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米国ADA第2編のWeb規則|延期後の期限と5つの例外
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 米国の州・地方政府のウェブとアプリには、WCAG 2.1のレベルAAが技術基準として定められています。
- 2026年4月20日に司法省が期限を延ばす規則を出し、遵守の期限は2027年4月26日と2028年4月26日になりました。
- 受託して作った画面やアプリも対象なので、この基準を納品物の条件として契約の前に発注元と決めておきます。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
米国の自治体向けのサイト改修を受託したら、仕様書に「アクセシビリティ対応」と書かれていた。古いPDFまで直すのか、いつまでに終えればよいのかが分からない——。米国の公的機関向けにウェブやアプリを作る現場では、こうした疑問が出てきます。ADA(障害を持つアメリカ人法)第2編のWeb規則とは、米国司法省が2024年4月24日に連邦官報で公表した規則で、州・地方政府が提供するウェブコンテンツとモバイルアプリに、WCAG 2.1のレベルAAを技術基準として求めるものです。*1
この規則で、アクセシビリティは努力目標ではなく期限のある法的な要件になり、日本の受託事業者にも関わります。2026年4月20日には期限を延ばす暫定最終規則が公表され、期限が1年ずつ延びました。ただし延びたのは期限だけで、技術基準は変わっていません。本記事では、米国の公的機関向けにウェブやアプリを作る企業に向けて、延長後の期限、受託して作った成果物の扱い、5つの例外、そして外部に委託するときに確認したい点を整理します。
目次
ADA第2編のWeb規則とは
規則の対象は2つあります。州・地方政府が提供する、または利用できるようにしているウェブコンテンツと、同じく州・地方政府が提供するモバイルアプリです。ウェブコンテンツには、ページの文章や画像だけでなく、サイトに掲載しているPDFなどの文書も入ります。
技術基準のWCAG(ウェブを誰でも使えるようにするための国際的な指針)は、項目ごとにA・AA・AAAの3段階に分かれ、規則が求めるレベルAAは、AとAAの項目をすべて満たすことを指します。
WCAGと異なる設計や手法を使うことも、同等以上のアクセシビリティとユーザビリティを提供すると証明できる場合に限って認められ、規則ではこれを「equivalent facilitation(同等の便宜)」と呼んでいます。*1
また、サイトやアプリを期限までに一度適合させれば終わりではありません。州・地方政府は、期限を過ぎたあとも基準を満たし続けることとされており、ページを更新するたびに、新しく載せた内容も基準を満たしているかが問われます。
延長後の期限
2024年4月24日の公表時点では、州・地方政府は公表から3年または4年以内に適合させることとされていました。その後、2026年4月20日に司法省の暫定最終規則が連邦官報で公表され、期限が延長されました。人口の合計が5万人以上の州・地方政府は2027年4月26日、人口が5万人未満の州・地方政府と特別区政府(special district government)は2028年4月26日です。*1
| 州・地方政府の規模 | 遵守期限 | 補足 |
|---|---|---|
| 5万人以上 | 2027年4月26日 | 当初は2026年4月24日だった |
| 0〜49,999人 | 2028年4月26日 | 当初は2027年だった |
| 特別区政府 | 2028年4月26日 | 人口によらず同じ扱い |
| 学区(city school district) | 市の人口による | 学区は特別区政府ではない |
| 学区(county school district) | 郡の人口による | 同上 |
どちらの期限になるかは、発注元の州・地方政府の人口で決まります。多くの州・地方政府では、2020年の国勢調査のデータで人口を確認できます。*1 市の警察や市立図書館のように、単独では人口が示されていない部局は、その部局を運営している市の人口を見ます。
受託して作った画面の扱い
規則は、州・地方政府が提供する、または利用できるようにしているウェブコンテンツに適用され、政府のために別の会社などがコンテンツを提供する取り決めがある場合も含むとされています。*1 政府から委託を受けた会社が作ったり運営したりしているものも対象になるということです。
司法省のファクトシート(規則の要点をまとめた解説資料)は、具体的な例を挙げています。郡のウェブページが郡立公園の住所と営業時間を載せている場合、そのページを地元のウェブ制作会社が作って更新していても、WCAG 2.1のレベルAAを満たす必要があります。市が公共駐車場の料金の支払いにアプリを使えるようにしている場合も、そのアプリを民間企業が運営していても同じです。*1 さらに、州・地方政府が公共サービスの提供を別の団体に委託している場合、その委託先がADA第2編に従うようにする責任も政府の側にあるとされています。
受託する側にとっての要点は3つあります。一つ目は、「WCAG 2.1 レベルAA準拠」が仕様書に入る前提で見積もりと工程を組むことです。この基準を後から求められると、作り直しの費用が大きくなります。二つ目は、更新の運用です。CMS(ページを更新するための管理システム)で発注元の担当者が更新する構成なら、更新の手順に確認の工程を入れておきます。三つ目は、PDFなどの添付ファイルです。期限の後に掲載する文書は、原則として対象になります。
改修の進め方と費用の考え方は「Webアクセシビリティ改修の外注」で、アプリ側の実装は「モバイルアプリのアクセシビリティ対応」で扱っています。
5つの例外
すべてのコンテンツが対象になるわけではありません。司法省は、州・地方政府が優先順位をつけて対応できるように、限られた例外を置いたと説明しています。1つ目は、アーカイブ(保存用に残している古いコンテンツ)です。遵守期限より前に作られたもの(期限より前に作られた紙の文書などの内容を再現したものを含む)であること、参照・研究・記録の保存のためだけに保持されていること、アーカイブ用に分けた場所に置かれていること、アーカイブされてから変更されていないこと——この4つをすべて満たす必要があります。
2つ目は、期限より前から掲載していた文書ファイルです。ワープロ、プレゼンテーション、PDF、表計算のファイルであることと、遵守期限より前からウェブサイトやアプリで利用できたことの2つを満たすものが当たります。ただし、州・地方政府のサービスや活動に申し込む、利用する、参加するために今も使われている文書は、期限前の掲載でも例外になりません。ファクトシートは、2020年に掲載した営業許可の申請書のPDFを期限の後も住民が使い続けている場合、その申請書は通常WCAG 2.1のレベルAAを満たす必要があるとしています。*1
3つ目は、契約や許諾などの取り決めによらずに第三者が投稿したコンテンツです。第三者とは、州・地方政府の管理下になく、政府に代わって活動しているのでもない一般の人などを指し、町のオンライン掲示板に住民が書き込んだメッセージが例に挙がっています。4つ目は、パスワードで保護された個人ごとの文書(本人だけが見られる文書)、5つ目は、期限より前のソーシャルメディアへの投稿です。*1
例外に当たっても、ADAの他の義務はなくなりません。ADAは州・地方政府に、障害のある人との効果的なコミュニケーション、合理的な変更、サービスに参加して利益を受ける平等な機会を提供するよう求めています。そのため、WCAG 2.1のレベルAAを満たす必要がないコンテンツでも、求めた人には、その人が利用できる形式で提供する必要が生じる可能性が高いとされています。*1
例外の多くは「期限より前に掲載したか」「その後に変更していないか」で分かれます。掲載日と更新日を記録していないCMSでは、あるファイルが例外に当たると発注元が説明できません。
設計の段階で決まる項目
基準の中身については、司法省が2022年3月18日付で出したガイダンスが、ウェブでよく見られる障壁を挙げています。色のコントラストが足りないこと、色だけで情報を伝えていること(必須の入力欄を赤字だけで示す例)、画像に代替テキストがないこと、動画に字幕がないこと、フォームにスクリーンリーダー(画面の文字を読み上げるソフト)が読めるラベルや分かりやすい指示、エラーの表示がないこと、そしてマウスでしか操作できないことです。*2
このうち、色だけで情報を伝える設計と、キーボードで操作できない作りは、画面の設計の段階でほぼ決まり、デザインが固まってから直すとやり直しが大きくなります。司法省が挙げる、スクリーンリーダー、字幕、音声認識ソフトを使う人を設計の時点で想定しておくと、後からの改修を減らせます。
なお、このガイダンスは、2024年4月24日に公表された州・地方政府向けの要件を反映していないと明記しています。*2 障壁の例を知る資料として読み、期限や対象は規則とファクトシートで確かめます。アクセシビリティを開発の工程に組み込む進め方は「アクセシビリティ対応を外注で進める方法」で扱っています。
どう進めるのか
着手する順番は4つに分けられます。まず、対象かどうかの確認です。米国の州・地方政府に納めているもの、または政府の代わりに提供しているものがあるかを洗い出します。無ければ、この規則による直接の義務は生じません。次に、期限の確認です。発注元の人口の区分で、2027年4月26日か2028年4月26日かが決まります。
3番目は、掲載物の棚卸しです。HTMLのページだけでなく、PDFなどの文書も含めて、何をいつから載せているかを一覧にします。例外に当たるかどうかは、この一覧が無いと判定できません。4番目は、設計の段階での確認です。色、代替テキスト、キーボードでの操作、フォームのラベルを先に見直します。
外部に委託するときに確認しておきたい点
発注する側でも受託する側でも、まず基準を契約に書くことが欠かせません。「アクセシビリティに配慮する」という書き方では、検収のときに何を満たせばよいかが決まりません。WCAG 2.1のレベルAAという基準の名前と、対象がHTMLのページだけか、掲載している文書も含むかを明記します。
次に、CMSが掲載日と更新日を記録できるかを確かめ、できないなら、まずその機能を用意します。さらに、更新の運用まで設計に含め、担当者が替わっても確認が抜けないように、公開前の確認を手順として決めておきます。
英国のオンライン安全法や米国の州のプライバシー法など、他の国や地域の規制にも対応しているなら、対象かどうかを判定する考え方は似ています。国ごとに別々の管理表を作ると一方だけ更新が止まることがあるので、一つの表で管理すると漏れを防げます。考え方は「英国オンライン安全法」と「米国州法への対応」で扱っています。
委託先を選ぶときは、画面の設計と公開後の更新の運用の両方に関われるエンジニアが加わるかを確かめておくとよいでしょう。掲載している文書の中身やCMSが持つ日付の項目は、仕様書だけでは分からず、実物を見て確かめる必要があるからです。
まとめ:ADAのWeb規則で確かめたい3つの点
米国の州・地方政府向けにウェブやアプリを作るうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、発注元の人口の区分から遵守の期限を確かめ、期限の後も適合を保つ前提で計画すること。第二に、州・地方政府のために受託して作ったページやアプリも対象になるので、WCAG 2.1のレベルAAを納品物の基準として契約に書くこと。第三に、例外は限られていて、今も申請などに使われている文書は期限前の掲載でも対象になるため、掲載日と更新日を含めて掲載物を棚卸しすることです。この3点を踏まえておけば、「納品した後で、古いPDFまで直すよう求められた」という事態を避けやすくなります。対象の確認や棚卸しの進め方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
日本の企業にも、この規則の義務がかかりますか
義務を負うのは州・地方政府です。ただし、日本の企業が受託して作ったものでも、政府が提供するページやアプリなら基準を満たす必要があるとされています。*1 実際には、発注元との契約を通じて基準を求められることになります。
期限より前に掲載したWord文書を、期限の後に書き直したらどうなりますか
例外に当たらなくなる可能性が高いです。ファクトシートでは、2020年に掲載したWord文書に、期限の後で新しい連絡先を書き加えた例が挙げられ、更新した文書は例外の対象から外れ、通常はWCAG 2.1のレベルAAを満たす必要があるとされています。*1 古い文書を直すときは、あわせてアクセシビリティも整えておくと、やり直しを減らせます。
WCAG 2.1より新しい基準で作ってもよいですか
同等以上のアクセシビリティとユーザビリティを提供できるなら認められます。ファクトシートは、将来WCAG 3.0のような新しい基準ができたとき、州の公園を管理する部局がキャンプ場予約の新しいアプリをその基準で作ることは、おそらく認められるという例を挙げています。
学区の期限は、どの人口で決まりますか
学区は特別区政府には当たらないため、人口で決まります。市の学区なら市の人口、郡の学区なら郡の人口を使います。独立学区(independent school district)は、Small Area Income and Poverty Estimates(米国勢調査局の小地域推計)の直近の人口推計を使うとされています。*1
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出典
- *1 参考:米国司法省 ADA.gov「Fact Sheet: New Rule on the Accessibility of Web Content and Mobile Apps Provided by State and Local Governments」(https://www.ada.gov/resources/2024-03-08-web-rule/)。2024年4月24日の連邦官報での規則公表、2026年4月20日の暫定最終規則(IFR)による遵守期限の延長(人口5万人以上は2027年4月26日、人口5万人未満および特別区政府は2028年4月26日)、技術基準としてのWCAG 2.1レベルAA、対象(州・地方政府が提供または利用可能にするウェブコンテンツとモバイルアプリ、他の者が代わって提供する取り決めを含む、委託先にも第2編を守らせる責任)、equivalent facilitationの考え方、5つの例外とその但し書き、例外が効果的なコミュニケーション等の既存義務を変えないこと、人口区分の判定方法(2020年国勢調査、学区の扱い、独立学区のSAIPE推計)、期限後の適合維持を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:米国司法省 ADA.gov「Guidance on Web Accessibility and the ADA」(2022年3月18日)(https://www.ada.gov/resources/web-guidance/)。ウェブアクセシビリティの障壁の具体例(色のコントラスト不足、色だけで情報を伝えること、画像の代替テキストの欠如、動画の字幕の欠如、アクセシブルでないフォーム、マウスのみの操作)、障害のある人がウェブを利用する手段(スクリーンリーダー、字幕、音声認識ソフトウェア)、およびこのガイダンスが2024年4月24日に公表された州・地方政府向けの要件を反映していない旨の注記を参照(2026年9月確認)