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EU機械規則2027|組込みソフトの備え
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 規則の位置づけ:機械規則(Regulation (EU) 2023/1230)は、2027年1月20日から義務として適用されるとされています*1。
- ソフトへの影響:AIで動く安全機能、適合に関わるソフトウェアのデータと安全制御系のサイバー面についての規定が置かれました*1。
- 備えの勘どころ:安全に関わるコードの境界、出荷後の更新経路、そして構成と検証の記録。この三点を先に整えることです。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
産業機械の世界では、長く機械指令(2006/42/EC)が適用の土台でした。これが規則へと置き換わります。機械規則(Regulation (EU) 2023/1230)は、2027年1月20日から義務として適用されるとされています*1。
この置き換えで注目すべきは、ソフトウェアに関わる部分が明示的に入ってきた点です。安全機能がAIで動く機械についての規定、適合に関わるソフトウェアのデータと安全制御系のサイバー面についての規定が組み込まれました*1。機械の設計だけでなく、その中で動くソフトウェアの作り方が問われる形です。
本記事では、産業機械の組込みソフトウェアを開発している企業と、その受託を担う立場に向けて、規則が何を持ち込むのか、設計と工程で何を先に整えるべきかを整理します。適合の判断には専門の機関が関わるため、実際の対応は最新の公式資料と適合評価の担当と確かめながら進めてください。
目次
何が変わるのか——ソフトウェアが視野に入った
欧州委員会の資料では、この規則が旧来の枠組みから変えた点として、いくつかの項目が挙げられています*1。
まず、統一的な適用によって法的な確実性を高めることが挙げられています。指令から規則へという形式の変更そのものが、加盟国ごとの解釈の差を減らす方向に働きます*1。
次に、安全機能がAIで動く機械についての規定が組み込まれました*1。学習によって挙動が決まる部分が、安全に関わる機能を担う場合をどう扱うか——この論点が枠組みに入ったということです。
そして、適合に関わるソフトウェアのデータと安全制御系について、サイバー面での安全確保のための規定が組み込まれました*1。ネットワークにつながる機械が増え、外からの操作や改変が安全に影響し得る——その前提が制度に取り込まれた形です。
加えて、より高いリスクを持つ機械の適合評価についての扱い、製品カテゴリーごとの規定の更新、そして取扱説明書と適合宣言をデジタルの形式で提供できる条件の明確化が挙げられています*1。
これらを並べると、機械の作り手にとってはソフトウェア開発の工程そのものが適合の対象に近づいたと読めます。回路と機構の設計だけで完結する話ではなくなりました。
安全機能とソフトウェアの境界を引く
実務でいちばん先に必要になるのが、安全に関わる部分の切り分けです。ここが曖昧だと、検証の範囲も文書の範囲も決まりません。
| 層 | 例 | 扱いの重さ |
|---|---|---|
| 安全に関わる制御 | 非常停止、インターロック、速度や力の制限 | 最も重い。変更のたびに検証が要る |
| 運転の制御 | 工程の順序、動作の指示、位置決め | 安全に影響する経路があるかで変わる |
| 監視と表示 | 稼働状況の画面、警報の表示、記録 | 安全機能へ介入できないなら軽い |
| 外部との連携 | 上位システムへの送信、遠隔からの設定変更 | 安全制御へ届く経路があると重くなる |
| 更新の仕組み | ソフトウェアの書き換え、設定の配布 | 経路そのものが守る対象になる |
この分け方で問題になりやすいのが、四つめと五つめです。上位システムと連携する機能や、遠隔から設定を変えられる機能を後から足したとき、その経路が安全に関わる制御へ届いてしまうことがあります。
設計としては、安全に関わる制御を独立した領域に置き、外部からの入力が直接そこへ届かない構造にするのが基本です。組込みソフトウェアの開発で扱うような層構造の設計が、そのまま適合の説明に使えます。
AIで動く部分についても同じ考え方が効きます。学習した結果で挙動が変わる部分を、安全に関わる制御の外に置けるなら、扱いは軽くなります。逆に、安全機能そのものをAIで実現する設計を選ぶと、説明の負担が重くなります。設計の初期に判断しておく論点です。
サイバー面の要求——出荷後まで含めて考える
適合に関わるソフトウェアのデータと安全制御系を守るという要求は、出荷して終わりにできない性格を持ちます。順に見ていきます。
第一に、改変の防止です。安全に関わる設定や制御のプログラムが、意図せず書き換えられないようにする。物理的な鍵、認証、書き込みの制限。どの手段を使うかは機械の性格によります。
第二に、更新の経路です。出荷後にソフトウェアを書き換えられる仕組みを持っているなら、その経路自体が守るべき対象になります。誰が更新できるのか、更新するものが正しいと確かめられるのか。
ここは近年の機器で共通する論点です。機器のセキュリティをめぐる制度で扱うような要求と、考え方が重なります。国内・海外の複数の枠組みが同じ方向を向いているため、まとめて設計しておくと二度手間を避けられます。
第三に、構成の把握です。機械の中で何が動いているのかを、部品の一覧として持てているか。使っているライブラリに問題が見つかったとき、どの機械が影響を受けるのかを追えるか。SBOMによる構成情報の管理で扱うような把握が土台になります。
第四に、記録です。設計の判断、検証の結果、変更の履歴。適合を説明する場面では、これらが揃っているかが問われます。開発の進行と並行して残す形にしておかないと、後からまとめる作業が大きな負担になります。
なお、機械が工場のネットワークにつながる場合、工場側の環境も関わってきます。機械の側でできることと、設置する側で行うことを切り分け、取扱説明書に記載する内容として整理しておく必要があります。
文書のデジタル化——実務としては利点が大きい
取扱説明書と適合宣言をデジタルの形式で提供できる条件が明確化されたという点は*1、実務では負担軽減として働きます。紙の分厚い冊子を機械ごとに付ける必要が薄れるためです。
ただし、デジタルで出すには仕組みが要ります。実装として考えるべき点を挙げます。
機械と文書の紐づけです。個体ごとに、どの版の説明書と適合宣言が対応するのか。製造番号から辿れる仕組みが必要になります。仕様の違う機械を並行して出していると、ここが混乱しやすくなります。
保持の期間です。出荷した機械が長く使われる領域では、文書も長く提供できる状態を保つ必要があります。掲載しているサイトの構成を変えたら見られなくなる——という事態を避ける設計が要ります。
言語です。販売する国ごとに言語が必要になります。翻訳をどう管理するか、版が更新されたときにすべての言語を揃えるのか。運用の設計が関わります。
取り出す手段です。ネットワークにつながらない現場でも読めるようにするのか。機械の画面で表示するのか、印刷できるようにするのか。使われ方に合わせた選択が要ります。
これらは製品情報を管理する仕組みの話に近づきます。文書管理の仕組みづくりで扱うような、版と対象の紐づけを持つ設計がそのまま当てはまります。
時間軸をどう見るか
義務としての適用は2027年1月20日からとされています*1。ここから逆算して、何をいつまでに進めるかを考えます。
設計に手を入れる必要があるなら、時間はあまり残っていません。安全に関わる制御の切り分けを変える、更新の経路を作り直す——こうした変更は、設計から検証まで長い期間を要します。適合評価に第三者が関わる場合は、その日程も見込む必要があります。
文書と記録の整備は、いま始められます。構成の一覧を作る、検証の結果を残す形に変える、説明書をデジタルで出せる仕組みを用意する。これらは製品の設計を変えずに進められる部分です。
新規に設計する機械は、最初から織り込むのが得です。これから開発に入る機種については、安全に関わる部分の分離、更新経路の保護、記録の残し方を設計に含めておく。後から足すより負担が小さくなります。
優先順位としては、まず自社の製品のうちEU市場に出るものを洗い出し、そのなかで安全機能にソフトウェアが関わるもの、ネットワークにつながるものを特定する。この二つの条件に当たる機種から着手するのが現実的でしょう。
なお、部品や制御ユニットを供給する立場の企業にも影響が及びます。機械の作り手が適合を説明するには、組み込んだ部品についての情報が必要になります。供給側として何を提供できるかを整理しておくと、取引の場面で強みになります。
受託・委託で進めるときの要点
この種の対応を外部と進める場合の要点を挙げます。
第一に、適合の責任を持つ主体を明確にすることです。機械を市場に出す立場の企業が適合の責任を負います。受託開発の側は、その説明に必要な材料を提供する役割です。この関係を契約の段階で確かめておきます。
第二に、成果物に記録を含めることです。コードだけでなく、設計の判断、検証の計画と結果、構成の一覧。これらを納品物として定義しておかないと、後から求められて揉めます。
第三に、安全に関わる部分の担当を分けることです。安全に関わる制御と、それ以外の機能。同じチームで扱うにしても、変更の手続を分けておくと管理が楽になります。
第四に、検証環境を確保することです。実機がないと確かめられない項目があります。いつ実機を使えるのか、それまでどこまで進められるのか。工程の制約として明示しておきます。
第五に、適合評価の窓口を決めることです。第三者の機関が関わる場合、そのやり取りを誰が担うのか。技術的な質問に答えるのは開発側になりますが、窓口が曖昧だと回答が遅れます。
体制としては、機能安全の考え方とソフトウェア開発の両方を扱える要員が入れるかが分かれ目になります。機能安全の枠組みだけを知る体制では実装が伴わず、ソフトウェアだけの体制では検証の根拠が残りません。両方を同じ場で進められるかを、委託先を選ぶ観点に入れておくとよいでしょう。
まとめ:EU機械規則への備えで押さえる3つの視点
機械規則(Regulation (EU) 2023/1230)は2027年1月20日から義務として適用されるとされ、旧来の枠組みから変わった点として、安全機能がAIで動く機械についての規定、適合に関わるソフトウェアのデータと安全制御系のサイバー面についての規定、より高いリスクを持つ機械の適合評価、そして取扱説明書と適合宣言をデジタルで提供できる条件の明確化が挙げられています。押さえたい視点は三つです。第一に、機械のソフトウェアを層に分けて安全に関わる部分の境界を引くことが最初の作業になり、とくに上位システムとの連携や遠隔からの設定変更が安全制御へ届く経路を持たないかを確かめる必要があること。第二に、サイバー面の要求は出荷後まで及ぶため、改変の防止、更新経路の保護、構成の把握、そして記録の残し方を設計に織り込む必要があること。第三に、設計変更を伴う対応は期間を要するため、EU市場向けで安全機能にソフトウェアが関わる機種、ネットワークにつながる機種から優先して着手すべきことです。まずは対象機種の洗い出しと、安全に関わるコードの境界の確認から始めるのが堅実でしょう。
よくある質問
旧来の機械指令への対応があれば足りますか。
足りない部分が残ります。とくに、安全機能がAIで動く機械についての規定と、適合に関わるソフトウェアのデータおよび安全制御系のサイバー面についての規定は、新しく組み込まれた要素です。ソフトウェアの作り方と、出荷後の更新をどう守るかという観点での見直しが必要になります。
いつまでに対応すればよいですか。
義務としての適用は2027年1月20日からとされています。設計に手を入れる必要がある場合、設計から検証、適合評価までの期間を逆算すると、着手の判断はいま行う時期にあたります。いっぽう構成の一覧づくりや記録の整備、デジタル文書の仕組みは、製品設計を変えずに先へ進められます。
いちばん先に確かめるべきことは何ですか。
安全に関わる制御の境界です。どのコードが安全機能を担っているのか、外部からの入力や遠隔の設定変更がその領域へ届く経路を持たないか。ここが曖昧だと検証の範囲も文書の範囲も決められません。層に分けて整理することが出発点になります。
安全機能にAIを使うのは避けるべきですか。
一律に避けるべきとは言えませんが、説明の負担は重くなります。学習した結果で挙動が変わる部分を安全に関わる制御の外に置ける設計であれば、扱いは軽くなります。安全機能そのものをAIで実現する選択をするなら、その妥当性を示す方法を設計の初期から検討しておく必要があります。
部品や制御ユニットを供給する立場でも関係しますか。
関係します。機械を市場に出す企業が適合を説明するには、組み込んだ部品についての情報が必要になります。供給側として、構成の情報や検証の結果、更新の仕組みについて何を提供できるかを整理しておくと、取引の場面で説明しやすくなります。
機械の組込みソフト開発はLASSICへ
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出典
- *1 参考:European Commission「Machinery」(Machinery Regulation (EU) 2023/1230)(https://single-market-economy.ec.europa.eu/sectors/mechanical-engineering/machinery_en)。規則の番号、義務適用の日付、AIによる安全機能・サイバー面・高リスク機械の適合評価・文書のデジタル化に関する変更点の一次情報として(2026年8月確認)