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合成データとは|AIのデータ不足を補う一手
AIを作りたいが、学習させるデータが足りない。あるいは、手元にあるのは個人情報を含むデータで、そのままでは使いにくい——。AIの開発や活用を進めると、多くの現場が「データの壁」に突き当たります。この壁を乗り越える一手として注目されているのが、合成データ(Synthetic Data)です。本物のデータの代わりに、統計的な性質を保ちながら中身を人工的に作り出したデータを指します。
本物の個人情報を直接使わずに済んだり、少ない事例を水増しできたりと、使いどころのある考え方です。ただし、万能ではなく、使い方を誤ると、かえって当てにならないAIを生んでしまいます。本記事では、AIの開発・活用を検討する情報システム部門や事業部門の担当者に向けて、合成データとは何か、近い取り組みとの違い、使いどころ、つまずきやすい点、そして外注の勘所を整理します。
目次
合成データとは——データ注釈との違い
合成データとは、実際に集めた本物のデータの代わりに、人工的に作り出したデータを指します。ポイントは、でたらめに作るのではなく、本物のデータがもつ統計的な性質(値の分布や項目どうしの関係など)を保ちながら、一件一件の中身は架空のものにする、という点です。たとえば顧客データであれば、実在の誰かの情報ではないけれど、全体としては本物と似た傾向をもつ「架空の顧客一覧」を作る、といったイメージです。これをAIの学習やシステムのテストに使います。
ここで、近い取り組みであるデータ注釈(アノテーション)との違いを押さえておくと、位置づけがはっきりします。データ注釈は、本物のデータに「これは猫の画像」「この文は苦情」といったラベルを人手で付けていく作業で、あくまで扱うのは実在のデータです。これに対して合成データは、データそのものを人工的に生み出します。本物にラベルを付けるのか、データ自体を作るのか——ここに違いがあります。
似た言葉に「データ拡張」もありますが、こちらは手元の本物のデータを少し加工して水増しする手法で、まったく新しいデータを作る合成データとは、発想がやや異なります。実在のデータを土台にするのか、性質だけを受け継いで新たに作るのか。この区別を踏まえておくと、合成データに何を期待すべきかが見えてきます。
この記事のポイント
- 合成データは、本物の統計的な性質を保ちつつ、中身を人工的に作り出したデータです。
- 本物にラベルを付けるデータ注釈と違い、データそのものを生み出す点が核心です。
- データ不足や個人情報の壁を越える一手ですが、元データの偏りを継ぐため品質の確かめが要ります。
なぜ使われるのか
合成データが求められる背景には、AIの開発や活用でつきまとう、いくつかのデータの悩みがあります。第一に、量の不足です。精度の高いAIには多くのデータが要りますが、集めるには時間も費用もかかり、そもそも十分に存在しないこともあります。第二に、個人情報の扱いです。顧客情報や医療情報などは、本物をそのまま学習やテストに使うことがはばかられます。個人情報を含まない人工のデータであれば、その心配をかなり減らせます。
第三に、レアな事例の少なさです。不正取引や設備の故障のように、めったに起きない事象は、実データではサンプルがごくわずかしか集まりません。そうしたレアケースを人工的に増やせば、まれな事象にも強いAIを育てやすくなります。第四に、テスト用データの確保です。本番の個人情報を使わずに、システムの動作確認に使えるデータをそろえられます。こうした悩みに対して、本物に近い性質をもつデータを人工的に用意できる点が、合成データの値打ちです。だからこそ、データの壁に阻まれがちなAIの現場で、活用が広がっています。
どう作るのか
合成データの作り方には、いくつかのやり方があります。全体像をつかんでおくと、自社のデータに合う方法を考えやすくなります。この関係を図にすると、次のとおりです。
大きく分けると、三つの流れがあります。一つ目は、ルールにもとづく生成です。「年齢は20〜60歳」「都道府県は実在のものから選ぶ」といった決めごとに従って、架空のデータを機械的に作ります。手軽ですが、複雑な関係の再現には向きません。二つ目は、シミュレーションによる生成です。現実の仕組みを模したモデルを動かして、そこから出てくるデータを使います。工場やセンサーのデータなどで用いられます。三つ目は、生成AIなどの機械学習モデルを使う方法です。本物のデータから性質を学び、それに似た新しいデータを生み出します。込み入った分布や関係も再現しやすい一方、元のデータの質に結果が左右されるのです。どの方法をとるにせよ、作った合成データが本物の性質をどれだけ写せているかを確かめる工程が欠かせません。
つまずきやすい難所
合成データには、あらかじめ想定しておきたい難所があります。踏まえておくと、「人工データで作ったAIが、本番でまるで役に立たない」という事態を避けやすくなります。
一つ目は、元データの偏りを受け継ぐことです。本物のデータに偏りがあれば、そこから作った合成データにも同じ偏りが写り、それで学んだAIにも引き継がれます。人工的に作ったからといって、偏りが消えるわけではありません。二つ目は、本物との食い違いです。合成データは本物の性質を近似したものにすぎず、細かな部分では実態と食い違うことがあります。そのずれに気づかずAIを作ると、本番のデータで思わぬ外れ方をします。三つ目は、品質評価の難しさです。作った合成データが「どれだけ本物らしいか」を測るのは、簡単ではありません。評価の物差しを決めずに使うと、質の低いデータに気づけません。四つ目は、個人情報が残るおそれです。生成の仕方によっては、元の個人情報の痕跡が合成データに残ることがあり、その場合は個人情報として扱いが要ります。人工データだから無条件に問題なし、とは考えず、扱いは用途と法令に照らして判断する必要があります。
向く場面・向かない場面
合成データは、どんな場面でも本物の代わりになるわけではありません。向き不向きを見極めると、使いどころを誤らずに済むはずです。整理しました。
| 場面 | 向くか | 理由 |
|---|---|---|
| 個人情報を避けたい学習・テスト | 向きやすい | 本物を直接使わずに済む |
| レアな事象を増やしたい | 向きやすい | 少ない事例を人工的に補える |
| 本物の細かな実態が重要 | 向きにくい | 近似では取りこぼす部分がある |
おおまかにいえば、個人情報を避けたい場面や、レアケースを補いたい場面では、合成データが力を発揮します。一方、本物ならではの細かな実態が結果を左右する用途では、人工データだけに頼るのは危うく、本物での確認が欠かせません。多くの場合、合成データだけで完結させるのではなく、本物のデータと組み合わせて使うのが現実的です。「どこまでを人工データで補い、どこは本物で確かめるか」を見極めることが、活用の分かれ目になります。
外注時に確認しておきたい点
合成データの生成や、それを使ったAI開発を外部に委託する場合は、次の点を事前にすり合わせておくと、認識のずれを防ぎやすくなります。まず、何のために合成データを使うのかです。データ不足を補いたいのか、個人情報を避けたいのか、レアケースを増やしたいのかで、適した作り方や求められる品質が変わります。次に、作った合成データの質をどう確かめるかです。本物の性質をどれだけ写せているかを測る物差しを、あらかじめ一緒に決めておきたいところです。
さらに、個人情報の扱いも欠かせない確認点です。元データに個人情報が含まれる場合、生成のやり方によっては痕跡が残ることがあるため、AI開発におけるデータの権利や取り扱いとあわせて、法令に沿った進め方を確認しておく必要があります。あわせて、合成データで作ったAIを、本物のデータでどう検証するか、また運用後に性能が落ちていないかをどう見張るかまで見据えておくと、人工データ由来の思わぬ外れ方に早く気づけるはずです。生成だけを頼むのか、品質の確認やAIの検証まで含めて依頼するのかを明確にしておくと、任せたあとのつまずきを抑えやすくなります。
まとめ:合成データで押さえる3つの視点
合成データは、本物の統計的な性質を保ちながら中身を人工的に作り出した、データの壁を越えるための一手です。押さえておきたい視点は3つに整理できます。第一に、本物にラベルを付けるデータ注釈や、本物を加工するデータ拡張との違いを理解し、データそのものを生み出す取り組みだと捉えること。第二に、データ不足・個人情報・レアケースといった悩みに応えられる一方、元データの偏りを継ぎ、本物と食い違うこともあると踏まえ、品質の確かめを欠かさないこと。第三に、人工データだけで完結させず、本物のデータと組み合わせ、個人情報の扱いは用途と法令に照らして判断することです。この3点を踏まえておけば、「人工データで作ったのに、本番で役に立たない」という事態を避けやすくなります。生成や品質の見極めに不安があれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
合成データとデータ注釈は何が違うのですか。
データ注釈(アノテーション)は、本物のデータに「これは猫の画像」といったラベルを人手で付ける作業で、扱うのは実在のデータです。合成データは、本物の統計的な性質を保ちつつ、データそのものを人工的に作り出します。本物にラベルを付けるのか、データ自体を作るのかという違いだと捉えると分かりやすいでしょう。
合成データを使えば個人情報の問題はなくなりますか。
かなり減らせますが、無条件になくなるわけではありません。生成のやり方によっては、元の個人情報の痕跡が合成データに残ることがあり、その場合は個人情報として扱いが求められます。人工データだから問題ないと決めつけず、生成方法を確かめ、用途と法令に照らして扱いを判断することが大切です。
どうやって合成データを作るのですか。
大きく三つの流れがあります。決めごとに従って機械的に作るルールベース、現実の仕組みを模したモデルを動かすシミュレーション、本物のデータから性質を学んで似たデータを生み出す機械学習・生成AIの活用です。込み入った関係を再現するには機械学習の方法が向きますが、元データの質に結果が左右されます。いずれも品質を確かめる工程が欠かせません。
合成データだけでAIを作れますか。
用途によりますが、合成データだけで完結させるのは危ういことが多いです。合成データは本物の性質を近似したものにすぎず、細かな実態では食い違うことがあります。本物ならではの部分が結果を左右する用途では、本物のデータでの検証が欠かせません。多くの場合、本物と組み合わせて使い、どこを人工データで補うかを見極めるのが現実的です。
外注する場合、どこまで依頼できますか。
合成データの生成から、品質の確認、それを使ったAIの開発・検証まで、範囲を分けて依頼できます。ただし、何のために使うかや、個人情報をどう扱うかは自社の事情や法令に左右されるため、委託先任せにせず一緒に決めるのが望ましいところです。生成だけか、品質確認やAIの検証まで含めるかを明確にしておくと引き継ぎやすくなります。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
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元請(プライムベンダー)として、目的の整理から生成方法の選定・品質の確認・個人情報の扱いの見極め・本物での検証まで、貴社のAI活用に合わせてご提案します。まずはお気軽にご相談ください。
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- *1 参考:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ai_network/02ryutsu20_04000019.html)。AIに用いるデータの扱いと品質の考え方の参考として。