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アプリにオンデバイス生成AIを組み込む実装と外注の勘所
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- アプリへの端末内(オンデバイス)生成AI組み込みとは、AppleのFoundation Models frameworkやGoogleのGemini Nano/AICoreを使い、通信を介さず要約や下書き作成を実行する実装です。
- iOSとAndroidでは対応するフレームワークやモデルの規模、対応デバイスの範囲が異なるため、実装前の確認が欠かせません。
- すべての処理を端末内で完結させるか、クラウドAPIと組み合わせるハイブリッド構成にするかは、対応機種のカバー範囲や生成品質の要件によって判断が変わります。
目次
端末内生成AIとは、アプリ内でLLMを直接動かす実装
アプリへの端末内(オンデバイス。スマートフォンなどの端末上で処理を完結させる方式)生成AI組み込みとは、AppleのFoundation ModelsやGoogleのGemini Nanoのような大規模言語モデルを端末上で直接実行し、通信を介さずに要約や文章生成を行う実装を指します*1。
端末内生成AIが対象とするのは、要約・下書き作成・文章の校正といったテキスト生成タスクです。画像そのものを生成する仕組みや、写真・音声を分類する従来型のオンデバイスMLとは、扱う領域が異なります。
端末内で処理を完結させる利点は、通信不要によるオフライン動作、応答の低遅延、入力データを外部に送らないプライバシー保護の3点に整理できます*4。クラウドAPIを都度呼び出す構成に比べ、通信量の増加を抑えられる点も特徴といえます*6。
WWDC25で公開されたAppleのFoundation Models framework
Appleは2025年に開催したWWDC25で、Foundation Models framework(オンデバイスLLMをSwiftから呼び出すためのフレームワーク)を発表しました*1。このフレームワークにより、サードパーティのアプリからApple Intelligenceを支えるオンデバイスモデルを直接呼び出せるようになっています*1。
対象のオンデバイスモデルは30億パラメータの大規模言語モデルで、各パラメータが2ビットに量子化されています*1。量子化(モデルの数値表現を圧縮し軽量化する処理)によって、端末上でも高速に動作する設計です*1。
対応プラットフォームはmacOS・iOS・iPadOS・visionOSの4つで、いずれもオフラインで動作します*1。詳細な仕様はApple Developerの公式リファレンスで公開されています*3。
機能面では、生成結果をSwiftの型に沿わせるguided generation(構造化データを直接生成する仕組み)が用意されています*2。加えて、モデルが連絡先・カレンダーなどの外部データへ自律的にアクセスするtool calling(ツール呼び出し)も使えます*2。会話の文脈を保持するLanguageModelSessionという仕組みもあり、複数回のやり取りを一つの対話として扱えます*2。
Gemini Nano/AICoreとML Kit GenAI APIsによるAndroidの実装
Androidでは、Gemini Nano(Googleが開発する軽量な基盤モデル)がAICore(モデルの配布・実行を管理するAndroidのシステムサービス)上で動作します*4。Googleは2025年5月20日、Gemini Nanoの機能をML Kit(Googleが提供するモバイル向け機械学習SDK)から呼び出せるGenAI APIsを公式ブログで発表しました*6。
提供されるAPIには、記事や会話を要約するSummarization、文法・誤字を修正するProofreading、文章のトーンを変えるRewritingがあります*5。加えて画像の説明文を生成するImage descriptionや、任意の指示を送れるPrompt APIも用意されています*5。いずれも入力・推論・出力の処理を端末内で完結させる設計です*5。
対応デバイスはGoogle Pixel 9・10シリーズやSamsung Galaxy S25・S26シリーズなど一部の機種に限られます*5*6。対象はMediaTek Dimensity・Qualcomm Snapdragon・Google Tensorを搭載した機種です*5*6。AICoreはPrivate Compute Coreの方針に沿い、リクエストごとの入出力データを記録せず処理後に削除する設計となっています*4。
Apple版とAndroid版の実装差——モデル規模・対応デバイス・APIの比較
AppleとAndroidの実装は、いずれも端末内のLLMを呼び出す点は共通しています。ただしモデルの扱い方や対応範囲には違いがあり、実装前に押さえておきたい相違点を整理すると次の通りです。
| 項目 | Apple(iOS等) | Android |
|---|---|---|
| 実行基盤 | Foundation Models framework(Swift API)*1 | AICore+ML Kit GenAI API*4 |
| モデル規模 | 30億パラメータ・2bit量子化*1 | Gemini Nano(パラメータ数は非公開)*4 |
| 主な機能 | guided generation・tool calling・session管理*2 | 要約・校正・リライト・画像説明・カスタムプロンプト*5 |
| 対応OS | macOS・iOS・iPadOS・visionOS*1 | Android(対応機種のみ)*5 |
| 対応デバイス | Apple Intelligence対応機種*1 | Pixel 9・10、Galaxy S25・S26等の一部機種*5*6 |
| 開発言語/SDK | Swift*2 | Kotlin/Java(ML Kit SDK)*5 |
特に対応デバイスの範囲は両OSで大きく異なります。Appleはオンデバイスモデルの規模を公式に明示していますが*1、Android側のGemini Nanoはパラメータ数を公開しておらず、対応機種のリストで実行可否を判断する形になっています*5。
端末内生成AIが向くタスクと向かないタスクの境界
端末内生成AIが向くタスクは、要約・校正・短い文章のリライト・構造化データの抽出のように、入力と出力が比較的短く完結する処理です*1*5。
反対に向かないのは、長大な文章を一括で生成する処理や、幅広い外部知識を参照する処理です。Appleのオンデバイスモデルはコンテキストウィンドウ(モデルが一度に処理できる文章量の上限)を超えるとエラーを返す仕様であり*1、長文の生成にはクラウドAPIとの併用が現実的な選択になります。
コンテキストウィンドウの上限を見誤ってプロンプトを設計すると、生成処理そのものが失敗し、ユーザーに結果を返せなくなるおそれがあります*1。長文入力を扱う機能では、事前に文章を分割する設計が欠かせません。
内製と外注の分かれ目——デバイス分岐とフォールバック設計の工数
端末内生成AIを内製で実装するには、OSごとに異なる知識が必要になります。iOS側はSwiftとFoundation Models framework、Android側はKotlinとML Kit GenAI APIの知識です*1*5。加えて、対応デバイスの分岐処理と非対応機種向けのフォールバック設計も欠かせません。
非対応の端末では機能自体が利用できないため、クラウドAPIへ切り替えるフォールバック処理をアプリ側に組み込む必要があります*5。この分岐処理の設計・検証には、iOS・Android双方のテスト機材をそろえた動作確認が求められます。
専門パートナーに委託する場合は、対応OS・対応デバイスの選定からフォールバック設計、生成結果のガードレール検証までを一括して依頼できるかどうかが選定の分かれ目になります。内製では既存の開発担当者が通常業務と並行して対応することになり、検証に割ける時間が限られる場合があります。
。対象OSの範囲や対応デバイスのカバー率によって必要な工数は変わってきます。自社アプリの利用端末の分布を確認したうえで、内製・外注の切り分けを検討することが実務的です。
まとめ:アプリへの端末内生成AI組み込みで押さえる3つの判断軸
本稿ではアプリへの端末内生成AI組み込みについて、AppleとGoogleの公式情報をもとに整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、端末内生成AIは要約や下書き作成などのテキスト生成を、通信を介さず端末上で処理する実装であり、画像生成や従来型の分類MLとは扱う領域が異なります*1*5。第二に、AppleのFoundation Models frameworkとGoogleのGemini Nano/AICoreでは、モデルの扱い方や対応デバイスの範囲に違いがあります*1*5。第三に、対応デバイスのカバー率やフォールバック設計の要否によって、内製と外注の判断が変わってきます。
よくある質問
既存のアプリに後から端末内生成AIを追加することはできますか。
既存アプリへの追加は可能です。AppleはFoundation Models frameworkをiOS・iPadOS・macOS・visionOSのSwiftアプリから呼び出せる形で提供しています*1。AndroidもML Kit GenAI APIを既存アプリに組み込む形で提供しています*5。ただしどちらも対応OSバージョンとアプリのビルド環境の更新が前提になります。
対応していない端末では生成AI機能はどう動きますか。
対応していない端末では機能自体が利用できません。AndroidのML Kit GenAI APIは対応チップセット・機種が限られており*5、非対応機種向けにはクラウドAPIへの切り替えなどフォールバック処理を実装側で用意する必要があります。
端末内生成AIは長文の記事作成にも使えますか。
長文の一括生成には向きません。Appleのオンデバイスモデルはコンテキストウィンドウを超えるとエラーになる仕様であり*1、要約や短文の下書き作成、校正といった短めのタスクに適しています。長文生成が必要な場面ではクラウドAPIとの併用が現実的です。
画像生成や画像認識の機能もこの仕組みで実装できますか。
本稿で扱うAPIはテキスト生成が中心であり、画像そのものを生成する機能とは別の仕組みです。画像認識・分類はCore MLやML Kitの従来型APIが担う領域であり、テキスト生成の端末内実装とは目的が異なります。
外部に実装を委託する場合、何を確認すればよいですか。
まず対応させたいOS(iOS・Android)と対象デバイスのカバー範囲を確認します。加えて非対応機種向けのフォールバック設計や、生成結果のガードレール検証をどこまで委託先が担うかをすり合わせることが大切です。契約前に検証環境での動作確認範囲を明確にしておくと、リリース後のトラブルを抑えやすくなります。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:Apple Developer「Meet the Foundation Models framework」(WWDC25セッション動画、2025年)(https://developer.apple.com/videos/play/wwdc2025/286/)
- *2 出典:Apple Developer「Deep dive into the Foundation Models framework」(WWDC25セッション動画、2025年)(https://developer.apple.com/videos/play/wwdc2025/301/)
- *3 出典:Apple Developer Documentation「Foundation Models」(公式リファレンス)(https://developer.apple.com/documentation/FoundationModels)
- *4 出典:Android Developers「Gemini Nano」(https://developer.android.com/ai/gemini-nano)
- *5 出典:Google for Developers「Overview of the ML Kit GenAI APIs」(https://developers.google.com/ml-kit/genai)
- *6 出典:Android Developers Blog「On-device GenAI APIs as part of ML Kit help you easily build with Gemini Nano」(2025年5月20日)(https://android-developers.googleblog.com/2025/05/on-device-gen-ai-apis-ml-kit-gemini-nano.html)