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2026.06.18 らしくコラム

システム内製化の失敗事例と回避策|5つのパターンを解説

LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託

内製化の検討・体制づくりのイメージ

この記事のポイント

  • システム内製化が失敗する主な原因は、採用・属人化・技術選定・役割分担・コスト誤算の5パターンに集約できます。
  • 各パターンには具体的な回避策があり、事前に把握しておくことでリスクを大幅に下げられます。
  • 「フルインハウス vs フル外注」の二項対立でなく、ハイブリッド体制という第三の選択肢が現実的な解になります。

システム内製化の失敗とは何か — 定義と現状

計画・ドキュメント作成の作業環境

システム内製化の失敗とは、自社でエンジニアを採用・育成しシステム開発・運用を担わせようとした試みが、想定したコスト・期間・品質のいずれかで大きく乖離した状態に陥ることを指します。「開発はできたが保守要員が確保できない」「採用コストが当初見込みの2倍になった」「キーパーソンの離職でシステムが止まった」といった形で顕在化します。

内製化の期待 コスト削減・スピード向上 内部ノウハウの蓄積 外注依存からの脱却 スピーディな改善サイクル 自社プロダクト内製化 内製化の実態 採用難・育成コスト増大 属人化・離職リスク 技術選定ミスで負債化 役割分担の混乱 継続コストの想定外の膨張
内製化の「期待」と「実態」のギャップ — 5つの失敗パターンに集約される

内製化が注目される背景

DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の潮流のなかで、システム開発・運用の自社内製化を選ぶ企業が増えています。IPAが公表した「DX動向2025」では、デジタル人材の確保・育成を重要課題とする企業が多数にのぼることが示されています*1

しかし内製化の推進と並行して、「想定通りに進まない」という声も少なくありません。経済産業省の「IT人材需給に関する調査」(2019年)では、2030年時点で高位シナリオで約79万人規模のIT人材不足が生じるとの試算が示されており*2、採用競争の激化が内製化を困難にする構造的背景となっています。

失敗の定義 — 「想定値との乖離」で捉える

内製化の失敗を一言で定義するなら、「事前に立てた計画(コスト・期間・品質・人員)と実績が大きく乖離した状態」です。全体が崩壊するケースだけでなく、「開発はできたが運用で詰まる」「チームは維持できたが技術的負債が膨らむ」など部分的に機能不全を起こすケースも含みます。

以下では失敗の代表的な5パターンを取り上げ、各パターンの「何が起きるか」と「どう防ぐか」を整理します。

採用・育成の壁 — 人材確保でつまずくパターン

エンジニア採用に想定以上のコストと期間がかかる

内製化を計画する際、多くの企業が「採用さえできれば外注費より安くなる」と試算します。しかしIT人材の採用市場は需要過多の状態にあり、経験者を採用しようとすると採用単価・期間ともに当初計画を超えることがあります。

特に問題になるのは、採用活動を始めてから実際に現場で戦力化されるまでのリードタイムです。業務理解の期間も含めると、採用から戦力化まで半年から1年規模を要することは珍しくありません。その間も既存外注費や業務の停滞コストが発生し続けます。

採用できても業務知識とのすり合わせで戦力化が遅れる

エンジニアを採用できても、自社の業務フロー・既存システムの設計思想・社内ルールを習得するまでには時間がかかります。外部から来たエンジニアは技術力があっても「業務知識のある人」ではないため、既存の社内担当者が相当の時間をOJTに割く必要があります。

この「既存社員の巻き込みコスト」は計画段階で見落とされがちです。結果として、本来の業務が停滞しながら採用・育成コストだけが積み重なる状況に陥ります。

回避策:スモールチームスタートとSES活用の組み合わせ

採用・育成リスクを下げるためには、いきなりフルスタックチームを構成しようとするのではなく、最初は少人数のコアメンバー(1〜3名程度)から始めることが有効です。並行して、SES(システムエンジニアリングサービス)を活用して即戦力を補完しながら、内製チームを段階的に強化するアプローチが現実的です。

採用ターゲットを「業務知識を持つエンジニア」ではなく「技術力があり自社業務を学べる意欲のある人材」に絞ることで、採用難易度を下げられます。

属人化と技術負債 — 内製後に蓄積されるリスク

キーパーソン離職でシステム停止リスクが高まる

内製チームが稼働し始めた後も、油断はできません。小規模なチームでは特定のエンジニアに知識・権限が集中しやすく、そのメンバーが退職すると「誰もシステムの全体像を把握していない」という状況が発生します。

属人化が進んだシステムは、修正・拡張のたびに当該メンバーに依存します。急な退職が発生した場合、システム停止リスクや、後任を見つけて引き継ぎを完了させるまでの長期的な混乱につながります。

ドキュメント不足・コードレビュー体制の未整備

内製化の初期段階では「まず動かすこと」が優先され、設計書・仕様書・操作マニュアルの整備が後回しになりがちです。「頭の中にしかない仕様」が積み重なると、後から参画したメンバーがキャッチアップに苦労するだけでなく、バグの原因調査・機能追加のたびにコストがかかります。

コードレビューの仕組みがなければ、品質の低いコードが静かに技術的負債として蓄積されます。技術的負債は短期的には見えにくいですが、放置すると改修コストが指数関数的に増加します。

回避策:ナレッジ共有プロセスの設計と外部レビューの定期活用

属人化を防ぐためには、コーディングルール・設計原則・ドキュメント基準をチーム発足当初に定めることが大切です。「動いているからいい」という状態で進まず、引き継ぎを前提とした仕組みを最初から組み込みます。

内部レビューだけでは見えない技術的負債を洗い出すために、外部エンジニアによる定期的なコードレビュー・アーキテクチャ診断を活用する手段もあります。コストはかかりますが、長期的には保守費用の抑制につながります。

技術選定ミス — トレンド追従で保守コストが跳ね上がる

新しい技術スタックを選んだが社内に知見が蓄積されない

内製化の際にモチベーション高く「最新の技術スタック」を採用することがあります。しかし、トレンドの技術は学習コストが高く、そのスキルを持つエンジニアの採用難度も上がります。特定のフレームワーク・言語に依存したシステムは、そのスキルを持つエンジニアが組織に定着し続けないと保守が困難になります。

「社外での求人活動のしやすさ(採用可能な人材プールの広さ)」は、技術選定の重要な判断軸の一つです。

クラウド・ライブラリのバージョンアップに追随できず負債が膨らむ

クラウドサービスやOSSライブラリは継続的にアップデートされます。内製チームが小さく・忙しいほど、バージョンアップ対応が後回しになり、気づくとサポート切れのバージョンを使い続ける状態になります。

サポート切れのバージョンはセキュリティリスクの温床になります。また、大幅な差分が積み重なった状態でのバージョンアップ対応は、最終的に多大な工数を要します。

回避策:自社の保守能力に合わせた技術選定

「今、流行っているか」よりも「自社が5年後も保守できるか」を基準に技術を選ぶことが、長期的なコスト削減につながります。枯れた(実績が豊富な)技術・長期サポート(LTS)版の採用は地味に見えますが、保守コストを安定させる観点から合理的です。

技術選定を行う際には、社内エンジニアだけで決定するのではなく、外部の技術顧問や元請(プライムベンダー)のアドバイスを取り入れることで、客観的な保守難易度の評価が得られます。

外注との役割分担の失敗 — 移行計画なき切り替えの落とし穴

業務要件の内製化と開発・運用のコントロールを分離できていない

内製化への移行を進める際に見落とされやすいのが、「何を内製化するか」の定義です。要件定義・業務フロー設計を内製化する段階と、実際の開発・運用を内製化する段階は分けて考える必要があります。

これらを同時に切り替えようとすると、外注先との引き継ぎが不完全なまま進んでしまい、知識のブラックボックスが増えます。特に「既存外注先しか知らない仕様」がある場合、移行前に仕様書の整備と仕様の可視化が不可欠です。

移行計画がなく既存ベンダーとの契約終了後に混乱が発生する

「外注コストを削減したい」という動機から、十分な移行計画を立てずに既存外注先との契約を打ち切るケースがあります。この場合、内製チームが立ち上がる前に空白期間が生まれ、障害対応・改修対応が滞ります。

「並走期間(既存外注+内製チームの同時稼働)」を設けずに移行すると、引き継ぎが属人的になり、内製側の立ち上がりに相当の時間を要します。

回避策:要件定義・PM機能から段階的に内製化する

内製化の優先順位は「要件定義・プロジェクト管理機能」から始めることが実務上効果的です。「何を作るか」を自社で決める力をつけてから、開発・運用の内製化へと順を追って進める方がリスクを抑えられます。

既存外注先との契約終了は、内製チームが実際に自走できる状態になった後で行うことが望ましいです。移行計画には「並走期間」「仕様書整備の完了確認」「内製チームの自走テスト」を盛り込んでおくことが大切です。

コスト誤算 — 初期費用だけで判断すると継続費用が膨らむ

人件費・教育費・ツール費用の見落とし

内製化の費用試算として「外注費 vs 正社員の人件費」を比較するアプローチは、実際には不完全です。エンジニアの採用費(エージェント費用・求人媒体費用)・入社後の研修費・開発環境・ライセンス費用など、外注では発生しなかったコストが積み上がります。

また、エンジニアのスキルアップ・資格取得にかかる継続的な教育投資も、外注では不要だったコストです。これらを含むTCO(総所有コスト。Total Cost of Ownership)で比較しないと、「内製化した方が安かった」という判断が覆されることがあります。

スケールアップ時の追加コストを考慮しない設計

事業が成長してシステムの規模が拡大すると、内製チームの追加採用・クラウドコストの増加・セキュリティ対応の強化が必要になります。初期段階では機能している体制でも、スケールアップ時に限界を迎えるケースがあります。

特に「2〜3名の小さなチームで内製化を成立させた」状態は脆弱です。メンバーの有給・休暇・病気・退職に対する余裕がなく、長期的には組織の疲弊につながります。

回避策:TCO比較と外注併用コストの試算

内製化の意思決定には、外注との比較をTCOベースで行うことが大切です。採用費・人件費・教育費・ツール費用・管理コストをすべて積み上げた金額と、外注費を比較すると、実態に即した判断ができます。

「内製化が難しいコンポーネント」は外注・SESを継続しながら、「内製化に向いているコンポーネント」だけを移行するハイブリッド方針の方が、コストの安定性が高くなることがあります。

内製 vs ハイブリッド — 判断基準と体制設計

内製化の失敗事例を踏まえると、「フルインハウス(すべて内製)」と「フル外注(すべて外部委託)」の二択ではなく、両者を組み合わせたハイブリッド体制が現実的な解として機能するケースが多くあります。

内製 / ハイブリッド / 外注の3軸比較

比較軸 フルインハウス(内製) ハイブリッド体制 フル外注
初期コスト 採用・育成費が高い。
即戦力確保に時間を要する。
内製コアに外部補完。
コスト配分を段階調整できる。
固定費を抑えやすい。
変動費として管理しやすい。
ノウハウ蓄積 内部に蓄積しやすい。
ただし属人化リスクを伴う。
内製コアが主体となり蓄積。
外部から知見を移転できる。
蓄積されにくい。
ベンダー依存が高まりやすい。
スピード・柔軟性 チームが整えば高速。
立ち上がりに時間がかかる。
内製の安定稼働に外部の機動力を足せる。 仕様変更の都度、外部調整が発生する。
リスク(離職・属人化) 離職時の影響が大きい。
ドキュメント整備が重要。
内製コアが複数名いれば分散できる。 ベンダー側の担当変更で知識が途切れるリスクがある。
向いている状況 採用力が高く、技術が自社の競争優位に直結する場合。 コア業務は内製化しつつ、専門領域や繁忙期に外部を補完したい場合。 ノンコア業務・標準化できる業務・スポット対応の場合。

ハイブリッド体制のメリット — 強みを活かし弱みを補う

ハイブリッド体制の核心は「コアとノンコアを分ける」ことです。競争優位に直結する業務ロジック・データ活用・ユーザー体験設計は内製チームが担い、インフラ・セキュリティ・専門性の高いコンポーネントは外部パートナーに委ねる役割分担が効果的です。

ハイブリッドでは、外部パートナーがいることで内製チームの属人化リスクを緩和でき、離職時の知識継承も外部との協業ラインを活用して対応できます。また、内製チームの立ち上げ期には外部パートナーからの技術移転・メンタリングを受けることで、育成コストと期間を圧縮できます。

外部パートナーを選ぶ際は、単なる開発委託先ではなく、要件定義・アーキテクチャ設計・運用まで一貫して相談できる元請(プライムベンダー)への依頼が、体制構築の安定性を高めます。

まとめ — 内製化失敗を防ぐ3つの判断軸

本記事では、システム内製化でよくある5つの失敗パターン(採用・育成の壁、属人化と技術負債、技術選定ミス、外注との役割分担の失敗、コスト誤算)とその回避策を整理し、ハイブリッド体制という選択肢を提示しました。要点を3つの判断軸に集約すると次の通りです。

第一に、内製化の範囲を段階的に定義すること。いきなりすべてを内製化しようとせず、「要件定義・PM機能」→「開発」→「運用」の順で段階を踏む方が失敗リスクを下げられます。

第二に、TCO(総所有コスト)で外注と比較すること。採用費・育成費・ツール費・管理コストを含めた比較でなければ、内製化が本当に有利かどうかは判断できません。コスト誤算が内製化失敗の一因になっている例は少なくありません。

第三に、「フルインハウス or フル外注」の二択を捨ててハイブリッド体制を検討すること。コアは内製、ノンコア・専門領域は外部パートナー活用という役割分担は、採用難・属人化・技術選定リスクの3つを同時に緩和できます。

よくある質問

システム内製化はどのくらいの期間・人数を見込めばよいですか?

システムの規模・複雑さによって大きく異なるため、一律の目安は示しにくいです。ただし、採用から実際の戦力化まで半年から1年規模のリードタイムを要することが多く、その間はSES(システムエンジニアリングサービス)の活用など並行した補完体制が現実的です。最初から大きなチームを構成しようとせず、コアメンバー数名から始めて段階的に拡張するアプローチが、失敗リスクを下げやすくなります。

内製化に向いているシステムと向いていないシステムの違いは何ですか?

自社の競争優位に直結する業務ロジック・データ活用・ユーザー体験設計は内製化に向いています。一方、インフラ管理・セキュリティ対応・標準化された汎用処理(経費精算・勤怠管理など)は外部サービスや専門パートナーに委ねる方がコスト・品質ともに安定しやすいです。「自社固有のノウハウが宿る領域か否か」が判断の出発点になります。

内製化の途中で外注に切り替えた場合、コストはどうなりますか?

切り替えコストは、内製化の段階と既存の整備状況によって異なります。ドキュメント・設計書が整備されていれば、外部パートナーへのキャッチアップコストは抑えられます。逆に属人化が進みドキュメントが不足している場合、引き継ぎ工数が大きくなり、切り替え費用が想定以上に膨らむ可能性があります。切り替えを想定する場合は、早い段階からドキュメント整備を進めておくことが、後々のコストを抑える観点から重要です。

内製エンジニアの離職リスクはどう管理すればよいですか?

離職リスク管理の基本は「特定メンバーへの知識の集中を防ぐ」ことです。設計ドキュメント・コードコメント・運用手順書の整備を習慣化し、定期的なナレッジ共有の場(コードレビュー・社内勉強会)を設けることで属人化を防げます。また、外部パートナー(SESや元請ベンダー)と継続的な協業関係を持つことで、離職時にも外部から技術支援を受けやすくなります。

ハイブリッド体制で元請(プライムベンダー)に依頼するとどんな支援が受けられますか?

元請(プライムベンダー)に依頼することで、要件定義から設計・開発・運用保守まで一貫した支援が受けられます。内製チームの立ち上げ支援(技術選定アドバイス・アーキテクチャ設計・メンタリング)から、内製では対応しにくい専門領域(セキュリティ・クラウドインフラ・パフォーマンスチューニング)の補完まで、必要な範囲に絞って活用できます。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑

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  1. *1 出典:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「DX動向2025」(2025年公表)
  2. *2 出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年公表、調査対象:国内企業)


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