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IT成熟度アセスメントの進め方と活用法
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- IT成熟度アセスメントは、自社のIT・DXの現在地を客観的な指標で把握し、次の打ち手につなげるための評価手法です。
- 経営視点とITシステム視点の両方から評価し、現状値と目標値のギャップを可視化する進め方が実務の型になります。
- 診断結果は取得して終わりではなく、優先順位付けと第三者評価の活用によって初めて改善行動につながります。
目次
IT成熟度アセスメントとは何を測る評価手法か
IT成熟度アセスメントとは、自社のIT活用・DX推進の到達段階をフレームワークに基づいて評価し、現状と課題を客観的に把握する取り組みを指します。感覚的な「進んでいる/遅れている」ではなく、共通の尺度で自社の位置を確認できる点が特徴です。
経済産業省とIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が提供する「DX推進指標」は、企業がDX推進の状況を自己診断するための代表的なツールです*1。経営者や社内の関係者が現状や課題への認識を共有し、次のアクションにつなげる気付きの機会を提供する目的で策定されています*1。2019年の策定以来初となる大幅な改訂が2026年2月に行われ、生成AIの普及やデジタルガバナンス・コード3.0の内容を踏まえて設問構成と成熟度レベルの体系が見直されました*2。
成熟度アセスメントと似た言葉に「IT中期計画の策定」がありますが、両者は役割が異なります。中期計画がその後の投資配分・体制構築までを含む計画文書であるのに対し、アセスメントは計画に先立つ現状把握の手法そのものを指します。本稿では中期計画の立案手順ではなく、アセスメントという評価行為そのものの進め方と活用方法に焦点を当てて整理します。
成熟度評価を欠いたまま個別のシステム刷新やDX施策に着手すると、投資の方向性が経営課題と結びつかず、部門ごとに散発的な取り組みが並立しかねません。IPAが2024年に公表した自己診断結果の分析では、DX推進指標の現状値の平均は1.67、目標値の平均は3.34となり、多くの企業が目標との間に大きなギャップを抱えている実態が示されています*3。まず自社の現在地を数値で確認する工程が、その後の打ち手の精度を左右します。
経営視点とITシステム視点 — 評価の2つの観点
DX推進指標は、経営のあり方・仕組みに関する指標とITシステム構築に関する指標という2つのカテゴリで構成されます*1。両方の視点をあわせて評価する設計になっている点が、この指標の特徴です。
経営視点の指標が問う内容
経営視点の指標では、経営者がDXをどう認識しているか、危機感やビジョンを共有できているか、推進体制や人材育成の仕組みがあるかといった項目を評価します。技術面よりも、経営層のコミットメントと組織としての推進力に重点が置かれる領域です。
ITシステム視点の指標が問う内容
ITシステム視点の指標では、既存システムの構造がビジネスの変化に迅速に対応できるか、データを部門横断で活用できる基盤になっているか、IT投資の判断基準が明確かといった項目を評価します。老朽化したシステムを抱えたままでは、経営視点でどれほど良い戦略を描いても実行段階でつまずきやすくなります。
定性指標と定量指標を組み合わせて診断する
DX推進指標は、経営・ITシステムの各カテゴリについて定性指標と定量指標を組み合わせて診断する形式を取ります*1。定性指標は現在のレベルと3年後の目標レベルを6段階(レベル0〜レベル5)で自己評価するもので、定量指標は指標に応じた数値目標を確認するものです。この2種類を併用することで、意識面と実行面の両方から現状を捉えられます。
DX推進指標を使った自己診断の進め方
自己診断は、経営層と現場の関係者が集まり、設問ごとに現状のレベルを話し合いながら判定していく進め方が基本です。担当者一人の主観で記入すると、実態とかけ離れた評価になりやすいため注意が必要です。
診断前に関係者の認識をそろえる
設問に回答する前に、経営層・情シス部門・事業部門の代表者が集まり、自社のDXの現状について率直に意見を交換する場を設けます。立場によって「進んでいる」という感覚の基準が異なるため、事前のすり合わせを省くと診断結果にばらつきが生じやすくなります。
設問ごとに現状値と目標値の双方を記入する
各設問では、現在のレベルだけでなく3年後に目指すレベルもあわせて記入します*1。現状値のみを見て満足してしまうケースがありますが、目標値との差こそが取り組むべき課題の大きさを表します。
提出後にベンチマークで自社の位置を確認する
自己診断の結果をIPAに提出すると、他社や業界平均の傾向と比較したベンチマークレポートが得られ、自社の相対的な位置付けを把握できます*1。同業種・同規模の企業と比べて遅れている領域が分かれば、次に着手すべき優先分野を絞り込みやすくなります。
この工程を情シス部門の担当者数名だけで進めようとすると、負荷の大きい取り組みになりやすいのが実情です。設問の解釈をめぐる部門間の調整、経営層からのヒアリング、診断結果の分析には相応の時間と、複数部門を横断してまとめる進行役の存在が必要になります。
成熟度レベルの読み解き方 — 現状値と目標値のギャップ
診断結果を受け取った後にまず確認すべきは、点数の高さそのものではなく、現状値と目標値のギャップがどの設問に集中しているかです。
2026年改訂後のレベル区分の考え方
2026年2月の改訂では、成熟度レベルの定義も見直されました。レベル0からレベル4までは個社内での取り組みの水準を示し、レベル5は個社の取り組みを超えて社会的な価値創出に至った水準として位置づけられています*2。自社の点数が低い段階にあること自体は珍しくなく、多くの企業が該当する水準であるという前提で結果を読む姿勢が大切です。
平均値との比較で相対的な立ち位置をつかむ
IPAが2024年1月から12月提出分の1,349件を分析したレポートでは、成熟度レベルの平均は現状値1.67・目標値3.34となり、多くの企業が「一部での散発的実施」に近い水準にとどまっている状況が示されています*3。レベル4以上に達した企業は全体の1%にとどまるとも報告されており*3、自社の点数を全国平均と照らし合わせることで、危機感が実態と合っているかを確認できます。
設問間のばらつきから弱点領域を特定する
経営視点の指標とITシステム視点の指標のどちらか一方だけが極端に低い場合、その領域が改善の起点になっている可能性が高いといえます。例えば経営層のコミットメントは高いのにシステム基盤の指標が低い場合は、老朽化した基盤がDX推進のボトルネックになっていると推察されます。
診断結果を打ち手につなげる優先順位付け
診断結果を受け取っただけでは何も変わりません。ギャップが大きい設問の中から、着手する順序を決める工程が実務上の分岐点になります。
緊急度と実行難易度で仕分ける
ギャップの大きい項目をすべて同時に着手しようとすると、限られた人員と予算が分散し、どの施策も中途半端に終わりかねません。放置した場合の経営リスクの大きさ(緊急度)と、着手にあたって必要な体制・技術の複雑さ(実行難易度)の2軸で仕分け、緊急度が高く難易度が相対的に低い項目から着手する進め方が現実的です。
診断結果をIT中期計画の投資判断に接続する
アセスメントで明らかになった弱点領域は、複数年の投資計画に落とし込んで初めて実行に移せます*4。診断結果のギャップ一覧を、翌年度予算の個別項目にそのまま転記するのではなく、経営目標への貢献度を踏まえて優先度を並び替える作業が欠かせません。
改善の担い手を自社と外部で線引きする
ITシステム視点の指標で低評価となった項目の多くは、既存システムの構造的な老朽化や、システム間連携の不備に起因します。こうした基盤刷新には、複数の技術領域(インフラ・データ連携・セキュリティなど)にまたがる知見と、相応の人員体制が必要です。自社の情シス部門だけで全領域を担おうとすると、通常業務と並行での対応となり、改善の着手自体が先送りされる懸念があります。
自己診断の限界と第三者評価の活用場面
自己診断には、社内の視点だけでは気づきにくい限界があります。第三者評価を組み合わせる場面を見極めることが、アセスメントの精度を高めます。
自己採点である以上、評価者の立場によって点数が甘くなる傾向は避けられません。長年同じ体制で運用してきた組織ほど、現状のやり方を基準にした「相対的な普通」を実態より高く評価しがちです。IPAが提供するベンチマーク機能は他社比較の材料にはなりますが、自社のシステム構成や業務プロセスの詳細な診断までは行いません*1。
外部診断が有効な場面
経営層への説明材料として客観性の高い評価が必要な場面、自己診断の結果に部門間で見解の相違がある場面、既存システムの技術的な老朽度を専門的な観点で評価してほしい場面では、外部の第三者による診断が有効です。外部の視点を加えることで、社内では当たり前とされてきた運用の問題点が可視化されることがあります。
外部診断を依頼する際の確認事項
外部診断を依頼する場合は、経営視点の一般的な助言にとどまるのか、既存システムの構成・コードベース・インフラまで踏み込んで評価するのかを事前に確認しておく必要があります。診断の範囲が曖昧なまま契約すると、期待した具体性の結果が得られない事態になりかねません。
LASSICは元請としてシステムの受託開発・運用保守を担う立場から、既存システムの構成や老朽度を実際の保守経験に基づいて評価できる点が、経営コンサルティング主体の診断とは異なる特徴です*4。診断後にそのまま改善の実行フェーズへ移行できる体制を持つ点も、自己診断だけでは得られない価値といえます。
まとめ:IT成熟度アセスメントを機能させる3つの判断軸
本稿では、IT成熟度アセスメントの評価軸と自己診断の進め方、結果の読み解き方を整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、アセスメントは経営視点とITシステム視点の両方から現状を評価し、現状値と目標値のギャップを可視化する手法であることです。第二に、診断結果は点数の高低ではなく設問間のばらつきに着目し、緊急度と実行難易度で優先順位を付けて初めて打ち手につながります。第三に、自己診断の限界を認識し、必要な場面では第三者評価を組み合わせることで、評価の客観性と改善の実効性を高められます。
よくある質問
IT成熟度アセスメントはどれくらいの頻度で実施するのが望ましいですか。
年1回程度の実施が目安になります。DX推進指標も現状値と3年後の目標値を設定する設計になっているため*1、単年度の結果だけでなく経年での変化を追うと施策の効果を確認しやすいでしょう。事業環境が大きく変わった年は、定例のタイミング以外でも見直す価値があります。
自己診断とIT中期計画の策定はどちらを先に行うべきですか。
自己診断を先に行うのが基本の順序です。現状のレベルとギャップが明確になっていない段階で中期計画の投資項目を洗い出すと、優先順位の判断根拠が弱くなります。アセスメントで課題領域を特定したうえで、中期計画に投資配分として落とし込む進め方が実務上の型です。
診断結果のレベルが低いことは経営層にどう伝えればよいですか。
自社だけの問題ではなく、多くの企業が同様の水準にあるという事実とあわせて伝えると、危機感と納得感の両方を得やすくなります。IPAの分析レポートでは成熟度レベル4以上に達した企業が全体の1%にとどまるとされており*3、こうした公的データを参照材料に用いる方法も有効です。
部門ごとに診断結果が大きく異なる場合はどう扱えばよいですか。
部門間の見解の相違自体が重要な発見材料になります。経営層・情シス部門・事業部門で認識をすり合わせる場を設け、なぜ評価が分かれたのかを議論することで、社内でも気づかれていなかった課題が明らかになるでしょう。相違が大きい場合は第三者評価を挟んで客観的な基準を持ち込む方法も検討に値します。
アセスメントの実施を外部に依頼する場合、何を確認すればよいですか。
評価の範囲が経営視点の一般的な助言にとどまるのか、既存システムの構成や技術的な老朽度まで踏み込むのかを事前に確認する必要があります。診断後に改善の実行支援まで一貫して依頼できるかどうかも、パートナー選定の判断材料になります。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX推進指標のご案内」https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/about.html
- *2 出典:経済産業省「『DX推進指標』を改訂しました」https://www.meti.go.jp/press/2025/02/20260213001/20260213001.html(2026年2月)
- *3 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX推進指標の自己診断結果1,349件を分析したレポート」https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2025/press20250507.html(2025年)
- *4 出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」https://www.meti.go.jp/press/2024/09/20240919001/20240919001.html(2024年)