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2026.07.02 らしくコラム

DXが成果につながらない原因とKPI設計

LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託

DXの効果測定・KPIダッシュボードのイメージ

この記事のポイント

  • DXが成果につながらない背景には、目的化・KPI未設定・単発PoC止まりという共通の要因があります。
  • 効果測定はアウトプットとアウトカム、財務と非財務、先行指標と遅行指標を分けて設計することが土台になります。
  • 経営目標からKPIツリーに落とし込み、公的フレームも活用しながら測定・レビューを定着させることが、DX投資の成果を可視化する実務上の道筋です。

目的化・KPI未設定・PoC止まり — DXが成果につながらない要因

データ分析と指標設計のイメージ

DX効果測定とは、DX(デジタルトランスフォーメーション)への投資が経営目標に対してどの程度の成果を生んでいるかを、指標を用いて継続的に把握する取り組みを指します。単発のツール導入評価ではなく、経営判断に使える形で効果を可視化する仕組みである点が特徴です。

図
DX効果測定のKPI設計プロセス(経営目標の確認からレビュー・改善までの5段階)

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2025年6月に公表した「DX動向2025」では、DXの成果が「出ている」と回答した日本企業は約6割弱にとどまり、米国・ドイツの8割超と比べて低い水準にあります*1。加えて「わからない」という回答が日本では26.2%に上り、米国・ドイツの5〜6%を大きく上回っています*1。成果の有無を判断する指標や体制が整っていない企業が少なくないことがうかがえます。

DXが成果につながらない企業には、共通する要因が見られます。第一に、手段の目的化です。ツール導入や生成AI活用そのものが目的化し、解決すべき経営課題との結びつきが曖昧なまま進むケースがあります。IPA「DX白書2023」では、全社戦略に基づいてDXに取り組んでいる企業の割合が米国68.1%に対し日本は54.2%にとどまり、部門単位の取り組みに偏りやすい実態が示されています*2

第二に、KPIが未設定のまま着手する問題です。何を測るかを決めずにプロジェクトを開始すると、投資額に対する効果を後から説明できません。経営会議で「結局何が変わったのか」を問われても数値で答えられず、次年度予算の合意形成が難航する事態につながります。

第三に、現場任せの評価です。KPIの設計と運用を現場部門に委ね、経営層がレビューに関与しないと、現場に都合の良い指標だけが残り、経営判断に資する形での可視化が進みません。第四に、単発のPoC(概念実証)で終わる問題です。効果測定の仕組みがないままPoCを繰り返すと、個々の検証結果が積み上がらず、全社的な投資判断の材料になりません。

アウトプットとアウトカム — 効果測定の2つの軸

効果測定の設計でまず整理すべきは、アウトプット指標とアウトカム指標の違いです。アウトプット指標は「システムを導入した」「研修を実施した」といった活動量を示す指標であり、アウトカム指標は「業務時間が削減された」「顧客満足度が向上した」といった成果そのものを示す指標です。アウトプットだけを追うと、活動はしているが成果が出ていない状態を見逃します。

2つ目の軸は、財務指標と非財務指標です。財務指標はコスト削減額・売上増加額など金額で表せる成果を指します。非財務指標は従業員満足度・業務品質・顧客体験など、金額に換算しにくいが経営に影響する成果を指すものです。DXの初期段階では非財務指標の変化が先に現れることが多く、財務効果だけで評価すると成果を過小評価する恐れがあります。

3つ目の軸は、先行指標と遅行指標です。先行指標は施策の途中経過を示す指標で、システム利用率や研修受講率などが該当するでしょう。遅行指標は最終的な成果を示す指標で、コスト削減率や売上への寄与などが該当します。遅行指標だけを待っていると、問題の発見が遅れるため注意が必要です。先行指標を併用することで、施策の軌道修正を早い段階で判断できるようになります。

これら3つの軸を組み合わせると、KPIの抜け漏れを防げます。例えば「システム利用率(先行・アウトプット・非財務)」「業務時間削減率(遅行・アウトカム・非財務)」「人件費削減額(遅行・アウトカム・財務)」のように、性質の異なる指標を意図的に配置することが、効果測定の設計における実務上の基本です。

経営目標からKPIツリーへ — KPI設計の手順

KPI設計は、経営目標を起点に段階を追って具体化する手順で進めます。ここでは実務上の流れを4つの段階に分けて整理します。

最初の段階は、経営目標とDX戦略の確認です。売上拡大・コスト構造の改善・新規事業創出など、経営が掲げる目標のどれにDXが貢献するのかを言語化します。経済産業省のデジタルガバナンス・コード3.0は、経営ビジョンとDX戦略を連動させることをDX経営に求められる視点の一つに位置づけています*3。この連動が曖昧なままだと、後続のKPI設計も的を絞れません。

次の段階は、DXのゴールをKGI(重要目標達成指標)として定めることです。KGIは経営目標を測定可能な形に翻訳したもので、「3年後に特定業務の処理時間を一定割合削減する」のように、期限と方向性を伴う形で設定します。KGIが曖昧なままKPIだけを積み上げると、個々の指標が改善しても経営目標への貢献度が見えなくなります。

三段階目は、KGIをKPIツリーに分解することです。KGIを達成するために必要な中間指標を洗い出し、階層構造で整理する必要があります。例えば「業務処理時間の削減」というKGIであれば、その下に「対象業務のデジタル化率」「システム利用率」「一件あたりの処理時間」といったKPIを配置し、さらにその下に日次・週次で追える業務指標を置く形です。ツリー化することで、どのKPIが未達のときにKGIのどこに影響するかを追跡できます。

四段階目は、測定方法と頻度の確定です。各KPIについて、データの取得元・算出方法・測定頻度・責任者を決めます。この段階を曖昧にしたまま運用を始めると、後になって「誰がどこから数値を取るのか分からない」という状態に陥り、KPIが形骸化します。測定を内製するか外部の分析基盤を活用するかも、この段階で判断する事項です。

IPA「DX推進指標」とデジタルガバナンス・コードの活用

自社独自にKPIを一から設計する前に、公的機関が提供するフレームを活用すると、指標の抜け漏れを防ぎやすくなります。代表的なものがIPAの「DX推進指標」です。

DX推進指標は、経営者や社内の関係者がDX推進に向けた現状や課題への認識を共有し、アクションにつなげる気付きの機会を提供するツールです*4。構成は大きく2つのカテゴリに分かれます。一つは「DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標」で、定性指標の「DX推進の枠組み」と定量指標の「DX推進の取組状況」から成ります*4。もう一つは「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築に関する指標」で、同様に定性指標の「ITシステム構築の枠組み」と定量指標の「ITシステム構築の取組状況」から成ります*4

定性指標は経営者が自社のDXへの取り組みを段階(成熟度)で自己評価する指標であり、定量指標は具体的な行動や進捗を数値で把握する指標です。両者を併用することで、「どのレベルまで進んでいるか」という定性的な認識と、「実際に何件・何パーセント進んだか」という定量的な事実の両面から現状を把握できます。この2軸の考え方は、自社のKPIツリーを設計する際の参照枠としても活用できます。

DX推進指標は、経済産業省が2024年9月に改訂した「デジタルガバナンス・コード3.0」に基づき、2026年2月に設問構成と成熟度レベルの体系が見直されました*5。デジタルガバナンス・コード3.0では、DX経営に求められる視点として「経営ビジョンとDX戦略の連動」「As is-To beギャップの定量把握・見直し」「企業文化への定着」の3点が示されています*3。「As is-To beギャップの定量把握」という考え方は、現状(As is)とあるべき姿(To be)の差を数値で捉えるという点で、本稿のKPI設計の考え方と重なります。自社のKPI設計がこれらの視点を満たしているかを、公的フレームと照らし合わせて確認することが、設計の妥当性を高める一つの方法になります。

可視化・レビュー・改善 — KPIを定着させる運用

経営レビュー・振り返りのイメージ

KPIを設計しただけでは効果測定は機能しません。定着させるには、可視化・レビュー・改善のサイクルを運用に組み込む必要があります。

可視化の段階では、KPIツリーの各指標を経営層・現場双方が確認できるダッシュボードやレポートの形に整えることが大切です。数値が更新されるたびに手作業で集計していると、担当者の負荷が積み上がり、更新が滞る原因になりかねません。データの取得から可視化までを自動化する仕組みを検討する価値があります。

レビューの段階では、定例の会議体を設けてKPIの推移を確認します。月次や四半期など、KPIの性質に応じた頻度を決め、経営層が参加する場で「なぜ未達なのか」「次にどの施策を打つか」を議論する場にすることが重要です。レビューの場が形骸化すると、KPIは記録されるだけの数値になり、経営判断に活かされません。

改善の段階では、レビューで見えた課題をもとにKPIそのものや施策を見直します。設定した当初のKPIが実態に合わなくなった場合は、KPIツリーの構造を修正することも必要です。KPIを一度決めたら固定するのではなく、事業環境や戦略の変化に応じて定期的に見直す前提で運用することが、効果測定を継続させる実務上のポイントです。

このサイクルを回すには、データ基盤の整備・分析ツールの選定・レポート作成といった一定の専門知識と工数が必要になります。全社の複数部門からデータを集約し、経営層向けに分かりやすく加工する作業は、担当者1名の片手間では継続が難しく、データ分析・可視化の知識を持つ人材の確保が課題になりやすい領域です。

測定基盤の構築を外部委託で補う選択肢

効果測定の仕組みを社内だけで構築・運用しようとすると、データ基盤の設計・ダッシュボード開発・分析人材の確保という3つの壁に直面します。ここでは、それぞれの壁と外部委託で補える範囲を整理します。

第一の壁は、データが部門ごとに分散していることです。売上データは基幹システム、業務時間データは勤怠システム、顧客満足度データは別のアンケートツールというように、指標ごとにデータの所在が異なると、KPIツリーの集計だけで多くの工数を要します。データを一元的に扱う基盤(データ基盤)の構築には、既存システムとの連携設計やデータ整備の知識が必要です。

第二の壁は、ダッシュボードの開発・保守です。経営層が見やすい形での可視化には、可視化ツールの選定・画面設計・継続的な保守が伴います。担当者の異動で更新が止まると、レビューの場に古い数値が並ぶことになり、経営判断を誤らせるリスクが生じます。

第三の壁は、分析を担う人材の不足です。KPIの数値を経営判断に使える形で解釈し、次の施策を提案するには、データ分析の知識と対象業務への理解の両方が求められます。社内で完結できない場合、データ基盤の構築や分析業務の一部を外部パートナーに委託し、自社は経営判断とレビューに専念するという役割分担が現実的な選択肢になります。

外部委託を検討する際は、測定の仕組みを構築した後の運用を誰が担うかを事前に決めておくことが重要です。構築だけを外部に依頼し、運用や改善を自社に引き継ぐ計画がないまま契約が終了すると、仕組みが使われなくなる恐れがあります。

LASSICに相談するメリット

LASSICは元請(プライムベンダー)として、システム保守・運用の受託を通じて既存システムやデータの所在を把握したうえでの提案を行う体制を整えています。KPIツリーの設計から測定基盤の構築、ダッシュボード開発まで、経営層のレビューに使える形での可視化を支援できることが特徴です。

まとめ:測れないDXを終わらせる3つの判断軸

本稿では、DXが成果につながらない原因と、経営視点でのKPI設計の手順を整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、DXが成果につながらない背景には手段の目的化やKPI未設定があり、公的調査でも成果の有無を判断できていない企業の存在が示されています*1*2。第二に、アウトプットとアウトカム、財務と非財務、先行と遅行という3つの軸を組み合わせ、経営目標からKGI、KPIツリーへと段階的に落とし込むことが設計の基本です。第三に、IPAのDX推進指標のような公的フレームを参照しながら、可視化・レビュー・改善のサイクルを運用に組み込み、必要に応じて測定基盤の構築を外部委託で補うことが、測れないDXを終わらせるための実務上の判断軸になります。

よくある質問

DXのKPIは何個くらい設定すればよいですか。

数を先に決めるのではなく、KGIから分解したKPIツリーの階層数で決まります。経営層が定例レビューで確認する上位KPIは3〜5個程度に絞り、その下に現場が日常的に追う業務指標を配置する二層構造にすると、レビューの場が煩雑になりません。

財務効果が出るまでの間、何を指標にすればよいですか。

財務指標が現れる前の段階では、システム利用率や業務時間削減率といった非財務・先行指標を用います。DXの初期段階は非財務指標の変化が先に現れることが多く、先行指標を追うことで施策の軌道修正を早い段階で判断できます。

IPAのDX推進指標は自社でも使えますか。

IPAのDX推進指標は自己診断フォーマットとして公開されており、企業が自社で回答する形で活用できます*4。経営のあり方・仕組みとITシステム基盤の2つの観点から定性・定量の両面で現状を把握できるため、自社KPIツリーの設計前の現状確認に活用できます。

KPIのレビュー頻度はどのくらいが適切ですか。

KPIの性質によって使い分けます。システム利用率のような先行指標は月次、コスト削減額や売上への寄与のような遅行指標は四半期といったように、変化の速さに応じた頻度を設定してください。頻度を一律にすると、変化の遅い指標のレビューが形骸化しやすくなります。

データ基盤の構築を外部に依頼すると社内にノウハウが残りませんか。

構築を外部に依頼する場合でも、データの取得方法や算出ロジックのドキュメント化を契約条件に含めておけば、運用段階で自社に知識を残せます。構築のみで契約を終わらせず、運用フェーズの引き継ぎ計画をあらかじめ決めておくことが重要です。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑


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  1. *1 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2025 日米独比較で探る成果創出の方向性『内向き・部分最適』から『外向き・全体最適』へ」(2025年)https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2025.html
  2. *2 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2023」(2023年)https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108041.pdf
  3. *3 出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」(2024年)https://www.meti.go.jp/press/2024/09/20240919001/20240919001.html
  4. *4 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX推進指標のご案内」https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/about.html
  5. *5 出典:経済産業省「『DX推進指標』を改訂しました」(2026年2月)https://www.meti.go.jp/press/2025/02/20260213001/20260213001.html


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