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SES多重下請けの商流と単価|直請けとの比較とリスク
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- SESの多重下請けは商流が深くなるほど中間マージンが重なり、末端エンジニアに届く単価が下がりやすい構造を持ちます。
- 商流が深いほど責任の所在が曖昧になりやすく、偽装請負・二重派遣といったコンプライアンス上の懸念も高まります。
- 直請け(プライム)は契約・指揮命令・責任の経路が明確であり、発注者が商流の深さを見極める観点を持つことがリスク管理につながります。
目次
SESの多重下請けとは——商流(元請→1次→2次…)の構造
SES(システムエンジニアリングサービス。技術者の労働力を準委任契約で提供する契約形態)の多重下請けとは、発注者から仕事を受けた元請企業が業務の一部を別の企業へ再委託する商流構造を指します。再委託先の企業がさらに別の企業へ委託することも多く、全体として多段階の商流になりやすいのが特徴です。公正取引委員会は、こうした多重下請構造がソフトウェア業で広く見られる取引形態であると位置づけています*3。
役割分担や繁忙期の体制補強として再委託が機能する場面もあります。一方で商流が深くなると、単価・責任・コンプライアンスの面で発注者と受託者の双方に見えにくい論点が生じるでしょう。本稿では多重下請けと直請け(プライム)を客観的に比較し、発注者が商流を見極める観点を整理します。
中間マージンが重なる仕組みと単価への影響
多重下請けで生じる代表的な論点が、中間マージンの累積です。各段階の企業は再委託先へ支払う金額に自社の管理費・利益を上乗せします。この上乗せ分が中間マージンであり、商流が1段階増えるごとに重なっていきます。
発注者が支払う金額を起点にすると、元請・2次・3次がそれぞれ管理費・利益分の取り分を確保したうえで、残りが末端のエンジニアに渡る流れになります。商流が深いほど、発注者の支払額と末端エンジニアが受け取る金額の差は広がりやすくなるといえるでしょう。
マージン率の具体的な数値は契約条件・企業・案件によって幅があり、業界全体で確立した公開統計があるわけではありません。本稿では特定の率を断定せず、段階が増えるほど末端への配分が薄くなりやすいという関係を示すにとどめます。公正取引委員会も、多重下請構造のサプライチェーンでは買いたたきや支払遅延といった問題が連鎖しやすい点を指摘しています*3。実際の率は契約書・見積りの内訳で個別に確認することが現実的な対応となります。
単価への影響は二方向に現れます。発注者から見れば、支払額に対して実際に手を動かす人材の単価が見えにくくなります。エンジニア側から見れば、同じ業務でも商流が深いほど受け取る金額が下がりやすく、定着やモチベーションに影響することもあるでしょう。
単価低下・責任曖昧化・偽装請負——深い商流の3リスク
商流の深さは単価だけでなく、品質・責任・コンプライアンスにも関わります。発注者が把握しておきたい3つの論点を整理します。
リスク①:単価低下によるスキル・定着への影響
中間マージンが累積して末端単価が下がると、相応のスキルを持つ人材を確保・維持しにくくなる場面があります。発注者の支払額が高くても、実際の作業者に十分な対価が届かなければ、体制の安定性に影響が及ぶこともあります。
リスク②:責任の所在が曖昧になりやすい
契約が多段階に分かれると、不具合・遅延・情報漏えいが発生したときの責任の所在を特定しにくくなります。発注者は直接契約している元請としか責任関係を持たないため、末端で問題が起きた場合の原因究明や是正が間接的になりがちです。誰が何に責任を負うのかが見えにくい体制は、トラブル対応の長期化につながりかねません。
リスク③:偽装請負・二重派遣などコンプライアンス上の懸念
商流が深い再委託では、契約形態と現場の実態が乖離しやすくなります。準委任・請負の形式でありながら、発注者が末端エンジニアへ直接指揮命令を行えば偽装請負に該当する懸念があるでしょう。派遣で受け入れた労働者をさらに別企業へ派遣すれば、二重派遣に該当する懸念も生じます。いずれも法令上の問題であり、次章で位置づけを整理します。
偽装請負・二重派遣はなぜ問題か——法令上の位置づけ
多重下請けに付随しやすい法的論点が、偽装請負と二重派遣です。いずれも公的な基準・法令に照らして問題とされる行為であり、脱法的な運用を助長しないためにも発注者が正確に理解しておく必要があります。
偽装請負:契約名称ではなく実態で判断される
偽装請負とは、契約書に「請負」「業務委託(準委任)」と記載されていても、現場の実態が労働者派遣に該当する状態を指します。厚生労働省は昭和61年労働省告示第37号「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」を定めています*1。この告示に基づく判断は契約名称ではなく、受託者が自社の労働者に対する指揮命令・労務管理・事業の独立性を自ら担っているかという実態でなされます。発注者が末端エンジニアへ直接タスクを指示する運用は、商流が深いほど管理責任者を経由せず発生しやすくなるため注意が必要です。
二重派遣:職業安定法が禁じる労働者供給に該当し得る
二重派遣とは、派遣会社から受け入れた派遣労働者を、受入先がさらに別の会社へ派遣して指揮命令させる行為です。職業安定法第44条は、労働者供給事業を営むことを原則として禁じています*2。同条は、その事業から供給される労働者を自らの指揮命令下で労働させることも合わせて禁じています。派遣で受け入れた労働者を受入先がさらに別の事業主の指揮命令下に置くいわゆる二重派遣は、この労働者供給に該当すると解されています。多重下請けの商流に派遣契約が混在すると、意図せず二重派遣の構造に陥る懸念があるため、契約形態の整理が欠かせないでしょう。
これらの違反が認定された場合、発注者・受託者の双方が当事者となり得ます。商流を浅く保ち、契約形態と指揮命令の経路を明確にすることが、コンプライアンス上の出発点となるはずです。
直請け(プライム)の特徴と発注側のメリット
直請け(元請・プライムベンダー)とは、発注者と直接契約を結び、自社の責任で開発・運用を担う立場です。多重下請けと対比したとき、発注者から見た特徴は次のように整理できます。
契約・指揮命令・責任の経路が明確
発注者は1社のプライムと契約し、要件・指示・成果のやり取りをその1社に集約します。再委託が一定範囲で行われる場合でも、発注者に対する責任はプライムが負うため、トラブル時の窓口と責任の所在が明確になります。
中間マージンの段階が少ない
商流が浅いほど中間マージンの累積段階が減り、発注者の支払額が実際の体制に充当されやすくなります。支払額の内訳を確認しやすい点も、発注者にとっての見通しの良さにつながるでしょう。
コンプライアンス管理の主体が明確
プライムが管理責任者の設置・指示ルートの整備・現場運用の管理を担うことで、偽装請負・二重派遣のリスクを管理しやすくなります。発注者が末端のエンジニアと直接やり取りする状況を避けられる点は、法的責任の所在を明確にするうえで有効です。
多重下請けと直請けの比較表
多重下請け(深い商流)と直請け(プライム)の主な違いを、発注者の視点で対比します。いずれの形態にも適した場面があり、案件の性質に応じた判断が前提となります。
| 観点 | 多重下請け(深い商流) | 直請け(プライム) |
|---|---|---|
| 契約の経路 | 元請→2次→3次…と多段階 | 発注者と1社が直接契約 |
| 中間マージン | 段階ごとに累積しやすい | 累積段階が少ない |
| 末端単価 | 商流が深いほど下がりやすい | 支払額が体制に充当されやすい |
| 責任の所在 | 曖昧になりやすい | プライムに明確 |
| コンプラ管理 | 偽装請負・二重派遣の懸念が増えやすい | 管理主体が明確で統制しやすい |
| 発注者の窓口 | 末端まで見えにくい | 1社に集約される |
多重下請けが一律に不適切というわけではなく、専門性の補完や繁忙期の体制増強として合理的に機能する場面もあります。重要なのは、発注者が商流の深さと契約形態を把握したうえで委託することです。
契約前に確認したい商流の5チェックポイント
発注前・契約前に商流の深さを見極めるための観点を整理します。いずれも見積り・契約・体制の確認段階で問い合わせが可能な事項です。
観点1:再委託の有無と段階数を確認する
提案された体制で再委託(下請け)が行われるか、行われる場合は何次までかを確認します。再委託の範囲・条件が契約書に明記されているかも合わせて確認します。
観点2:誰が指揮命令するかを確認する
現場での業務指示を誰が担うかを確認しておきたいところです。準委任・請負であれば指揮命令は受託者側の管理責任者が担うのが原則であり、発注者が末端エンジニアへ直接指示する前提になっていないかがポイントになります。
観点3:管理責任者の所在と権限を確認する
体制図上で管理責任者が明示され、業務指示・労務管理・交渉の権限を実質的に持っているかを確認するとよいでしょう。名目だけの責任者では、商流が深い場合に統制が効きにくくなりやすいものです。
観点4:契約形態と現場運用の整合を確認する
契約形態(準委任・請負・派遣)と実際の運用が一致しているかを確認します。派遣契約が混在する場合は、二重派遣に該当しない経路になっているかも点検します。
観点5:見積り内訳と責任範囲を確認する
見積りの内訳(人員・工数・管理費等)と、不具合・遅延時の責任範囲を確認します。契約書・見積り内訳の確認、指揮命令系統の点検、コンプライアンス体制の整備には、法務・契約管理・現場マネジメントにまたがる知見が求められます。商流が浅く責任の所在が明確な体制ほど、トラブル時の対応経路は見通しやすくなるでしょう。
まとめ——商流の深さを見極める3つの判断軸
本稿では、SESの多重下請け(深い商流)と直請け(プライム)を、中間マージン・単価・責任所在・コンプライアンスの観点から比較しました。要点は次の3つに集約できます。第一に、商流が深いほど中間マージンが累積し、末端単価が下がりやすいという構造です。マージン率に確立した公開統計はなく、実際の率は見積りの内訳で個別に確認する必要があります。第二に、商流の深さは責任の所在の曖昧化や、偽装請負・二重派遣の懸念につながりやすい点です。偽装請負は37号告示の実態基準で判断され*1、二重派遣は職業安定法第44条が禁じる労働者供給に該当し得ます*2。第三に、発注者が商流の深さと契約形態を契約前に確認することがリスク管理の出発点になります。再委託の段階数・指揮命令の主体・管理責任者の権限・契約と運用の整合・見積り内訳という5つの観点が、見極めの手がかりとなるでしょう。
よくある質問
SESの多重下請けは違法なのですか。
再委託(下請け)そのものが直ちに違法というわけではありません。問題となるのは、契約形態と現場の実態が乖離し、偽装請負や二重派遣に該当する場合です。偽装請負は契約名称ではなく指揮命令や事業の独立性の実態で判断され*1、二重派遣は職業安定法第44条が禁じる労働者供給に該当し得ます*2。商流が深いほどこれらの懸念が生じやすいため、契約形態と指揮命令の経路を整理することが大切です。
中間マージンはどのくらいの割合になりますか。
マージン率は契約条件・企業・案件によって幅があり、業界全体で確立した公開統計があるわけではありません。商流が1段階増えるごとに中間マージンが累積し、末端エンジニアへの配分が薄くなりやすいという構造があります*3。実際の率は見積りの内訳や契約書で個別に確認することが現実的です。
直請け(プライム)と多重下請けはどちらを選ぶべきですか。
案件の性質によります。専門性の補完や繁忙期の体制増強として再委託が合理的に機能する場面もあるでしょう。一方、責任の所在の明確さやコンプライアンス管理の見通しを重視する場合は、商流が浅い直請け(プライム)の体制が適することがあります。再委託の段階数・指揮命令の主体・責任範囲を確認したうえで判断することをおすすめします。
二重派遣とはどのような状態を指しますか。
派遣会社から受け入れた派遣労働者を、受入先がさらに別の会社へ派遣して指揮命令させる行為を指します。職業安定法第44条は、労働者供給事業とその供給労働者を自らの指揮命令下で労働させることを原則として禁じています*2。こうした二重派遣はこの労働者供給に該当すると解されています。多重下請けの商流で派遣契約が混在すると意図せず二重派遣の構造に陥る懸念があるため、契約形態の整理が必要です。
発注者が商流の深さを確認する方法はありますか。
見積り・契約・体制の確認段階で問い合わせることが可能です。再委託の有無と段階数、現場での指揮命令を誰が行うか、管理責任者の所在と権限、契約形態と運用の整合、見積り内訳と責任範囲の5点を確認するとよいでしょう。これらを押さえることで、商流の深さと統制のしやすさを見極める手がかりになります。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:厚生労働省「請負を適正に行うために」(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準・昭和61年労働省告示第37号)
- *2 出典:厚生労働省「職業安定法」(第44条 労働者供給事業の禁止)
- *3 出典:公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書について」(令和4年6月29日公表)