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2026.06.22 らしくコラム

IT投資最適化の進め方|配分見直し・ROI評価・技術的負債の対処

LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託

IT投資の分析

この記事のポイント

  • 日本企業のIT予算はランザビジネス(保守運用)に7割超が集中しており、バリューアップ投資の余地が小さい実態を公的調査データで確認できます
  • IT投資最適化の進め方は「現状可視化→分類→ROI評価→配分目標設定→モニタリング」の5ステップで体系的に進められます
  • 技術的負債への対処は全数解消を目指すのではなく、ビジネス影響度・保守負荷・代替可能性の3基準で優先順位を定めることが重要です

IT投資最適化とは——保守運用偏重を脱し戦略投資を確保する取り組み

予算計画の作業

IT投資最適化とは、現行ビジネスの維持・運営に充てる投資(ランザビジネス)と新たな価値創出に充てる投資(バリューアップ)のバランスを見直し、企業の経営目標と整合したIT予算配分を実現する継続的なマネジメント活動を指します。

現状可視化 IT予算を 全件洗い出す 分類・判定 維持/改善/ 廃止に仕分け ROI評価 優先順位を 数値で決める 配分目標設定 バリューアップ 比率を定める 継続見直し KPIモニタリング で継続改善
図1:IT投資最適化の5ステップ(現状可視化→分類・判定→ROI評価→配分目標設定→継続見直し)

ランザビジネスとバリューアップ——IT投資の2大カテゴリ

IT投資は大きく2つのカテゴリに分かれます。ランザビジネス(Run the Business)は既存システムの保守・運用・維持管理に充てる費用です。業務が止まらないために不可欠なコストですが、新たな価値は生み出しません。

一方、バリューアップ(Value Up)は新規システムの開発・DX推進・業務改善など、将来の競争力に直結する攻めの投資です。この2つの配分バランスが、IT投資最適化の核心的な課題となっています。

なぜ「最適化」が急務なのか——現状の配分比率と問題点

経済産業省「DXレポート」(2018年9月公表)では、日本企業のIT予算の約8割がランザビジネスに充当されており、そのうちランザビジネス比率が90%以上を占める企業が約40%を超えるという現状が指摘されました*1

その後、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査報告書2022」でも2021年度の配分データが示されており、DXレポート2.2でも、IT予算の多くが既存システムの保守運用(ランザビジネス)に充てられ、バリューアップ(戦略的投資)に回せる割合は依然として小さいことが指摘されています*2。戦略的IT投資の余地は限られているのが実情です。

さらに、JUAS「企業IT動向調査」でも、IT投資の効果評価やランニングコストの評価が未実施・不十分な企業が少なくないことが指摘されています*3。予算を確保するだけでなく、その投資効果を測定・管理する体制が整っていない企業が多い実態がわかります。

IT投資最適化の進め方——実務で使える5ステップ

IT投資最適化は「一度やれば終わり」のプロジェクトではありません。毎期の予算編成サイクルに組み込み、継続的に回す仕組みが求められます。以下の5ステップを順に進めることで、実務に即した形で取り組めます。

ステップ1——現状のIT投資ポートフォリオを全件可視化する

まず着手すべきは、現在組織が支出しているIT関連費用の全体像を把握することです。システムごと・ベンダーごとに「何に・いくら・なぜ払っているか」を一覧化します。クラウドサービスの従量課金、保守契約、ライセンス費用、社内人件費相当分など、見落としやすいコストも含めて棚卸しを行います。

この段階で重要なのは、費用だけでなく「そのシステムが現在どの業務を支えているか」「利用頻度はどの程度か」という情報を紐づけることです。費用と業務価値を対応させることで、次の分類ステップの精度が上がります。

ステップ2——システムを「維持必須・改善対象・廃止候補」に分類する

可視化したシステムを3つのカテゴリに仕分けます。維持必須は法的要件や基幹業務上欠かせないシステムです。改善対象は現行の業務を支えているものの、パフォーマンスや保守性に問題があるシステムです。廃止候補は利用頻度が低く、代替手段がある、または不要になったシステムです。

分類の際は感覚的な判断を避け、「過去12か月の実利用件数」「保守費用対利用者数の比率」「障害発生頻度」などの定量データを根拠にすることが大切です。担当部門との合意を取りながら進めると、後の予算交渉がスムーズになります。

ステップ3——ROI評価で優先順位を決める

IT投資のROI(投資対効果)評価は、金銭的リターンが直接見えにくいケースも多く、実務では工夫が必要です。定量的に評価できる投資には「期待コスト削減額÷投資額」の財務ROIを算出します。一方、業務品質向上・リスク低減・意思決定速度改善など定性的な価値については、「評価できないから後回し」にせず、リスク回避の金銭価値換算やスコアリング手法(例:0〜5点で複数軸を評価し合計点で順位付け)を用います。

IPA「DX動向2025」の調査では、成果指標が未設定のままDX施策を進めている企業が多く、目標と評価をセットにしない取り組みはIT戦略に紐づいていない状態と同義だと指摘されています*4。ROI評価の精度を上げるためには、投資判断の前に「何をもって成功とするか」のKPIを先に定義することが不可欠です。

ステップ4——バリューアップ投資の配分目標を設定する

現状のランザビジネス比率を把握したうえで、3〜5年の中期目標としてバリューアップ比率の目標値を設定します。業種・企業規模・DX成熟度によって最適解は異なりますが、現状76%前後のランザビジネス比率を段階的に引き下げ、戦略投資の割合を高めることが方向性です。

目標設定の際は一括で大幅変更するのではなく、廃止候補システムの撤廃で生まれたコスト削減分をバリューアップに回すという段階的アプローチが現実的です。年間5〜10ポイントの配分シフトを継続することで、組織の痛みを最小化しながら構造改革を進められます。

ステップ5——進捗をモニタリングし継続的に見直す

IT投資最適化は一度設定した配分比率を維持するだけでは不十分です。四半期ごとに予算の執行状況・KPIの達成度・新たに発生したリスク要因を確認し、次の予算編成に反映する仕組みを整えます。

特にクラウドサービスは利用量が変動しやすく、放置すると意図しないコスト増が生じます。クラウドコストの最適化(FinOps)については専用のアプローチが有効です。

技術的負債への対処——IT投資最適化の前提整理

IT投資の最適化を妨げる要因として、避けて通れないのが技術的負債(Technical Debt)の問題です。技術的負債とは、短期的な視点でシステムを構築・拡張してきた結果、保守・運用の難易度が高まり、改修コストが膨らんでいる状態を指します。

技術的負債がIT投資最適化を阻む理由

技術的負債を抱えるシステムは、通常よりも多くの保守費用を要します。これがランザビジネス比率を押し上げ、バリューアップに充てる予算を圧迫する悪循環を生みます。経産省「DXレポート」はこの状態を「技術的負債の蓄積により、新たな投資に資金・人材を振り向けられない」と表現し、「2025年の崖」問題の核心の一つとして位置づけています*1

技術的負債の解消には投資が必要ですが、その投資がなければランザビジネスコストは下がらないというジレンマがあります。このため、IT投資最適化の文脈では「技術的負債の解消コストをどう捻出するか」が重要な問いになります。

優先度判断の3基準——ビジネス影響度・保守負荷・代替可能性

技術的負債を全数解消しようとすると、膨大な投資と時間が必要になります。実務的には、以下の3基準で優先順位を設定することが有効です。

評価基準 評価内容 優先度が高いケース
ビジネス影響度 そのシステムの障害・停止が事業継続や収益に与えるインパクト 基幹系・顧客向けシステムで障害時の損失が大きい場合
保守負荷 現状の維持に要している人件費・ライセンス費・障害対応工数 保守コストが機能価値を上回り、改善すれば費用削減効果が大きい場合
代替可能性 SaaSや標準パッケージへの移行容易性、スクラッチ開発不要度 業界標準ツールへの置き換えが可能で、移行工数が比較的少ない場合

この3基準を5段階スコアで評価し、合計点が高いシステムから解消に着手することで、限られた予算を最も効果的なところに集中できます。スコアリングは年1回の見直しサイクルに組み込み、ビジネス環境の変化に応じて基準を更新することが大切です。

技術的負債の解消には、単なるシステム刷新だけでなくモダナイゼーション(レガシーシステムの段階的な近代化)という選択肢もあります。全面再構築よりもリスクと投資を分散できるアプローチとして注目されています。

内製 vs 外部委託——投資配分の実行体制を整える

IT投資最適化を実行に移す際、「どの部分を内製し、どの部分を外部に委託するか」という体制の選択も重要な意思決定です。この判断自体がコスト構造に影響するため、投資配分と一体で考える必要があります。

内製でカバーできる範囲とリスク

IT投資の評価・可視化・方針策定など、自社の事業理解が不可欠な領域は内製に適しています。一方、技術的負債の解消や基幹システムの刷新を内製で進める場合、インフラエンジニア・アーキテクト・プロジェクトマネージャーの確保が必要になります。

内製体制が不十分なまま大規模な刷新に着手すると、プロジェクトの長期化・品質低下・コスト超過のリスクが生じます。特にレガシーシステムの解析や移行設計は専門知識を要するため、担当者不在のままでは着手自体が難しい局面もあります。

外部パートナーへの委託で得られるもの

専門の外部パートナーへの委託は、技術的な専門性を補うだけでなく、IT投資最適化のロードマップ策定・優先順位付けのアドバイザリー機能も期待できます。外部視点が加わることで、社内の慣例に縛られた意思決定を避けやすくなります。

委託形態を選ぶ際は、プロジェクト単位の請負(成果物責任あり)と常駐支援型の準委任(工数ベース)の違いを理解したうえで、フェーズに応じて使い分けることが有効です。IT投資最適化のような継続的な取り組みには、長期にわたって伴走できる元請(プライムベンダー)との協力関係が安定性をもたらします。

まとめ——IT投資最適化を進める3つの判断軸

本稿では、IT投資最適化の概念から実務的な5ステップ、技術的負債への対処、体制設計までを整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。

第一に、現状の見える化から始めることです。JUAS「企業IT動向調査2025」でもIT投資評価が未実施の企業が約4割を占める事実が示すように、そもそも「何にいくら払っているか」が把握できていないケースが珍しくありません。可視化なしに最適化は進みません。

第二に、ROI評価と配分目標を数値で定めることです。ランザビジネスとバリューアップの比率目標を明示することで、予算交渉・投資判断の基準が生まれます。定性的な価値もスコアリングで評価軸に含め、感覚ではなくデータで優先順位を決める文化を育てることが大切です。

第三に、技術的負債を「解消すべき課題」として予算に組み込むことです。技術的負債の放置はランザビジネスコストを押し上げ続けます。ビジネス影響度・保守負荷・代替可能性の3基準で優先度を定め、段階的に解消する計画を立てることが、中長期的なIT投資最適化の基盤となります。

よくある質問

IT投資の最適化はどこから始めるのが現実的ですか

まずIT予算の全件棚卸しから着手するのが現実的です。どのシステムにいくら払っているかを一覧化し、ランザビジネスとバリューアップに分類するだけで、現状の課題が数値として見えてきます。複雑な評価手法は後回しにして、まず「見える化」を優先することをお勧めします。

ランザビジネスとバリューアップの理想的な比率はどのくらいですか

業種・企業規模・DX成熟度により異なるため、一律の正解はありません。ただし、DXレポート2.2でも日本企業はIT予算の多くを保守運用(ランザビジネス)に充て、バリューアップ(戦略的投資)の割合が小さい傾向が指摘されています。自社の現状比率を把握したうえで、数年かけて段階的にバリューアップ比率を高める目標を設定することが現実的です。

ROI評価が難しい定性的なIT投資はどのように評価しますか

スコアリング手法が有効です。「セキュリティリスク低減」「業務品質向上」「意思決定速度」など定性的な価値を複数の評価軸として設定し、0〜5点で点数化して合計スコアで比較します。また、リスク回避の金銭的価値(障害発生時の損失見込みを回避する価値)として換算する手法も用いられます。IPA「DX動向2025」が指摘するように、何らかの成果指標を事前に定義することが、投資効果の検証においても重要です。

技術的負債の解消コストはIT投資最適化の中でどう扱いますか

技術的負債の解消は「既存コストを削減するための投資」として位置づけ、削減できる保守費用と解消にかかる費用を対比して費用対効果を算出します。解消によってランザビジネスコストが下がり、バリューアップ配分が増えるという連鎖を示すことで、経営層への予算申請の説得力が高まります。優先度の高いものから段階的に着手し、解消した分の予算を翌年のバリューアップに振り替えるサイクルを作ることが大切です。

IT投資最適化を外部委託する場合、どのような会社に相談すればよいですか

IT投資最適化の支援は、戦略コンサルティング・システム開発・保守運用を一気通貫で担える元請(プライムベンダー)が適しています。特に現状のシステム構成の把握から最適化ロードマップの策定、実際の刷新や移行まで一貫して対応できる会社を選ぶと、フェーズをまたいだ引き継ぎ工数が削減できます。複数のベンダーを分散管理している場合は、統括する元請を設けることでコスト管理と品質管理が一元化されます。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑

LASSICに相談するメリット

LASSICは元請(プライムベンダー)として、お客様のシステム保守・運用から新規開発まで一貫して受託しています。IT投資最適化の支援では、現状のシステム棚卸しとコスト可視化から入り、ロードマップ策定・技術的負債の解消・バリューアップ投資の実装まで伴走できる体制を持っています。


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  1. *1 出典:経済産業省「DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜」(2018年9月)
  2. *2 出典:経済産業省「DXレポート2.2」(2022年7月)が引用した一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査報告書2022」(2021年度調査)
  3. *3 出典:一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査2025」(2024年度調査、2025年4月公表)
  4. *4 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2025」(2025年)


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