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IT中期計画・ロードマップの立て方
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- IT中期計画は単発のシステム更新計画ではなく、経営戦略と紐づいた複数年の投資・体制の見取り図です。
- 現状把握・戦略との紐付け・投資の優先順位付けという順序を飛ばすと、計画が形骸化しやすくなります。
- ロードマップは作って終わりではなく、外部知見の活用とレビューの仕組みがあって初めて経営の判断材料になります。
目次
IT中期計画とロードマップは何を決める文書か
IT中期計画・ロードマップとは、経営戦略の実現に必要なIT投資とシステム基盤整備を、3〜5年程度の期間で時系列に整理した経営文書を指します。単年度のシステム更新予定表ではなく、複数年にわたる投資配分と体制の見取り図である点が特徴です。
経済産業省のデジタルガバナンス・コード3.0は、DX経営に求められる視点の一つとして「経営ビジョンとDX戦略の連動」を挙げています*1。IT中期計画は、この連動を具体的な投資計画・実行スケジュールに落とし込む役割を担う文書です。経営戦略の方向性が変わっても対応できるよう、単年度予算とは別に複数年の見取り図を持つ意味がここにあります。
ロードマップという言葉には「システム更新の時期を示した表」という狭い理解が先行しがちです。しかし本来は、どの業務領域に・どの順序で・どの程度の経営資源を投じるのかという意思決定の根拠を、時間軸で可視化したものにほかなりません。単なるスケジュール表と計画的なロードマップの違いは、背後に優先順位付けの論理があるかどうかで決まります。
中期計画を持たないまま個別案件ごとに投資判断を続けると、部門ごとに異なるシステムが並立し、後になって連携改修のコストが膨らむ事態を招きかねません。IPAの「DX白書2023」では、全社戦略に基づいてDXに取り組んでいる企業の割合が米国68.1%に対し日本は54.2%にとどまり、部門単位の取り組みに偏りやすい実態が示されています*2。全社最適の計画を欠いた投資判断が積み重なりやすい構造がうかがえます。
現状把握とAs is-To beギャップの可視化から始める
IT中期計画の起点は、投資項目の洗い出しではなく現状把握です。既存システムの構成・老朽度・業務適合度を棚卸しし、あるべき姿との差を明確にする作業から始めます。
既存システムの棚卸しと老朽化リスクの把握
まず社内に存在するシステムの一覧を作成し、稼働年数・保守契約の状況・ブラックボックス化の度合いを整理します。担当者の異動や退職によって仕様が分からなくなったシステムが残っていないかを確認する工程も欠かせません。属人化した領域を放置すると、後工程の投資判断に必要な情報そのものが失われるためです。
業務プロセスとシステムの適合度を確認する
次に、現行システムが現在の業務プロセスにどこまで適合しているかを確認します。業務側の要望とシステムの機能に乖離が生じている場合、その乖離が個別の改修で対応可能な範囲か、抜本的な刷新が必要な範囲かを見極めます。
As isとTo beのギャップを定量・定性の両面で把握する
IPAが提供する「DX推進指標」は、経営者や社内の関係者がDX推進に向けた現状や課題への認識を共有し、アクションにつなげる気付きの機会を提供するツールです*3。構成は、経営のあり方・仕組みに関する指標とITシステム構築に関する指標の2カテゴリからなり、それぞれ定性指標と定量指標を組み合わせて診断する形式を取ります*3。デジタルガバナンス・コード3.0が示す「As is-To beギャップの定量把握・見直し」という視点*1とあわせて活用すると、現状把握の抜け漏れを防ぎやすくなります。
現状把握を省略して投資項目のリストアップから始めると、老朽化した基盤の上に新しい施策を積み上げる結果になりがちです。基盤の弱さが後になって計画全体の実行を妨げる要因になりうるため、最初の工程を丁寧に行う価値があります。
経営戦略とIT戦略を紐づける — 目標からの逆算
現状把握の次は、経営戦略とIT戦略を紐づける工程です。売上拡大・新規事業創出・コスト構造改善など、経営が掲げる中期目標のどれにITが貢献するのかを言語化します。
経営目標を分解しIT側の貢献領域を特定する
経営計画に書かれた目標をそのままIT部門の目標にすることはできません。「売上を伸ばす」という目標であれば、それを支える業務領域(営業支援・在庫管理・顧客管理など)を特定し、どの領域のシステム投資が目標達成に寄与するのかを整理する必要があります。
DX戦略とIT基盤整備を分けて考える
デジタルガバナンス・コード3.0は、DX経営に求められる視点として「経営ビジョンとDX戦略の連動」「As is-To beギャップの定量把握・見直し」「企業文化への定着」の3点を挙げています*1。新規事業やビジネスモデル変革を狙うDX戦略と、既存業務を支えるIT基盤の整備は、目的も投資回収の考え方も異なります。両者を一つの計画表に混在させると、投資の優先順位付けが難しくなるため、区分して整理する視点が有効です。
経営層とIT部門の目線を合わせる場を設ける
経営戦略とIT戦略の紐付けは、IT部門が単独で行う作業ではありません。経営層・事業部門・IT部門が共通の言葉で現状と目標を議論できる場を設けることが、その後の投資判断の土台になるでしょう。目線合わせを省略すると、IT部門が策定した計画が経営会議で「なぜこの投資が必要なのか」を説明できず、承認が得られない事態につながりかねません。
投資の優先順位付けと複数年ロードマップへの落とし込み
経営戦略との紐付けができたら、投資項目を洗い出し、複数年にわたる実行順序を決める段階に入ります。ここでの優先順位付けが、ロードマップの実効性を左右します。
投資項目を緊急度と重要度で仕分ける
老朽化したシステムの延命に迫られている項目と、経営目標達成のために新たに着手すべき項目とでは、緊急度の性質が異なります。両者を同じ基準で比較すると、目先の障害対応に予算が偏り、中期的な戦略投資が後回しになりやすくなります。緊急度(放置した場合のリスクの大きさ)と重要度(経営目標への貢献度)を分けて評価する仕組みが必要です。
年度ごとの実行順序と依存関係を整理する
投資項目には、先に基盤を整備しないと次の施策に着手できないという依存関係が存在します。例えばデータ連携基盤の整備を後回しにしたまま複数の業務システムを刷新すると、後になって連携改修が発生し、二重の投資になりかねないでしょう。年度ごとの実行順序を検討する際は、この依存関係を確認しておくことが欠かせません。
投資対効果の説明材料を用意する
複数年にわたる投資計画を経営層に承認してもらうには、各投資項目がどの経営目標にどう貢献するかを示す説明材料が欠かせません。金額の妥当性だけでなく、実施しなかった場合に生じる機会損失やリスクもあわせて示すと、判断材料としての説得力が増します。
ロードマップの粒度を年度単位で表現する
ロードマップは、初年度は具体的な施策名まで、2年目以降は領域単位というように、時期が先になるほど粒度を粗くして表現するのが実務上の型です。先の年度まで細部を固めようとすると、環境変化のたびに計画全体を作り直すことになり、かえって形骸化を招きます。
体制構築と外部パートナー活用の線引き
IT中期計画の実行には、計画を推進する体制が必要です。経営層・事業部門・IT部門の役割を明確にし、どこまでを自社で担い、どこから外部パートナーを活用するかを線引きします。
中期計画の策定自体を情シス部門の担当者数名だけで進めるのは、負荷の大きい取り組みになりやすいのが実情です。現状把握のための全社ヒアリング、経営戦略との紐付け作業、投資対効果の試算、複数年の実行計画の文書化という一連の工程には、プロジェクトマネジメントの知見と、複数の企業の計画策定を見てきた経験の両方が求められます。
この負荷を軽減する選択肢として、外部パートナーによる計画策定支援や、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス。複数のプロジェクトを横断して進捗・品質を管理する機能)の活用があります。自社に知見を蓄積したい領域は内製で担い、初回の枠組み作りや専門知識が必要な領域は外部の知見を借りるという役割分担が、現実的な進め方の一つです。
体制を構築する際は、計画策定後の実行フェーズも見据えて役割を決めておく必要があります。計画は策定して終わりではなく、各年度の施策を実行し、進捗を管理する体制がなければ絵に描いた餅になってしまいます。策定支援を外部に依頼する場合も、実行段階の体制をどう引き継ぐかを事前に決めておくことが望ましいでしょう。
ロードマップは固定せずレビューで回す
IT中期計画は一度策定したら終わりの文書ではありません。事業環境や技術動向の変化に応じて、定期的に見直す前提で運用する必要があります。
年次レビューで計画と実態のずれを確認する
策定時点の前提が、1年後には変わっていることは珍しくありません。市場環境の変化・新規事業の追加・想定していなかった規制対応などが生じた場合、当初のロードマップに固執すると経営戦略との整合が崩れるおそれがあります。年次でレビューの場を設け、計画と実態のずれを確認する運用が欠かせません。
優先順位の入れ替えを前提とした柔軟性を持たせる
レビューの結果、当初の優先順位を入れ替える判断が必要になることがあります。ロードマップを硬直的に運用するのではなく、経営判断で順序を組み替えられる余地を持たせておくことが、中期計画を機能させる実務上のポイントです。
デジタルガバナンス・コードの視点で妥当性を点検する
経済産業省とIPAは2025年1月に「企業DXを推進する指標の在り方に関する検討会」を立ち上げ、DX推進指標の設問及び成熟度レベルの見直しを行い、2026年2月に改訂しました*4。データ活用・連携、デジタル人材の育成・確保、サイバーセキュリティなど近年重要性が高まっている要素が構成に取り入れられています*4。自社の中期計画がこうした最新の視点を反映できているかを、レビューのタイミングで確認する価値があります。
まとめ:IT中期計画を機能させる3つの判断軸
本稿では、経営視点でのIT中期計画・ロードマップの立て方を整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、中期計画は単年度のシステム更新表ではなく、経営戦略と紐づいた複数年の投資・体制の見取り図であることです。第二に、現状把握・戦略との紐付け・投資の優先順位付けという順序を踏むことが、計画の実効性を左右します。第三に、体制構築と外部パートナー活用を適切に線引きし、レビューの仕組みを組み込むことで、ロードマップを策定後も機能させ続けられます。
よくある質問
IT中期計画は何年程度の期間で策定するのが一般的ですか。
3〜5年程度で策定する企業が多いです。ただし技術動向の変化が速い領域を含む計画は、期間を短めに設定し、年次レビューで内容を更新する運用にすると、環境変化への対応がしやすくなります。期間の長さよりも、レビューの仕組みがあるかどうかが実効性を左右します。
中期経営計画がない場合でもIT中期計画は作れますか。
中期経営計画が明文化されていない場合でも、経営層への個別ヒアリングを通じて中期的な事業の方向性を確認すれば策定は可能です。ただし紐づける先の目標が曖昧なままだと投資の優先順位付けが難しくなるため、経営層との対話を丁寧に行う工程が重要になります。
ロードマップの投資対効果はどう説明すればよいですか。
金額の妥当性だけでなく、経営目標への貢献度と、実施しなかった場合に生じるリスクや機会損失をあわせて示すと説得力が増します。IPAのDX推進指標のような公的フレームを参照し、現状とあるべき姿のギャップを定量・定性の両面で示す方法も有効です*3。
計画策定を外部に依頼すると社内にノウハウが残りませんか。
依頼範囲を事前に決めておけば懸念は軽減できます。現状把握のフレームワークや優先順位付けの判断基準を文書化する工程を契約に含め、初回の枠組み作りを外部に依頼しつつ、以降の年次レビューは自社で回す体制にすれば、判断のノウハウは社内に蓄積されます。
ロードマップと単年度のIT予算計画はどう違いますか。
単年度予算は当該年度に実施する施策の費用を積み上げたものであるのに対し、ロードマップは複数年にわたる施策の実行順序と依存関係を示したものです。単年度予算はロードマップの初年度分を具体化した文書という位置づけで運用すると、両者の整合が取りやすくなります。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」https://www.meti.go.jp/press/2024/09/20240919001/20240919001.html(2024年)
- *2 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2023」https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108041.pdf(2023年)
- *3 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX推進指標のご案内」https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/about.html
- *4 出典:経済産業省「『DX推進指標』を改訂しました」https://www.meti.go.jp/press/2025/02/20260213001/20260213001.html(2026年2月)