスター:即戦力をチームに組み込む
常駐スクラムマスターは、外部の経験者をチームの一員として迎え入れ、スプリントプランニング・デイリースクラム・スプリントレビュー・レトロスペクティブといったスクラムイベントを直接ファシリテートします。チームにとって最も変化を実感しやすい形態です。
アジャイル開発を初めて導入するチームでは、スプリントの進め方そのものが分からない状態から始まります。常駐型のスクラムマスターがいることで、チームは実際のプロジェクトを進めながらスクラムの実践を学べます。経験者の視点から障害を発見し、即座に取り除く動きが可能です。
ただし、外部スクラムマスターへの依存が定着すると、支援終了後にチームが自走できなくなります。常駐の開始時点から「いつまでに内製化するか」という目標を定めておくことが、長期的な効果につながります。
アジャイルコーチ:チームの自律を外側から促す
アジャイルコーチは、チームの外側に立ってプロセスや文化の改善を支援する役割です。スクラムマスターがチーム内部でファシリテートするのに対し、アジャイルコーチは複数チームを横断して課題を診断し、組織レベルの変革を促します。
週に数日の訪問や定期的なレビューを通じて、チームの動き方・会話の質・意思決定のパターンを観察し、具体的なフィードバックを与えます。チームが自分たちで問題を発見し、解決できるよう導くサポートスタイルです。
アジャイルコーチは、すでにスクラムの基礎が動いているチームが停滞を打破する際や、複数チームにアジャイルを横展開する際に特に有効です。プロセスの形式だけが動いていて成果につながらないと感じる組織に向いています。
内製化支援:育成して自社に残す仕組みをつくる
内製化支援は、社内のスクラムマスター候補を育成しながら、実際のプロジェクトを並行して進める形態です。外部パートナーがロールモデルとして現場に入り、候補者がスクラムマスターとしての役割を段階的に引き継いでいきます。
育成プロセスでは、まず外部支援者がスクラムを主導し、候補者が観察とアシスタントの役割から始めます。経験を積むにつれて候補者の主体性を増やし、最終的には外部支援者がアドバイザー役に退きます。支援終了後に自走できる状態を作ることが目標です。
内製化支援は3形態の中で最も時間がかかりますが、自社にアジャイルのケイパビリティが蓄積される点が際立ったメリットです。アジャイル開発を一時的なプロジェクトで終わらせず、継続的な開発文化として根付かせたい企業に向いています。
外部支援パートナーを選ぶ3つの評価軸
スクラムマスター・アジャイルコーチの外部支援パートナーを選ぶ際、技術的なスキルだけでなく、支援スタイルや実績を複数の軸で評価することが大切です。以下の3点を確認することで、自社の課題に合ったパートナーを絞り込めます。
評価軸1:「チームの自律」を支援するスタイルか
最も重要なのは、外部支援者がチームの自律を促せるかどうかです。指示や管理で問題を解決するタイプのスクラムマスターは、短期的には成果が出ても、長期的にはチームの依存を生みます。
パートナー候補に「チームが自律的に動けない状況をどう解決しますか」と問いかけてみてください。「私が仕切る」という回答ではなく、「チームが自分で気づける場をつくる」という発想があるかどうかが判断の目安になります。面談・ヒアリングの場で、実際の質問の仕方や言葉の選び方を観察することも有効です。
評価軸2:業種・組織規模の支援実績
アジャイル開発の課題は、業種や組織規模によって異なります。製造業のウォーターフォール文化からアジャイルに移行する難しさと、スタートアップでスクラムを整備する難しさは、まったく性質が違います。
自社に近い業種・組織規模・移行フェーズでの支援実績があるかを確認してください。実績が共有できない場合でも「同様の課題に対してどのようなアプローチを取りましたか」という問いに対して具体的なエピソードを話せるかどうかで、経験の深さを見極められます。
評価軸3:支援期間と終了後の引き継ぎ設計
外部支援の終了後に「また困ったら呼べばいい」という関係が続くようであれば、内製化は進んでいません。優れたパートナーは、支援開始時から終了後の状態を設計し、段階的な引き継ぎプランを提示します。
「支援が終わったとき、自社のチームはどういう状態になっているか」という問いへの回答が具体的かどうかを確認してください。到達目標・マイルストーン・成果の定義が曖昧なパートナーとの契約は、支援期間の延長につながります。
外部支援でよくある失敗と回避策
外部支援を活用しても、進め方を誤ると期待した効果が出ないケースがあります。実務上で見られる失敗パターンと、その回避策を3点整理します。
失敗1:外部支援者がいる間だけスクラムが機能し、終了後に崩壊する
外部スクラムマスターが優秀であるほど、チームはその人に頼り切る傾向があります。支援終了後に社内に経験者が残っておらず、スプリントが形式化してしまうケースです。
回避策として、支援開始時に「社内の誰がスクラムマスター役を引き継ぐか」を明確に決めておくことが大切です。候補者を最初から支援に参加させ、外部スクラムマスターの動き方を観察・実践する機会を積み重ねます。支援後半では徐々に主体性を渡し、外部支援者がアドバイザーに移行するスケジュールを組みましょう。
失敗2:経営層がアジャイルを理解せずにプレッシャーをかける
アジャイル開発は、スプリント中に要件が変化することを前提としています。しかし経営層がウォーターフォールの感覚のまま「なぜ予定通りに進まないのか」と問い続けると、チームはアジャイルの原則を守れなくなります。
外部支援者にチームだけでなく経営層・管理職へのアジャイル理解促進を含めてもらうことが有効です。支援スコープに「ステークホルダー向けのアジャイル基礎研修」や「定期的な進捗共有セッション」を含めてもらうと、現場と経営の認識のずれを防げます。
失敗3:スクラムの形式だけが導入され、実態が変わらない
スプリントプランニング・デイリースクラム・レトロスペクティブを形式的に実施しても、内容が形骸化するケースがあります。デイリースクラムが進捗報告会になり、レトロスペクティブで本音が出ない状態です。
外部支援者が定期的にセレモニー(スクラムイベント)の質を観察し、フィードバックを行う仕組みを設けることが回避策になります。「イベントを実施しているか」ではなく「チームが自律的に動き始めているか」を定期的に確認する指標を事前に合意しておくことが大切です。
LASSICのアジャイル支援体制
LASSICは元請(プライムベンダー)として、IT開発・運用の各フェーズにおいて一貫した支援体制を持っています。アジャイル開発の外部支援においても、チームの立ち上げから内製化の引き継ぎまでをカバーするサポートを提供しています。
スクラムマスター支援では、チームに経験豊富なアジャイル人材を組み込む形での常駐支援と、育成・引き継ぎを前提とした内製化支援の両方に対応しています。IT開発の現場知識を持つエンジニアがアジャイルのファシリテーションを担えるため、技術的な文脈を理解した上でチームの課題を把握できます。
具体的な支援内容・体制・料金については、以下のリンクよりお問い合わせいただけます。自社の状況(開発フェーズ・チーム規模・移行スピード)を整理した上でご相談いただくと、貴社の課題に合った支援形態をご提案しやすくなります。
まとめ:スクラムマスター不足を補う3つの判断軸
本稿では、スクラムマスター・アジャイル人材の不足が起きる背景と、外部支援で補う進め方を整理しました。要点を3点にまとめます。
第一に、スクラムマスターの不足は資格取得者の増加だけでは解決しない点です。実践経験の蓄積にはプロジェクトへの関与が不可欠であり、採用・育成だけを待つと移行のタイミングを逃す可能性があります。外部の即戦力を活用して開発を動かしながら、並行して内製化の準備を進める進め方が現実的です。
第二に、外部支援には常駐・伴走・内製化の3形態があり、自社のフェーズに合わせた選択が重要です。アジャイル移行直後には常駐型が有効であり、改善フェーズでは伴走型のアジャイルコーチ、中長期の内製化には育成込みの支援が適しています。
第三に、外部パートナーを選ぶ際は「チームの自律を促せるスタイルか」「支援終了後の引き継ぎ設計が明確か」を実際に確認することです。支援の品質はパートナーの姿勢と経験に大きく依存するため、見積もりの比較だけでなく、実際の支援スタイルを見極めることが重要です。
よくある質問
スクラムマスターの資格がなくても外部支援を依頼できますか。
はい、依頼できます。外部支援の多くは資格の有無より実践経験を重視しています。ただし、外部支援者自身がCSMやPSMなどの資格と実践経験の両方を持っているかを確認することは、支援品質の判断材料になります。自社でスクラムを始める前の段階から相談に乗ってもらえるパートナーを選ぶと、導入方針の整理から支援してもらえます。
常駐スクラムマスターの支援期間はどのくらいが目安ですか。
チームの状況や目標によりますが、アジャイル移行の立ち上げから基礎的なスクラムが自走するまでの目安として、3か月から6か月程度の支援期間で設計されるケースがあります。ただしこの期間はあくまで参考であり、チーム規模・経験値・移行の複雑さによって大きく変わります。支援開始時にパートナーと具体的なマイルストーンを合意しておくことが大切です。
既存のプロジェクトマネージャーをスクラムマスターに転換できますか。
転換は可能ですが、意識と行動の変化が必要です。スクラムマスターはチームを管理・指示する役割ではなく、チームの自律を促すサーバントリーダーシップを発揮する役割です。PMとしての習慣(タスク割り振り・進捗督促・成果物管理)から離れる必要があり、外部支援者によるコーチングや実践経験が転換を後押しします。育成期間中は外部スクラムマスターと並走する形が有効です。
アジャイルコーチと外部スクラムマスターはどう使い分けますか。
外部スクラムマスターはチーム内部でスプリントを直接ファシリテートし、デイリースクラムや各イベントの運営を担います。一方、アジャイルコーチはチームの外側に立ち、複数チームを横断して組織のプロセス・文化の改善を促します。スクラムを始めたばかりのフェーズには外部スクラムマスター、ある程度経験があって停滞感がある場合にはアジャイルコーチが適しています。両者を組み合わせることも効果的です。
スクラムマスターの外部支援を活用する際の失敗を避けるにはどうすればよいですか。
最も重要なのは、支援開始時に「誰が社内でスクラムマスター役を引き継ぐか」を決めておくことです。支援終了後の引き継ぎ対象者を最初から参加させ、段階的に主体性を移していく設計が必要です。また、経営層・管理職のアジャイル理解を支援スコープに含めることで、現場と経営のすれ違いによる失敗を防ぎやすくなります。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:IPA(情報処理推進機構)「DX動向2025」(2025年公表)
- *2 出典:Scrum Alliance Inc.「Scrum Alliance 公式サイト」(2024年確認)