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米国のAI規制とは|州法とアルゴリズム差別
採用の書類選考や、融資の審査にAIを使いたい。ただ、米国の利用者が関わる場合、どんなルールに気を配ればよいのか——。そんなとき目を向けたいのが、米国のAIに関する規制です。米国には、EUのような「1つの包括的なAI法」が連邦レベルにはまだありません。代わりに、州がそれぞれ個別にAI法を作り始めており、内容が州ごとに少しずつ異なる「パッチワーク」の様相を見せています。これは、米国のプライバシー法が州ごとに分かれているのと、よく似た構図です。
とりわけ議論の中心にあるのが、AIによる「アルゴリズム差別」をどう防ぐか、という論点なのです。本記事では、米国の利用者に関わるAIの開発や活用に携わる情報システム部門・事業部門の担当者に向けて、米国のAI規制とは何か、中心となるテーマ、代表的な州法、誰が対象なのか、そして受託・委託開発で押さえるべき点を整理します。なお、本記事は一般的な情報の整理であり、法的な助言ではありません。施行の時期などは動きがあるため、個別の適否は公式情報や専門家にご確認ください。
目次
米国のAI規制とは——州ごとのパッチワーク
米国のAI規制を一言でいえば、「連邦の包括的な法律がなく、州ごとに広がりつつあるルールの集まり」です。EUには、AI全般をリスクの高さで区分して規律する包括的な法律があります。ところが米国では、AIを横断的に扱う連邦の法律は、いまのところ整っていないのです。その空白を待たずに、いくつかの州が先んじて、それぞれのAI法を制定し始めた、というのが現状になります。
この構図は、以前に取り上げた米国のプライバシー法と、そっくりです。連邦に単一の法律がなく、州ごとにルールが分かれる。だから、複数の州の住民に関わる事業ほど、州ごとの違いに目を配る手間がかかります。AIの分野でも同じことが起こりつつあり、州によって、対象とするAIの範囲も、事業者に求めることも、少しずつ異なるのです。全体像を図にまとめました。
この記事のポイント
- 米国には連邦の包括的なAI法がなく、州ごとのルールが広がる「パッチワーク」になりつつあります。
- 中心テーマは、採用や融資などの重要な決定に関わるハイリスクAIと、その「アルゴリズム差別」の防止です。
- 米国の州の住民に関わる決定にAIを使うなら、所在地が国外でも関わりうる点に注意が要ります。
中心テーマ——ハイリスクAIとアルゴリズム差別
米国の州のAI法を読み解くうえで、鍵になる考え方が二つあります。一つは「ハイリスクなAI」という区分です。これは、人の暮らしを大きく左右する「重要な決定」に関わるAIを指します。たとえば、採用や雇用、融資などの金融サービス、住宅、保険、教育、医療といった場面で、決定を下したり、その大きな判断材料になったりするAIが当てはまります。こうした場面のAIは、影響が大きいだけに、厚めの配慮が求められるわけです。
もう一つが「アルゴリズム差別」です。これは、AIを使った結果、年齢や人種、性別といった、法で守られた属性を理由に、特定の人や集団が不当に不利な扱いを受けてしまうことを指します。州のAI法は、この差別を防ぐことを大きなねらいに据えています。たとえばコロラド州の法律は、ハイリスクAIの開発者と利用者に対し、差別のリスクから消費者を守るための「合理的な配慮」を求める組み立てです。AIの判断が、意図せず偏りを生まないよう、目を配ることが問われます。AIガバナンスの体制づくりとも深くつながる論点です。
代表的な州の動き
実際に、どの州が、どんな法律を設けているのでしょうか。よく取り上げられる動きを整理しました。
| 州・都市 | おおまかな内容 |
|---|---|
| コロラド州 | ハイリスクAIの開発者・利用者に、アルゴリズム差別を防ぐ合理的な配慮を求める |
| テキサス州(TRAIGA) | AIの悪用防止。開示や、生体情報の同意、有害な使い方の禁止など |
| ニューヨーク市 | 採用に使うAIについて、偏りの監査などを求める(早い時期からの例) |
先頭を走ってきたのがコロラド州で、ハイリスクAIを対象に、アルゴリズム差別への配慮を正面から求める法律を設けました。テキサス州のTRAIGA(責任あるAI統治法)は、悪用への対応に軸足を置き、AIとやり取りする際の開示や、生体情報を扱う際の同意、人を操るような使い方の禁止などを盛り込んでいるのです。さらに、州だけでなく市の単位でも動きがあり、採用に使うAIの偏りを監査するよう求めるニューヨーク市の例などは、早い時期からのものとして知られています。こうした個別の規律が、あちこちで積み重なりつつあるのが、いまの米国の姿です。なお、これらの法律は施行の時期が調整されることもあり、最新の状況は公式情報での確認が欠かせません。
誰が対象になるのか
州のAI法が誰に関わるかは、大きく二つの立場で捉えると分かりやすくなります。一つは、AIを作って提供する「開発者」。もう一つが、そのAIを業務で使う「利用者(デプロイヤー)」です。たとえばコロラド州の法律は、この両方に、それぞれの立場に応じた配慮を求めます。自社がAIを作る側なのか、使う側なのか、あるいは両方なのかによって、担う役割が変わってくるわけです。
そして、ここでも所在地は決め手になりません。会社が国外にあっても、米国のある州の住民に関わる重要な決定にAIを使うのであれば、その州の法律が視野に入ってきます。米国の消費者に向けたサービスで、採用や与信といった判断にAIを組み込んでいる場合などは、とりわけ注意したいところです。まずは、自社のAIが、どの州の、どんな決定に関わっているのかを見極めることが出発点になります。
EUのAI規制・米国プライバシー法との違い
米国のAI規制の性格は、他のルールと並べると、いっそうはっきりします。まず、EUのAI規制(AI Act)との違いです。EUは、AI全般をリスクの高さで区分し、域内で共通して適用される「1つの包括的な法律」を持ちます。これに対して米国は、連邦の包括法がなく、州ごとに法律が分かれています。1つの枠組みに沿えばよいEUと、州の数だけ目配りが要る米国、という対比です。
もう一つ、同じ米国のプライバシー法とも見比べておくと、腑に落ちます。米国のプライバシー法もまた、連邦の包括法がなく、州ごとのパッチワークでした。AIの規制は、その「州が先行する」という進み方を、そのままなぞっている面があります。つまり米国では、プライバシーもAIも、州ごとの動きを追いかける構えが求められる、というわけです。どちらも、自社がどの州の、どの住民を相手にしているのかを軸に見ていくのが、確かな進め方になります。
受託・委託開発で押さえる実務ポイント
米国の利用者に関わるAIを外部と開発・運用する場合、州のAI規制についても、いくつかの点をすり合わせておくと見通しが立ちます。まず、そのAIが「重要な決定」に関わるかどうかの見極めです。採用や与信、保険や住宅といった場面に使うのであれば、ハイリスクとして厚めの配慮が要る可能性があります。用途を早い段階で棚卸しし、どの決定にAIが効いてくるのかをはっきりさせておきたいところです。
次に、アルゴリズム差別への備えです。学習に使うデータの偏りや、出力の偏りを点検する仕組み、判断の根拠を説明できるようにする工夫などを、設計のなかにどう織り込むかを相談しておくと見通しが立ちます。あわせて、自社が開発者と利用者のどちらの立場で、どの義務を担うのかを、契約の段階ではっきりさせておくと、後の食い違いを防げるわけです。用途の棚卸しから、偏りへの備え、役割の切り分けまでを見通して一緒に描ける相手だと、任せたあとも落ち着いて運用しやすくなります。
まとめ:米国のAI規制で押さえる3つの視点
米国のAI規制は、連邦の包括法がないなかで、州ごとのルールが広がりつつある、動きの速い領域です。押さえておきたい視点は三つに整理できます。第一に、米国には連邦の包括的なAI法がなく、州ごとの「パッチワーク」であり、プライバシー法と同じ構図をたどっていること。第二に、中心テーマは、採用や融資などの重要な決定に関わるハイリスクAIと、その「アルゴリズム差別」の防止であること。第三に、米国の州の住民に関わる決定にAIを使うなら、所在地が国外でも関わりうることです。まずは、自社のAIが、どの州の、どんな決定に関わっているのかを見極めるところから。判断に迷う部分があれば、公式情報の確認とあわせて、外部の知見を頼るのも堅実な選び方といえます。
よくある質問
米国には、EUのAI規制のような1つの法律はないのですか。
連邦レベルには、AI全般を横断的に扱う包括的な法律が、いまのところ整っていません。代わりに、州がそれぞれ個別にAI法を制定し始めており、州ごとに内容が少しずつ異なります。これは、米国のプライバシー法が州ごとのパッチワークになっているのと、よく似た構図です。連邦の動きを待たず、州が先行しています。
「アルゴリズム差別」とは何ですか。
AIを使った結果、年齢や人種、性別といった、法で守られた属性を理由に、特定の人や集団が不当に不利な扱いを受けてしまうことを指します。米国の州のAI法は、この差別を防ぐことを大きなねらいに据えているのです。採用や融資など、重要な決定にAIを使う場面で、意図せぬ偏りが生じないよう配慮することが問われます。
「ハイリスクなAI」とは、どのようなものですか。
人の暮らしを大きく左右する「重要な決定」に関わるAIを指します。採用や雇用、融資などの金融サービス、住宅、保険、教育、医療といった場面で、決定を下したり、その大きな判断材料になったりするAIが当てはまります。影響が大きいだけに、差別を防ぐ配慮など、厚めの対応が求められる区分です。
米国に拠点がない日本企業も関係しますか。
関わる場合があります。所在地は決め手にならず、米国のある州の住民に関わる重要な決定にAIを使うのであれば、その州の法律が視野に入るのです。米国の消費者に向けたサービスで、採用や与信などの判断にAIを組み込んでいる場合は、とりわけ注意したいところです。自社のAIがどの州のどんな決定に関わるかの棚卸しをおすすめします。
まず何から着手すればよいですか。
自社のAIが「重要な決定」に関わるかの見極めから始めるとよいでしょう。関わる場合は、どの州の住民が対象か、自社は開発者か利用者かを整理します。そのうえで、データや出力の偏りを点検する仕組みや、判断根拠を説明できる工夫を設計に織り込んでいきます。施行時期は動きがあるため、公式情報の確認と専門家への相談を組み合わせるのが堅実です。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
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元請(プライムベンダー)として、重要な決定に関わるかの見極めから、アルゴリズム差別への備え・役割の切り分けまで、貴社の米国展開に合わせてご提案します。まずはお気軽にご相談ください。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 参考:IAPP「US State AI Governance Legislation Tracker」(https://iapp.org/resources/article/us-state-ai-governance-legislation-tracker)。州のAI法の広がり・全体像の参考として。
- *2 参考:Colorado General Assembly「SB24-205 Consumer Protections for Artificial Intelligence」(https://leg.colorado.gov/bills/sb24-205)。ハイリスクAI・アルゴリズム差別の参考として。