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2026.08.20 らしくコラム

デジタル製品パスポートとは|製造業の備え



監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論

  • デジタル製品パスポート:製品ごとの情報を電子的に辿れるようにする仕組みで、EUの製品規制のなかで整備が進んでいます。
  • 先行するのはバッテリー:電池の分野で具体的な要求と時期が定められ、他の製品群へ順次広がる見込みです。
  • システムの要:識別子の粒度、供給元からのデータ収集、相手ごとの開示範囲の制御——この三点が設計の中心になります。

※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。

製品を売るときに、その製品が何からできていて、どう作られ、どれだけ環境に負荷をかけたのかを電子的に示す。この考え方が、EUの製品規制のなかで形になりつつあります。デジタル製品パスポート(DPP)と呼ばれる仕組みです。

本記事では、EU向けに製品を出している製造業、あるいはそのシステムを受託する立場の担当者に向けて、制度の考え方、先行するバッテリー分野の動き、そしてシステム側で必要になる設計を整理します。対象製品や時期は今後具体化される部分が多いため、実際の対応は公式資料で確かめながら進めてください。

製品の情報をデジタルで追跡する仕組みを検討する製造業の現場イメージ

デジタル製品パスポートとは——製品情報を辿れるようにする仕組み

EUでは、製品の設計段階から環境への配慮を求める枠組みが整えられ、そのなかで製品情報を電子的に提供する仕組みが位置づけられました*1。狙いは、修理や再利用、リサイクルをしやすくすること、そして市場での比較を可能にすることです。製品に付けた識別子から、材料や耐久性、扱い方といった情報へ辿れる状態を作ろう、という発想になります。

デジタル製品パスポートに必要なデータの流れ(部材の情報、製造の記録、環境の指標、公開の窓口)と、システム側で用意するもの(識別子の設計、収集の経路、開示の制御)を示した図

対象となる製品群や、求められる項目は、製品ごとに段階的に定められていく形です。したがって「いつから何を出すのか」は分野によって異なります。まずは自社の製品が対象になりうるのか、どの分野が先に動くのかを押さえるところからになります。

実務の目線でみると、これは環境対応の話であると同時に、データ管理の話です。製品一つひとつについて、部材の情報と製造の記録、環境に関わる指標を持ち、外部へ示せる形にしておく。この三つが揃っていなければ、制度が求める形にはなりません。

先行するバッテリー分野の動き

具体的な要求が先に定まったのは、電池の分野です。EUでは電池に関する規則が整備され、一定の種類の電池について、電子的な情報提供の仕組みを備えることが求められています*2。対象や時期は規則のなかで示されており、他分野に先立って動く形になりました。

求められる情報の例としては、電池の種類や容量といった基本の情報、材料の構成、製造の履歴、性能や耐久性に関わる指標、そしてリサイクルに必要な情報などが挙げられます。個体を識別できることが前提になるため、製造時点で識別子を割り当て、その後の情報を紐づけていく設計が要ります。

日本企業にとっては、電池そのものを作っていなくても影響が及ぶ場面があります。電池を組み込んだ製品を欧州向けに出している、電池の部材を供給している、あるいは電池を扱う設備のシステムを担っている——こうした立場では、情報を渡す側として要求に応える必要が出てきます。

先行分野の要求を見ておく意味は、他分野の見通しが立つことにあります。求められる情報の型や、識別子の扱い、外部への提供の形は、分野が変わっても共通する部分が多いはずです。早めに手をつけた企業は、その仕組みを次の分野へ流用できます。

システム側で必要になる三つの設計

制度対応の実質は、社内のデータを整えることに尽きます。設計の要は次の三点です。

表1:デジタル製品パスポートに向けたシステム設計の要点
要点 決めること つまずきやすい点
識別子の粒度 個体・ロット・型式のどこで管理するか 既存の生産管理が型式単位で、個体を追えない
収集の経路 供給元からどの様式で、どの頻度で受け取るか 紙やメールでのやりとりが残り、更新が追えない
開示の制御 誰にどの項目を見せるか、履歴を残すか 営業秘密に当たる情報の線引きが決まっていない

とくに重いのが二番目、供給元からの収集です。自社の工程の記録は整えられても、部材の材料構成や排出量の情報は取引先から受け取るしかありません。ここを個別のやりとりに頼っていると、製品が増えるほど回らなくなります。様式を決め、受け取りの窓口を一本化するのが現実的でしょう。

三番目の開示の制御も見落とせません。すべてを公開するわけではなく、相手(消費者、修理事業者、リサイクル事業者、当局)によって示す範囲が変わります。項目ごとに公開の区分を持たせ、誰がいつ参照したのかを残せる作りにしておくと、後の運用が楽になります。

既存システムとの接続——どこから手を付けるか

多くの企業では、必要な情報が複数のシステムに散っています。部品表は設計側、製造の記録は工場側、環境に関わる指標は別の集計。これを一つに集める作業が、実務の中心になります。

第一歩は、情報の在りかの棚卸しです。どの項目が、どのシステムに、どの粒度で存在するのか。この一覧を作ると、足りない項目と、集約に必要な連携が見えてきます。ここを飛ばして基盤の選定に入ると、後で作り直しになります。

第二歩は、識別子の設計です。個体を追う必要があるなら、製造の工程で識別子を付与し、以降の記録に紐づける仕組みが要ります。既存の生産管理が型式単位で動いている場合、ここが最も大きな改修になります。基幹システムの改修と同じ規模の話になることもあるため、早めの見積りが要ります。

第三歩は、外部への提供の仕組みです。識別子から情報へ辿れる窓口を用意し、項目ごとに開示の範囲を制御します。将来的に標準的な様式が定まる可能性を考えると、内部の持ち方と外部への出し方を分けておくのが賢明です。出し方だけを差し替えられる作りにしておけば、様式の変更に追随できます。

あわせて、環境に関わる指標の集計も論点になります。排出量の算定は別の制度でも求められるため、ESG・GHG算定システムの仕組みと重ねて設計すると、二重の投資を避けられます。

受託・委託開発で押さえる実務ポイント

この領域の案件は、制度の細部が固まりきっていない段階で始まることが多いところです。だからこそ、進め方に工夫が要ります。

第一に、変わる部分と変わらない部分を分けることです。識別子の管理、部材情報の収集、記録の保持——ここは制度が変わっても要ります。いっぽう、出力の様式や項目の細部は動きます。後者を設定として持たせ、前者を作り込むのが定石です。

第二に、供給元との受け渡しを軽くすることです。取引先に高度な仕組みを求めても、応じられないことがあります。表計算ファイルの取り込みから始め、段階的に自動化していく道筋を用意しておくと、現実的に前へ進みます。

第三に、データの正しさを保つ仕組みです。集めた情報が古い、単位が違う、対象製品が取り違えられている——こうした崩れはどこかで起きます。取り込み時の検査と、差し戻しの流れを設計に含めておきます。

第四に、範囲を絞って始めることです。全製品を一度に対象にすると終わりません。対象になりうる製品群、あるいは欧州向けの主力製品から始め、仕組みを作ってから広げるほうが早く回ります。

製造業の情報基盤づくりは、現場の運用と切り離せません。工程の記録をどう取るのか、現場の負担をどこまで増やせるのか。製造実行の仕組みのように現場側の事情を踏まえた設計が、結局は続く仕組みになります。

まとめ:デジタル製品パスポートで押さえる3つの視点

デジタル製品パスポートは、製品ごとの情報を電子的に辿れるようにする仕組みで、EUの製品規制のなかで整備が進んでいます。押さえたい視点は三つです。第一に、対象製品と求められる項目は分野ごとに段階的に定められ、電池の分野が具体的な要求と時期を伴って先行していること。第二に、システム側の要は識別子の粒度、供給元からのデータ収集、相手ごとの開示範囲の制御であり、とくに供給元からの収集が実務の山場になること。第三に、制度の細部が動く前提で、変わらない部分(識別子・収集・記録)を作り込み、出力の様式は設定として持たせる設計が有効なことです。まずは情報の在りかを棚卸しし、欧州向けの主力製品から範囲を絞って着手するのが現実的でしょう。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、製造業の業務システムやデータ基盤の開発・運用を受託しています。情報の在りかの棚卸しから識別子の設計、供給元からの受け取りの仕組み、開示範囲を制御する外部提供の実装まで、制度が動く前提での段階的な進め方をご提案できるのが強みです。

よくある質問

自社製品が対象になるか、どう判断すればよいですか。

対象となる製品群は分野ごとに定められていくため、まずは自社の製品が該当しうる分野の動きを追うところからになります。電池のように具体的な要求が定まった分野では、対象の種類や時期が規則のなかで示されています。欧州向けに出している製品を一覧にし、分野ごとの状況と突き合わせるのが確実です。

電池を作っていなくても関係しますか。

関係する場面があります。電池を組み込んだ製品を欧州向けに出している場合、その電池について求められる情報を用意する必要が生じます。また、部材を供給する立場では、材料構成や排出量などの情報を渡す側として要求に応えることになります。取引先からの依頼が入口になるケースが多いところです。

何から着手すればよいですか。

情報の在りかの棚卸しです。求められうる項目に対して、どのシステムにどの粒度で存在するのかを一覧にします。この作業で、足りない項目と、集約に必要な連携が具体化します。基盤の選定を先に進めると、実態と合わずに作り直しになりがちです。

供給元から情報を集める仕組みは、どう作ればよいですか。

様式を決め、受け取りの窓口を一本化するところから始めるのが現実的です。取引先の体制には差があるため、表計算ファイルの取り込みから始め、段階的に自動化していく道筋を用意します。取り込み時に単位や対象製品の検査を入れ、差し戻しの流れも設計に含めておきます。

制度の細部が固まる前に投資して大丈夫ですか。

変わらない部分に絞れば無駄になりにくいです。識別子の管理、部材情報の収集、記録の保持は、制度がどう固まっても必要になります。出力の様式や項目の細部は設定として持たせ、差し替えられる作りにしておけば、変更に追随できます。

製品情報の基盤づくり・システム連携のご相談はLASSICへ

元請(プライムベンダー)として、情報の棚卸しから識別子の設計、供給元との受け渡し、外部提供の実装まで、段階的に進める形でご提案します。まずはお気軽にご相談ください。

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出典

  1. *1 参考:European Commission「Ecodesign for Sustainable Products Regulation」(https://commission.europa.eu/energy-climate-change-environment/standards-tools-and-labels/products-labelling-rules-and-requirements/ecodesign-sustainable-products-regulation_en)。製品の設計段階からの要求と、デジタル製品パスポートの位置づけの参考として(2026年8月確認)
  2. *2 参考:European Commission「Batteries(Environment)」(https://environment.ec.europa.eu/topics/waste-and-recycling/batteries-and-accumulators_en)。電池に関する規則の枠組みと、電子的な情報提供に関する要求の参考として(2026年8月確認)




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