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育児介護休業法改正|人事システムの改修点
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 改正の性格:休暇や働き方の選択肢を広げ、企業に個別の聴取や情報の公表を求める方向で段階的に整備されています。
- システムへの影響:設定値の変更にとどまらず、申請の様式、記録の保持、集計の定義まで見直しが必要になります。
- 改修の勘どころ:制度の中身をコードに埋めず、設定で切り替えられる形にしておくことが次の改正への備えになります。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
育児や介護と仕事を両立させるための制度は、近年たびたび見直されています。休暇の取り方、残業の免除、柔軟な働き方の選択肢、そして企業が従業員の意向を聴く仕組み——改正のたびに、人事や勤怠のシステムに手を入れる必要が生じます*1。
本記事では、人事・勤怠システムを担当する情報システム部門、あるいはその改修を受託する立場の担当者に向けて、改正が触れる箇所、記録として残すべき事項、集計の作り方、そして次の改正に備える設計を整理します。制度の詳細は施行時期ごとに異なるため、実際の対応は最新の公式資料で確かめながら進めてください。
目次
改正で何が変わったか——段階的な施行の全体像
近年の改正は、いくつかの時期に分けて施行される形が採られています。大きな方向性としては、子の看護に関わる休暇の使い方を広げる、残業の免除を求められる範囲を広げる、テレワークを含む柔軟な働き方の選択肢を用意する、そして企業が従業員一人ひとりの意向を聴いて配慮する——この四つに整理できます*1。
介護の側でも、両立支援の制度を従業員へ周知することや、相談できる体制を整えることが求められる方向で整備が進んでいます*2。育児と介護は担当部署が同じことも多く、あわせて見ておくと改修の範囲を把握しやすくなります。
企業規模による違いもあります。取得状況の公表が求められる範囲が広がり、これまで対象外だった規模の企業も対応が必要になってきました。自社が対象に入るかどうかは、従業員数の数え方も含めて確かめておきたいところです。
人事・勤怠システムで影響が出る箇所
改正のたびに、システム側では次のような見直しが生じます。設定値の変更で済む部分と、機能を足す必要がある部分に分かれます。
| 箇所 | 見直しの内容 | 対応の重さ |
|---|---|---|
| 休暇の設定 | 取得できる事由、対象となる子の年齢、単位(時間・日) | マスタで持てていれば軽い。コードに埋めていると重い |
| 残業免除・制限 | 申し出できる対象の範囲、勤怠計算への反映 | 勤怠の計算ロジックに関わるため中程度 |
| 申請と承認 | 新しい制度の申請様式、期限の管理、通知 | 画面とワークフローの追加が必要 |
| 面談・意向の記録 | 聴取した内容と配慮の記録を残す | 新しい機能として作ることが多い |
| 集計・公表 | 指標の定義に沿った年度集計 | 定義の統一が要り、意外に手間がかかる |
実務でつまずきやすいのは、休暇の設定がプログラムのなかに書き込まれている場合です。「対象は小学校就学前まで」といった条件がコードに埋まっていると、改正のたびに開発が必要になります。マスタとして持ち、適用期間つきで切り替えられる形にしておけば、次の改正では設定変更で済みます。
勤怠計算への反映も注意が要ります。残業の免除を申し出た従業員について、計算上どう扱うのか。締めの処理や割増の計算に影響するため、テストの範囲が広がります。勤怠管理システムの開発で扱うような計算周りの検証を、改修のたびに通す前提で計画を立てておきます。
意向の聴取と配慮——記録が要る運用
近年の改正で新しく加わった性格の要求が、従業員一人ひとりの意向を聴き、配慮することです。制度を用意して周知するだけでなく、個別に向き合う過程が求められる——ここがシステム側にとって新しい部分になります。
具体的には、いつ、誰に、どのような内容を聴いたのか。そして、聴いた内容に対してどう配慮したのか。この記録が残っていなければ、対応した事実を示せません。面談の記録を人事システムに紐づけて持つ仕組みが要ります。
設計上の勘どころは二つあります。ひとつは、記録の様式を項目化することです。自由記述だけにすると、後から集計も確認もできません。聴取の時期、対象者、希望した働き方、会社としての対応、次回の確認時期——このあたりを項目として持たせます。
もうひとつは、機微な情報としての扱いです。家族の状況や健康に関わる内容が含まれるため、閲覧できる範囲を絞る必要があります。上司が見られる範囲と人事が見られる範囲を分ける、閲覧の記録を残す——こうした制御を最初から入れておくべき領域です。
あわせて、期限の管理も要ります。子の年齢や介護の状況に応じて、聴取すべき時期が来ます。対象者を自動で抽出し、担当者へ促す仕組みがあれば、漏れを防げます。人事系システムの面談機能を持っている企業なら、その枠組みを流用できる場合もあります。
取得状況の集計と公表——定義を揃える
取得状況の公表が求められる場合、指標の定義に沿って年度ごとに数値を出す必要があります。ここで手間がかかるのは、計算そのものより定義の統一です。
分母と分子の定義です。対象となる従業員の範囲、出生の時期による区切り、期間をまたぐ取得の扱い。定義を決めずに集計すると、担当者が変わるたびに数値が変わります。
データの持ち方です。取得の記録が勤怠側にあり、出生や家族の情報が人事側にある——この二つを突き合わせないと集計できません。連携が手作業だと、毎年の作業が重くなります。人事給与システムの連携で扱うような接続を整えておくと、集計が自動化できます。
過去との比較です。公表は毎年続くため、前年と同じ定義で出せることが重要になります。定義を文書として残し、集計処理のバージョンと紐づけておくと、数値の変動の理由を説明できます。
なお、公表そのものは自社サイトなどで行う形が想定されています。数値を出す仕組みと、公表用の資料を作る手間は別物です。集計結果をそのまま資料へ流し込める形にしておくと、担当者の負担が減ります。
受託・委託開発で押さえる実務ポイント
制度改正にともなう改修案件は、期限が決まっているという特徴があります。進め方の要点を挙げます。
第一に、施行日から逆算した計画です。改正は段階的に施行されるため、時期ごとに必要な機能が違います。全部を一度に作るのではなく、施行日ごとに区切って出すほうが確実です。
第二に、設定で切り替えられる作りにすることです。制度の条件をマスタとして持ち、適用期間を設定できるようにします。これができていれば、次の改正では設定追加で済む可能性があります。
第三に、テストの範囲を先に決めることです。勤怠の計算や給与への連携に影響が及ぶため、影響範囲の洗い出しに時間をかけます。締め処理をまたぐ検証は、期間を確保しておかないと間に合いません。
第四に、運用側の資料も含めることです。担当者向けの手順書、従業員向けの案内文。システムだけ作っても運用が回らないため、成果物に含めるかを最初に決めておきます。
体制面では、労務の知識を持つ担当者と一緒に進められるかが分かれ目になります。制度の解釈が要る部分は社内の労務担当や社会保険労務士に確かめ、システム側は「設定で表現できる形」に落とす。この分担が明確だと、改修は素直に進みます。
まとめ:育児介護休業法の改正対応で押さえる3つの視点
育児・介護と仕事の両立に関わる制度は段階的に見直され、そのたびに人事・勤怠システムへ手を入れる必要が生じます。押さえたい視点は三つです。第一に、改正は休暇や働き方の選択肢を広げるだけでなく、個別の意向聴取や取得状況の公表といった新しい性格の要求を含むため、設定値の変更だけでは終わらないこと。第二に、意向聴取の記録は項目化して持ち、機微な情報として閲覧範囲を絞る設計が要ること。第三に、集計と公表では指標の定義を統一し、前年と同じ定義で出せる状態を保つことが実務の要になることです。まずは制度の条件がコードに埋まっていないかを確かめ、マスタとして持つ形へ寄せるところから着手するのが堅実でしょう。
よくある質問
設定変更だけで対応できませんか。
対応できる部分と、機能追加が必要な部分に分かれます。休暇の対象年齢や事由がマスタで持てていれば設定変更で済みます。いっぽう、個別の意向聴取の記録や新しい申請の様式は、機能として作る必要が生じます。まずは現状の作りを確かめ、どちらに当たるかを切り分けるところからです。
意向聴取の記録は、どこまで残すべきですか。
聴取の時期、対象者、希望した働き方、会社としての対応、次回の確認時期。この程度を項目として持たせておくと、対応した事実を示せます。自由記述だけにすると後から集計も確認もできません。家族や健康に関わる情報を含むため、閲覧できる範囲を絞る制御も同時に入れます。
公表用の集計で気をつける点は何ですか。
指標の定義を統一することです。対象となる従業員の範囲、期間をまたぐ取得の扱い、出生時期による区切り。定義を文書として残し、集計処理と紐づけておくと、前年と同じ条件で出せます。勤怠側と人事側のデータを突き合わせる連携も、手作業に頼らない形にしておきたいところです。
改修の期間はどれくらい見ておけばよいですか。
施行日から逆算し、影響範囲の洗い出しとテストに十分な期間を取ることが要になります。勤怠の計算や給与連携に影響が及ぶ場合、締め処理をまたぐ検証が必要になるため、実装より検証に時間がかかることも珍しくありません。段階施行に合わせて区切って出す進め方が確実です。
次の改正に備えるには何をしておくべきですか。
制度の条件をコードから追い出し、マスタとして適用期間つきで持つことです。あわせて、申請の様式や通知の文面を設定として管理できるようにしておくと、改正のたびの開発が減ります。集計の定義も文書として残しておけば、担当者が変わっても同じ数値が出せます。
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出典
- *1 参考:厚生労働省「育児・介護休業法について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html)。改正の内容と段階的な施行、企業に求められる措置の参考として(2026年8月確認)
- *2 参考:厚生労働省「仕事と介護の両立支援」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/index.html)。介護との両立に関する制度の周知や相談体制に関する公式情報の参考として(2026年8月確認)