LASSIC Media らしくメディア
AML取引モニタリングシステムの要件|疑わしい取引の検知
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- 口座開設時のeKYCや取引先の反社チェックとは別に、口座開設後も送金・入出金の挙動を検知シナリオで継続的に監視し、疑わしい取引を検出する「取引モニタリング」の体制整備が、犯罪収益移転防止法と金融庁ガイドラインで求められています。
- 金融庁ガイドラインは、自らのリスク評価を反映したシナリオ・敷居値等の抽出基準を設定し、検知結果や届出状況を踏まえて継続的に見直す(チューニングする)ことを、対応が求められる事項として明記しています。
- システムを内製・外注のどちらで整備するかは、シナリオ設計に必要な金融ドメイン知識と、継続的な保守・チューニング体制をどう確保できるかで判断する必要があります。
目次
AML/CFT対策とは?取引モニタリングが求められる制度的背景
犯罪収益移転防止法と金融庁ガイドラインが求める体制整備
犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)は、銀行等の預金取扱金融機関のほか、資金移動業者・金融商品取引業者・暗号資産交換業者等を「特定事業者」と定め、顧客から収受した財産が犯罪による収益である疑いがある場合等に、遅滞なく行政庁へ届け出る義務を課しています(第8条)*1。金融庁が公表する「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」は、この届出義務を実効的に果たすための体制整備として、顧客管理(カスタマー・デュー・ディリジェンス:CDD)に加え、取引そのものに着目した「取引モニタリング・フィルタリング」の実施を、リスクベース・アプローチの一環として金融機関等に求めています*2。
eKYCや反社チェックとは異なる「継続的な取引モニタリング」の範囲
口座開設時に本人確認を行うeKYCや、取引先の反社会的勢力該当性を確認する反社チェックは、いずれも取引の「入口」で完結する仕組みです。これに対して本稿で扱う取引モニタリングは、口座開設後の送金・入出金の挙動を検知シナリオで継続的に監視し、疑わしい取引を検出してアラートを発報する仕組みであり、対象とする局面も担う機能も異なります。この違いを踏まえたうえで、以降は継続的な取引モニタリングに焦点を絞って解説を進めます。
取引モニタリングとフィルタリングの違い―何を継続的に監視するのか
金融庁ガイドラインは、リスク低減措置の実効性を確保する手段として、個々の顧客に着目する顧客管理のほかに、取引そのものに着目し、取引状況の分析や異常取引・制裁対象取引の検知等を通じてリスクを低減させる手法を挙げ、両者を組み合わせて実施することが有効だと整理しています*2。このうち異常取引を検知する取り組みが「取引モニタリング」、制裁リストとの照合により制裁対象取引を検知する取り組みが「取引フィルタリング」であり、両者は目的も検知対象も異なる別個の機能として位置づけられています*2。取引モニタリングは、疑わしい取引の届出につながる取引をリスクに応じて検知するための体制として、ガイドライン上「対応が求められる事項」に明記されている取り組みです*2。
検知シナリオの設計―敷居値・頻度・国/地域・顧客属性
シナリオ・敷居値の設定はリスク評価の反映が前提
金融庁ガイドラインは、取引モニタリングに関する対応が求められる事項として、自らのリスク評価を反映したシナリオ・敷居値等の抽出基準を設定すること、そして検知結果や疑わしい取引の届出状況等を踏まえて、届出をした取引の特徴(業種・地域等)や現行の抽出基準の有効性を分析し、シナリオ・敷居値等を継続的に見直すことを求めています*2。検知シナリオは一度設定して終わりではなく、自社のリスク評価の見直しに合わせて更新し続ける前提で設計する必要があるでしょう。
典型的な検知シナリオの切り口
検知シナリオの切り口としては、一定期間内の入出金金額や回数が閾値を超える取引、短期間で口座残高が急増・急減する取引、特定の国・地域との送金、休眠に近い口座での突発的な高額取引、顧客属性(業種・職業・想定取引規模)から乖離した取引態様などが挙げられます。金融庁が公表する「疑わしい取引の参考事例」は、預金取扱金融機関等・保険会社等・金融商品取引業者等・暗号資産交換業者等の業態別に取引類型を整理していますが、これらは拘束力のない例示であり、形式的に合致しない取引であっても金融機関等が疑わしいと判断すれば届出の対象になる点に注意が必要だとされています*3。シナリオはこの参考事例を出発点にしつつ、自社の商品特性や顧客層に合わせて設計することが求められます。
アラートの調査から疑わしい取引の届出(STR)提出までの流れ
検知シナリオに合致した取引は、まずアラートとして一次スクリーニングにかけられ、既知の正常な取引パターンとの突合等により誤検知(過検知)を絞り込みます。残ったアラートは調査担当者が、顧客の属性、取引時の状況その他保有している具体的な情報を総合的に勘案し、外国PEPs該当性、顧客属性・事業に照らした取引金額・回数等の取引態様、取引に係る国・地域等を考慮したうえで疑わしい取引への該当性を判断します*2。疑わしい取引に該当すると判断した場合は、直ちに届出を行う体制を構築することが求められており*2、届出後も当該取引についてリスク低減措置の実効性を検証し、必要に応じて同種の類型に適用する低減措置を見直すこと、届出を契機に顧客リスク評価を見直すことまでが一連の運用として位置づけられています*2。
実際の届出件数は増加傾向にあります。警察庁の年次報告書によれば、令和6年中の疑わしい取引の年間通知件数は84万9,861件で、平成27年の39万9,508件から一貫して増加を続けています*5。業態別では銀行等が58万382件で全体の68.3%を占め、貸金業者(8万8,282件)、クレジットカード事業者(5万7,978件)が続きます*5。届出件数の増加は、調査・判断にあたる人員の負荷にも直結するため、一次スクリーニングの精度をどう高めるかがシステム要件を検討するうえでの実務的な論点になります。
システムに求められる要件―シナリオ管理・チューニング・誤検知対策・監査証跡
シナリオの継続的な見直しと誤検知対策
金融庁ガイドラインは、ITシステムの的確な運用により大量の取引から異常取引を自動的かつ迅速に検知できること、その前提となるシナリオ・敷居値をリスクに応じて柔軟に設定・変更できることを、システム活用のメリットとして挙げています*2。一方で、シナリオが自社の直面するリスクに見合ったものになっているかを運用面も含めて検証し、適時に更新していくことも同時に求めています*2。シナリオ管理画面でのルール追加・敷居値変更、検知結果の分析機能、誤検知率の可視化機能などは、システムに組み込むべき実務的な要件と言えるでしょう。
監査証跡とデータガバナンス
ガイドラインは、疑わしい取引の届出件数を国・地域別、顧客属性別等の内訳を含めて把握・蓄積し、分析可能な形で整理したうえで、必要に応じて当局等に提出できる態勢を求めています*2。加えて、確認記録・取引記録等のデータの正確性・網羅性を定期的に検証することも求めており*2、誰がいつどのシナリオでアラートを検知し、どのような調査を経て届出または見送りと判断したかを追跡できる監査証跡の設計は、システム要件の中核に位置づけられます。
パッケージ導入とスクラッチ開発の比較
取引モニタリングシステムは、既製のパッケージ製品を導入する方法と、自社要件に合わせてスクラッチ開発する方法に大きく分かれます。両者の違いを以下の表に整理しました。
| 比較項目 | パッケージ製品導入 | スクラッチ開発 |
|---|---|---|
| 導入スピード | 既製のシナリオテンプレートを流用でき、比較的短期間で稼働開始しやすくなります | 要件定義から設計するため、稼働までの期間は長くなる傾向があります |
| シナリオの柔軟性 | ベンダーが提供する範囲内でのカスタマイズが中心になります | 自社の商品特性・顧客層に合わせて独自シナリオを設計できます |
| 保守・チューニング | ベンダーのアップデートに追随する形で運用します | チューニング方針を自社(または委託先)が継続的に設計・運用します |
| 既存システムとの連携 | 連携範囲がベンダー仕様に制約される場合があります | 勘定系・顧客管理システムとの連携を柔軟に設計できます |
内製と外注の判断軸―金融ドメイン知識・シナリオ設計・保守体制
AML取引モニタリングシステムの開発・運用を内製で担うか外注するかは、開発コストの比較だけでは判断できません。検知シナリオの設計には、犯罪収益移転防止法・金融庁ガイドラインへの理解に加え、自社の商品・顧客特性に応じたマネー・ローンダリングの手口を想定する金融ドメイン知識が求められます。シナリオ・敷居値は構築して終わりではなく、ガイドラインが求めるとおり届出状況等を踏まえて継続的に見直していく運用が前提であるため*2、保守・チューニングを誰が継続的に担うかという体制面の検討も欠かせないでしょう。
自社にAML領域のシステム開発・運用実績を持つ人材を確保できない場合は、金融ドメインの開発実績を持つ外部パートナーへ、シナリオ設計から保守運用まで一貫して委託する選択肢が現実的になります。なお金融庁ガイドラインは、外部委託や共同システムを利用する場合であっても、自らの取引の特徴やそれに伴うリスクを分析し、必要に応じて独自の追加的対応を検討することを求めており*2、外注する場合も体制構築の責任が金融機関等自身に残る点には留意が必要です。
まとめ:AML取引モニタリングシステム整備の3つの判断軸
本稿では、AML/CFT対策における継続的な取引モニタリングシステムについて、犯罪収益移転防止法と金融庁ガイドラインに基づき整理しました。要点は次の3つに集約されます。第一に、取引モニタリングは口座開設時のeKYCや取引先の反社チェックとは異なり、口座開設後の送金・入出金の挙動を検知シナリオで継続的に監視し、疑わしい取引の届出(STR)につなげる仕組みです。第二に、検知シナリオ・敷居値は自社のリスク評価を反映して設定し、届出状況等を踏まえて継続的に見直す(チューニングする)ことが、ガイドライン上の対応が求められる事項として明記されています*2。第三に、内製・外注のいずれを選ぶ場合も、金融ドメイン知識に基づくシナリオ設計と、継続的な保守・チューニング体制をどう確保するかが判断の分かれ目になるでしょう。
よくある質問
AML取引モニタリングは、eKYCや反社チェックとどう違いますか。
eKYCは口座開設時の本人確認、反社チェックは取引先の属性スクリーニングであり、いずれも取引の入口で完結する仕組みです。これに対しAML取引モニタリングは、口座開設後の送金・入出金の挙動を検知シナリオで継続的に監視し、疑わしい取引を検出してアラートを発報する仕組みであり、対象とする局面が異なります。
検知シナリオの敷居値はどのように決めればよいですか。
金融庁ガイドラインは、自らのリスク評価を反映したシナリオ・敷居値等の抽出基準を設定し、検知結果や届出状況を踏まえて継続的に見直すことを求めています*2。自社の商品特性・顧客層のリスク評価を起点に設定し、運用しながら見直す前提で設計することが重要です。
疑わしい取引に該当するかどうかは、どのような基準で判断しますか。
顧客の属性、取引時の状況その他保有している具体的な情報を総合的に勘案し、外国PEPs該当性、顧客属性・事業に照らした取引態様、取引に係る国・地域等を考慮して判断します。金融庁が公表する参考事例は拘束力のない例示であり、形式的に合致しない取引でも疑わしいと判断すれば届出の対象になります*3。
疑わしい取引の届出件数は実際どのくらいありますか。
警察庁の年次報告書によれば、令和6年中の疑わしい取引の年間通知件数は84万9,861件で、平成27年の約40万件から一貫して増加しています*5。業態別では銀行等が全体の68.3%を占めています*5。
取引モニタリングシステムはパッケージとスクラッチのどちらを選ぶべきですか。
稼働スピードを重視するならパッケージ、自社独自の商品特性やシナリオの柔軟性を重視するならスクラッチが向いています。いずれを選ぶ場合も、シナリオの継続的なチューニングと監査証跡の設計を誰がどう担うかを、内製・外注の判断とあわせて検討する必要があります。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
AML取引モニタリングシステムの開発・保守のご相談はLASSICへ
元請(プライムベンダー)として、金融機関様の課題に合わせた検知シナリオ設計・体制構築をご提案します。まずはお気軽にご相談ください。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:警察庁JAFIC「疑わしい取引の届出と届出先行政庁」(犯罪収益移転防止法第8条に基づく届出制度)(https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/todoke/todotop.htm)
- *2 出典:金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(令和8年3月31日)(https://www.fsa.go.jp/news/r7/amlcft/20260331/02.pdf)
- *3 出典:金融庁「疑わしい取引の参考事例」(https://www.fsa.go.jp/str/jirei/)
- *4 出典:金融庁「疑わしい取引の届出等」(https://www.fsa.go.jp/str/)
- *5 出典:警察庁「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和6年)」(https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/nenzihokoku/data/jafic_2024.pdf)
- *6 出典:警察庁「犯罪収益移転危険度調査書【概要版】」(令和6年11月)(https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/nenzihokoku/risk/risk_gaiyou2024.pdf)