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2026.08.19 らしくコラム

韓国AI基本法とは|2026施行と日本企業の対応

韓国で、AIを幅広く対象とする「AI基本法」が2026年1月22日に施行されました。正式には「人工知能の発展及び信頼基盤の造成等に関する基本法」と呼ばれ、包括的なAI法としては、EUのAI規則(EU AI Act)に次いで世界で2番目とされる法律です。海外の法律ではありますが、じつは日本のIT・事業部門にとっても、対岸の話とは言い切れません。韓国の市場や利用者に向けてサービスを出していれば、海外の事業者であっても対象になりうる——そんな「域外適用」の考え方が織り込まれているからです。

本記事では、韓国向けにサービスを展開する、あるいは今後の展開を見据える情報システム部門・事業部門の担当者に向けて、韓国AI基本法とは何か、誰が何を求められるのか、EUや日本の制度とどう違うのか、そして受託・委託開発で押さえておきたい点を整理します。なお、本記事は一般的な情報の整理であり、法的な助言ではありません。適用の有無や具体的な対応は、公式情報や専門家にご確認ください。

韓国AI基本法の施行と海外企業への影響を表すソウルの街並みのイメージ

韓国AI基本法とは——2026年施行の包括的なAI法

韓国AI基本法は、AIの発展を後押ししつつ、その信頼の土台を整えることを目的にした法律です。2024年末に国会を通過し、2025年に公布されたのち、2026年1月22日に施行されました。ねらいは「振興」と「規律」の両立にあります。産業としてのAIを伸ばすための支援策と、利用者を守るための一定のルールを、ひとつの基本法のなかに束ねているわけです。所管は科学技術情報通信部(MSIT)で、国家レベルの委員会が政策の司令塔を担う形になっています。

この法律が世界的に注目されたのは、包括的なAI法としてEUに次ぐ2例目にあたるためです。ただし、その中身はEUとまったく同じではありません。EUがリスクの高さで細かく段階を分けるのに対し、韓国は「高影響AI」と「生成AI」という切り口を軸に、事業者へ透明性や安定性に関わる義務を課す組み立てなのです。まずは全体像を、図で押さえておきましょう。

韓国AI基本法の全体像・事業者の4類型・高影響AIと生成AIの義務・域外適用と国内代理人・過料と実務ポイントを示す図

この記事のポイント

  • 韓国AI基本法は2026年1月22日に施行された、EUに次ぐ包括的なAI法です。
  • 域外適用があり、韓国の市場・利用者に影響する海外事業者も対象になりうる点に注意が要ります。
  • 中心は「高影響AI」への義務と、「生成AI」の透明性・表示。日本のAI推進法より一歩踏み込んだ組み立てです。

なぜ日本企業にも関係するのか(域外適用)

韓国の法律なのに、なぜ日本の企業が気にかけるべきなのか。かぎを握るのが「域外適用」です。この法律は、韓国の市場や利用者に影響を与える事業者であれば、システムをどこで開発し、どこで動かしていても対象になりうる、という立て付けになっています。つまり、韓国にサービスを提供していたり、韓国の利用者を抱えていたりすれば、日本の企業であっても無関係とは言えないわけです。GDPR(EUの個人データ保護規則)で域外適用に触れた企業なら、感覚はつかみやすいでしょう。

あわせて押さえておきたいのが、「国内代理人」の考え方です。一定の規模を超える海外の事業者には、韓国内に代理人を置くことが求められる場合があります。報道や法律事務所の解説によれば、その線引きには、総売上高や、AIサービスの売上高、国内の1日あたり利用者数といった基準が挙げられています。自社がこの水準に近いのかどうかは、早めに確かめておきたいところです。数字の当てはめは判断を伴うため、公式情報や専門家にあたるのが堅実な進め方になります。

規制の中身①:高影響AIへの義務

韓国AI基本法の柱のひとつが、「高影響AI(ハイインパクトAI)」という区分です。人の権利や義務に大きく関わる領域で使われるAIを指し、たとえば医療やエネルギー、公共サービスといった分野、あるいは与信審査・融資判断のような場面が例に挙げられています。こうした用途では、判断を誤ったときの影響が大きいため、ほかより手厚い備えが求められる、という発想になります。

具体的には、AIが出した判断について、その根拠を説明できるようにしておくこと(説明可能性の確保)が主な軸になります。あわせて、リスクを見つけて手を打つ管理の仕組みや、アルゴリズムの偏りを点検する取り組み、影響を事前に見積もる評価なども挙げられています。ここは、AIを「使う側」の事業者にも関わってくる部分です。開発を外部に委ねていても、どの用途が高影響にあたりうるのかを整理し、必要な記録や説明の備えを取引先とすり合わせておくことが、後々の見通しにつながります。

規制の中身②:生成AIの透明性と表示

もうひとつの柱が、生成AIをめぐる透明性と表示のルールです。近年、文章や画像、音声、動画を作り出す生成AIが急速に広まりました。その一方で、人が作ったものかAIが作ったものか、見分けがつきにくいという課題も生じています。韓国AI基本法は、この点に一定の手当てを置いているのです。

具体的には、いくつかの表示が求められます。ひとつは、製品やサービスがAIによって動いていることを、利用者にあらかじめ知らせること。もうひとつは、AIが生成した成果物には、その旨がわかる表示を付けること。さらに、本物と見まがうほど精巧な合成コンテンツ、いわゆるディープフェイクの類には、それとわかる開示が求められます。生成AIを組み込んだサービスを韓国向けに出すなら、こうした表示を、どの画面で、どのように見せるのかを、設計の早い段階から織り込んでおくとよいでしょう。

EU・日本・米国の制度との違い

韓国AI基本法の位置づけは、ほかの国・地域の制度と並べると見通しが立ちます。まず、EUのAI規則(AI Act)との違いです。EUはAIをリスクの高さで四つの段階に分け、禁止から自由まで細かく仕分ける組み立てを採っています。これに対し韓国は、高影響AIと生成AIという切り口を軸に義務を置く形で、段階分けの細かさという点では性格が異なります。

次に、日本のAI推進法との違いです。日本の法律は、理念や体制づくりを促す色合いが濃く、罰則を伴わない組み立てになっています。いっぽう韓国は、表示義務などに違反した場合の過料を定めており、一歩踏み込んだ規律だといえるでしょう。さらに、米国の州ごとのAI法との違いにも触れておきましょう。米国は連邦の包括法がなく、州ごとにルールが分かれているのが実情です。国として統一した基本法を敷いた韓国とは、この点で対照的な姿になっています。下の表に、おおまかな性格をまとめました。

区分 日本 AI推進法 韓国 AI基本法 EU AI規則
全体の性格 理念・体制づくり中心 義務あり・過料を伴う リスクを段階で分類
違反時の扱い 罰則は定めていない 過料(上限3,000万ウォン) 高額の制裁金
主な着眼点 利用の理念と統制 高影響AI・生成AIの表示 4段階のリスク分類

いずれも動きの途中にある分野です。制度は見直されることもあるため、実際の対応にあたっては、その時点の公式情報を確かめる姿勢が欠かせません。

受託・委託開発で押さえる実務ポイント

韓国向けのサービスを外部と一緒に作る、あるいは運用する場合には、いくつかの点を早めにすり合わせておくと見通しが立ちます。まず出発点になるのが、「自社がどの類型にあたるのか」の整理です。AIを開発する立場なのか、使う立場なのか、生成AIを提供しているのか、高影響AIに関わるのか。ひとつの事業でこれらが重なることもあるため、担っている役割を洗い出すところから始めると、必要な備えが見えてきます。

そのうえで、域外適用の当てはまりと、表示・体制の準備を詰めていきます。韓国の市場や利用者にどれだけ関わっているのか、国内代理人の指定が視野に入る規模なのか。生成AIを組み込むなら、AI利用の明示や生成物の表示を、どの画面でどう見せるのか。こうした論点を、要件定義の段階から取引先と共有できると、後戻りが減ります。制度の解釈から、設計への落とし込み、運用後の見直しまでを見通して一緒に描ける相手だと、韓国展開を任せたあとも落ち着いて進めやすくなるものです。

まとめ:韓国AI基本法で押さえる3つの視点

韓国AI基本法は、AIの振興と規律の両立をめざす、包括的な枠組みです。押さえておきたい視点は三つに整理できます。第一に、2026年1月22日に施行された、EUに次ぐ包括的なAI法であり、高影響AIと生成AIを軸に義務を置いていること。第二に、域外適用があり、韓国の市場・利用者に影響する海外事業者も対象になりうるため、日本の企業も適用の有無を確かめる必要があること。第三に、日本のAI推進法より一歩踏み込み、表示義務違反などに過料を定めている一方、EUのような細かな段階分けとは組み立てが異なること。まずは、自社が韓国市場とどう関わり、どの類型にあたるのかを見定めるところから始めるとよいでしょう。判断に迷う部分があれば、公式情報の確認とあわせて、外部の知見を頼るのも堅実な選び方といえます。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、海外向けサービスの開発・運用を、制度対応の観点まで含めて一貫して受託しています。自社がどの類型にあたるのかの整理から、域外適用の当てはめの検討、生成AIの表示や体制づくりの設計まで、韓国AI基本法をふまえたご提案ができるのが強みです。どこから手を付けるべきか、現状把握の段階からご相談いただけます。

よくある質問

日本の企業でも韓国AI基本法の対象になりますか。

なりうると考えておくのが無難です。この法律には域外適用があり、韓国の市場や利用者に影響するサービスであれば、開発や運用の場所を問わず対象になりうる立て付けになっています。まずは、韓国向けにサービスを出しているか、韓国の利用者を抱えているかを確かめるところからです。適用の有無は判断を伴うため、公式情報や専門家にご確認ください。

「高影響AI」とは何を指しますか。

人の権利や義務に大きく関わる領域で使われるAIを指します。医療やエネルギー、公共サービスといった分野、あるいは与信審査・融資判断のような場面が例に挙げられています。こうした用途では、判断の根拠を説明できるようにしておくことや、リスク管理・影響評価などの備えが求められる組み立てです。自社の用途が当てはまるかは、早めに整理しておきたいところです。

生成AIを使ったサービスでは何が必要ですか。

主に透明性と表示に関わる対応です。サービスがAIで動いていることを利用者に知らせること、AIが生成した成果物にその旨の表示を付けること、本物と見まがう合成コンテンツにはそれとわかる開示を行うことが挙げられています。韓国向けに提供するなら、これらの表示をどの画面でどう見せるかを、設計の早い段階から織り込むとよいでしょう。

EUのAI規則や日本のAI推進法とどう違いますか。

組み立てが異なります。EUはリスクの高さで四段階に分ける形、日本は罰則を伴わない理念型なのに対し、韓国は高影響AIと生成AIを軸に義務を課し、表示義務違反などに過料を定めています。米国のように州ごとに分かれた形とも異なり、国として統一した基本法を敷いた点が特徴です。詳しくは各制度の解説記事もあわせてご覧ください。

まず何から着手すればよいですか。

自社が韓国市場とどう関わり、どの類型にあたるのかの整理から始めるとよいでしょう。AIを開発する立場か、使う立場か、生成AIを提供しているか、高影響AIに関わるかを洗い出すと、必要な備えが見えてきます。そのうえで、域外適用の当てはめや、表示・体制の準備を詰めていきます。判断に迷う部分は、公式情報の確認と専門家への相談を組み合わせるのが堅実です。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑

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  1. *1 参考:Cooley「South Korea’s AI Basic Act: Overview and Key Takeaways」(https://www.cooley.com/news/insight/2026/2026-01-27-south-koreas-ai-basic-act-overview-and-key-takeaways)。施行日・域外適用・国内代理人・過料の一般的な参考として。
  2. *2 参考:韓国 国家法令情報センター「人工知能発展及び信頼基盤造成等に関する基本法」(https://www.law.go.kr/lsInfoP.do?lsiSeq=268543)。法律の条文の参照先として。


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