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Apply AI戦略とは|10分野の旗艦とAI優先
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 10分野+公共部門が対象:分野ごとの旗艦措置でAIの採用を後押しする構成です*1。
- 「AI優先」と「欧州製を買う」:特に公共部門で、オープンソースのAIを重視するとされています*1。
- 入口はAIの経験センター:欧州デジタルイノベーションハブが転換され、窓口になります*1。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
EUのAI政策を「規制の話」として追っていると、採用を促す側の動きを見落とします*1。
欧州委員会のApply AI戦略は、EUの分野横断的なAI戦略と位置づけられ、AI Continent Action Planを補完する具体的な行動をまとめたものです*1。10の主要な産業分野と公共部門を対象に、「AI優先」の方針と「欧州製を買う」方針を掲げています*1。
EU向けの案件を担う立場、あるいは同種の政策を自社の企画に取り込みたい立場に向けて、戦略の構成と実務で使える部分を一次情報から整理します。制度の適用は事情によりますので、法務や調達の担当とあわせて確認してください。
目次
Apply AI戦略の位置づけ
まず、何を目的にした文書なのかです*1。
欧州委員会は、Apply AI戦略がEUの分野横断的なAI戦略であり、EUをAI Continentにするためのもう一つの一歩だと説明しています*1。
狙いは二つに整理されています*1。戦略的分野の競争力を高めることと、EUの技術的主権を強めることです*1。そのうえで欧州全体でAIの採用とイノベーションを後押しし、特に中小企業(SME)において進めることを目指すとされています*1。
方針として二つの言葉が置かれています*1。ひとつは「AI優先の政策(AI first policy)」で、組織が戦略や政策の判断をする際に、その技術の便益とリスクを慎重に考えたうえで、AIを解決策の候補として検討することを促すとされています*1。もうひとつは「欧州製を買う(buy European)」の考え方で、特に公共部門について、オープンソースのAIの解決策に重点を置く形で促すとされています*1。
位置づけも明示されています*1。AI Continent Action Planを、具体的な行動をもって補完するものであり、AIの変革的な可能性を活かすことを目的とするとされています*1。
付属文書も三つ公表されています*1。戦略の検討のために実施された構造化対話の要約表、欧州委員会自身のAI関連の取り組み、欧州委員会のAI関連の行動の要約表です*1。
3つの構成——旗艦・支援措置・ガバナンス
戦略は三つのセクションで構成されています*1。
ひとつめは分野別の旗艦(sectoral flagships)です*1。10の主要な産業分野と公共部門でAIの採用を後押しするための、的を絞った措置が含まれるとされています*1。挙げられている産業分野は次のとおりです*1。
| 分野 | 内容 |
|---|---|
| 医療・医薬 | ヘルスケアと製薬。旗艦の例として、AIを活用した高度な検診センターが挙げられています |
| モビリティ・輸送・自動車 | 移動と輸送、自動車の分野 |
| ロボティクス | ロボット技術の分野 |
| 製造・エンジニアリング・建設 | 製造業、エンジニアリング、建設の分野 |
| 気候・環境/エネルギー | 気候と環境、およびエネルギーの分野 |
| 農食 | 農業・食品(agri-food)の分野 |
| 防衛・セキュリティ・宇宙 | 防衛、セキュリティ、宇宙の分野 |
| 電子通信 | 電子コミュニケーションの分野 |
| 文化・創造・メディア | 文化、創造産業、メディアの分野 |
| 公共部門 | 産業分野とあわせて対象に挙げられています |
ふたつめは支援措置と行動です*1。AIの開発と採用に対する横断的な課題に取り組むことで、EUの技術的主権を高めるものとされています*1。ここで注目したいのが窓口の整理です*1。欧州デジタルイノベーションハブ(EDIH)の役割が補強され、AIの経験センター(Experience Centres for AI)へ転換されて、EUのAIイノベーションのエコシステムへの入口となるとされています*1。
その先に並ぶ資源も列挙されています*1。AI FactoriesとAI Gigafactories、AIの試験・実証施設、AIの規制サンドボックスです*1。あわせてAIに対応できる人材を可能にするいくつかの措置も予定されているとされています*1。
みっつめは新しいガバナンスの仕組みの創設です*1。Apply AI Allianceが主要な調整の場となり、AIの提供者、産業界のリーダー、学術界、公共部門を集めて、政策上の行動が現実のニーズに根づくようにするとされています*1。これと密接に結びついたAI Observatoryが、AIの動向を追跡し、特定の分野におけるAIの影響を評価するとされています*1。
「AI優先」と「欧州製を買う」が意味すること
この二つは、提案の書き方に直接響きます*1。
「AI優先」は、組織が戦略や政策の判断をするたびに、AIを解決策の候補として検討する方針です*1。重要なのは便益とリスクを慎重に考慮したうえでという条件が付いている点です*1。とにかくAIを入れるという話ではなく、検討したことを説明できる状態にするという読み方になります。
「欧州製を買う」は、特に公共部門に向けた方針で、オープンソースのAIの解決策に重点を置くとされています*1。受託の観点では、提案する構成のうちどこがオープンソースかを整理しておく意味が出てきます。
基盤側の政策とも接続しています*1。技術主権パッケージの一部であるクラウド・AI開発法(CADA)が、Apply AI戦略の「AI優先」の方針をさらに強めるとされ、加盟国全体でAIの採用に協調した手法を促し、AIのための経験・加速センターの役割を、主要な産業部門と公共部門でのAI展開を支える地域のハブとして補強すると説明されています*1。CADAの主権レベルとあわせて見ると、買う側の条件と提供する側の条件が同じ方向で整備されていることが分かります。
研究側の補完も示されています*1。Apply AI戦略はAI in Science戦略とあわせて提示され、後者は欧州の科学コミュニティによるAIの開発と利用を支え、促すものとされています*1。その実行としてResource for AI Science in Europe(RAISE)のパイロットが立ち上げられ、資金、計算資源、データ、人材といった戦略的な資源を束ねるとされています*1。RAISEは二つの柱で動くとされ、Science for AI(AIの中核的な能力を進める基礎研究の支援、特に安全性・セキュリティを備えたフロンティアAI)と、AI in Science(さまざまな科学分野の進展のためのAIの利用の促進)です*1。
エネルギー分野のロードマップも並走します*1。エネルギー分野のデジタル化とAIに関するロードマップは、デジタルの解決策を通じて既存および新興のエネルギー資産の利用を最適化することを目指すとされ、欧州の電力インフラを賢くするためのデジタルとAIの展開の加速、欧州のデータで訓練された主権的でセキュアなAIモデルの構築支援(混雑の管理、再生可能エネルギーの統合の最適化)、そしてデータセンター運営者・エネルギー関係者・行政の三者間のモデル協定によって、データセンターをEUのエネルギーシステムへ統合することが挙げられています*1。
データ側の補完——Data Union戦略
AIの採用を進めるうえで、データの手当てが別立てで用意されています*2。
欧州委員会は、Data Union戦略がAIの開発のためのデータの利用可能性を高め、EUのデータ規則を簡素化し、国際的なデータの流れにおけるEUの立場を強めると説明しています*2。Apply AI戦略の側からも、AIモデルの訓練に不可欠な高品質かつ大規模なデータセットの利用可能性を確保するData Union戦略によって補完されるとされています*1。
優先領域は三つです*2。AIのためのデータへのアクセスの拡大、データ規則の合理化、EUのデータ主権の確保です*2。
アクセス拡大の旗艦としては、最初のデータラボの立ち上げ(データ空間とAIエコシステムを結び、官民の資源を束ねて中小企業や研究者に高品質な分野データを提供する)、約1億ユーロのEU投資に支えられた共通欧州データ空間の拡大(防衛のデータ空間を含む新しいデータ空間の創設)、そして横断的な促進策の検討(オープンデータ指令のもとでの高価値データセットの拡大、3,000万点のデジタル化された文化資産をAIの訓練に利用可能にすること、合成データの活用の促進)が挙げられています*2。
規則の合理化については、Data Union戦略がDigital Omnibusとあわせて公表され、Digital OmnibusはデータActを含むEUのデータ法を近代化し統合する方策を提案するとされています*2。不要な負担を取り除き、時代に合わない規定を廃止することで、遵守のコストを下げ、ルールを適用しやすくすると説明されています*2。
支援文書も公表されています*2。データへのアクセスと利用に関するモデル契約条項、クラウドコンピューティング契約のための標準契約条項、データActの法務ヘルプデスクです*2。データ法によるクラウド切替の対応を進めている場合、これらは実務で使える材料になります。
データ主権の側では、EUのデータが海外で公正に取り扱われているかを評価するためのガイドラインの発行と、正当化されない現地化、排除、データの流出に対抗するツールボックスと、機微な非個人データを保護する措置が旗艦として挙げられています*2。
受託・発注の実務で使えるところ
使いどころを順に挙げます。
第一に、分野の当てはめです。旗艦の対象として医療・医薬、モビリティ、ロボティクス、製造、エンジニアリングと建設、気候と環境、エネルギー、農食、防衛とセキュリティと宇宙、電子通信、文化と創造とメディアが挙げられています*1。担当している案件がどの分野に当たるかで、参照できる施策が変わります。
第二に、窓口の把握です。欧州デジタルイノベーションハブがAIの経験センターへ転換され、EUのAIイノベーションのエコシステムへの入口になるとされています*1。AI Factories、試験・実証施設、規制サンドボックス——利用したい資源があるとき、まずここを見る形になります*1。
第三に、オープンソースの整理です。「欧州製を買う」はオープンソースのAIの解決策に重点を置く形で促されます*1。提案書でどのコンポーネントがオープンソースで、どこが商用かを分けて書けるようにしておくと、説明が短くなります。
第四に、データの調達計画です。Data Union戦略はデータラボと共通欧州データ空間を軸に据えています*2。学習データの確保が課題になる案件では、自前で集める以外の道を検討材料に入れられます。
第五に、契約ひな形の活用です。データへのアクセスと利用に関するモデル契約条項とクラウド契約の標準契約条項が公表されています*2。ゼロから条項を起草するより、公表されたひな形との差分で議論したほうが早い場面があります。
社内の説明で混同されやすいのは、「規制」と「振興」の文書を同じ棚に入れてしまうことです。AI Actは義務を課す規則で、高リスクの期限が論点になります。一方Apply AI戦略は採用を促す戦略で、義務ではありません*1。守る話と使う話を分けて並べると、要件表が整理できます。
ガバナンスの動きも追う価値があります*1。Apply AI AllianceがAIの提供者、産業界、学術界、公共部門を集める調整の場とされ、AI Observatoryが分野ごとのAIの影響を評価するとされています*1。分野の動向を外から読む材料として使えます。
戦略の本文と付属文書は、欧州委員会のサイトで公開されています*1。適用や利用の可否は事情によって変わりますので、確認を挟みながら進めてください。
まとめ:Apply AI戦略で押さえる3つの視点
Apply AI戦略は、EUの分野横断的なAI戦略として、戦略的分野の競争力を高めEUの技術的主権を強めることを目指し、特に中小企業においてAIの採用とイノベーションを後押しするとされています。押さえたい視点は三つです。第一に、構成。分野別の旗艦は10の主要な産業分野と公共部門でAIの採用を後押しする的を絞った措置を含み、医療・医薬、モビリティと輸送と自動車、ロボティクス、製造、エンジニアリングと建設、気候と環境、エネルギー、農食、防衛とセキュリティと宇宙、電子通信、文化と創造とメディアが挙げられています。支援措置は横断的な課題に取り組み、欧州デジタルイノベーションハブがAIの経験センターへ転換されてAI FactoriesやAI Gigafactories、試験・実証施設、規制サンドボックスへの入口になります。新しいガバナンスとしてApply AI Allianceが主要な調整の場となり、AI ObservatoryがAIの動向と分野ごとの影響を評価します。第二に、方針。組織が戦略や政策の判断をする際に便益とリスクを慎重に考えたうえでAIを解決策の候補として検討する「AI優先」の方針と、特に公共部門についてオープンソースのAIの解決策に重点を置く「欧州製を買う」方針が掲げられています。技術主権パッケージの一部であるクラウド・AI開発法が「AI優先」をさらに強めるとされています。第三に、補完する枠組み。AI in Science戦略とRAISEのパイロットが資金・計算資源・データ・人材を束ね、Data Union戦略がAIモデルの訓練に不可欠な高品質で大規模なデータセットの利用可能性を確保します。Data Union戦略はAIのためのデータへのアクセスの拡大、データ規則の合理化、EUのデータ主権の確保を優先領域とし、データラボの立ち上げ、約1億ユーロの投資に支えられた共通欧州データ空間の拡大、モデル契約条項やクラウド契約の標準契約条項の公表などが挙げられています。
よくある質問
Apply AI戦略とは何ですか。
欧州委員会が示したEUの分野横断的なAI戦略で、EUをAI Continentにするためのもう一つの一歩と位置づけられています。戦略的分野の競争力を高めEUの技術的主権を強めることを目的とし、欧州全体、特に中小企業においてAIの採用とイノベーションを後押しするとされています。AI Continent Action Planを具体的な行動をもって補完するものです。
「AI優先の政策」とはどういう意味ですか。
組織が戦略や政策の判断をするたびに、その技術の便益とリスクを慎重に考慮したうえで、AIを解決策の候補として検討することを促す方針です。あわせて、特に公共部門について、オープンソースのAIの解決策に重点を置く「欧州製を買う」考え方も促すとされています。
戦略はどのような構成になっていますか。
三つのセクションで構成されています。10の主要な産業分野と公共部門でAIの採用を後押しする分野別の旗艦、AIの開発と採用に対する横断的な課題に取り組む支援措置と行動、そしてApply AI AllianceとAI Observatoryからなる新しいガバナンスの仕組みの創設です。
AIの経験センターとは何ですか。
欧州デジタルイノベーションハブの役割が補強され転換されたもので、EUのAIイノベーションのエコシステムへの入口になるとされています。AI FactoriesとAI Gigafactories、AIの試験・実証施設、AIの規制サンドボックスがその先に並びます。
データの手当てはどうなっていますか。
Data Union戦略が、AIモデルの訓練に不可欠な高品質かつ大規模なデータセットの利用可能性を確保するとされています。AIのためのデータへのアクセスの拡大、データ規則の合理化、EUのデータ主権の確保を優先領域とし、データラボの立ち上げや共通欧州データ空間の拡大、モデル契約条項やクラウド契約の標準契約条項の公表などが挙げられています。
EUのAI政策を踏まえた企画づくりはLASSICへ
元請(プライムベンダー)として、対象分野の当てはめからオープンソースと商用の切り分け、学習データの調達計画、契約ひな形との差分づくりまでご提案します。まずはお気軽にご相談ください。
出典
- *1 参考:European Commission「Apply AI Strategy」(https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/apply-ai)。Apply AI戦略がEUの分野横断的なAI戦略でありEUをAI Continentにするためのもう一つの一歩と位置づけられること、戦略的分野の競争力を高めEUの技術的主権を強めることを目的とし特に中小企業においてAIの採用とイノベーションを後押しするとされること、便益とリスクを慎重に考慮したうえでAIを解決策の候補として検討する「AI優先の政策」と特に公共部門についてオープンソースのAIの解決策に重点を置く「欧州製を買う」の考え方、AI Continent Action Planを具体的な行動をもって補完すること、三つのセクションの構成(10の主要な産業分野と公共部門を対象とする分野別の旗艦とその分野の列挙および医療におけるAI活用の高度検診センターの例、横断的な課題に取り組む支援措置と欧州デジタルイノベーションハブのAIの経験センターへの転換およびAI Factories・AI Gigafactories・試験実証施設・規制サンドボックス・人材面の措置、Apply AI AllianceとAI Observatoryによる新しいガバナンス)、三つの付属文書、AI in Science戦略との同時提示とRAISEのパイロットおよび二つの柱、Data Union戦略による補完、技術主権パッケージの一部であるクラウド・AI開発法が「AI優先」を強めることとAIのための経験・加速センターの役割の補強、ならびにエネルギー分野のデジタル化とAIに関するロードマップの内容(電力インフラのためのデジタルとAIの展開の加速、欧州のデータで訓練された主権的でセキュアなAIモデル、データセンター運営者とエネルギー関係者と行政の三者間のモデル協定によるデータセンターのEUエネルギーシステムへの統合)の一次情報として。最終更新2026年8月21日。確認日は2026年8月27日。(2026年8月確認)
- *2 参考:European Commission「Data Union Strategy」(https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/data-union)。Data Union戦略がAIの開発のためのデータの利用可能性を高めEUのデータ規則を簡素化し国際的なデータの流れにおけるEUの立場を強めること、三つの優先領域(AIのためのデータへのアクセスの拡大、データ規則の合理化、EUのデータ主権の確保)、アクセス拡大の旗艦(最初のデータラボの立ち上げとデータ空間およびAIエコシステムの接続、約1億ユーロのEU投資に支えられた共通欧州データ空間の拡大と防衛のデータ空間を含む新設、オープンデータ指令のもとでの高価値データセットの拡大・3,000万点のデジタル化された文化資産のAI訓練への提供・合成データの活用の促進)、Digital Omnibusとの同時公表とデータActを含むEUデータ法の近代化・統合の提案および遵守コストの低減、支援文書(データへのアクセスと利用に関するモデル契約条項、クラウドコンピューティング契約のための標準契約条項、データActの法務ヘルプデスク)、ならびにデータ主権の旗艦(EUのデータの海外での公正な取扱いを評価するガイドラインの発行、正当化されない現地化・排除・データ流出に対抗するツールボックスと機微な非個人データの保護措置)と、中小企業を含む企業のデータセットへのより簡便で安価なアクセスと遵守コストの低下・研究者への高品質データの提供・消費者へのイノベーションという便益の一次情報として。確認日は2026年8月27日。(2026年8月確認)