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2026.06.29 らしくコラム

SAP S/4HANA移行人材の不足を外注で補う

LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託

enterprise software business

この記事のポイント

  • SAP ECC(EHP6〜8)のメインストリーム保守は2027年末に終了するため、S/4HANA移行プロジェクトを動かせる上流コンサル・PMの確保が急務になっています
  • 移行方式(Greenfield/Brownfield/Selective Data Transition)の選定とFit-to-Standardの推進には、ABAP開発やBasis運用とは異なる専門性が求められます
  • 移行PM・移行コンサル人材は市場での希少性が高く、PMO委託・準委任による外注補完が現実的な解として検討されています

SAP S/4HANA移行コンサル外注補完とは:ABAP開発・Basis運用と役割が異なる上流専門職

business team meeting planning

SAP S/4HANA移行のコンサル人材を外注で補うとは、ECC(SAP ERP 6.0)からS/4HANAへの移行プロジェクトにおいて、移行方式の選定・Fit-to-Standard推進・データ移行計画・PMO運営といった上流工程を担える専門家を、自社で採用するかわりに外部パートナーへの委託で確保する取り組みを指します。*1

なお、SAP人材には役割が異なる3つの領域が存在します。ABAP開発(カスタマイズコーディング・Fiori開発・クリーンコア設計)と、Basis基盤運用(インフラ・バージョン管理・システム監視)は、それぞれ別の専門記事で扱っています。本記事はこれらの領域には踏み込まず、移行プロジェクトを上流から推進するコンサル・PM・業務側人材の外注補完に絞って解説します。

保守期限の 把握 EHP別EoS 時期を確認 移行方式の 選定 3方式から 最適解を選ぶ Fit-to- Standard推進 業務再設計と 標準化の実行 データ移行・ 周辺対応 移行PM主導で 計画・実行 移行実行・ 知識移転 本番稼働と 内製化移転
SAP S/4HANA移行プロジェクトの推進ステップ(上流コンサル・PM視点)

2027年EoS(保守終了)が動かす移行の必然性

SAP ERP 6.0(以下ECC)のメインストリーム保守は、EHPのバージョンによって終了時期が異なります。最新のEHP6・EHP7・EHP8を適用しているシステムのメインストリーム保守は2027年12月31日に終了します。*1

EHPを適用していないECC、またはEHP1〜EHP5を適用しているシステムは、これより早い2025年12月31日にメインストリーム保守が終了します。*1 早期区分に該当する企業は、すでに保守期限を迎えているか、あるいは直前の段階に入っています。

2027年末以降も継続してSAPの有償サポートを受けるには、延長保守(Extended Maintenance)を契約することで2030年12月31日まで保守を受け続けることができます。*1 ただし延長保守は追加費用が発生するため、多くの企業ではS/4HANAへの移行を前提とした計画を立てています。

移行先のSAP S/4HANAについては、SAPが2040年まで保守をコミットしています。*1 技術的負債の解消と長期的な保守コスト低減の両面から、S/4HANAへの移行は事業継続上の実務的な選択肢となっています。

一方、IT人材全体の需給ギャップという背景もあります。経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年公表)では、IT人材全体の需給ギャップが2030年に約79万人(需要の伸びを高位に想定したシナリオ)に達するという試算が示されています。*2 これはIT人材全体を母集団とした試算であり、SAP移行コンサル人材の不足規模を直接示す数値ではありません。ただし、SAPという特定製品の移行上流工程に特化した人材は一般的なIT人材よりもさらに希少であり、定性的に見ても採用難度は高い状況です。

Greenfield・Brownfield・Selective Data Transition:方式選定でコンサルが必要な理由

SAP S/4HANAへの移行方式は、大きく3種類に整理されます。*3

移行方式 概要 向くケース 上流コンサル・PMの論点
Greenfield(新規実装) 既存のカスタマイズ・データを引き継がず、ゼロから業務プロセスを再設計してS/4HANAを構築する。 業務プロセスの抜本的な再構築を目指す企業。
既存ECCのカスタマイズが多く、そのまま移行するよりクリーンに作り直した方が効率的なケース。
標準プロセスへのフィットイン設計が核心となる。
業務部門との合意形成・スコープ管理・変更管理(チェンジマネジメント)が中心的なリスク管理論点。
Brownfield(システムコンバージョン) 既存ECCの設定・カスタマイズ・データを保持したまま、技術的にS/4HANAへ変換する。 既存の業務プロセスを大きく変えたくない企業。
既存カスタマイズ資産を活かしたい、かつ移行期間を短縮したいケース。
S/4HANAで廃止・変更されるテーブル構造・機能の影響調査が必要。
アドオン互換性の評価・クリーンコア方針との整合が上流判断の核心。
Selective Data Transition(選択的データ移行) GreenfieldとBrownfieldのハイブリッド。特定のデータ・組織単位・プロセスを選択して移行する。 グループ企業の一部先行移行や、特定事業部門のみ移行したいケース。
予算・リソース制約から段階的移行を検討する企業。
移行対象の切り出しロジックの設計が複雑。
旧システムとの並行運用期間の整合性管理・インターフェース設計が重要な論点となる。

3方式の選定は技術的な優劣だけでなく、自社の業務変革意欲・既存資産の活用方針・移行予算・タイムラインの総合判断になります。この意思決定には、SAP標準の深い理解と業務プロセス再設計の実務経験を持つ上流コンサルが不可欠です。

方式選定を誤った場合のリスクは大きく、移行途中で方向転換を余儀なくされると、追加費用と工期延長が避けられません。移行プロジェクトは規模によっては年単位の工期が見込まれるため、方式選定を上流で適切に行うことが、後工程のリスクを大きく左右します。

Fit-to-Standardと業務再設計:業務側人材が移行の鍵を握る

Fit-to-Standard(フィット・トゥ・スタンダード)とは、SAP S/4HANAが提供する標準の業務プロセスに、自社の業務をできる限り合わせていく設計思想です。自社業務を標準に近づけることで、アドオン(追加開発)を減らし、将来のバージョンアップ対応コストを抑えられるとされています。

従来のSAP導入ではFit-to-Gap(自社業務とシステムのギャップを埋めるためにアドオン開発で対応する)という手法が主流でした。S/4HANAへの移行では、SAPはFit-to-Standardを推奨しており、この方針への転換が業務部門を巻き込んだ大規模な再設計作業を引き起こします。

この業務再設計プロセスで中心的な役割を担うのが、業務側人材です。具体的には次のような役割が求められます。

  • SAPの標準プロセスを理解し、自社業務との差異(ギャップ)を業務部門と協議する
  • アドオンの要否を判断し、標準化できる業務範囲を広げる交渉を業務部門と進める
  • 変更後の業務フローを文書化し、現場への説明・教育(チェンジマネジメント)を担う
  • 業務受入テスト(UAT)の計画・実行を主導する

業務側人材が不在のまま移行プロジェクトが進むと、ITベンダー主導で「とりあえずアドオンを作る」方向に流れやすくなります。結果として標準化の恩恵が得られず、将来の保守コストが増大するリスクがあります。

業務側人材は社内の業務担当者が担うのが理想ですが、日常業務と並行しながらSAP標準プロセスの知識を習得することには相応の難しさがあります。外部の経験者を業務コンサルとして参画させ、社内担当者と協業する体制が実務上は多く採られています。

データ移行・周辺対応計画で移行PMが担う論点

data migration technology

S/4HANAへの移行では、システムそのものの変換に加えて、データ移行と周辺システム対応が大きな論点になります。これらを統合的にコントロールするのが移行PM(プロジェクトマネージャー)の役割です。

データ移行の計画と実行

ECCからS/4HANAへのデータ移行では、旧システムのデータ品質の評価から始める必要があります。移行対象データの洗い出し・クレンジング・マッピング・バリデーションという一連の工程は、移行プロジェクト全体の工期に大きく影響します。

データ移行に失敗すると、本番稼働時に取引データや在庫データの不整合が発生し、業務が一時停止するリスクがあります。移行PMはデータ移行の計画を早期に策定し、複数回のリハーサル(カットオーバーリハーサル)を組み込む必要があります。

アドオン・インターフェースの対応計画

ECC上に開発されたアドオン(独自開発機能)や、周辺システムとのインターフェースは、S/4HANAへの移行時に互換性の問題が生じる場合があります。移行PMはアドオン・インターフェースの棚卸しを行い、廃止・移植・再開発のいずれにするかを判断・計画する責任を担います。

この判断を誤ると、本番稼働後に業務が止まる事態につながります。特に周辺システムが多い企業では、インターフェース対応の計画が移行全体のクリティカルパスになる場合があります。移行PMには、ITと業務の双方を俯瞰しながら複数の作業ストリームを横断的に管理できる能力が求められます。

移行コンサル・移行PM人材が希少な背景

S/4HANA移行を主導できる上流コンサル・移行PM人材が市場で希少な理由は、必要なスキルセットが特殊かつ複合的であることにあります。

移行コンサル・移行PMが実務上必要とするスキルと知識は、次のように整理できます。

  • SAP ECCおよびS/4HANAの製品知識(機能・データモデル・変更点)
  • 移行方式(Greenfield/Brownfield/Selective Data Transition)の設計経験
  • Fit-to-Standardの推進経験(業務部門との合意形成・スコープ管理)
  • 大規模プロジェクトのPMO運営経験(スケジュール・予算・リスク管理)
  • 業務プロセス(会計・購買・販売・生産等)への理解
  • チェンジマネジメント(組織変革管理)の実践経験

これらを実務レベルで兼ね備えた人材は、大手SIerや外資系コンサルティングファームで長年経験を積んだ層に限られます。採用市場では競合が多く、採用には長期間のリードタイムを要します。また、フリーランスとして活動する経験者はいますが、1名確保できても全工程をカバーできるとは限りません。

S/4HANAへの移行は2027年前後に各社が一斉に動く構造があり、今後は需要の集中による人材確保難が一層顕著になることが見込まれます。IT人材全体の需給ギャップが拡大傾向にある中(経済産業省「IT人材需給に関する調査」2019年*2)、専門性の高い移行コンサル人材の希少性はさらに高まっています。

PMO委託・準委任による外注補完の選び方

移行コンサル・移行PM人材を自社で採用することが難しい場合、外注による補完が現実的な手段になります。主な委託形態と選び方を整理します。

PMO委託(プロジェクト管理支援)

PMO委託(PMO(Project Management Office)委託、プロジェクト管理支援の外部委託)とは、プロジェクト管理機能そのものを外部パートナーに委ねる形態です。スケジュール管理・ステータス報告・課題管理・リスク管理といった管理作業を外部で担い、顧客側のPMはより意思決定・業務部門連携に集中できます。

PMO委託は、自社にプロジェクト管理経験者が少ない場合や、移行プロジェクトの規模が大きく管理作業が膨大になる場合に有効です。ただし、意思決定の権限は顧客側が保持することが前提であり、PMO委託を入れれば管理を任せられるという理解では機能しません。

準委任契約による上流推進支援

準委任契約とは、業務の「結果」ではなく「作業の遂行」を対象とする業務委託の形態です(民法656条に基づく委任の類型)。請負と異なり成果物の引き渡し義務がなく、コンサルタントが顧客の一員として上流工程に参画する際に広く用いられます。

移行コンサルや移行PMを準委任で確保する場合、費用は稼働工数に対する月次精算となるのが一般的です。具体的な金額は市場相場・人材のシニオリティ・稼働比率によって異なるため、本文では定性的な整理にとどめます。

委託形態を選ぶ3つの観点

  • 役割の明確化:意思決定・業務側合意形成は顧客側が担う覚悟があるか。外部に丸投げでは移行は進まない
  • 期間設計:移行方式選定フェーズのみか、本番稼働まで通しで参画するかによって、必要な人材レベルとコストが変わる
  • 知識移転の設計:移行後の保守・バージョンアップを見据え、外部パートナーが持つ知識を自社へ移転する仕組みを契約段階から組み込む

外部パートナーの選定では、SAP S/4HANA移行の上流工程(特に方式選定・Fit-to-Standard推進)の実績を確認することが重要です。ABAP開発やBasis運用の実績だけでは、移行上流工程のニーズには対応できない場合があります。

まとめ:移行方式選定・Fit-to-Standard・PMO委託の3つの判断軸

本稿では、SAP S/4HANA移行プロジェクトにおける上流コンサル・PM・業務側人材の外注補完について整理しました。要点を3つに集約します。

第一に、ECC(EHP6〜8)のメインストリーム保守は2027年末に終了するという動かしがたい期限があります。*1 延長保守は2030年末まで選択可能ですが、追加費用を踏まえると移行計画の早期策定が事業継続上の現実的な対応です。

第二に、Greenfield・Brownfield・Selective Data Transitionの方式選定とFit-to-Standard推進は、ABAP開発やBasis運用とは異なる上流専門性が必要な領域です。この工程を誤ると後工程で多大なリカバリーコストが発生するため、経験のある外部コンサルを上流から参画させることが、リスク低減の実際的な手段です。

第三に、PMO委託・準委任による外注補完を活用する際は、役割の明確化・期間設計・知識移転の3点を契約段階から設計することが、委託の成果を左右します。外部パートナーへの依存が深まりすぎると、移行後の保守フェーズで再び人材確保の課題に直面するため、段階的な内製化移転を見据えた計画が大切です。

よくある質問

SAP ECCからS/4HANAへの移行方式はどう選べばよいですか?

移行方式の選定は、Greenfield(ゼロからの新規実装)・Brownfield(既存環境のシステムコンバージョン)・Selective Data Transition(選択的移行のハイブリッド)の3種類から、業務変革の意欲・既存カスタマイズ量・移行予算・スケジュールを総合的に判断して決めます。*3 どの方式が適切かは企業ごとに異なるため、SAP S/4HANA移行の上流工程に経験を持つコンサルタントと早期に協議することが、リスク低減につながります。

Fit-to-Standardとはどのような考え方ですか?

Fit-to-Standardとは、SAP S/4HANAが提供する標準の業務プロセスに自社業務をできる限り合わせていく設計思想です。従来のFit-to-Gap(アドオン開発でシステムを自社業務に合わせる)から方針を転換することで、アドオン数を削減し、将来のバージョンアップ対応コストを抑える効果が期待されます。推進には業務部門との丁寧な合意形成が必要であり、業務プロセス再設計の実務経験を持つ業務コンサルの関与が重要な役割を果たします。

移行コンサルとABAP開発者・Basis担当の役割はどう違いますか?

移行コンサルは、移行方式の選定・Fit-to-Standard推進・データ移行計画・PMO運営といった上流工程と横断管理を担います。ABAP開発者はカスタマイズコーディング・Fiori開発・クリーンコア設計といったアプリケーション層の開発実装を担当する役割です。Basis担当はシステムインフラ・バージョン管理・稼働監視といった基盤運用を担います。3者の役割は補完関係にあり、いずれか一方がいれば他を代替できるものではありません。移行プロジェクトの成否は、この3つの専門性を適切にアサインできるかどうかに大きく依存します。

PMO委託と準委任はどのように使い分けるとよいですか?

PMO委託はプロジェクト管理機能(スケジュール・課題・リスク管理)を外部に担わせる形態であり、管理作業の負担を軽減する目的に向いています。準委任は業務遂行そのものを対象とする契約形態で、移行コンサルや移行PMがプロジェクトの一員として上流工程に参画する際に広く活用されます。両者を組み合わせる場合は、意思決定・業務側合意形成の責任を顧客側に明確に留保したうえで、外部が担う役割・権限範囲を契約に明記することが重要です。

S/4HANA移行プロジェクトの期間はどの程度を見込めばよいですか?

移行プロジェクトの期間は、移行方式・企業規模・既存カスタマイズ量・データ量・社内リソースの状況によって大きく異なるため、一律の目安を示すことは適切ではありません。一般的に、準備フェーズ(方式選定・現状調査)から本番稼働まで、規模の大きなプロジェクトでは複数年にわたる工期が見込まれる場合があります。ECC(EHP6〜8)のメインストリーム保守終了が2027年12月末である点を踏まえると*1、早期に方式選定を行い逆算したスケジュールを立てることが、現実的な対応です。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑

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  1. *1 出典:SAP「Maintenance Timelines for SAP ERP 6.0」(SAP Community, 2023年)
  2. *2 出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年公表)
  3. *3 出典:SAP Community「The S/4HANA Deployment Dictionary: Your Back Pocket Guide to Everything」(SAP Community)


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