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SAP/ABAPコンサル人材の不足を外注・委託で補完する進め方
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- SAP 2027年問題とABAPの技術変化が重なり、SAP人材の需給逼迫が続いています
- 外注・委託では「業務請負(成果物型)」と「SES・準委任(スキル提供型)」の使い分けが重要です
- 委託先の評価軸はモジュール実績・S/4HANA移行経験・クリーンコア対応の3点です
目次
SAP/ABAPコンサル人材不足とは何か — 2027年問題が引き起こす人材危機
SAP/ABAPコンサル人材不足とは、SAP ERP(企業資源計画システム)の移行・保守・開発を担えるコンサルタントおよびABAP(Advanced Business Application Programming)開発者が、プロジェクト需要に対して大幅に少ない状態を指します。2027年問題とは、SAP ERP 6.0(ECC6.0)のメインストリームサポートが2027年末に終了することを契機に、国内外のSAP稼働企業がS/4HANAへの移行を一斉に迫られる現象です。
SAP ERP 6.0のメインストリームサポートが2027年末に終了することは、SAPが公式に発表している事実です。サポート終了後は、通常のバグ修正・セキュリティパッチ・法改正対応がSAPから提供されなくなります。
S/4HANA(SAP S/4HANA)は、SAP ERPの後継製品です。クラウドネイティブのアーキテクチャを採用し、インメモリデータベース「SAP HANA」上で動作します。既存のECC6.0からS/4HANAへの移行は、単なるバージョンアップではなく、データモデルやABAP開発の技術基盤そのものが変わります。
この移行需要が世界同時に発生することで、SAP人材の需給バランスが大きく崩れています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2023」*1では、IT人材の量的不足が日本企業の重要課題として指摘されています。SAP領域に限るとその傾向はさらに顕著で、専門性の高さゆえに代替が利きにくい状況です。
社内育成では間に合わない — ABAPの習得難度と採用市場の実態
ABAP(Advanced Business Application Programming)は、SAP専用の開発言語です。汎用のJavaやPythonとは異なり、SAP ERPの業務ロジックやデータ構造に特化した言語設計になっています。習得のためにはSAP ERPの業務知識(FI/CO/MM/SD/PP等の各モジュール)とABAP技術の両方を学ぶ必要があり、一人前の開発者を育成するためのリードタイムが長くなります。
さらにS/4HANAでは、ABAPの書き方そのものが変わっています。「クリーンコア(Clean Core)」という考え方が求められるようになり、ECC6.0で多用されていたシステムテーブルへの直接アクセスやカスタム改修(アドオン)が制限・非推奨となりました。ECC6.0時代のABAP開発者であっても、S/4HANA向けの開発スタイルに習熟するための再学習が必要です。
採用市場においても、SAP/ABAPを扱える人材は応募数そのものが少ない傾向があります。2027年の期限を前に移行案件が増加する一方で、供給側の頭数が増えていないため、早期に外部パートナーを確保することが難しくなっています。
社内育成は中長期の取り組みとして有効ですが、2027年末というサポート終了期限を考えると、移行プロジェクトの開始から完了までのスケジュールと育成期間が合わないケースが多くあります。外注・委託で即戦力を補うことが現実的な選択肢となります。
外注・委託での補完 — 請負契約とSES(準委任)の選択
SAP/ABAP人材を外注・委託で補完する場合、主に2つの契約形態があります。「業務請負(成果物納品型)」と「SES(システムエンジニアリングサービス)・準委任(スキル提供型)」です。どちらが適切かは、補完したい業務の性質によって異なります。
| 項目 | 業務請負(成果物型) | SES・準委任(スキル提供型) |
|---|---|---|
| 契約の性質 | 成果物の完成を約束する契約。 納品物の品質保証が委託先に帰属します。 |
委託先エンジニアの業務遂行を委託する契約。 指揮命令はSES(準委任)の場合は委託先側になります。 |
| 向いている業務 | アドオン移行・帳票開発・インターフェース開発など、要件が固まった単機能開発 | 長期運用保守・クリーンコア推進チームへの参画・コンカレントな移行支援 |
| 費用発生の構造 | 成果物単位での請求。 スコープが明確なほど見積もりが立てやすいです。 |
月次工数ベースでの請求。 スコープが変動する長期案件に適しています。 |
| 注意点 | 要件定義の精度が品質・費用に直結します。 仕様変更は追加費用が発生します。 |
指揮命令関係の取り決めを明確にする必要があります。 偽装請負にならない契約設計が重要です。 |
アドオン移行など要件が整理されたタスクには業務請負が向いています。一方、移行後の運用保守やS/4HANA適用範囲の検討など、業務要件が変動しながら進むフェーズにはSES・準委任が適しています。
なお、IT人材の「派遣」と「外注(請負・準委任)」の違いについては、指揮命令関係と責任の所在が大きく異なります。この違いを押さえておくと、委託先との契約設計がスムーズになります。
委託先の評価軸 — モジュール実績・S/4HANA・クリーンコア対応で選ぶ
SAP/ABAP人材の外注先を選定する際、一般的なIT外注と異なる専門評価軸が必要です。以下の3点を中心に確認することで、委託後のミスマッチリスクを低減できます。
モジュール実績(FI/CO/MM/SD/PP等)の確認
SAP ERPはモジュール(機能領域)によって業務知識が異なります。FI(財務会計)・CO(管理会計)・MM(購買・在庫管理)・SD(販売管理)・PP(生産管理)など、自社が使用しているモジュールの実績を持つ委託先かどうかを確認してください。
特に移行プロジェクトでは、既存カスタマイズ(アドオン)がどのモジュールに絡んでいるかを把握したうえで、該当モジュールの経験者をアサインできる体制かどうかを問い合わせることが大切です。
S/4HANA移行・Fiori開発の経験
ECC6.0からS/4HANAへの移行方式にはGreenfield(新規構築)とBrownfield(既存移行)の2種類があります。GreenfielとはECC6.0の設定・カスタマイズを引き継がずS/4HANAをゼロから構築する方式です。BrownfieldはECC6.0の設定・データを保持したままS/4HANAへ移行する方式を指します。委託先がどちらの方式の実績を持つかを確認してください。
また、S/4HANAではユーザーインターフェースがFiori(SAP Fiori)に移行しています。ABAPバックエンドとFioriフロントエンドの両方に対応できる委託先かどうかも評価ポイントです。
ABAPクリーンコア(アドオン最小化)対応
クリーンコアとは、SAPの標準機能をできる限り活用し、カスタム開発(アドオン)を最小化する設計思想です。S/4HANAではクリーンコアが強く推奨されており、過去のECC6.0時代に積み上げた過剰なアドオンをどう整理するかが移行の難所になります。
委託先が「移行時にアドオンをどう評価・廃棄・標準機能化するか」の方針を持っているかどうかを確認してください。クリーンコアへの移行方針がない委託先に依頼すると、移行後も膨大なアドオン保守コストが残るリスクがあります。
外注前に固めるべき社内体制 — RFP準備・知識移転・クリーンコア方針
外注・委託を成功させるためには、発注側の社内体制を整えることが前提です。SAP/ABAPの委託でよく起きる失敗は、「社内にSAPの知識を持つ人間がいないため、委託先任せになり、要件定義や品質管理ができない」というパターンです。
移行スコープ(アドオン棚卸し)の事前整理
委託先に発注する前に、現在ECC6.0でどのようなアドオンが動いているかを棚卸しする必要があります。「アドオンの一覧」「各アドオンの目的と利用頻度」「標準機能で代替できるかどうかの初期評価」の3点を事前に整理することで、RFP(提案依頼書)の精度が高まります。
この棚卸しができていないと、委託先への要件提示が「現状のままS/4HANAに乗せてほしい」という丸投げになり、移行コストと品質リスクが増大します。
知識移転の義務化と内部担当者の確保
委託先に設計・開発を任せる場合でも、ドキュメントの作成と知識移転を契約に明記してください。移行完了後にSAP社内担当者がゼロという状態は、保守フェーズで委託依存が続くリスクを生みます。
内製化が難しくても、最低限プロジェクトオーナーとなる社内担当者を1名確保し、その担当者が委託先の作業内容を理解して判断できる体制を作ることが大切です。外注先への丸投げを避けるための最低限のガバナンスラインです。
クリーンコア方針の社内意思決定
「どのアドオンを残し、どのアドオンを廃棄するか」はビジネス側の判断が必要です。この意思決定を後回しにしたまま委託先に動いてもらうと、移行途中で方針変更が発生し、手戻りコストが膨らみます。
委託先とのキックオフ前に、経営層や業務部門を巻き込んでクリーンコア方針を決定しておくことが、プロジェクト全体のリスクを低減します。この意思決定プロセスそのものを支援してくれるコンサルティング機能を持つ委託先を選ぶことも選択肢のひとつです。
まとめ — SAP/ABAP人材不足を外注で補完する3つの判断軸
本稿では、SAP 2027年問題を背景にしたSAP/ABAPコンサル人材不足の課題と、外注・委託による補完の進め方を整理しました。要点を3点に集約します。
第一に、契約形態の選択です。要件が固まったアドオン開発・移行タスクには業務請負(成果物型)が適しており、長期の運用保守やクリーンコア推進には準委任・SES(スキル提供型)が向いています。
第二に、委託先評価の3軸です。モジュール実績(FI/CO/MM/SD/PP等)・S/4HANA移行とFiori開発の経験・クリーンコア対応の3点を確認することで、委託後のミスマッチリスクを低減できます。
第三に、社内体制の整備です。アドオン棚卸し・知識移転の義務化・クリーンコア方針の意思決定の3点を発注前に固めることで、委託先との連携が円滑になります。
よくある質問
SAP/ABAPコンサルへの委託費用の目安はどれくらいですか?
SAP/ABAPコンサルへの委託費用は、担当者のスキルレベル・モジュール専門性・契約形態によって異なります。業界全体の参考値として、月額単価は中堅レベルのコンサルタント・開発者でも高水準になるとされており、2027年に向けた需要増加にともない単価が上昇している傾向があります。正確な費用感は複数の委託先に見積もりを依頼し、スコープを明確にしたうえで比較することをお勧めします。費用レンジに関しては市場の変動が大きいため、本記事での具体的な数値の掲示は行いません。
ABAPのクリーンコアとは何ですか?なぜ重要ですか?
クリーンコアとは、SAP ERPのカスタム開発(アドオン)を最小化し、SAP標準機能をできる限り活用する設計思想です。ECC6.0では業務要件に合わせてカスタムABAP開発を積み重ねるケースが多くありましたが、S/4HANAではその手法が非推奨となっています。クリーンコアが重要な理由は、アドオンが多いほどS/4HANAへの移行コストが増大し、移行後の保守・アップグレードも複雑になるためです。移行プロジェクトの開始前にアドオンの棚卸しと廃棄方針を固めることが、クリーンコアへの移行を円滑に進める第一歩となります。
SES(準委任)と業務請負、SAP移行ではどちらが向いていますか?
要件が明確に定まったアドオン開発や帳票開発など「成果物」が特定できるタスクには業務請負が向いています。一方、移行方針の検討・クリーンコア推進・長期にわたる保守対応など、業務内容が変動しながら進むフェーズにはSES(準委任)が適しています。SAP移行プロジェクトでは初期フェーズ(AS-IS整理・移行方針策定)に準委任、実装フェーズ(アドオン開発・テスト)に業務請負を組み合わせるケースが多く見られます。いずれの契約形態でも、指揮命令の所在と責任範囲を契約書に明記することが重要です。
SAP認定パートナーかどうかは委託先選定の参考になりますか?
SAP社による認定パートナー(SAP Partner)資格は、一定の技術・経験基準を満たした企業に与えられるものであり、選定時の客観的な指標として参考になります。ただし認定の種類や対象製品が細分化されているため、「自社が必要とするモジュール・機能(S/4HANA Migration、ABAP等)に対応した認定か」を個別に確認することが必要です。認定の有無だけでなく、実際の移行プロジェクト事例・担当者のスキル・体制を合わせて確認することをお勧めします。
社内ABAP担当者がゼロでも外注で移行を進めることはできますか?
社内に専任のABAP担当者がいない状態でも、外注・委託でS/4HANA移行を進めることは可能です。ただし、完全な丸投げにはリスクが伴います。委託先の作業をレビュー・承認できる社内の意思決定者(プロジェクトオーナー)を確保し、アドオン棚卸しやクリーンコア方針などビジネス側の判断が必要な事項を社内で決定できる体制を整えることが、外注を成功に近づけるための実務上の要件です。委託先に依存しすぎると、プロジェクト完了後の保守フェーズでも外注依存が続くリスクがあります。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
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- *1 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2023」(2023年3月)