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AI下書きの報告書、カリフォルニア州が課す3つの記録
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 記録は3つ:定型文と署名、第一稿、監査証跡です*1。
- 保存期間は連動:公式報告書と同じ期間だけ残します*1。
- ベンダーは二次利用不可:例外は2つに限られます*1。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
AIに文書の下書きを作らせる仕組みを納めるとき、要件表に載りにくい項目があります。出力そのものではなく、その出力がどう作られたかを後から示すための記録です。
米国カリフォルニア州の上院法案524は、その記録を条文の形で並べました。2025年10月10日に知事の承認を受けて2025年法律第587号となり、刑法典に第13663条を新設しています*1。対象は警察の報告書ですが、書かれている要件は「AIが下書きした文書を人が確定させる」仕組み全般に読み替えられる内容です*1。
確かめたい点は4つあります。どのAIが対象か、出力に何を刻むのか、何をいつまで残すのか、ベンダー側は預かったデータをどう扱えるのか。法文から順に見ていきます。
目次
対象は2種類のAIに絞られている
まず、この条文がどのAIを見ているかです*1。
第13663条(e)(1)は、はじめに一般的な定義を置きます*1。人工知能とは、自律性の水準が一様でない、工学的または機械にもとづくシステムであって、明示的または黙示的な目的のために、受け取った入力から、物理的または仮想的な環境に影響を与えうる出力をどのように生成するかを推論できるものという書き方です*1。
そのうえで、同じ項が適用範囲を絞り込みました*1。この条において用いられる人工知能は、車載カメラもしくはダッシュボード搭載カメラ、または身体装着カメラの音声もしくは映像の分析にもとづいて警察報告書の記述を自動的に下書きする人工知能システム、および、警察官が口述した報告を分析して、生成人工知能によって自動的に増補された警察報告書の記述を作る人工知能システムに適用すると続きます*1。
つまり、事務作業に使う文章生成の全般ではありません*1。撮影した音声・映像から起こす系統と、口述を土台に増補する系統の2つに限って書かれています*1。音声を文字にして要約するところまでの流れは議事録の自動作成で扱う構成と同じ形をとります。
関係者の呼び方も定義されました*1。契約ベンダーとは、下書きの警察報告書を生成する目的で、法執行機関に人工知能を利用可能にした第三者を指します*1。第一稿とは、人工知能のみによって生成された最初の文書または記述であり、公式報告書とは、(a)(2)にもとづき警察官が署名した最終版です*1。
| 用語 | 条文の定義 |
|---|---|
| 人工知能 | 自律性の水準が一様でない工学的・機械にもとづくシステム。ただしこの条では、カメラの音声・映像から下書きする系統と、口述を生成AIで増補する系統に適用 |
| 契約ベンダー | 下書きの警察報告書を生成する目的で、法執行機関にAIを利用可能にした第三者 |
| 第一稿 | 人工知能のみによって生成された最初の文書または記述 |
| 公式報告書 | (a)(2)により警察官または職員が署名した最終版 |
| 法執行機関 | 第830条に規定する平和職員を雇用する州または地方政府、特別区その他の政治的下位区分の部門・機関 |
条文の入口が各法執行機関は、方針を維持しなければならないとなっている点も、読み方に関わります*1。個々の報告書を直接規律するのではなく、機関に方針の保持を義務づけ、その方針の中身として以下の要件を並べる構造です*1。ベンダー側から見ると、納入先の方針文書に何が書かれるかが実装の要件になります*1。
地方への影響も digest に書かれています*1。地方の法執行機関に新しい方針の採用を求めるため、この法律は州が義務付けた地方プログラムに当たり、州義務委員会が費用を認定した場合には、政府法典第17500条以下の規定により地方機関および学校区へ償還が行われるとされました*1。
出力に刻むのは「プログラム名」と「定型文」、そして署名
次に、公式報告書そのものに何を入れるかです*1。
第(a)(1)項は、表示の要件です*1。公式報告書の各ページに、または本文中に、使用したすべての特定の人工知能プログラムを、読者にとって容易に分かる形で識別し、かつ次の文を目立つように記載すると定め、記載すべき文として「この報告書は、その全部または一部が人工知能を用いて書かれた。」を置きました*1。
実装の観点で効いてくるのは3つの語です*1。各ページに、または本文中にという選択、すべての特定のプログラムという粒度、そして容易に分かる形でという程度です*1。プログラム名を1か所の脚注に置く形では、ページ単位で切り出されたときに来歴が失われます。文書の生成部分で来歴を持たせる設計は文書生成AIの導入で扱う組み立てと共通します。
もう1点、複数のモデルやサービスを重ねている場合の書き方も読み落とせません*1。条文はすべての特定の人工知能プログラムと書いており、1つの製品名でまとめる形は想定されていません*1。音声を文字にする部分、要約する部分、文体を整える部分で別のサービスを使っているなら、その構成が表示の内容に反映されることになります*1。
第(a)(2)項が、確定の要件です*1。公式報告書を準備した警察官または法執行機関の職員の署名を、物理的または電子的な形式で付し、その者が当該報告書の内容を検討したこと、および公式報告書に含まれる事実が真実かつ正確であることを検証すると定めます*1。
署名が持つ意味は2つに分かれています*1。内容を検討したという行為の記録と、事実が真実かつ正確であるという表明です*1。電子的な形式が明示的に認められているため、承認の操作をシステム側で受ける設計が可能になります*1。誰がいつ確定させたかを残す流れは承認ワークフローの構築で扱う仕組みに寄せられます。
この2項をあわせると、AIの利用そのものを禁じる条文ではないことが分かります*1。使ったことを文面に出し、人が確定させ、その事実を残す。この3点をそろえる形になっています*1。
表示の置き場所についても、設計の判断が生じます*1。条文は各ページに、または本文中にと選択肢を示しているため、ヘッダーやフッターへ差し込む形と、本文の冒頭または末尾へ書き込む形のどちらも取り得ます*1。前者は帳票の生成基盤に手を入れることになり、後者は文面の生成側で完結します。どちらを選ぶかで、既存の書式との衝突の起きやすさが変わります。
第一稿は捨てられず、下書きは陳述にならない
保存の要件は、期間の書き方に特徴があります*1。
第(b)(1)項は警察官または法執行機関の職員が、全部または一部について人工知能を用いて公式報告書を作成した場合、作成された第一稿は、公式報告書が保存される期間と同じ期間、機関が保存するものとすると定めました*1。
ここでの期間は絶対の年数ではなく、成果物の保存期間に連動します*1。公式報告書の保存期間が延びれば第一稿の保存期間も延び、成果物が廃棄される時点まで残る形です*1。ログ側の保存期間だけを独立に短く設定していると、この連動が崩れます。世代管理の考え方はログの保存とローテーションで扱う設計が土台になります。
第(b)(2)項は、下書きの位置づけを切りました*1。公式報告書を除き、人工知能を用いて作成された報告書の下書きは、警察官の陳述を構成しないという条文です*1。
この一文は、保存の義務と裏表になっています*1。第一稿は残すが、それは警察官が述べたことにはならない。逆に、署名された公式報告書だけが本人の述べたものとして扱われます*1。残す対象と、意味を持たせる対象を分けた書き方です*1。
| 項目 | 第一稿 | 公式報告書 |
|---|---|---|
| 作った主体 | 人工知能のみ | 署名した警察官または職員 |
| 署名 | 条文上の要件なし | 物理または電子の署名で内容と事実を検証 |
| 陳述としての扱い | 警察官の陳述を構成しない | 署名により本人が検証した文書 |
| 保存期間 | 公式報告書が保存される期間と同じ | 機関の記録保存の定めに従う |
保存期間が連動するという書き方は、廃棄の側にも効いてきます*1。成果物を廃棄する時点まで第一稿と監査証跡が残るということは、廃棄の処理も三者をそろえて行う必要があるという意味になります*1。片方だけが残り続ける状態は、条文が求める姿とは別の形です。記録の作成と廃棄を同じ台帳で管理しておくほうが、後の点検が短く済みます。
受託側の実装としては、第一稿を上書きしない置き方が要点になります*1。生成した記述をそのまま編集画面へ流し込み、利用者の修正で塗り替えていく作りだと、第一稿が残りません*1。生成の時点で別の版として確定させ、以後は参照専用にする組み立てが条文に沿います*1。改変を検知できる形で記録を残す手当ては監査ログの設計で扱う考え方と重なります。
監査証跡は2項目、ベンダーの二次利用は例外だけ
監査証跡についても、最低限の中身が指定されました*1。
第(c)項は第一稿または公式報告書を生成するために人工知能を利用する機関は、公式報告書が保存される期間と同じ期間、少なくとも次の両方を識別する監査証跡を維持するものとするとし、2つを挙げます*1。報告書を作成するために人工知能を用いた者と、報告書の作成に用いられた映像および音声(もしあれば)です*1。
2つ目の項目が、実装では重い要件になります*1。誰が操作したかはアカウントの記録で足りますが、どの映像・音声を入力に使ったかは、素材側の識別子と生成の記録を紐づけていないと後から辿れません*1。カメラの記録は別のシステムで管理されていることが多く、その間の対応表が要ります。生成の入力と出力を追える形にしておく発想は生成AIの可観測性で扱う仕組みと同じ方向です。
条文が少なくとも次の両方と書いている点も見ておく値があります*1。2項目は下限であり、機関の方針でこれより広い記録を求めることは条文と矛盾しません*1。方針文書の側で、修正の履歴や参照した他の資料まで対象に含める運用もあり得ます。要件定義では、条文の2項目に加えて納入先の方針が何を求めているかを確かめることになります*1。
ベンダー側の制限は第(d)項です*1。第(d)(1)項は契約ベンダーは、人工知能によって処理させるために法執行機関から提供された情報を、共有し、販売し、またはその他の方法で利用してはならないと定め、例外を2つだけ置きました*1。契約先の法執行機関の目的のためと、裁判所の命令にもとづく場合です*1。
一方で第(d)(2)項は、技術的な作業のための道を残しています*1。契約ベンダーは、トラブルシューティング、バイアスの緩和、精度の向上、またはシステムの改良の目的で、人工知能によって処理されたデータにアクセスすることができるという条文です*1。
| 項 | 内容 | 条文の書き方 |
|---|---|---|
| (d)(1) | 機関から提供された情報の共有・販売・その他の利用 | 禁止。例外は契約先の機関の目的のためと、裁判所の命令にもとづく場合の2つ |
| (d)(2) | AIが処理したデータへのアクセス | トラブルシューティング、バイアスの緩和、精度の向上、システムの改良の目的でなら可能 |
この2項の関係は、契約条項の書き方に直結します*1。学習への転用や他顧客への横展開は(d)(1)で塞がれ、不具合の切り分けや評価のためのアクセスは(d)(2)で認められる形です*1。どちらに当たる作業なのかを運用の記録で示せるかどうかが、実務上の分かれ目になります。委託先へ流し込む条項の作り方としては米国GSAの大規模言語モデル条項案で扱う枠組みが近い位置にあります。
受託側が先に決めておくとよい5点
条文を実装の言葉に置き換えると、決めておく項目は次のように整理できます。
第一に、来歴をデータとして持つことです。条文はすべての特定の人工知能プログラムの識別を求めます*1。表示のために都度文字列を組み立てるのではなく、生成の記録側にプログラム名とその版を保持し、出力の各ページへ差し込む形にすると、構成を変えたときの追随が楽になります。
第二に、第一稿を別の版として確定させることです。第一稿は人工知能のみによって生成された最初の文書と定義され、公式報告書と同じ期間の保存が求められます*1。編集前の状態を取り出せるかどうかは、保存の設計というより版管理の設計です。
第三に、入力素材との紐づけを設計に入れることです。監査証跡は用いられた映像および音声の識別を含みます*1。カメラ側の管理システムと生成側で識別子の対応を持たないと、後から突き合わせる作業が発生します。
第四に、データの用途の線を実装と契約の両方で引くことです。ベンダーの二次利用は原則として禁じられ、技術的な目的のアクセスだけが認められています*1。どの環境のどのデータに、どの目的でアクセスしたのかを記録できる作りにしておくと、説明の負担が下がります。
第五に、署名を受ける画面の設計です。署名は内容を検討したことと事実が真実かつ正確であることの検証として位置づけられました*1。差分の見せ方や確認の手順が雑だと、この検証が形式だけのものになります。何を確認したのかが残る画面にしておくほうが、後の説明に耐えます。
誤解されやすいのは、AIの使用そのものが制限されたという読み方です。条文は使用を禁じておらず、使ったことの表示、人による確定、記録の保存を求めています*1。使い方を書き残す義務として読むほうが正確です*1。
もう1点、対象範囲についても注意が要ります*1。第(e)(1)項は適用されるAIを2つの系統に絞っており、業務文書の生成すべてに及ぶ書き方ではありません*1。範囲外の用途にこの条文の記録要件が直接かかるわけではない点は、要件定義の段階で確認しておく値があります。
まとめ:AI下書きの報告書で押さえる3つの視点
米国カリフォルニア州の上院法案524は2025年10月10日に知事の承認を受けて2025年法律第587号となり、刑法典に第13663条が新設されました。押さえたい視点は三つあります。第一に、対象の範囲。第(e)(1)項は、車載カメラやダッシュボード搭載カメラ、身体装着カメラの音声・映像の分析から警察報告書の記述を自動的に下書きするシステムと、警察官が口述した報告を分析して生成AIによって自動的に増補された記述を作るシステムの2つに適用すると書いています。第二に、公式報告書に入れるもの。各ページまたは本文中に、使用したすべての特定のAIプログラムを容易に分かる形で識別し、その全部または一部がAIを用いて書かれたことを目立つように記載します。あわせて、準備した警察官または職員が物理または電子の署名を付し、内容を検討したことと事実が真実かつ正確であることを検証します。第三に、残す記録と預かったデータの扱い。AIのみが生成した第一稿は公式報告書が保存される期間と同じ期間保存され、公式報告書を除く下書きは警察官の陳述を構成しません。監査証跡は同じ期間維持され、AIを用いて報告書を作成した者と、作成に用いられた映像および音声を識別します。契約ベンダーは、提供された情報の共有・販売・その他の利用を禁じられ、例外は契約先の機関の目的と裁判所の命令の2つに限られる一方、トラブルシューティング、バイアスの緩和、精度の向上、システムの改良の目的でならAIが処理したデータへアクセスできます。
よくある質問
この条文は、AIで文書を作ることを禁じているのですか。
禁じていません。刑法典第13663条は、AIで全部または一部を生成した公式報告書について、使用したAIプログラムの識別と定型文の記載、準備した警察官または職員の署名を求めています。あわせてAIのみが生成した第一稿の保存と、監査証跡の維持を機関に求める内容です。使ってよいかではなく、使ったことをどう記録するかを定めた条文と読むのが正確です。
第一稿はいつまで保存する必要がありますか。
第(b)(1)項は、第一稿を公式報告書が保存される期間と同じ期間、機関が保存すると定めています。年数を直接書いていないため、公式報告書の保存期間に連動します。あわせて第(c)項の監査証跡も、公式報告書が保存される期間と同じ期間の維持が求められます。
ベンダーは預かったデータをモデルの学習に使えますか。
第(d)(1)項は、契約ベンダーが法執行機関から提供された情報を共有・販売・その他の方法で利用することを禁じ、例外を契約先の法執行機関の目的のためと裁判所の命令にもとづく場合の2つに限っています。他方で第(d)(2)項は、トラブルシューティング、バイアスの緩和、精度の向上、システムの改良の目的でAIが処理されたデータにアクセスできるとしています。どちらに当たる作業なのかを区別して扱う必要があります。
対象になるのはどんなAIですか。
第(e)(1)項は、車載カメラもしくはダッシュボード搭載カメラ、または身体装着カメラの音声もしくは映像の分析にもとづいて警察報告書の記述を自動的に下書きするシステムと、警察官が口述した報告を分析して生成AIによって自動的に増補された記述を作るシステムに適用すると書いています。業務文書の生成一般ではなく、この2つの系統に絞られています。
出典
- *1 参考:カリフォルニア州議会 上院法案524「Law enforcement agencies: artificial intelligence.」(2025年法律第587号・2025年10月10日知事承認および州務長官提出・刑法典第13663条を新設)(https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202520260SB524)。成立した法文の一次情報として。立法顧問要旨(AIで全部または一部を生成した公式報告書に所定の情報と署名を含めることを求める方針の維持、第一稿の保存、公式報告書を除く下書きが警察官の陳述を構成しないこと、監査証跡の維持、契約ベンダーの情報利用の禁止、州が義務付けた地方プログラムに当たることと政府法典第17500条以下による償還)、ならびに新設された刑法典第13663条の(a)(1)の識別と定型文、(a)(2)の署名、(b)(1)の第一稿の保存、(b)(2)の陳述に関する定め、(c)の監査証跡の2項目、(d)(1)の禁止と2つの例外、(d)(2)のアクセスが認められる4つの目的、(e)の5つの定義を確認した。確認日は2026年9月7日。(2026年9月確認)
- *2 参考:カリフォルニア州法 刑法典 第13663条(第4部 第4.7編「法執行機関の規制」)(https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/codes_displaySection.xhtml?lawCode=PEN§ionNum=13663)。法典に編入された現行条文として。刑法典第4部の第4.7編(第13650条から第13670条)に置かれていること、および(a)から(e)までの条文が上院法案524の法文と同一であることを確認した。確認日は2026年9月7日。(2026年9月確認)