LASSIC Media らしくメディア
システム運用委託の評価基準とKPIで委託先管理
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- 運用委託の評価基準は、可用性・インシデント対応・SLA遵守率・変更成功率・対応時間・報告品質の6つの指標軸で体系化すると整理しやすくなります。
- SLA/SLOは契約上の目標値であり、評価基準はその目標値を運用の中で実際に機能させるための仕組みという位置づけです*2。
- 評価を形骸化させないためには、レビュー頻度の設計と、定量KPIだけに寄らない定性評価の組み合わせが実務上の工夫になります*3。
目次
システム運用委託の評価基準とは——KPIで運用品質を可視化する仕組み
システム運用委託の評価基準とは、委託先の運用パフォーマンスを主観的な印象ではなく、定量的なKPI(重要業績評価指標)と定性的な観点を組み合わせて判断するための枠組みを指します。委託契約を結んだあとの運用フェーズでは、稼働率やインシデント対応の速さといった数値だけでなく、報告の質や改善提案の姿勢まで含めて継続的に確認する必要があります。
JIS Q 20000-1は、サービスレベル管理・インシデント管理・変更管理などのプロセスを含むサービスマネジメントシステムの要求事項を定めた規格です*5。評価基準は、この規格が想定するような複数のプロセスの実行状況を、発注側が継続的に確認できる形に落とし込んだものといえます。
なお、SLA(サービスレベル合意)そのものの契約条項の設計は別のテーマとして扱われることが多く、本稿では契約後の運用フェーズで評価基準とKPIをどう機能させるか、委託先マネジメントの実務に絞って整理します。
評価基準の全体像——定量KPIと定性評価を組み合わせる考え方
評価基準を設計する際は、まず定量KPIだけに依存しない姿勢が出発点になります。サービスデスクのKPIを解説したITトレンドの記事では、放棄呼率のようなサービスレベル測定に使われる値でも、KPIとしてはふさわしくないと指摘される場合があると述べられています*4。指標の選び方を誤ると、委託先が数値だけを追いかけ、実質的な運用品質の改善につながらないおそれがあります。
このため、評価基準は大きく二つの要素で構成すると整理しやすくなります。一つは可用性・インシデント対応・SLA遵守率などの定量KPIです。もう一つは、報告の分かりやすさや改善提案の積極性、エスカレーション時の対応品質といった定性評価です。定量KPIは達成・未達を機械的に判定できる一方、定性評価は運用責任者による評点やヒアリングを通じて確認します。両者を組み合わせることで、数値上は基準を満たしていても実態として不安が残るような状況を見つけやすくなります。
評価基準を決める順序としては、まず発注側の事業目標や運用方針を確認し、そこから重要な観点(何を守れないと困るか)を洗い出し、最後にそれを測定可能なKPIへ変換する進め方が実務では取られます。最初から細かい数値目標を並べるのではなく、何を評価したいのかという目的を先に固めることが土台になります。
運用委託で設定すべきKPIの体系——6つの指標軸
システム運用委託で扱うKPIは多岐にわたりますが、次の6つの指標軸に整理すると全体像を把握しやすくなります。
| 指標軸 | 代表的なKPI | 何を測るか |
|---|---|---|
| 可用性・稼働率 | 稼働率、計画外停止時間 | サービスを利用可能な状態に保てているかどうか*1 |
| インシデント対応 | MTTR(平均復旧時間)、一次解決率 | 障害発生から復旧までの速さ、初回対応で解決できた割合 |
| SLA遵守率 | SLA項目ごとの達成率 | 契約で定めた目標値をどれだけ満たしているか*2 |
| 変更成功率 | 変更成功率、緊急変更の件数 | 変更作業が新たなインシデントを起こさずに完了した割合 |
| 対応時間 | 初回応答時間、エスカレーション対応時間 | 問い合わせや障害報告に対する反応の速さ*4 |
| 報告品質 | レポート提出期限順守率、定性評価スコア | 報告の正確さ、分かりやすさ、改善提案の有無 |
可用性・稼働率は、IPAの非機能要求グレードでも可用性の要求として整理されている観点で、稼働率や目標復旧時間などの指標を用いる考え方が示されています*1。委託契約でどこまでの稼働率を求めるかは、システムの重要度によって変わってくるため、一律の数値を当てはめるのではなく対象システムごとに検討する進め方が実務的です。
インシデント対応のMTTRと一次解決率は、監視・保守を委託している場合に特に注目されやすい指標です。MTTRが短くても一次解決率が低いままだと、同じ問い合わせが繰り返し発生している可能性があり、片方の指標だけでは実態を捉えにくいという特徴があります。両方をあわせて確認する運用が望ましいでしょう。
変更成功率は、保守や構築を含めて委託している場合に重視される指標です。緊急変更の件数が多い場合は、計画段階での確認が不足している可能性を示すサインになり得ます。件数の増減だけでなく、なぜ緊急対応が必要になったのかという背景まで確認すると、委託先の運用プロセスの成熟度を判断しやすくなります。
SLA・SLOと評価基準の関係——契約の目標値を運用に落とし込む
SLA・SLOと評価基準は近い概念ですが、役割は異なります。Google のSREに関する解説では、SLI(サービスレベル指標)は提供するサービスの水準を定量的に測る指標、SLO(サービスレベル目標)はそのSLIに対する目標値、SLAはSLOを満たせなかった場合の結果を含む契約と整理されています*2。SLOとSLAを見分ける簡単な方法として、「目標を満たせなかったときに明示的な結果があるかどうか」を確認する考え方も示されています*2。
この整理を運用委託に当てはめると、SLAは契約書に明記された目標値と、それを満たせなかった場合の取り扱い(報告義務や是正対応など)を定めるものです。一方で評価基準は、SLAで定めた目標値を含めて、日々の運用実績をどのように可視化し、レビューし、改善につなげるかという運用側の仕組みに当たります。SLAが守られているかどうかを判定するだけでなく、なぜ守られたのか、あるいは守られなかったのかを掘り下げて次の改善につなげる部分が、評価基準の実務上の価値になります。
委託先マネジメントの実務——定例・レポーティング・改善サイクル
評価基準を機能させるには、KPIを決めるだけでなく、それを運用する体制が必要です。IPAのSEC journalに掲載された論考では、システム運用の定量的な管理において、SLAやKPI、システム指標、プロセス指標を組み合わせて用いる考え方が示されています*6。単一の指標に頼らず、複数の指標を組み合わせて運用状況を把握する姿勢は、委託先マネジメントの実務にも通じます。
具体的な運用サイクルとしては、月次または週次の定例会でKPIレポートを共有し、未達項目があれば原因分析と対応計画を確認する流れが基本になります。レポートには、稼働率やMTTRといった数値だけでなく、発生したインシデントの傾向や、次月に向けた改善アクションも含めると、単なる数値報告ではなく改善サイクルとして機能しやすくなります。
エスカレーションの設計も委託先マネジメントの重要な要素です。一次対応で解決しない場合に誰へ、どの時間内に引き上げるかをあらかじめ定めておくことで、対応の遅延を防ぎやすくなります。加えて、委託先の担当者が変わった場合や、将来的に委託先を切り替える場合を見据えて、運用手順書やナレッジの文書化を委託先に求めておくことも、継続性を保つうえで有効な取り組みです。
評価が形骸化しないための工夫——レビュー頻度と指標の使い方
KPIを設定しても、レビューの頻度や使い方が定まっていないと、評価は次第に形骸化しやすくなります。GoogleのSREワークブックでは、SLOの運用を始めた当初は月次など頻度の高いレビューを行い、その適切さが確立されてきたら四半期ごとなど頻度を下げていく進め方が示されています*3。運用委託のKPIレビューにも同様の考え方を適用でき、導入初期は密に確認し、安定してきた段階で頻度を調整するという運用が考えられます。
また、同じ資料では、目標に対する余裕(エラーバジェットの考え方)を、複数の改善プロジェクトのうちどれを優先するかを判断する材料として使う例が紹介されています*3。運用委託の評価でも、KPIの未達をそのまま罰則の材料として扱うだけでなく、どの改善に優先して取り組むべきかを判断するための材料として使う視点を持つと、評価が対立的になりすぎず、双方にとって建設的な運用につながりやすくなります。
指標の選び方にも注意が要ります。前述の通り、放棄呼率のように単体ではKPIとして適切とはいえない指標も存在します*4。一つの数値だけを重視すると、委託先がその数値を高めるために別の観点を犠牲にする状況が生まれかねません。複数の指標を組み合わせ、定性評価も加えることで、こうした偏りを抑えやすくなります。
委託範囲別の評価観点——監視・一次対応・構築で着眼点は変わる
運用委託の範囲は、監視のみ、一次対応(サービスデスク)を含む、構築・保守まで含むといった段階で異なり、それぞれで重視すべき評価観点も変わります。
監視業務のみを委託している場合は、アラートの検知精度や見逃しの有無が中心的な評価観点になります。異常を検知してから発注側や次のエスカレーション先へ連絡するまでの時間も、あわせて確認したい指標です。
サービスデスクなど一次対応を含む場合は、応答率や一次解決率が重視されます*4。エスカレーションが必要な事象を適切に見極め、時間内に引き上げられているかどうかも、一次対応の質を判断する材料になります。
構築・保守まで委託範囲に含む場合は、変更成功率やリリース後の不具合件数、ドキュメントの整備状況が評価の中心に加わります。運用と構築の両方を同じ委託先が担っている場合は、変更が運用面に与える影響まで一体的に評価する視点も欠かせません。委託範囲が広いほど、単一のKPIセットでは評価しきれない領域が出てくるため、範囲に応じて指標を組み替える柔軟さが求められるでしょう。
まとめ:システム運用委託の評価を機能させる3つの視点
本稿ではシステム運用委託の評価基準とKPI設計、委託先マネジメントの実務を整理しました。要点は次の3点です。第一に、評価基準は可用性・インシデント対応・SLA遵守率・変更成功率・対応時間・報告品質の6つの指標軸で体系化すると、委託範囲を問わず全体像を把握しやすくなります。第二に、SLA・SLOは契約上の目標値であり、評価基準はその目標値を実際の運用の中で機能させるための仕組みという役割の違いがあります*2。第三に、レビュー頻度の設計や定性評価との組み合わせを工夫しないと、評価は形骸化しやすく、指標の選び方そのものにも注意が必要です*3*4。
よくある質問
システム運用委託の評価基準は、何から決めればよいですか。
まず発注側の事業目標や運用方針から、守れないと困る観点(可用性、インシデント対応の速さなど)を洗い出し、そのうえで測定可能なKPIへ落とし込む進め方が実務的です。最初から細かい数値目標を並べるのではなく、評価したい目的を先に固めることが土台になります。
KPIはいくつ設定するのが適切ですか。
件数の一般的な目安を断定することは難しいものの、可用性・インシデント対応・SLA遵守率・変更成功率・対応時間・報告品質という6つの指標軸を意識し、委託範囲に応じて必要な指標を絞り込む考え方が整理しやすい方法です。指標が多すぎると運用側・委託先双方の確認負荷が高くなる点にも注意が要ります。
SLAとKPIの違いは何ですか。
SLI(サービスレベル指標)は測る対象、SLO(サービスレベル目標)はその目標値、SLAはSLOを満たせなかった場合の結果を含む契約と整理されています*2。KPIは運用委託の評価基準として設定する業績指標全般を指す、より広い言葉として使われる場合が多くあります。
評価が形骸化しないためにはどうすればよいですか。
レビューの頻度を運用の成熟度に応じて調整し、KPIの未達を罰則の材料としてだけでなく、どの改善を優先すべきかの判断材料として使う視点が参考になります*3。定量KPIに加えて、報告の質や改善提案の姿勢といった定性評価も組み合わせることが工夫の一つです。
委託先の評価基準づくりを外部に相談する場合、何を確認すればよいですか。
現在の委託範囲(監視・一次対応・構築・保守のどこまでか)と、既存のSLAやKPIの運用状況をまず整理したうえで相談すると、指標の組み立てがスムーズになります。定例レポーティングの仕組みやエスカレーション体制まで一括して相談できるかどうかも、確認しておきたい点です。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「システム構築の上流工程強化(非機能要求グレード)」(https://www.ipa.go.jp/archive/digital/iot-en-ci/jyouryuu/hikinou/ent03-b.html)
- *2 出典:Google「The Site Reliability Workbook / SRE Book:Service Level Objectives」(https://sre.google/sre-book/service-level-objectives/)
- *3 出典:Google「The Site Reliability Workbook:Implementing SLOs」(https://sre.google/workbook/implementing-slos/)
- *4 出典:ITトレンド「サービスデスクに最適なKPIとは?業務改善の具体例と活用のコツ!」(https://it-trend.jp/service_desk/article/150-0006)
- *5 出典:一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)「ITSMSユーザーズガイド~JIS Q 20000-1:2020(ISO/IEC 20000-1:2018)対応~」(2020年8月)(https://www.jipdec.or.jp/archives/publications/JIP-ITSMS111-30.pdf)
- *6 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)SEC journal 第11巻第1号「システム運用時の定量的管理方法」(2015年7月)(https://www.ipa.go.jp/archive/files/000063736.pdf)