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2026.07.06 らしくコラム

Rancherでk8s管理基盤を外注構築

LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託

Kubernetes管理のイメージ

この記事のポイント

  • Rancherが複数のKubernetesクラスタをどのように一元管理するのか、その仕組みを整理します。
  • RKE2・K3sといったディストリビューションの位置づけと、生のkubectl運用との違いを比較します。
  • 構築を内製するか外注するかを判断する際に確認すべき論点をまとめます。

Rancherとは何か マルチクラスタ管理基盤の役割

コンテナ基盤のイメージ

Rancherとは、SUSEが提供するオープンソースのKubernetes管理プラットフォームで、オンプレミス・クラウド・エッジに分散する複数のKubernetesクラスタを単一の管理画面から統合的に運用するための基盤を指します*1。マルチクラスタ管理を軸に、認証・権限制御・アプリケーション展開・監視を1つの管理面に集約する点が特徴です。

図
分散するクラスタをRancherの単一コンソールで一元管理する構成イメージ

従来、Kubernetesクラスタを複数運用する現場では、クラスタごとにkubectlのコンテキストを切り替え、個別に認証情報・RBAC(Role-Based Access Control、Kubernetesのロールベースアクセス制御)・監視設定を管理する必要がありました。Rancherはこの運用を1つのUI・APIに集約し、クラスタ数が増えても管理者の作業量が線形に増えない構造を目指す製品です*1

対応範囲は自社で構築するクラスタに限りません。Amazon EKS・Azure AKS・Google GKEといったマネージドKubernetesを既存クラスタとして登録し、Rancherが自ら作成したクラスタと同様の管理下に置くことも可能です*2。ただし挙動には差があり、Rancherで新規作成したEKSクラスタを削除するとクラスタ自体が破棄されるのに対し、既存クラスタとして登録したものを削除してもクラスタは維持され、単に登録が解除されるだけです*2。この違いを理解しないまま操作すると、意図しないクラスタ削除につながる恐れがあります。

個別運用の限界 クラスタが増えるほど広がる管理コスト

生のkubectlとマネージドKubernetesの管理コンソールを個別に使う運用は、クラスタが1〜2個の間は成立します。しかし本番・検証・拠点別など役割が異なるクラスタが増えるほど、認証情報の管理・権限設定の重複・監視ダッシュボードの分散といった負荷が積み上がります。

特に権限管理は見落とされやすい領域です。クラスタごとにKubernetesのRBACをそれぞれ設定すると、担当者の異動や退職時に変更対象のクラスタを取り漏らすリスクが生じます。あるクラスタでは権限が残ったままになり、意図しないアクセスを許してしまうケースも考えられます。

アプリケーションの展開についても同様です。Helm(Kubernetesのパッケージマネージャー)チャートをクラスタごとに個別にインストール・バージョン管理すると、どのクラスタにどのバージョンが入っているかの突合作業が発生します。Rancherのようなプラットフォームを介さない場合、この突合は手作業に依存しがちで、構成ドリフト(クラスタ間で設定が徐々にずれる状態)を検知する仕組みが別途必要になります。

RKE2・K3s Rancherが提供するディストリビューションの違い

Rancherはクラスタ管理コンソールであると同時に、クラスタを新規構築する際のKubernetesディストリビューション(配布形態)としてRKE2とK3sを提供しています*3。RKE2(Rancher Kubernetes Engine 2)は、K3sの運用性の高さとRKE(初代)が持つ上流Kubernetesとの高い互換性を両方取り込んだ、次世代のディストリビューションです*3

RKE2はセキュリティ強化・FIPS(連邦情報処理標準)対応・CISベンチマーク準拠が求められる本番のエンタープライズ用途や官公庁向け用途を想定して設計されています*3。一方K3sは、エッジ・IoT・リソースが限られた環境や開発環境向けの軽量なフルコンプライアンスKubernetesディストリビューションです*4

どちらもCNCF(Cloud Native Computing Foundation)認定のKubernetesディストリビューションであり、上流Kubernetesとの互換性を保ちながら、インストーラーとしての取り扱いやすさを提供する点は共通しています。Rancherはこれらに加え、EKS・AKS・GKEなどCNCF認定の他社製Kubernetesディストリビューションのクラスタも同じ管理面で扱えます*1。プロビジョニング(クラスタの新規作成・構成)はProvisioning v2という仕組みで管理され、これはCluster API(CAPI、Kubernetesクラスタのライフサイクルを宣言的に管理するオープンソースプロジェクト)を基盤にしたプランナー方式で、RKE2・K3sクラスタの作成や運用を統一的に処理します*5

Rancherによる一元管理と個別クラスタ運用の比較

観点 Rancherによる一元管理 クラスタ個別運用(生kubectl等)
認証・権限 外部認証(LDAP/SAML等)と連携し、Rancher側で全クラスタのアクセス権を一元管理します。 クラスタごとにkubeconfigとRBACを個別発行・管理します。
異動・退職時の権限剥奪をクラスタ数分繰り返す必要があります。
アプリ展開 アプリカタログとFleetでHelmチャートを複数クラスタへ一括展開できます。 クラスタごとにHelmコマンドを個別実行します。
バージョンの突合を手作業で行うことになります。
監視・可視化 monitoringアプリでPrometheus/Grafanaを標準構成として展開し、ダッシュボードを共通化します。 クラスタごとに監視スタックを構築するため、ダッシュボードが分散します。
対象クラスタ RKE2/K3s・EKS/AKS/GKE等、CNCF認定クラスタを統一UIで扱えます。 クラウドベンダーごとの管理コンソールとCLIを個別に使い分けます。

認証・RBAC・プロジェクト 権限管理の仕組み

Rancherへログインしたユーザーの権限は、グローバル権限・クラスタロール・プロジェクトロールという階層で決まり、いずれもKubernetesネイティブのRBACの上に実装されています*6。認証自体はRancherが対応する外部認証プロバイダと統合できるため、既存のID管理基盤にひもづけたアクセス制御を、Kubernetes RBACのロールに反映させる構成が取れます*6

Rancher固有の概念として「プロジェクト」があります。クラスタ・プロジェクト・ネームスペースという3階層の構造を取り、ネームスペースはKubernetesネイティブの概念として同一の物理クラスタ上に存在する仮想的な区画を意味します*7。プロジェクトは複数のネームスペースをグループ化するRancher固有の単位で、あるチームが他プロジェクトにアクセスできないようにマルチテナンシー(複数の利用者・チームが1つの基盤を共用しながら互いのリソースを分離する構成)を実現します*7

運用上の注意点として、kubectlにはネームスペース作成をプロジェクト単位に制限する機能がないため、kubectl経由でネームスペースを作ると意図したプロジェクトの外にできてしまう可能性があります*7。この制約から、プロジェクト運用を前提にする場合はRancherのUIやAPIを通じたネームスペース作成が推奨されています*7。プロジェクトオーナー・プロジェクトメンバーのロールはネームスペース作成権限を継承しますが、これはクラスタロールとして扱われるため、同じユーザーが所属する他プロジェクトでも同様の権限を持つ点に留意が必要です*7

アプリカタログとFleet Helmベースの展開とGitOps

Rancherには「Apps」と呼ばれるアプリケーションカタログ機能があり、Rancher公式・パートナー・カスタムのHelmチャートリポジトリを登録して、クラスタへアプリケーションを展開できます*8。監視やロギングなどRancher自身のツールも、内部的にはこのHelmチャートの仕組みで導入される構成です*8。バージョン2.9以降ではOCI(Open Container Initiative)形式で配布されるHelmチャートリポジトリにも対応しており、コンテナレジストリを介したチャート配布にも対応範囲が広がっています*8

複数クラスタへの展開を継続的に行う場面では、Fleetという機能を使います。FleetはRancherにあらかじめ組み込まれているGitOpsエンジンで、UI上の「Continuous Delivery」から操作します*9。Gitリポジトリで管理する生のKubernetes YAML・Helmチャート・Kustomizeのいずれか、またはそれらの組み合わせを、登録済みの複数クラスタへ配布・同期する仕組みです*9。すべてのリソースは内部的にHelmチャートへ変換され、Helmをデプロイエンジンとして展開されます*9

この構成により、アプリケーションの望ましい状態をGitリポジトリで一元管理し、Rancherに登録された多数のダウンストリームクラスタへ同一の変更を反映する運用が可能になります。手動でのHelmコマンド実行をクラスタ数分繰り返す必要がなくなる点が、個別運用との大きな違いです。

監視・ロギング統合 Prometheus/Grafanaとの連携

クラウドコンピューティングのイメージ

Rancherの監視機能は、Prometheus・Grafana・Alertmanager・Prometheus Operator・Prometheus Adapterで構成されるmonitoringアプリケーションとして提供されます*10。rancher-monitoringアプリケーションを導入することで、オープンソースの監視・アラート機能をクラスタへ迅速に展開できます*10。既定の構成では、GrafanaダッシュボードとAlertmanager UI・Prometheus UIがあわせて展開されます*10

ロギングについても同様にHelmチャートベースの統合機能が用意されており、ログRBACの設定を含めて監視機能と並行して構成できます。これらをクラスタごとに個別導入する場合、Prometheusのスクレイプ設定・保持期間・アラートルールをクラスタ間で揃える作業が発生しますが、Rancher経由であればアプリカタログとFleetを介して同一構成を複数クラスタへ展開しやすくなります。

もっとも、監視・ロギングのスタック自体はPrometheus・Grafanaという実績あるOSSの組み合わせであり、Rancherを使わない場合でも構築は可能です。差が出るのは「クラスタ数が増えたときに、その構成をどれだけ手間なく複製・維持できるか」という運用面にあります。

構築に必要なスキルと工数の見立て

Rancher基盤を内製で構築・運用するには、複数分野の知識が必要になります。Kubernetesそのものの知識に加え、RKE2/K3sのようなディストリビューション固有の設定、外部認証プロバイダとの連携設定、プロジェクト・ネームスペース単位のRBAC設計、Helmチャートの管理、Fleetを使ったGitOpsパイプラインの構築、Prometheus/Grafanaの監視設計まで幅広い領域を横断します。

設計を誤ると影響は広がりやすい領域でもあります。たとえばRBAC設計を誤り、あるプロジェクトのメンバーロールを誤ったクラスタスコープで付与すると、意図しないプロジェクトへのアクセス権が発生する可能性があります*7。また既存クラスタの登録・削除の挙動を理解せずに操作すると、Rancherで新規作成したクラスタとして誤登録した既存クラスタを削除し、稼働中のクラスタ自体を破棄してしまう事故につながる恐れもあります*2

これらの設計・構築・検証を担う体制には、Kubernetesの運用経験者に加えて、認証基盤・監視基盤それぞれの担当者との調整が必要になります。単純な人数だけでなく、複数分野の知見をどう組み合わせるかが構築期間に影響する要素です。

内製と外注の判断軸 委託先選定で確認すべき点

Rancher基盤の構築を内製するか外部に委託するかは、社内にKubernetesクラスタの複数運用経験者がどれだけいるか、また認証・RBAC・GitOpsを一体として設計できる体制があるかで判断が分かれます。すでに複数クラスタを個別に運用しており、その延長でRancherを導入する場合は、既存クラスタの登録要否や移行順序の見極めが論点になります。

専門パートナーに委託する場合と内製する場合では、担う範囲の見え方が変わってきます。内製では、RKE2/K3sのバージョンアップ追従、Fleetのbundle管理、監視アラートのチューニングまで、構築後も継続的な運用負荷が社内に残ります。外部委託では、構築時の設計判断とその後の運用移管の範囲を契約で明確にしておくことが欠かせません。

委託先を選ぶ際は、Kubernetesクラスタの複数環境運用実績、RKE2/K3sそれぞれの知見、既存クラスタ登録の実務経験、RBAC・プロジェクト設計の考え方を、提案時にどこまで具体的に説明できるかを確認する観点が有効です。単にKubernetesの経験があるという説明だけでなく、マルチクラスタならではの落とし穴(誤登録・誤削除・権限の意図しない伝播)への対応方針を尋ねることで、実務理解の深さを見極めやすくなります。

まとめ:Rancher構築で押さえるべき3つの判断軸

本稿では、RancherによるKubernetesマルチクラスタ管理の仕組みと、生のkubectl運用・個別クラスタ運用との違いを整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、Rancherはクラスタ・プロジェクト・ネームスペースの階層でRBACを一元化し、認証プロバイダとも統合できる基盤である点です。第二に、RKE2/K3sというディストリビューションの特性を理解し、既存のEKS/AKS/GKEクラスタを登録する際の挙動差(削除時の破棄と切断の違い)を押さえる必要がある点です。第三に、FleetによるGitOps展開と監視・ロギング統合は、クラスタ数が増えるほど個別運用との差が広がる領域であり、内製か外注かはこの複数分野を横断する設計・運用体制の有無で判断すべきという点です。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)としてシステムの保守・運用を受託する体制を持ちます。Kubernetesクラスタの構築・運用に関わる要件整理から、RBAC設計・監視基盤の構成まで、貴社の既存環境を踏まえた体制構築をご提案します。複数クラスタ運用に伴う認証・権限設計の見直しが必要な場合も、現状の課題整理からご相談いただけます。

よくある質問

RancherとKubernetesの標準機能だけの運用は何が違いますか。

最も大きな違いは、複数クラスタをまたぐ認証・RBAC・アプリ展開・監視を1つの管理面に集約できる点です。Kubernetes標準機能はクラスタ単位の制御が前提のため、クラスタが増えるほど個別設定の管理コストが積み上がります*1

RKE2とK3sはどちらを選ぶべきですか。

セキュリティ強化・CISベンチマーク準拠・FIPS対応が求められる本番のエンタープライズ用途や官公庁向け用途にはRKE2が想定されています*3。エッジ・IoT・リソースが限られた環境や開発環境には、軽量なK3sが想定されています*4。用途に応じて選定します。

既存のEKS/AKS/GKEクラスタもRancherで管理できますか。

既存クラスタとしてRancherに登録することで、Rancherが新規作成したクラスタと同様の管理下に置けます*2。ただし削除時の挙動が異なり、登録済みクラスタを削除してもクラスタ自体は維持され、登録が解除されるだけです*2。この違いは誤操作を避けるうえで確認が重要です。

Fleetを使ったGitOps運用にはどんな知識が必要ですか。

Gitリポジトリ管理の基礎に加え、Kubernetes YAML・Helmチャート・Kustomizeの構成方法、Fleetのbundle・クラスタグループの概念理解が必要です*9。複数クラスタへの同期挙動を把握してから本番導入することが望まれます。

Rancher基盤の構築を外注する場合、契約時に確認すべきことは何ですか。

構築後の運用移管範囲(RKE2/K3sのバージョンアップ追従、Fleetのbundle管理、監視アラートのチューニングを誰が担うか)を契約時に明確にすることが大切です。委託先のマルチクラスタ運用実績や、既存クラスタ登録の実務経験も確認すると判断しやすくなります。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑


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  1. *1 出典:SUSE「Overview – Rancher product documentation」(documentation.suse.com
  2. *2 出典:Rancher「Registering Existing Clusters」(ranchermanager.docs.rancher.com
  3. *3 出典:RKE2「Anatomy of a Next Generation Kubernetes Distribution」(docs.rke2.io
  4. *4 出典:RKE2「Introduction」(docs.rke2.io
  5. *5 出典:DeepWiki「RKE2 and K3s Provisioning (Provisioning v2) – rancher/rancher」(deepwiki.com
  6. *6 出典:Rancher「Managing Role-Based Access Control (RBAC)」(ranchermanager.docs.rancher.com
  7. *7 出典:Rancher「Projects and Kubernetes Namespaces with Rancher」(ranchermanager.docs.rancher.com
  8. *8 出典:Rancher「Helm Charts and Apps」(ranchermanager.docs.rancher.com
  9. *9 出典:Rancher「Continuous Delivery with Fleet – Overview」(ranchermanager.docs.rancher.com
  10. *10 出典:Rancher「Monitoring and Alerting」(ranchermanager.docs.rancher.com


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