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税制改正と給与システム|年末調整の改修点
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 改正の性格:令和8年度税制改正では、基礎控除の引上げ、給与所得控除の最低保障額の引上げ、扶養親族等の所得要件の改正が行われました*1。
- 施行時期がずれる:基礎控除等の改正は令和8年12月1日施行、源泉徴収税額表の改正は令和9年1月1日施行と、時期が分かれています*1。
- 改修の勘どころ:毎月の計算より、令和8年12月の年末調整と年明けの税額表切替に作業が集まります。控除額を設定で持てているかが分かれ目です。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
給与計算は、税制が変わるたびに手を入れる領域です。控除の額が動けば計算式が変わり、所得の要件が動けば扶養の判定が変わります。令和8年度税制改正では、所得税の基礎控除の引上げ、給与所得控除の最低保障額の引上げ、扶養親族等の所得要件の改正が行われました*1。
やや厄介なのは、改正項目によって施行の時期が分かれている点です。給与の源泉徴収事務でいえば、令和8年11月までは変更が生じません。改正後の控除額を反映するのは令和8年12月に行う年末調整からで、源泉徴収税額表そのものの改正は令和9年1月1日以後に支払う給与から適用されます*1。
本記事では、給与システムを担当する情報システム部門と、その改修を受託する立場に向けて、どこに手が入るのか、テストをどう組むのか、次の改正に備える設計はどうあるべきかを整理します。制度の解釈が要る部分は最新の公式資料で確かめながら進めてください。
目次
何が変わったか——三つの改正と、二段階の施行日
令和8年度税制改正のうち、給与の源泉徴収事務に関わる部分は、大きく二つのまとまりに分けて施行されます。国税庁の資料では、次のように整理されています*1。
令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税について適用されるのが、①基礎控除の引上げ、②給与所得控除の最低保障額の引上げとそれに伴う「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」の改正、③扶養親族等の所得要件の改正——この三つです*1。
いっぽう、令和9年1月1日に施行され、同日以後に支払うべき給与について適用されるのが、④「源泉徴収税額表」の改正です。公的年金等に係る源泉徴収税額の計算における基礎的控除額の引上げも、この時期に合わせて施行されます*1。
この二段階という構造が、実務の段取りを決めます。令和8年11月までの給与の源泉徴収事務には変更が生じません*1。つまり、月々の計算処理を年内に急いで直す必要はない、ということです。手が集まるのは12月の年末調整と、年明けの税額表の切り替えになります。
金額の水準についても、公式資料に明示されているものがあります。給与所得控除の最低保障額は65万円から74万円に引き上げられました。家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例についても、必要経費に算入する金額の最低保障額が65万円から69万円へ引き上げられています*1。
令和8年12月の年末調整——精算という形で効いてくる
令和8年分の給与の源泉徴収事務では、12月に行う年末調整の際に、引上げ後の基礎控除額と、改正後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」に基づいて1年間の税額を計算します。そして、改正前の「源泉徴収税額表」によって計算してきた源泉徴収税額との精算を行う——これが今回の枠組みです*1。
システムの側から見ると、次の点が実装の勘どころになります。
| 箇所 | 見直しの内容 | 対応の重さ |
|---|---|---|
| 給与所得控除後の金額 | 改正後の表に差し替え。収入金額の区分ごとの計算 | 表をデータで持てていれば軽い |
| 基礎控除額 | 合計所得金額に応じた改正後の額を適用 | 区分の数が増えると分岐が複雑に |
| 扶養親族等の判定 | 所得要件の改正により対象者が変わる | 判定ロジックと申告データの両方に影響 |
| 過納額の還付 | 徴収税額からの差引きと繰越の処理 | 既存機能で足りることが多い |
| 申告書の入力画面 | 改正後の控除額を記載・入力できる形へ | 画面とチェック処理の見直しが要る |
注意したいのは、給与所得控除の最低保障額が上がることで、配偶者や特定親族の合計所得金額の計算にも影響が及ぶ点です。改正後の給与所得控除額を適用して算出した合計所得金額に応じて、配偶者(特別)控除額や特定親族特別控除額を正しく記載する必要があるとされています*1。他人の所得を経由して自分の控除額が決まる構造なので、入力チェックの作りが甘いと誤りが通ってしまいます。
過納額が生じたときの扱いも押さえておきます。毎月の徴収税額の合計が年調年税額より多い場合、その差額は本人へ還付し、年末調整を行った月分として納付する徴収税額から差し引きます。それだけで還付しきれないときは、その後に納付する徴収税額から順次差し引く形になります*1。今回の改正は控除が増える方向なので、還付が発生する人が多くなることを見込んで処理性能を確かめておきたいところです。
この精算処理は、月次で回っているバッチとは別の重い処理になります。バッチ処理の実行管理で扱うような、処理時間と再実行の設計を年末調整の時期に合わせて見ておきたいところです。
申告書と法定調書——様式まわりの影響
年末調整の関係書類についても、押さえるべき点があります。
扶養控除等申告書です。令和8年分の扶養控除等申告書に記載する事項そのものに変更はありません。ただし所得要件の改正により、新たに扶養控除等の対象となる扶養親族等を有することとなった従業員は、その旨を記載した申告書を提出することになります。この際、「異動月日及び事由」欄に「令和8年12月1日 改正」などと記載するよう案内されています*1。
ここには実装上の落とし穴があります。令和8年11月30日以前に支払う給与については、「源泉徴収税額表」を使う際の「扶養親族等の数」に、この改正で新たに対象となった扶養親族等を含めないよう注意が必要とされています*1。つまり、同じ申告データが、支払日によって扱いが変わるということです。日付を基準に判定を切り替える作りにしておかないと、11月分の計算が狂います。
基礎控除申告書・配偶者控除等申告書・特定親族特別控除申告書です。いずれも、改正後の額を正しく記載する必要があります*1。自社で年末調整の入力を電子化している場合、入力欄の上限値や説明文、入力チェックの閾値を見直す作業が発生します。紙の様式を前提にしたチェックが残っていると、正しい額が弾かれる事故が起きます。
なお、実務への配慮として、令和8年12月1日から書類の提出を受けたのでは年末調整に間に合わない事態も想定されるため、同日以後適用される改正を反映した年末調整関係書類を、同日前から提出することとしても差し支えないとされています*1。例年11月から書類を集めている企業は、この点を踏まえて回収の段取りを組めます。システム側では、改正後の様式を11月中から使える状態にしておく必要があるということです。
源泉徴収票と法定調書です。令和8年度税制改正に伴う「給与所得の源泉徴収票」の改正はありません。ただし国税システムの更改に伴い、令和8年8月以降、源泉徴収票を含むすべての法定調書の様式が変わるとされています*1。改正対応とは別の理由で様式が動くため、まとめて確認しておくのが得策です。
加えて、令和9年1月以後に提出する令和8年分の源泉徴収票については、市区町村に給与支払報告書を提出した場合、税務署に提出する必要がないとされています。受給者への交付は引き続き必要です*1。提出先の分岐を持っているシステムでは、この特例に合わせて出力の制御を見直す余地があります。
適用の境目にいる人——例外パターンの洗い出し
制度改正の対応でいちばん漏れやすいのは、期間の境目にいる人の扱いです。今回は施行日が年の途中にあるため、境目のパターンが具体的に示されています。
令和8年中に死亡により退職した人、年の中途で海外の支店等への転勤などにより非居住者となった人など、居住者として最後に給与の支払を受けた日が令和8年11月30日以前である人。この場合の年末調整では、改正後の控除等は適用されません。年末調整は給与の支払者がその年最後に給与の支払をする際に行うものであるためで、本人が改正後の控除等の適用を受けるには確定申告等が必要になるとされています*1。
システムの視点では、次の三点を洗い出しておきます。
第一に、判定の基準日をどこに置くかです。「最後に給与の支払を受けた日」が基準になるため、退職日や資格喪失日で判定していると誤ります。支払日ベースの判定に直せるかを確かめます。
第二に、年内に複数回の年末調整が走る構造への対応です。中途退職者の年末調整を随時行っている企業では、11月までに実施したものと12月に実施するものが混在します。どの控除額を使ったかを個人単位で記録しておかないと、後から検証できません。
第三に、本人への案内です。確定申告で対応してもらう必要がある人には、その旨を伝える必要があります。対象者を抽出して一覧で出せるようにしておくと、人事の手作業が減ります。
この種の例外は、要件定義の段階で洗い出しておかないと、稼働直前に発覚して手戻りになります。受入テストの設計で扱うような観点で、境目の人物パターンをテストデータとして先に用意しておくのが実務的です。
テストをどう組むか——年に一度しか通らない処理を検証する
給与システムの改修が難しいのは、年末調整のように年に一度しか実行されない処理が対象になる点です。本番で試すわけにはいかず、しかし誤ると全社員の税額に影響します。テストの組み方が品質を決めます。
第一に、代表パターンの設計です。合計所得金額の区分ごと、扶養親族の構成ごと、配偶者や特定親族に給与所得がある場合——組み合わせを掛け合わせると膨大になるため、区分の境界値を軸に絞り込みます。控除額が切り替わる金額のちょうど上と下、これを外さないことが要点です。
第二に、改正前後の突き合わせです。同じ従業員データで改正前の計算と改正後の計算を並べ、差額が想定どおりかを確認します。全員分の差額を一覧にして、外れ値だけを人が見る形にすると、検証の手間を抑えられます。
第三に、前年データの再計算です。本番の前年データを使って改正後のロジックを通し、明らかにおかしい結果が出ないかを見ます。個人情報を含むため、検証環境の扱いには注意が要ります。マイナンバーを扱う場合は、マイナンバーの安全管理で求められる水準を検証環境にも適用する必要があります。
第四に、年明けの税額表切替の検証です。令和9年1月1日以後に支払うべき給与については、改正後の「源泉徴収税額表」を使用して源泉徴収税額を計算することになります*1。この切り替えは、支払日を基準に判定します。12月に締めて1月に支払う給与がある企業では、どちらの表を使うのかを明確にしておく必要があります。
また、国税庁が作成する「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」や「令和9年分 源泉徴収税額表」は、公表の時期が示されています*1。データの入手時期がテスト計画の制約になるため、公表を待つ部分と先に進められる部分を切り分けて段取りを組みます。
次の改正に備える設計——控除の額を外に出す
税制改正は繰り返されます。そのたびに開発が必要になる状態を、少しでも減らしておきたいところです。設計面での勘どころを挙げます。
第一に、控除額と税率をデータとして持つことです。基礎控除の額、給与所得控除の計算式、税額表の値——これらがプログラムに書き込まれていると、改正のたびにコードを触ることになります。適用期間つきのマスタとして持ち、期間で切り替える形にしておけば、次はデータの追加で済む可能性が出てきます。
第二に、判定の基準日を明示的に扱うことです。今回のように施行日が年の途中にある改正では、支払日や申告日を基準に挙動が変わります。「いつの制度で計算したか」を計算結果とともに記録しておくと、後から検証できます。
第三に、申告書の様式を設定で扱うことです。入力項目、上限値、説明文。これらを画面に固定で書くのではなく、様式の定義として管理できるようにしておくと、様式が変わるたびの改修が軽くなります。
第四に、他システムとの連携部分を確かめることです。給与の計算結果は、会計や人事へ流れていきます。控除の内訳が変わると、連携する項目の意味も変わります。人事給与システムの連携で扱うような接続点を、改修の影響範囲として最初に洗い出しておきます。
海外拠点を持つ企業では、国ごとに制度が違うため、共通化の範囲を決める判断も要ります。グローバルの給与計算で扱うような、国ごとの差異を吸収する層をどこに置くかという設計は、日本の改正対応の作り方にも影響します。
受託・委託で進めるときの要点
税制改正への対応は、期限が動かない案件です。外部の力を借りて進める場合の要点を挙げます。
第一に、施行日から逆算した計画です。令和8年12月の年末調整に間に合わせる部分と、令和9年1月の税額表切替に間に合わせる部分は別物です。区切って出す前提で工程を引きます。
第二に、制度解釈の担い手を決めることです。控除額の計算方法や境目の扱いは、税務の知識が要る領域です。社内の経理・税務担当や顧問税理士に確かめる窓口を決め、開発側は「決まった解釈を仕様として実装する」役割に集中する。この分担が曖昧だと、実装の途中で解釈が揺れて手戻りが出ます。
第三に、テストデータの準備を工程に入れることです。境界値のパターンを作る作業は、それ自体に工数がかかります。誰が作るのかを決めておかないと、検証の直前に慌てることになります。
第四に、公式資料の版を管理することです。Q&Aや税額表は更新されることがあります。どの時点の資料に基づいて実装したかを記録しておくと、後から差分を追えます。国税庁のQ&Aにも「令和8年5月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています」といった注記が付されています*1。
第五に、運用側の資料を成果物に含めるかを決めることです。担当者向けの操作手順、従業員向けの案内文。システムだけ直しても運用は回りません。範囲に含めるかどうかを契約の段階で決めておきます。
体制としては、給与計算の業務を理解している要員が入れるかが分かれ目になります。計算式だけを追う実装では、境目のパターンや例年の運用に気づけません。業務側と設計側が同じ場で話せる形を作れるかを、委託先を選ぶ観点に入れておくとよいでしょう。
まとめ:税制改正の給与システム対応で押さえる3つの視点
令和8年度税制改正では、所得税の基礎控除の引上げ、給与所得控除の最低保障額の引上げ、扶養親族等の所得要件の改正が行われ、給与の源泉徴収事務にも変更が生じます。押さえたい視点は三つです。第一に、施行日が二段階に分かれており、令和8年11月までの毎月の源泉徴収事務には変更が生じないいっぽう、令和8年12月の年末調整で改正後の控除額を用いて精算し、令和9年1月1日以後の給与から改正後の源泉徴収税額表を使うという構造を、支払日を基準に実装する必要があること。第二に、期間の境目にいる人——最後の給与の支払が令和8年11月30日以前である人など——の扱いを要件定義の段階で洗い出しておく必要があること。第三に、控除額や税額表をプログラムから追い出して適用期間つきのデータとして持つことが、次の改正への備えになることです。まずは自社の給与システムで控除額がどこに書かれているかを確かめ、公式資料の公表時期に合わせてテスト計画を引くところから着手するのが堅実でしょう。
よくある質問
毎月の給与計算は、いつから直せばよいですか。
令和8年11月までの給与の源泉徴収事務には変更が生じないとされています。改正後の源泉徴収税額表は令和9年1月1日以後に支払うべき給与から適用されるため、月々の計算処理は年明けの支払いに間に合えばよい、という段取りになります。ただし12月の年末調整で改正後の控除額を用いた精算が必要なため、そちらは年内に仕上げる必要があります。
年末調整の入力画面は、どこを直す必要がありますか。
基礎控除申告書、配偶者控除等申告書、特定親族特別控除申告書のいずれも、改正後の額を記載できる状態にする必要があります。入力欄の上限値や入力チェックの閾値が改正前の水準で固定されていると、正しい額が弾かれます。給与所得控除の最低保障額が上がることで配偶者や特定親族の合計所得金額の計算も変わるため、そこを経由する判定もあわせて見直します。
年の途中で退職した人の扱いはどうなりますか。
居住者として最後に給与の支払を受けた日が令和8年11月30日以前である人の年末調整では、改正後の控除等は適用されないとされています。本人が改正後の控除等の適用を受けるには確定申告等が必要になります。システム側では、退職日ではなく最後の支払日を基準に判定できるか、そして対象者を抽出して案内できるかを確かめておきます。
テストはどう組むのが現実的ですか。
控除額が切り替わる金額の境界値を軸にパターンを設計し、改正前の計算と改正後の計算を同じデータで並べて差額を確認する形が現実的です。全員分の差額を一覧化し、外れ値だけを人が見る作りにすると検証の手間を抑えられます。前年の本番データで再計算する場合は、検証環境の情報管理の水準にも注意が要ります。
次の改正に備えて、いま何をしておくべきですか。
控除額や税額表、給与所得控除の計算式がプログラムに書き込まれていないかを確かめ、適用期間つきのマスタへ寄せることです。あわせて、計算結果に「どの時点の制度で計算したか」を記録しておくと、後から検証できます。申告書の様式を設定として管理できるようにしておけば、様式変更のたびの改修も軽くなります。
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出典
- *1 参考:国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」(https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026kiso/index.htm)。改正項目・施行日・源泉徴収事務への影響および関係Q&Aの一次情報として(2026年8月確認)
- *2 参考:国税庁「令和8年分 源泉徴収税額表」(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2026/01.htm)。税額表の改正内容と公表状況の確認として(2026年8月確認)