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2026.07.23 らしくコラム

暗号資産トラベルルール対応|送付情報通知の実装要件

LASSIC IT事業部|暗号資産交換業・資金移動業向けシステム開発を元請(プライムベンダー)として受託

暗号資産・金融システムのイメージ

この記事のポイント

  • トラベルルールは、暗号資産の移転時に送付人・受取人の情報を移転先の暗号資産交換業者(VASP)へ通知する義務であり、口座開設時の本人確認であるeKYCとは別のフェーズの規制です。
  • FATF勧告16を土台に、資金決済法の枠組みのもと犯罪収益移転防止法(犯収法)とJVCEA自主規制規則が通知義務を具体化しており、対象法域は現在も告示改正で更新され続けています。
  • システムには相手方VASPとの情報授受・対応状況の確認・記録保存・既存基盤との連携が求められ、規制知識と国際規格対応の両面から内製と外注を判断する必要があります。

トラベルルールとは?暗号資産の送付情報通知が義務化された背景

コンプライアンス対応のイメージ

トラベルルールとは、暗号資産交換業者等が利用者の依頼を受けて暗号資産を他の事業者が管理するウォレットへ移転する際、送付人と受取人に関する情報を、移転先の暗号資産交換業者(VASP/Virtual Asset Service Provider)へ通知しなければならないという規制です。国際組織であるFATF(金融活動作業部会)が、マネー・ローンダリングやテロ資金供与対策の国際基準として定める勧告16は、もともと電信送金における送金人・受取人情報の伝達を求めるものですが、暗号資産の移転にも同様の考え方を適用する形で世界各国に導入が求められています*1

図
図:トラベルルールにおける送付情報の流れ(利用者からの送付依頼→送付側VASPが情報収集→受取側VASPへ通知→照合後に着金)

日本国内では、暗号資産交換業者・資金移動業者の登録や業務のあり方を定める資金決済法が基本の枠組みとなる一方、トラベルルールの通知義務そのものは犯罪収益移転防止法(犯収法)及びその政令・施行規則に規定されています。日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)は自主規制規則として2022年にトラベルルール対応を先行して導入し*3、その後の犯収法改正を経て、2023年6月1日から法的な通知義務として施行されました*2

ここで押さえておきたいのは、トラベルルールが既存の制度とは異なる別のフェーズを担う点です。口座開設時に利用者本人を確認するeKYCとは異なり、トラベルルールはすでに取引を開始した利用者が暗号資産を移転するたびに、送付人・受取人の情報を移転先事業者へ通知する仕組みを指します。疑わしい取引を検知して届出を行うAML取引モニタリングとも別物であり、トラベルルールはその前提となる送付情報そのものの授受を担う位置づけです。

通知が必要な送付人・受取人情報とVASP間の授受フロー

送付側の暗号資産交換業者は、利用者から出金依頼を受けると、送付人・受取人に関する所定の情報を収集したうえで、移転と同時または事前に受取側の暗号資産交換業者へ通知することが求められます*2*3。JVCEAの自主規制規則では、受取人が送付依頼人本人であるかどうか、本人でない場合は受取人の氏名(法人の場合は名称)、相手方の暗号資産交換業者等の名称といった情報を新たに取得・保存する必要があると案内されています*3

通知すべき情報の全項目は、犯収法の施行規則で別紙として細かく規定されており、本稿では網羅的な列挙を避けます。自社が扱う移転パターンごとにどの項目を収集・通知する必要があるかは、施行規則および金融庁の公式情報で個別に確認することが欠かせません*2

IVMS101など国際規格による相互運用性の確保

送付情報を異なる事業者間でやり取りするには、氏名や住所といったデータ項目の形式をあらかじめ揃えておく必要があります。国際的には、interVASP Standards Working Groupが策定したIVMS101と呼ばれる共通データ項目定義が広く参照されており、送付人・受取人情報を構造化した形式で伝達するための規格として公開・改訂が続けられています*6

ただし、日本の法令やJVCEA自主規制規則がIVMS101という特定の技術規格の採用を名指しで義務付けているとは、公式資料からは確認できませんでした。実際の相手方VASPとの接続方式は、採用するベンダーやネットワークによって異なる場合があるため、自社が接続を検討する相手先の仕様は個別に確認する必要があるでしょう。

システムに求められる主要要件

情報授受・対応状況確認の機能

トラベルルール対応システムには、相手方VASPへ送付人・受取人情報を送信し、受け取った情報を照合する機能に加え、相手方の登録法域や対応可否をあらかじめ確認できる機能が求められます。対象法域は金融庁告示によって随時更新されるため、システム側でも最新の指定状況に追随できる設計が望ましいと言えます*5

記録保存・既存基盤との連携

通知した情報・受領した情報を記録として保存する機能や、既存の出金・ウォレット管理システムとの連携も欠かせません。トラベルルール専用の機能を新たなモジュールとして追加するのか、基盤刷新に合わせて統合するのかによって、必要な開発規模やスケジュールは大きく変わります。

相手方VASPの対応状況と対象法域の指定

金融庁は犯収法施行令に基づき、通知義務の対象となる法域を告示で指定しています。直近では2026年7月7日に告示改正のパブリックコメント結果が公表され、同年8月3日の施行によりアンギラ・オマーン・キューバ・ドミニカ国・ボツワナの5法域が追加され、対象法域は合計63法域となりました*5

対象法域外の相手方や、送付情報の授受に対応していない相手方への移転をどのように取り扱うかは、各社の規定・運用によって異なります。自社がどのような運用ルールを採用するかは、金融庁・JVCEAの公式情報に照らして個別に確認しておく必要があるでしょう。

記録保存と既存ウォレット・取引システムとの連携

犯収法は特定事業者に対し、取引に関する記録等の保存義務を課しています。トラベルルールに伴って通知・受領した送付情報についても、既存の記録保存体制の中でどう位置づけ、どの程度の期間保存するかを、自社の規程や公式情報に基づいて確認しておく必要があります。

加えて、既存の入出金基盤やウォレット管理システムとどう連携させるかも重要な論点です。送付情報の収集・通知処理を既存フローに後付けで組み込む設計と、基盤全体を見直しながら統合する設計とでは、必要な工数や保守体制の考え方が変わってきます。

導入の進め方―内製と外注の判断軸

トラベルルール対応システムの構築は、規制知識と国際規格対応、そして継続的な保守体制という3つの観点から、内製と外注のどちらで進めるかを判断する必要があります。以下の表に主な違いを整理しました。

比較項目 内製 外注
規制ドメイン知識 犯収法・JVCEA自主規制規則・金融庁告示の改正動向を継続的に追う体制が必要です 規制動向を踏まえた要件整理を専門パートナーに委ねられます
相手方VASPとの接続 複数のベンダー・ネットワークへの対応可否を自社で検証する必要があります 接続実績のあるパートナーであれば検証工数を圧縮しやすくなります
対象法域・対応状況の追随 金融庁告示の改正を監視し、システムへ反映する運用を自社で維持します 保守運用契約の一環として更新対応を依頼できます
既存基盤との統合・保守 既存の出金・ウォレット管理システムを把握したチームによる改修が前提です 要件整理から改修・保守まで一連の工程を任せられます

まとめ:トラベルルール対応システム構築で押さえるべき3つの視点

本稿では、暗号資産のトラベルルールについて、公式情報に基づき要点を整理しました。第一に、トラベルルールは暗号資産の移転時に送付人・受取人の情報を移転先VASPへ通知する義務であり、口座開設時のeKYCや疑わしい取引を検知するAML取引モニタリングとは異なる、別のフェーズの規制です。第二に、FATF勧告16を土台に、資金決済法の枠組みのもと犯収法とJVCEA自主規制規則が通知義務を具体化しており、対象法域は今も告示改正によって更新され続けています*5。第三に、システムには相手方VASPとの情報授受・対応状況の確認・記録保存・既存基盤との連携が求められ、規制知識と国際規格対応の両面から内製・外注の判断が必要になるでしょう。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、暗号資産交換業・資金移動業向けシステムの構築・改修を元請(プライムベンダー)として受託しています。トラベルルール対応にあたっては、犯収法・JVCEA自主規制規則の要件整理から、相手方VASPとの接続、既存の出金・ウォレット管理基盤との統合、対象法域の更新に追随する保守運用まで一貫して対応する体制を整えています。自社での対応方針に迷いがある企業様は、まずは現行システムの棚卸しからご相談ください。

よくある質問

トラベルルールとeKYCは同じ規制ですか。

いいえ、異なります。eKYCは口座開設時に利用者本人を確認する仕組みであるのに対し、トラベルルールはすでに取引を開始した利用者が暗号資産を移転する際、送付人・受取人の情報を移転先の暗号資産交換業者へ通知する義務です*2。両者は対象となる場面が異なるため、混同しないよう注意が必要です。

トラベルルールはいつから法的義務になりましたか。

JVCEAの自主規制規則として2022年に先行して導入された後、犯罪収益移転防止法の改正により2023年6月1日から法的な義務として施行されています*2*3

通知が必要な情報にはどのようなものがありますか。

JVCEAの自主規制規則では、受取人が送付依頼人本人か否か、本人でない場合の受取人氏名(法人の場合は名称)、相手方の暗号資産交換業者等の名称などが挙げられています*3。具体的な全項目は犯収法施行規則で定められているため、詳細は公式情報での確認が必要です。

通知対象となる法域はどのように決まりますか。

金融庁が犯罪収益移転防止法施行令に基づき告示で指定しており、随時見直されています。直近では2026年8月3日施行の告示改正で5法域が追加され、対象法域は63法域となりました*5

IVMS101という規格への対応は必須ですか。

IVMS101は国際的に広く参照されている送付情報のデータ形式ですが、日本の法令やJVCEA自主規制規則が特定の規格採用を名指しで義務付けているとは公式資料では確認できません。相手方VASPやベンダーによって接続方式が異なるため、個別の確認が望まれます*6

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑


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  1. *1 出典:FATF(金融活動作業部会)「The FATF Recommendations」勧告16(FATF公式サイト fatf-gafi.org にて公開)
  2. *2 出典:金融庁「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令の一部を改正する政令案等に関するパブリックコメントの結果等について」(https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230526-2/20230526-2.html
  3. *3 出典:日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)「当協会が定める自主規制規則におけるトラベルルール対応についてのお知らせ」(https://jvcea.or.jp/information/main-info/20220301-001/
  4. *4 出典:日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令の一部を改正する政令案等の施行に伴うトラベルルール対応についてのお知らせ」(https://jvcea.or.jp/information/main-info/20230322-001/
  5. *5 出典:金融庁「『犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令第十七条の二及び第十七条の三の規定に基づき国又は地域を指定する件の一部を改正する件』の公表について」(https://www.fsa.go.jp/news/r8/sonota/20260707-2/20260707-2.html
  6. *6 出典:interVASP Standards Working Group公式サイト「IVMS101」(https://www.intervasp.org/


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