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内製化vs外注コスト|損益分岐点で比較・試算
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- 内製コストと外注コストには異なる費用構造があり、損益分岐点(ブレークイーブン)を試算することで意思決定の根拠を数値化できます。
- 開発規模や継続期間によって有利なモデルは変わるため、単発・中規模・長期の3パターンでコスト構造を比較することが重要です。
- コア業務か否かを軸にしたハイブリッド判断や、TCO(総保有コスト)視点を加えることで、より精度の高い意思決定が可能になります。
目次
損益分岐点から見る内製vs外注の基本的な考え方
損益分岐点(ブレークイーブン・ポイント)とは、内製コストと外注コストが等しくなる開発規模や継続期間の境界値のことです。この境界を超えると、どちらか一方が経済的に有利になるため、投資判断の起点として活用されます。「内製か外注か」という定性的な議論を定量的な比較軸に落とし込む際に、損益分岐点の試算は意思決定の精度を高める重要な手法です。
内製コストの主な構成要素(人件費・採用教育・固定費)
内製化を選択した場合のコストは、大きく「人件費」「採用・教育費」「固定費」の3層に分かれます。これらは一度発生すると継続的にかかる費用であり、開発プロジェクトの有無にかかわらず発生する固定的な支出が中心です。
人件費については、JISA(情報サービス産業協会)が公表している「2024年版 情報サービス産業 基本統計調査」によると、従業員1人当たり人件費は年間約794万円(2023年4月〜2024年3月の事業年度)とされています*2。この数値には給与のほか、社会保険料や退職給付費用なども含まれるため、実態コストとして参考になります。
採用・教育費は、求人広告費、エージェント手数料、入社後の研修コストなどを含みます。採用単価は職種・スキルレベルによって異なりますが、エンジニア採用では数十万〜百万円超のケースも珍しくありません。教育投資はスキル習得までの期間も含めると、実質的な戦力化まで数ヶ月単位のロスが生じます。
固定費としては、開発環境・ライセンス費用、オフィス・設備費、セキュリティ対策費などが挙げられます。これらは人員規模に応じて積み上がる一方、プロジェクトが終了しても継続してかかる点がコスト管理上のリスクになります。離職時の再採用コストや引き継ぎロスも、内製特有の隠れたコストとして計上が必要です。
外注コストの主な構成要素(委託費・管理工数・変動費)
外注(アウトソーシング)のコスト構造は、内製とは異なり変動費が中心です。主な構成要素は「委託費」「管理工数コスト」「変動対応費」の3つです。
委託費は、開発規模や工数に応じた請負・準委任契約の費用です。発注量に連動して発生するため、プロジェクトが完了すれば費用も止まります。一方で、要件変更や仕様追加が発生した場合には追加費用が発生しやすく、スコープ管理が重要になります。
管理工数コストとは、発注側が外注先のマネジメントに費やす社内工数を金銭換算したものです。仕様書作成・レビュー・進捗管理・品質確認などの業務は発注元にも相応の工数がかかるため、純粋な委託費だけで比較すると実態よりも外注を安く見積もってしまいます。
変動対応費は、緊急対応・追加要件・サポート延長などの費用です。契約外の作業が生じた場合に単価が上乗せされるケースが多く、長期プロジェクトではバッファとして予算に含めておくことが望ましいです。
開発規模・継続期間別の損益分岐点の試算例
内製と外注のどちらが経済的に有利かは、開発規模と継続期間によって大きく変わります。以下では小規模・中規模・大規模の3パターンで損益分岐点の考え方を整理します。なお、以下の試算は概念的な比較モデルであり、実際の費用は企業規模・業種・スキル要件等によって異なります。
小規模・単発開発(1〜3ヶ月程度)でのコスト構造
1〜3ヶ月程度の単発開発では、内製化のコストが外注を大きく上回るケースが多いです。エンジニア1名を採用・育成してプロジェクトに投入するよりも、その期間だけ外注する方が機会コストを含めたトータルコストは低くなりやすいです。
小規模案件での内製コストの試算例として、エンジニア1名(年収600万円想定)の3ヶ月分人件費は約150万円です。これに採用コスト(エージェント手数料として年収の30〜35%相当)を加算すると、単発案件ではコストが膨らみます。一方で外注の場合は、開発委託費のみで完結するため、スコープが固定されていれば費用の予測が立てやすいです。
この規模では「外注が損益分岐点を下回る」状態が続きやすく、特にノンコア業務の単発開発には外注活用が合理的な選択肢となります。
中規模・継続開発(6ヶ月〜1年程度)での損益分岐点
6ヶ月〜1年程度の継続開発になると、損益分岐点に近づくケースが増えてきます。外注の場合、委託費は開発期間に比例して積み上がりますが、内製の場合は採用・教育コストが薄まりはじめ、稼働率の高いエンジニアが複数案件を掛け持てるようになると相対的なコスト効率が上がります。
たとえばエンジニア1名の年間人件費(社会保険等込みで約794万円*2)を仮定した場合、6ヶ月分は約400万円です。同等のスキルを持つフリーランスや外注先に6ヶ月依頼した場合の単価水準と近接してくるため、この時点が一つの分岐点の目安になります。
継続的な開発体制が必要な場合は、内製エンジニアの稼働先を複数確保できるかどうかがコスト合理性の鍵です。1つのプロジェクトのみに内製エンジニアを専任させる場合は、外注と比較してコストメリットが出にくい点に注意が必要です。
大規模・長期プロジェクト(2年以上)でのTCO比較
2年以上にわたる大規模プロジェクトでは、TCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)視点での比較が重要になります。TCOとは、初期費用だけでなく運用・保守・バージョンアップ・セキュリティ対応など全期間にわたるコストを合算した概念です。
長期・大規模では、内製チームが技術知識を内部に蓄積することで、外注に比べて仕様変更や追加開発のたびに外部との調整コストが発生しない点が優位に働きます。また、内製エンジニアが複数プロジェクトに横断的に関与できるようになると、固定費の逓減効果が現れやすくなります。
一方で、外注を長期継続すると累積委託費が膨らみ、業務ノウハウが外部に流出するリスクも高まります。長期TCO比較では、知識・技術の内部蓄積コスト(内製)と依存・ロックインリスク(外注)の両面を定量・定性両方で評価することが望ましいです。
| 比較軸 | 内製化 | 外注(アウトソーシング) |
|---|---|---|
| 費用の性質 | 固定費中心(人件費・設備費) | 変動費中心(委託費・工数連動) |
| 初期コスト | 採用・教育費が高め | 比較的低い(仕様確定が前提) |
| スケールメリット | 長期・複数案件で逓減 | 案件増加で累積費用が増大 |
| 技術ノウハウ | 社内蓄積・資産化 | 外部依存・引き継ぎコスト発生 |
| コスト予測性 | 予測しやすい(固定費) | 要件変更で変動しやすい |
| 離職・人材リスク | 再採用コスト・知識流出リスク | ベンダーチェンジコスト・依存リスク |
| 小規模・単発(1〜3ヶ月) | コスト面で不利なことが多い | 有利(変動費のみ発生) |
| 中規模・継続(6ヶ月〜1年) | 損益分岐点に近づく | 委託費累積が増加 |
| 大規模・長期(2年以上) | TCO視点で有利になりやすい | 累積費用・依存リスクが高まる |
内製・外注のコスト以外の判断軸(ハイブリッド戦略)
コスト比較は重要な判断材料ですが、IT投資の意思決定では定性的な軸も組み合わせることで判断の精度が上がります。特に「どの業務を内製し、どこを外注するか」というハイブリッドの視点は、多くの企業で実践的な選択肢として採用されています。
コア業務かノンコア業務かで判断する考え方
内製・外注の判断で広く使われる基準の一つが、「その業務が自社のコア競争力に直結するかどうか」という軸です。コア業務とは、自社の製品・サービス・業務プロセスの差別化に直接影響する機能や開発領域を指します。
たとえば、EC企業にとってのレコメンドエンジンや顧客データ分析基盤は競争優位の源泉であり、外部に委ねると知見とノウハウが外部に流出するリスクがあります。こうしたコア業務は内製化を検討する優先度が高い領域です。一方で、社内ツールの構築、定型的なシステム保守・運用、非競争領域のインフラ管理などはノンコア業務として外注活用が向いています。
コア・ノンコアの判断軸は、コスト最適化と同時に組織能力の戦略的配置という観点からも有効です。限られたエンジニアリソースを競争力に直結する領域に集中させるためにも、この分類を定期的に見直すことが実務上有効です。
内製と外注を組み合わせるハイブリッド判断の枠組み
実務では「完全内製」「完全外注」のどちらかではなく、両者を組み合わせたハイブリッドモデルが多くの企業で採用されています。典型的なパターンは、コア機能の設計・アーキテクチャ決定を内製で行い、実装・テスト・保守の一部を外注するという役割分担です。
ハイブリッド判断の枠組みを設計する際には、以下の4つの軸で整理することが有効です。(1) スキル:社内にない専門スキルが必要な領域は外注が合理的です。(2) スピード:内製チームの立ち上げが間に合わない短期案件は外注で補完します。(3) 規模:需要の波が大きい業務は変動費型の外注で対応し、定常業務は内製で安定させます。(4) リスク:セキュリティ要件が高い機密データを扱う領域は内製化の優先度を上げます。
ハイブリッドモデルでは、外注先を元請(プライムベンダー)として活用することで、複数のサブコントラクターを一元管理できる体制を構築する選択肢もあります。この場合、発注側は仕様・品質・スケジュールの管理に注力でき、調整コストの削減が期待できます。
IT人材確保コストと外注費の現状(一次情報ベース)
内製vs外注の意思決定を精度高く行うには、IT人材のコスト水準を一次情報で把握することが前提となります。以下では信頼性の高い公的統計・業界調査データをもとに現状を整理します。
JISA「2024年版 情報サービス産業 基本統計調査」(2025年5月公表)によると、情報サービス産業における従業員1人当たり人件費は年間約794万円です*2。月間平均給与は年齢別に示されており、25歳約24.7万円・30歳約28.7万円・35歳約32.5万円となっています*2。これらはあくまで業界平均値であり、企業規模やスキル要件によって大幅に上下しますが、内製エンジニアの人件費試算の目安として活用できます。
一方、IT人材の需給ギャップは今後も拡大が見込まれています。経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年4月)では、2030年のIT人材不足が中位シナリオで約45万人、高位シナリオで約79万人に拡大すると試算されています*1。この調査はIT企業3,000社・ユーザー企業3,000社を対象に2018年10月に実施されたものであり、需給逼迫の構造は現在も続いています。
人材不足の状況はDX推進の現場にも影響を与えています。IPA「DX動向2025」(2025年)によると、日本企業の85.1%がDXを推進する人材の不足を感じていると報告されています*3。IT人材の採用難が続く環境では、内製エンジニアを確保するコストが上昇しやすく、外注との価格差が縮まる傾向があります。
こうした人材市場の状況を踏まえると、内製化にかかる採用・教育コストは以前より高くなっており、損益分岐点を試算する際は最新の人件費・採用費のデータをもとにした慎重な見積もりが求められます。特に専門性の高いエンジニアを短期間で採用しようとすると、エージェント手数料や競争的な給与水準が必要となり、コスト試算が甘くなりやすい点は注意が必要です。
よくある質問
内製化と外注の損益分岐点はどのように計算すればよいですか?
基本的な試算式は「内製コスト=外注コスト」となる期間・規模を求めることです。内製コストは「人件費(月額)×期間+採用・教育コスト+固定費」、外注コストは「委託費(月額)×期間+管理工数コスト」として算出し、両者が交わる点が損益分岐点になります。実務では試算シートを用意して複数シナリオを比較することをお勧めします。
小規模の開発案件は外注と内製のどちらが向いていますか?
1〜3ヶ月程度の単発・小規模案件では、採用・教育コストを回収する期間がないため、内製化よりも外注が費用対効果の面で有利になるケースが多いです。ただし、その案件がコア業務に関わる場合は、将来の内製化を見据えた準委任契約でのナレッジ移転も選択肢として検討する価値があります。
TCO(総保有コスト)で比較する際に見落としやすいコストは何ですか?
内製の場合は「離職・再採用コスト」と「技術的負債の解消コスト」が見落とされやすいです。外注の場合は「発注側の管理工数コスト」と「ベンダー切替時の引き継ぎ・移行コスト」が実態より小さく見積もられがちです。TCO試算では委託費以外の周辺コストを明示的に洗い出すことが重要です。
ハイブリッド(内製+外注)モデルを導入する際の注意点はありますか?
ハイブリッドモデルでは、内製チームと外注先の役割・責任範囲を契約・ドキュメントで明確化することが重要です。役割が曖昧なまま進めると、不具合発生時の責任の所在が不明確になり、追加費用や工期遅延の原因になります。また、外注先への情報共有の範囲(特にセキュリティ要件が高い情報)についても事前に整理しておくことをお勧めします。
IT人材不足の状況下で内製化を進めるにはどうすればよいですか?
IPA「DX動向2025」によると、日本企業の85.1%がDX人材不足を感じています*3。この状況下では、外部人材の採用と並行して、既存社員のリスキリングや、外注先との協業を通じたナレッジ移転を組み合わせる段階的な内製化が現実的です。短期的な外注活用とともに、中長期の内製化ロードマップを描くことで、コスト構造の改善を計画的に進めることができます。
まとめ
本記事では、内製化と外注のコスト構造の違いを損益分岐点の考え方を軸に整理しました。内製は固定費が中心で初期コストが高い半面、長期・大規模案件ではTCO視点での優位性が出やすいです。外注は変動費型で小規模・単発案件に向いていますが、委託費の累積と管理工数コストが長期では膨らむ傾向があります。
また、コアかノンコアかという業務の性質を軸にしたハイブリッド判断の枠組みは、コストと競争力の両面から意思決定の精度を高めます。IT人材不足が続く現状(経産省試算では2030年に中位シナリオで約45万人・高位シナリオで約79万人の不足*1)を踏まえると、採用・教育コストを含めた損益分岐点の試算は、単純な委託費比較よりも現実に即した判断につながります。
内製か外注かは二択ではなく、開発規模・継続期間・業務の戦略的重要性・人材調達コストを総合的に見て、定期的に見直す意思決定プロセスとして捉えることが重要です。
LASSICのIT開発・アウトソーシング支援について
LASSICは元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託しています。お客様の開発要件に応じて内製支援・外注活用の双方からご提案が可能です。コスト構造の最適化や体制構築に関するご相談は、下記のお問い合わせ窓口より承ります。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
- 経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年4月)https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/gaiyou.pdf ― 2030年のIT人材不足は中位シナリオで約45万人、高位シナリオで約79万人と試算。調査対象:IT企業3,000社・ユーザー企業3,000社(2018年10月実施)
- JISA「2024年版 情報サービス産業 基本統計調査」(2025年5月公表)https://www.jisa.or.jp/publication/tabid/272/pdid/R6-J002/Default.aspx ― 従業員1人当たり人件費 約794万円(2023年4月〜2024年3月)。月間平均給与:25歳 約24.7万円・30歳 約28.7万円・35歳 約32.5万円
- IPA「DX動向2025」(2025年)https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/discussion-paper/dx2025_digital_talent_ai_era.html ― 日本企業の85.1%でDXを推進する人材が不足(企業向け調査)