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2026.07.17 らしくコラム

予兆保全システム|設備の状態監視と故障予兆をデータで捉える

LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム開発・保守運用を受託

予兆保全のイメージ

この記事のポイント

  • 予兆保全システムは、振動・温度・電流などのセンサーで設備の状態を監視し、劣化傾向や故障予兆をデータで捉える仕組みです。時間基準保全(TBM)から状態基準保全(CBM)への移行を支える基盤にあたります。
  • 保全業務を管理するCMMSや、汎用ITインフラ監視とは目的が異なり、「設備そのものの故障予兆の検知」に特化する点が核になります。
  • 経済産業省は産業保安分野で、定期検査中心の運用から設備状態に基づく保全・常時監視への移行を後押ししています*1。国際規格ISO 17359は状態監視の一般指針を示しています*2

突発故障と過剰保全——設備保全が抱える二つの課題

状態監視のイメージ

製造業や設備を持つ事業者にとって、生産設備の保全は生産計画を左右する重要な業務です。従来の保全は大きく二つの方式に整理されます。故障が起きてから修理する事後保全(BM)と、稼働時間やカレンダー周期であらかじめ部品を交換する時間基準保全(TBM)です。

図
図:事後保全・時間基準保全と、状態データに基づく状態基準保全(CBM)の考え方の違い

事後保全は、部品を使い切れる一方で、故障が予告なく起きると生産ラインの突発停止につながりかねません。時間基準保全は突発停止を抑えられますが、まだ使える部品まで周期到来で交換してしまい、部品費や作業工数の面で過剰になりやすい側面があります。突発故障と過剰保全は、いわば裏表の課題といえるでしょう。

この構造的な課題に、人材面の事情が重なります。経済産業省の産業保安に関する資料は、設備の経年劣化に加え、経験豊富な検査員の退職や若手の経験不足によって、保全・保安の力が低下しつつある状況を課題として挙げています*1。限られた人数で設備を見守るには、勘や経験だけに頼らず、データで状態を捉える手立てが求められます。

センシング技術やIoTの普及により、計測データを以前より高速・高精度に、かつ低コストで取得しやすくなりました*1。こうした背景から、設備の状態をデータで捉えて故障の予兆を掴む「予兆保全」への関心が高まっています。次章で、その中身を整理します。

予兆保全システムとは——設備の状態をデータで捉え故障予兆を検知する仕組み

予兆保全(予知保全)とは、日々稼働する機器や設備の動きを常に計測・監視し、対象物の劣化状態を掴んで故障を予知し、部品交換などにつなげる考え方です*4。時間や周期ではなく、設備の実際の状態を根拠に保全のタイミングを決める点が特徴になります。この方式は状態基準保全(CBM。Condition Based Maintenance)と呼ばれ、予防保全の一種に位置づけられます。

予兆保全システムは、この考え方をシステムとして形にしたものです。おおまかには、次の三段の流れで機能します。第一が、設備に取り付けたセンサーで振動や温度などの状態量を計測する段階です。第二に、計測データを収集・蓄積し、劣化の傾向や異常の予兆をしきい値や分析ロジックで捉えます。そして第三に、検知した予兆を保全の計画や作業指示につなげます。

状態監視に用いる代表的なパラメータについて、国際規格ISO 17359(機械の状態監視及び診断の一般指針)は、振動・温度・トライボロジー(潤滑油など)・流量・電力・回転数といった項目を挙げています*2。設備の種類や想定する故障モードによって、どの状態量をどう測るかは変わってきます。

回転機を例にとると、振動監視が有力な手段になります。回転設備の経年劣化は機構部に影響して振動を変化させるため、温度や音よりも早い段階で異常を捉えやすいとされます*5。具体的には、軸受(ベアリング)の傷のように1000Hzを超える高い周波数が重要になる異常には振動加速度が、アンバランスやミスアライメントのように10〜1000Hzの周波数が重要になる異常には振動速度が使い分けられます*5。故障の原因によって現れる周波数が異なる点を踏まえ、測り方を設計することが土台になります。

CMMS・汎用ITインフラ監視との違い——「設備の故障予兆検知」への特化

予兆保全システムは、周辺のシステムとしばしば混同されます。代表例が、保全業務を管理するCMMS(設備保全管理システム)と、サーバーやネットワークを監視する汎用ITインフラ監視です。いずれも設備や運用に関わりますが、目的とする対象が異なります。

CMMSは、点検計画や作業履歴、部品在庫、保全コストといった「保全業務そのもの」を管理する仕組みです。いつ誰がどの作業を行ったかを記録し、保全のマネジメントを支えます。一方の予兆保全システムは、設備の状態量を計測して「故障の予兆を検知する」ことに主眼があります。両者は競合ではなく、予兆保全が捉えた予兆をCMMSの作業指示につなぐという補完関係で捉えると整理しやすいでしょう。

汎用ITインフラ監視は、CPU使用率や通信の疎通、サーバーの稼働状況といったIT資源の稼働を監視する仕組みです。監視という言葉は共通しますが、見ている対象は情報システムであり、生産設備の物理的な劣化ではありません。予兆保全システムが見るのは、振動や温度に現れる設備の劣化傾向や異常の兆候です。汎用監視の延長で設備の故障予兆まで捉えられるわけではない点に注意が必要になります。

まとめると、予兆保全システムの独自性は「設備そのものの故障予兆の検知」に特化している点にあります。CMMSは保全業務の管理、汎用ITインフラ監視はIT資源の稼働監視、予兆保全システムは設備状態の監視と予兆検知——役割の違いを踏まえて設計することが、重複投資を避ける鍵になります。

比較軸 予兆保全システム CMMS(設備保全管理) 汎用ITインフラ監視
主な対象 生産設備の物理的な状態 保全業務・作業・部品在庫 サーバー・ネットワーク等のIT資源
主な目的 故障予兆の検知 保全業務の記録と管理 IT資源の稼働監視
見るデータ 振動・温度・電流などの状態量*2 点検履歴・作業指示・コスト CPU使用率・疎通・稼働状況
連携の位置づけ 予兆をCMMSの作業指示へ渡す 予兆を受けて保全を実行・記録 別レイヤーとして併存

予兆保全システムの4つの機能要素——状態監視・予兆検知・保全連携・CBM移行

データ分析のイメージ

予兆保全システムを構成する機能は、大きく四つの要素に分けて考えられます。要件を整理する際の観点として、順に見ていきます。

1. 状態監視——センサーで設備の状態量を計測する

最初の要素は、設備の状態量を計測する状態監視です。回転機であれば振動、モーターや電気系統であれば電流や温度が指標として使われます*4*5。既存設備に後付けする場合は、配線を大きく変えずに設置できる無線センサーが選ばれることもあります。どの部位に何のセンサーを、どの頻度で取り付けるかは、対象設備と想定する故障モードから逆算して決める設計事項になります。

2. 予兆検知——しきい値や機械学習で異常の兆候を捉える

次の要素は、収集したデータから劣化傾向や異常の予兆を捉える予兆検知です。判定の方法には、あらかじめ設定した基準値を超えたかどうかを見るしきい値方式と、正常時のデータから学習したモデルで逸脱を見つける機械学習方式があります。振動診断では、波形の周波数分析によって故障の原因を切り分ける手法が用いられます*3*5。どこまでを予兆とみなすかの基準設計が、検知の精度と誤報の少なさを左右します。

3. 保全連携——予兆を保全計画・作業指示につなげる

三つ目の要素は、検知した予兆を保全の計画や作業指示につなげる保全連携です。予兆を捉えても、担当者への通知や作業への反映がなければ、対応にはつながりません。アラートの通知先や対応手順、CMMSなど既存システムとのデータ連携を設計することで、予兆検知が現場の行動に結びつきます。予兆保全システムを孤立させず、保全業務の流れに組み込む視点が欠かせないでしょう。

4. CBM移行——TBM・BMから状態基準保全へ段階的に移す

四つ目の要素は、既存の保全方式から状態基準保全(CBM)へ移す移行の設計です。すべての設備を一度にCBMへ切り替えるのではなく、まずは重要度の高い設備や停止による影響の大きい設備から対象を絞り、効果を確かめながら広げる進め方が現実的でしょう。経済産業省の資料も、定期検査中心の運用から設備状態に基づく保全・常時監視への移行を段階的に後押ししています*1。国際規格ISO 17359は、状態監視のプログラムを立ち上げる際の一般的な手順を指針として示しており、対象設備の選定から測定・診断までを体系立てて検討する枠組みとして参照できます*2

予兆保全システムの開発を外注する際に確認したい点

予兆保全システムの構築には、設備側のセンシング、データの収集・分析、既存システムとの連携という複数領域の知識が求められます。自社にこれらを横断できる体制がそろっていない場合、開発を専門パートナーに委託する選択肢が現実的になります。委託にあたっては、いくつかの点を事前に確認しておくと、認識のずれを抑えやすくなるでしょう。

第一に、対象設備と故障モードの整理です。どの設備の、どのような故障を、どの状態量で捉えたいのかを最初にすり合わせることが土台になります。ここが曖昧なままだと、センサーの選定や検知ロジックの設計が定まりません。設備の種類ごとに有効な計測対象が異なるため、現場の知見と技術側の設計をつなぐ工程が重要です*2*5

第二に、検知精度の考え方と検証方法です。予兆検知には、見逃しと誤報のバランスという難しさが伴います。過去データや試験環境でどこまで検証するのか、しきい値や学習モデルをどう調整していくのかを、契約前に確認しておくと運用開始後の齟齬を減らせます。診断技術には、ISO 18436に準拠した機械状態監視診断技術者のように、体系立った専門性が問われる領域もあります*3

第三に、既存システムとの連携範囲です。CMMSや生産管理システムと、どこまでデータを連携させるのかを明確にします。予兆検知の結果を作業指示へつなぐ部分は、業務フローの理解が前提になるため、委託先と現場の双方を巻き込んだ設計が求められます。

対象設備の規模やセンサーの点数、連携先システムの有無によって、必要な工数は変わってきます。まずは現状の設備と保全業務を棚卸ししたうえで、内製と外注の切り分けを検討することが実務的でしょう。無理のない範囲から着手し、効果を確かめながら対象を広げる姿勢が、投資判断の面でも現実的だと考えられます。

まとめ:予兆保全システムで押さえる3つの視点

本稿では、予兆保全システムの考え方と機能、外注時の確認点を、公的資料と国際規格をもとに整理しました。要点は三つに集約できます。第一に、予兆保全システムは振動・温度・電流などのセンサーで設備の状態を監視し、劣化傾向や故障予兆をデータで捉える仕組みであり、時間基準保全から状態基準保全(CBM)への移行を支える基盤にあたります*2*4。第二に、保全業務を管理するCMMSや汎用ITインフラ監視とは対象が異なり、「設備そのものの故障予兆の検知」に特化する点が独自性になります。第三に、状態監視・予兆検知・保全連携・CBM移行という四つの機能要素を、対象設備と故障モードから逆算して設計することが構築の要になります。突発故障と過剰保全という二つの課題に、データで向き合う手立てとして検討する価値があるでしょう。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、システム開発・保守運用を元請(プライムベンダー)として受託しています。予兆保全システムの構築では、対象設備と故障モードの整理から、センサーによる状態監視、しきい値・機械学習による予兆検知、CMMSなど既存システムとの保全連携までを一貫して設計・開発する体制を整えています。設備の停止回避と過剰保全の抑制を両立したい企業様は、現状の設備と保全業務の棚卸しからご相談いただけます。

よくある質問

予兆保全システムとCMMS(設備保全管理システム)は何が違うのですか。

CMMSは点検計画や作業履歴、部品在庫など「保全業務そのもの」を管理する仕組みです。これに対し予兆保全システムは、振動や温度などの状態量を計測して「設備の故障予兆を検知する」ことに主眼があります。両者は競合ではなく、予兆保全が捉えた予兆をCMMSの作業指示につなぐ補完関係で捉えると整理しやすくなります。

どのような設備から予兆保全を始めるとよいですか。

一度に全設備を切り替えるのではなく、重要度が高く停止の影響が大きい設備から対象を絞る進め方が現実的です。回転機であれば、温度や音より早く異常が現れやすい振動監視が有力な手段になります*5。効果を確かめながら対象を広げると、投資判断もしやすくなります。

予兆検知はしきい値と機械学習のどちらで行うのですか。

両方の方式があります。あらかじめ設定した基準値の超過を見るしきい値方式と、正常時データから学習したモデルで逸脱を捉える機械学習方式です。振動診断では周波数分析で故障原因を切り分ける手法も用いられます*3*5。対象設備や取得できるデータ量に応じて、方式を組み合わせて設計します。

状態監視に関する国際規格はありますか。

機械の状態監視及び診断の一般指針として国際規格ISO 17359があり、振動・温度・トライボロジー・流量・電力・回転数などのパラメータや、状態監視プログラムを立ち上げる際の手順が示されています*2。また診断を担う技術者の資格として、ISO 18436に準拠した機械状態監視診断技術者の制度があります*3

予兆保全システムの開発を外注する場合、何を確認すればよいですか。

対象設備と捉えたい故障モードの整理、検知精度の考え方と検証方法、CMMSなど既存システムとの連携範囲の三点を、契約前に確認しておくと認識のずれを抑えやすくなります。設備側の知見と技術側の設計をつなぐ工程が重要になるため、現場を巻き込んで要件を固めることが役立ちます。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑


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  1. *1 出典:経済産業省 産業保安グループ「スマート保安の促進 〜産業保安分野におけるテクノロジー化の推進〜」(2021年3月18日)(https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/sangyo_hoan_kihon/pdf/002_01_00.pdf )
  2. *2 出典:International Organization for Standardization「ISO 17359:2018 Condition monitoring and diagnostics of machines — General guidelines」(https://www.iso.org/standard/71194.html )
  3. *3 出典:ジュンツウネット21「ISO18436に準拠した機械状態監視診断技術者の現状と必要性」(https://www.juntsu.co.jp/setsubisindan/joutai_kaisetsu01.php
  4. *4 出典:富士電機「予知保全(予兆保全)とその事例」(https://www.fujielectric.co.jp/about/column/detail/fa_02.html
  5. *5 出典:村田製作所「予知保全と予防保全の違いとは?振動監視による回転設備の予知保全」(https://solution.murata.com/ja-jp/service/wireless-sensor/manufacturing-industry-dx/predictive-maintenance/


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