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2026.07.09 らしくコラム

クラウド移行の失敗・注意点と回避策を外注で対応

LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託

移行の注意点のイメージ

この記事のポイント

  • クラウド移行の失敗は、コスト超過やリフト&シフトの放置など7つの典型パターンに整理できます。
  • AWS・Azure・Google Cloudの公式ガイドは、移行前のアセスメント不足と計画不足を主な失敗要因として位置づけています。
  • 移行前・移行中・移行後のチェックポイントを押さえることで、内製と外注の役割分担も判断しやすくなります。

クラウド移行の失敗とは、7つの典型パターンに整理できる状態

リスク回避のイメージ

クラウド移行の失敗とは、移行そのものは完了しても、コスト・性能・運用・セキュリティのいずれかで想定していた効果を得られない状態を指します*1*3。総務省「令和7年版情報通信白書」によれば、企業のクラウドサービス利用率は2024年時点で80.6%に達しています*7。移行そのものより、移行後の運用品質が課題になる企業が増えています。

図
図:クラウド移行で起こりやすい失敗の兆候と、回避策を講じた移行後の状態

AWSは移行戦略を7つの型(7R)に整理しています*1。既存構成を変えずに移す「Rehost」から、モダナイズを伴う「Refactor」まで幅があります。

どの型を選ぶかを誤ると、コスト・性能・運用のいずれかにしわが寄ります。以下では代表的な7つの失敗パターンを、原因・兆候・回避策の順に整理します。

失敗1・2:コスト超過とリフト&シフトの放置

失敗1はコスト超過です。オンプレミスの構成のまま仮想マシン単位でクラウドへ移す「Rehost」には、既存資産を変えずに移せる利点があります。

ただしクラウド最適化を実装しない分、コストや時間を節約できないとAWSは述べています*1。従量課金の仕組みを理解せずに移行すると、稼働時間やインスタンスサイズが最適化されないまま費用が積み上がります。

AWS Well-Architected Frameworkのコスト最適化の柱には、支出と使用状況の可視化が含まれます*5。需要に応じた供給の調整、継続的な最適化も主要な実践項目です。

つまりコスト超過は移行後に一度だけ見直せば済む話ではなく、可視化と調整を続ける運用として設計しておく必要があります。この視点を移行計画に組み込んでいない企業ほど、費用が想定を超えやすくなります。

失敗2はリフト&シフトの放置です。AWSは大規模移行において、まずRehost・Relocate・Replatformで移行を完了させ、その後にモダナイズすることを推奨しています*1

ところが移行後の最適化フェーズが実行されず、オンプレミス相当の構成のままクラウド上で稼働を続けるケースが見られます。この状態では、クラウド本来のスケーラビリティやマネージドサービスの利点を得られません。

英国NCSC(National Cyber Security Centre。英国政府のサイバーセキュリティ機関)も、リフト&シフトは既存の管理・セキュリティ負担のほとんどが利用者側に残る移行方式だと指摘しています*4。そのためクラウド本来のセキュリティ上の利点を、十分には実現できない場合があります。移行を「完了」ではなく「最適化に向けた出発点」と位置づけることが、この失敗を避ける出発点になります。

失敗3・4:性能劣化と移行後の運用崩壊

失敗3は性能劣化です。オンプレミス環境での動作を前提に設計されたアプリケーションを、検証なしにそのまま移行するケースがあります。

ネットワーク構成や依存関係を確認しないと、レイテンシの増加やスループットの低下が起こる場合があります。Google Cloudのアーキテクチャセンターは、依存関係の洗い出しをアセスメント段階の重要な作業としています*6。対象にはデータベースやメッセージブローカーなども含まれます。

失敗4は移行後の運用崩壊です。監視体制やアラート設計を、オンプレミス時代のまま引き継ぐ場合があります。

クラウド特有の障害パターン(インスタンスの再作成、リージョン間のレイテンシ、マネージドサービスの仕様変更など)を捉えられません。結果として障害の検知が遅れ、対応の負荷が運用担当者に集中します。

この2つの失敗は表面化する時期が異なりますが、原因は共通しています。移行前に本番相当の負荷でダウンタイム許容度や依存関係を検証していない点です。

Google Cloudは、最初に移行するワークロードとして依存関係が少なくダウンタイムを許容できるものを選ぶよう推奨しています*6。これは性能検証と運用体制の学習を段階的に進める狙いがあります。

失敗の症状・原因・回避策の関係を整理すると、次の表のようになります。

失敗パターン 表面化しやすい兆候 主な原因
コスト超過 請求額が計画を超え続ける 支出の可視化・調整の仕組みがない*5
リフト&シフトの放置 移行後に最適化作業が進まない モダナイズを移行計画に含めていない*1
性能劣化 レイテンシ増加・応答遅延 依存関係・負荷検証の不足*6
運用崩壊 障害検知の遅れ・対応の集中 監視設計をクラウド仕様に更新していない

失敗5・6:セキュリティ設定漏れとベンダーロックイン

失敗5はセキュリティ設定漏れです。NCSCは、リフト&シフトでは既存環境の脆弱性をそのまま持ち込む危険があると注意を促しています*4

アクセス制御の責任は、クラウド事業者ではなく利用者側にあります。オンプレミス時代は境界ネットワークで守られていた管理用プロトコルを、設定変更なくインターネットへ公開してしまう事例が典型的なパターンです。

移行直後は動作確認を優先しがちで、権限設定やログ監視体制の見直しが後回しになりやすい点も、この失敗が起こりやすい背景といえます。AWS CAFとは、AWSが提唱する組織のクラウド活用指針(AWS Cloud Adoption Framework)です。

セキュリティは、その6つの重要な観点の一つに位置づけられています*2。データと資産の保護を、移行の初期段階から組み込むことを推奨しています。

失敗6はベンダーロックインです。特定クラウドのマネージドサービスに強く依存した構成にすると、契約更新や料金改定の際に他クラウドへの切り替えコストが高くなります。

AWSのRepurchase戦略の説明でも、SaaS移行時には認証基盤やネットワーク構成の統合が必要になると述べられています*1。依存度が高い構成ほど、後戻りの選択肢が狭まる点は共通の課題です。

ロックイン自体を避けられない場面もあります。ただし、どの機能をマネージドサービスに委ね、どの機能を移植可能な形で残すかを移行計画の段階で判断しておけば、将来の選択肢を狭めずに済みます。判断を先送りにした結果、契約更新のタイミングで初めて依存度の高さに気づくのではないでしょうか。

失敗7:計画不足——アセスメント不足が招く手戻り

計画の重要性のイメージ

クラウド移行とは、既存システムの構成・依存関係・運用要件を事前に把握したうえで、対象クラウドの環境へ段階的に移す取り組みを指します*3*6。この定義が示すとおり、事前把握を省いた移行は、他の6つの失敗を招く土台になりやすいという特徴があります。

Azure CAF(Azure Cloud Adoption Framework。Microsoftが提唱する移行計画の指針)は、移行計画の段階で依存関係を発見しないとサービス障害を招くと説明しています*3。関連するワークロードを分断したまま移行すると、この障害が起こりやすくなります。

同フレームワークは、ワークロードを依存関係の種類ごとに分類し、まとめて移行するかどうかを判断する手順を推奨しています*3

計画不足の兆候は、移行スケジュールに検証期間が組み込まれていない点や、ロールバック手順が文書化されていない点に表れます。Azure CAFは、失敗した移行の定義基準(ヘルスチェックの失敗・性能劣化・セキュリティ問題など)を移行前に関係者間で合意しておくことを推奨しています*3

ロールバック手順は、検証環境でテストしておく必要があります。この手順がない状態で本番移行に進むと、問題発生時の判断が現場の即興対応に依存します。

計画不足を避けるには、移行対象の優先順位づけも欠かせません。Azure CAFは、依存関係が少なく複雑度の低いワークロードから移行し、チームが経験を積んだ段階で重要度の高いシステムへ進む順序を勧めています*3。優先順位を決めずに複雑なシステムから着手すると、検証不足のまま本番移行を迎えるリスクが高まります。

移行前・移行中・移行後で使えるチェックポイント

ここまでの7つの失敗パターンは、移行のどの段階で手を打つかによって防ぎやすさが変わります。段階ごとの主な確認ポイントを整理すると、次のようになります。

段階 主な確認ポイント 関連する失敗パターン
移行前(計画) 依存関係の洗い出しとダウンタイム許容度の確認*6
ロールバック手順の文書化と検証環境でのテスト*3
計画不足・性能劣化
移行中(実行) 簡易なワークロードから段階的に移行し検証する*3
権限設定とログ監視体制を移行のたびに見直す*2
運用崩壊・セキュリティ設定漏れ
移行後(運用) 支出の可視化と継続的なコスト最適化*5
Rehostした構成のモダナイズ計画を立てる*1
コスト超過・リフト&シフトの放置

このチェックポイントを一人の担当者が全段階で満たそうとすると、必要な知識領域が広くなります。ネットワーク設計、IAM(Identity and Access Management。クラウド資源への権限を管理する仕組み)の権限モデル、コスト管理、監視設計を横断的に扱える体制が前提になるためです。

失敗を防ぐ体制づくり——内製と外注の役割分担

移行対象のシステム数が少なく、依存関係も限られる場合は、自社の運用チームでチェックポイントを一通り確認しながら進められる場合があります。判断が分かれるのは、対象システムが多い環境や、複数クラウド・複数部門にまたがる構成での事前アセスメントです。

AWS CAFは、移行を組織全体の変革として捉えています*2。ビジネス・ガバナンス・プラットフォーム・セキュリティ・オペレーションの観点を横断して整合させる進め方を提示しています。この整合を移行担当者だけで担うのは負荷が大きく、外部の知見を組み合わせる企業も見られます。

専門パートナーに委託する場合は、依頼できる範囲の広さが選定の分かれ目になります。依存関係の洗い出しからロールバック手順の設計、移行後のコスト最適化までを一括して依頼できるか、それとも移行作業のみに限られるかを契約前に確認します。範囲が限られる委託では、失敗パターンの一部しか対応できない点に注意が必要です。

。移行対象のシステム構成やクラウドの利用状況によって、必要な体制と工数は変わってきます。現状のアセスメントから依頼できるパートナーを選ぶことが、計画不足による失敗を避ける現実的な進め方です。

まとめ:クラウド移行の失敗を防ぐ3つの判断軸

本稿ではクラウド移行の失敗パターンと回避策を、AWS・Azure・Google Cloudの公式ガイドに基づき整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、失敗はコスト超過・リフト&シフトの放置・性能劣化・運用崩壊・セキュリティ設定漏れ・ベンダーロックイン・計画不足の7パターンに整理できます*3。多くは、移行前のアセスメント不足が土台にあります*6。第二に、防ぐ手立ては移行前・移行中・移行後の3段階に分けて設計できます*1*5。第三に、対象システムの数や複雑度によって、内製で対応できる範囲と外部委託が必要な範囲は変わります。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、AWS・Azure環境の保守・運用を元請(プライムベンダー)として受託しています。移行前の依存関係アセスメントから、コスト可視化の仕組み構築、移行後のセキュリティ設定点検まで一貫して対応する体制を整えています。移行後の運用まで見据えて計画したい企業様は、現状の構成診断からご相談いただけます。

よくある質問

クラウド移行のコスト超過は、どの段階で気づけますか。

請求額の急増そのものは移行の1〜2か月後に表れやすいです。ただしAWS Well-Architected Frameworkが推奨する支出可視化の仕組みを移行前から設計しておけば、早い段階で兆候を捉えられます*5。移行計画の段階でコスト監視の担当と確認頻度を決めておくことが大切です。

リフト&シフトのまま運用を続けるのは避けるべきですか。

対象システムの重要度や更新頻度によって判断は分かれます。AWSはRehostを大規模移行の出発点として推奨しつつ、移行完了後にモダナイズする進め方を勧めています*1。放置してよいわけではなく、最適化の計画をいつ実行するかを移行時点で決めておく必要があります。

セキュリティ設定漏れは、どうすれば見つけられますか。

管理用プロトコルの外部公開状況やIAM権限の付与範囲を、移行直後と定期のタイミングで棚卸しする方法が挙げられます。NCSCはアクセス制御の責任が利用者側にあると明示しており*4、クラウド事業者の既定設定に任せきりにしない点が確認の起点になります。

ベンダーロックインを避けるには、どの段階で判断すればよいですか。

移行計画を立てる段階で、どの機能をマネージドサービスに委ね、どの機能を移植可能な形で残すかを整理しておくことが判断の起点になります。契約更新のタイミングで初めて依存度に気づくと、選択肢が限られた状態での交渉になりやすいです。

移行作業を外部に委託する場合、何を確認すればよいですか。

依存関係の洗い出しからロールバック手順の設計、移行後のコスト最適化までを一括して依頼できるかを、契約前に確認します。移行作業のみに範囲が限られる委託では、計画不足によるトラブルまでは防げない場合があるため、依頼範囲の線引きをすり合わせることが大切です。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑


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  1. *1 出典:AWS「About the migration strategies」(AWS Prescriptive Guidance)(https://docs.aws.amazon.com/prescriptive-guidance/latest/large-migration-guide/migration-strategies.html
  2. *2 出典:AWS「AWS Cloud Adoption Framework (AWS CAF)」(https://aws.amazon.com/cloud-adoption-framework/
  3. *3 出典:Microsoft「Plan your migration」(Cloud Adoption Framework、Microsoft Learn、2025年8月更新)(https://learn.microsoft.com/en-us/azure/cloud-adoption-framework/migrate/plan-migration
  4. *4 出典:英国NCSC(National Cyber Security Centre)「How to lift and shift successfully」(2023年11月28日公開)(https://www.ncsc.gov.uk/collection/cloud/using-cloud-services-securely/how-to-lift-and-shift-successfully
  5. *5 出典:AWS「Cost Optimization Pillar – AWS Well-Architected Framework」(2024年6月27日公開)(https://docs.aws.amazon.com/wellarchitected/latest/cost-optimization-pillar/welcome.html
  6. *6 出典:Google Cloud「Migrate to Google Cloud: Assess and discover your workloads」(Cloud Architecture Center)(https://docs.cloud.google.com/architecture/migration-to-gcp-assessing-and-discovering-your-workloads
  7. *7 出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」(クラウドサービス、2025年公表)(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd111210.html


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