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2026.08.20 らしくコラム

欧州アクセシビリティ法|製品とECの要件



監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論

  • 指令の位置づけ:製品とサービスのアクセシビリティ要件に関する指令(Directive 2019/882)で、加盟国は2022年6月までに国内法へ取り込むこととされていました*1。
  • 対象の広さ:コンピュータとOS、ATM・券売機、スマートフォン、電子書籍、電子商取引など10分野が挙げられています*1。
  • 実務の勘どころ:一度直して終わりではありません。改修のたびに崩れないよう、検証を工程に組み込むかどうかが分かれ目です。

※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。

アクセシビリティへの対応は、長らく「やったほうがよいこと」として語られてきました。それが欧州では、市場に出す条件として法の枠組みに入っています。製品とサービスのアクセシビリティ要件に関する指令(Directive 2019/882)——欧州アクセシビリティ法です*1。

この指令の特徴は、対象がWebサイトに限られないことです。コンピュータとOS、ATMや券売機、スマートフォン、テレビ関連機器、電話サービス、視聴覚メディア、旅客輸送、銀行サービス、電子書籍、電子商取引——10の分野が挙げられています*1。加盟国は2022年6月までに国内法へ取り込むこととされていました*1。

本記事では、EU市場に製品やサービスを出している企業の開発担当と、その改修を受託する立場に向けて、対象の見極め方、開発で問われる層、そして維持できる形の作り方を整理します。制度の適用は各国の国内法に基づくため、実際の判断は最新の公式資料と現地の法務確認を経て進めてください。

画面の見やすさを確認しながら設計を進める様子のイメージ

対象の見極め——自社の何が当たるか

まず、対象になり得るものを整理します。指令が挙げているのは、次の分野です*1。

欧州アクセシビリティ法の対象を三つに分けた図(機器・ハードウェア、通信・メディア、サービス・コンテンツ)と、開発の現場で問われる三つの層(画面と操作、情報の提供、維持の仕組み)を整理した図

機器の側では、コンピュータとオペレーティングシステム、現金自動預払機・券売機・チェックイン機、スマートフォン、デジタルテレビのサービスに用いる機器が挙がっています*1。

通信とメディアの側では、電話サービスとその関連機器、視聴覚メディアサービス——放送と消費者向け機器の両方が対象に含まれます*1。

サービスとコンテンツの側では、航空・バス・鉄道・水運の旅客輸送サービス、銀行サービス、電子書籍、そして電子商取引が挙がっています*1。

日本企業が関わりやすいのは、この最後の並びです。EU向けにECサイトを運営している、電子書籍を配信している、あるいは券売機やチェックイン機のような機器を納入している——こうしたケースが該当し得ます。

もう一つ見落としやすいのが、機器の中で動くソフトウェアです。券売機や自動受付機の画面を受託で作っている企業は、機器そのものの供給者ではなくても、要件が求める内容に関わることになります。取引先からの要求として降りてくる形です。

開発で問われる三つの層

実装の側から見ると、問われるのは三つの層に分かれます。

表1:三つの層と、実務での重さ
主に問われること 実務での重さ
画面と操作 読み上げでの利用、キーボードだけでの操作、文字の大きさと色の差 実装の作り込みが要る。既存画面の改修は範囲が広い
情報の提供 どのようにアクセシブルかを説明する情報を用意する 文書の整備。作る手間はあるが技術的な難所は少ない
維持の仕組み 改修のたびに状態が崩れない検証の組み込み 後から入れるのが難しい。工程の設計に関わる

画面と操作の層です。ここは、既存の実装をどれだけ触るかで工数が決まります。見出しの構造、フォームのラベル、画像の代替テキスト、キーボードでの移動順。アクセシビリティ対応の開発で扱うような作業がそのまま当てはまります。

機器の画面では、Webとは違う難しさがあります。画面の大きさが固定されている、音声を出せる環境かどうかが場所によって違う、外部機器を接続できない。制約のなかで代替の手段を用意する設計が求められます。

情報の提供の層です。製品やサービスがどのようにアクセシブルなのかを説明する情報を用意することが求められます。ここで注意したいのは、その説明そのものも読める形でなければ意味がないという点です。画像化したPDFだけを置いても、目的を果たしません。

維持の仕組みの層です。実務でいちばん軽視されがちで、しかもいちばん効いてくるのがここです。一度直しても、次の機能追加で崩れます。検証を工程に組み込み、結果を記録として残す仕組みが要ります。

自動で検出できる項目は、機械的な検査に載せられます。静的解析による品質の検査で扱うような仕組みに、アクセシビリティの検査を組み込む形です。ただし機械では判定できない項目も残るため、人による確認の手順も併せて決めておきます。

電子商取引で具体的に問われる箇所

電子商取引が対象に含まれているため、EU向けにECを運営している企業には具体的な論点が生じます。既存サイトで詰まりやすい箇所を挙げます。

商品の一覧と絞り込みです。絞り込みの操作が、マウスでの操作を前提に作られていることがあります。選択のたびに一覧が動的に入れ替わる作りでは、読み上げの利用者に変化が伝わりません。変化を伝える実装が必要になります。

入力フォームです。購入手続の入力欄にラベルが結び付いていない、エラーの表示が色だけで示されている、入力の制限が説明されていない。ここは既存サイトで最も多く見つかる箇所です。

決済への遷移です。外部の決済サービスへ遷移する場合、その画面のアクセシビリティは自社の制御外になります。どこまでを自社の責任として扱うのか、決済サービス側の対応状況を確かめる必要があります。

画像とバナーです。販促のバナーに文字を焼き込んでいると、その情報は読み上げでは伝わりません。代替のテキストを用意する運用が要ります。日々の更新が多いサイトでは、これを運用の手順に入れるかが分かれ目になります。

会員登録と認証です。画像による認証を使っている場合、代替の手段が必要になります。ECサイトの運用と保守で扱うような日々の運用のなかに、こうした確認を織り込んでおくと崩れにくくなります。

既存サイトの改修規模を見積もるには、まず現状を測るのが早道です。アクセシビリティの是正にかかる費用で扱うような考え方で、対象画面の数と検出される問題の分布を押さえてから範囲を決めます。

国内の枠組みとの関係

日本にも、アクセシビリティに関する枠組みがあります。障害者差別解消法による合理的配慮の考え方、そして日本産業規格として整備された指針です。欧州の要求とどう関係するのかを整理します。

技術の中身は重なります。読み上げでの利用、キーボードでの操作、色の差の確保。技術的な項目は、国内で参照される指針と欧州の要求で共通する部分が多くなります。片方に向けて作った実装は、他方にも効きます。

位置づけは違います。市場に製品やサービスを出す条件として扱われるのか、事業者の努力として扱われるのか。この違いが、社内での優先度の付け方に影響します。

説明の要求が違います。どのようにアクセシブルかを説明する情報を用意するという要求は、実務としては新しい作業になります。国内向けの対応では、ここまで求められていない場合があります。

両方に向き合う企業では、実装の基準を一本にして、説明の文書だけ地域ごとに用意する形が現実的でしょう。基準を二つ持つと、どちらにも足りない状態になりがちです。

アプリを提供している場合も同じ考え方です。アプリの読み上げ対応で扱うような実装を、地域を問わず同じ基準で作っておく。そのうえで、必要な説明を地域ごとに用意します。

受託・委託で進めるときの要点

この種の改修を外部と進める場合の要点を挙げます。

第一に、現状の測定を独立した工程にすることです。対象となる画面や機能の数、検出される問題の種類と分布。これを押さえないまま見積もると、大きく外します。調査と改修を分けて発注する形が合理的です。

第二に、判定の基準を先に決めることです。どの水準を満たすとするのか。どの項目を対象にするのか。基準が曖昧なままだと、完了の判断ができません。参照する指針を明示して合意しておきます。

第三に、検証の方法を成果物に含めることです。改修そのものより、崩れない仕組みが価値を持ちます。機械的な検査の組み込み、人による確認の手順、記録の残し方。これらを含めるかどうかを契約の段階で決めます。

第四に、範囲の優先順位を付けることです。全画面を一度に直すのは現実的ではありません。利用者が多い画面、手続の完了に関わる画面から順に進めます。購入や申込のような、途中で止まると困る流れを先に扱います。

第五に、運用側の手順を作ることです。日々更新されるバナーや商品情報について、代替テキストを誰が用意するのか。ここが決まっていないと、改修の直後から崩れ始めます。

体制としては、実装と検証の両方を扱える要員が入れるかが分かれ目になります。指針の項目を読み合わせるだけの体制では実装が伴わず、実装だけの体制では判定の根拠が残りません。両方を同じ場で進められるかを、委託先を選ぶ観点に入れておくとよいでしょう。

まとめ:欧州アクセシビリティ法への対応で押さえる3つの視点

製品とサービスのアクセシビリティ要件に関する指令(Directive 2019/882)は、加盟国が2022年6月までに国内法へ取り込むこととされた枠組みで、コンピュータとOS、ATM・券売機・チェックイン機、スマートフォン、テレビ関連機器、電話サービス、視聴覚メディア、旅客輸送、銀行サービス、電子書籍、電子商取引という10分野を挙げています。押さえたい視点は三つです。第一に、対象がWebサイトに限られず機器やその中で動くソフトウェアにも及ぶため、自社の何が該当するのかを分野の一覧に照らして確かめる必要があること。第二に、開発では画面と操作の層、どのようにアクセシブルかを説明する情報の層、そして改修のたびに崩れない検証の層——三つに分けて考えると範囲が見えやすく、とくに三つめは後から入れるのが難しいこと。第三に、国内の枠組みと技術の中身は重なるため実装の基準は一本にまとめ、説明の文書だけ地域ごとに用意するのが現実的であることです。まずは対象画面の現状を測り、判定の基準を合意するところから着手するのが堅実でしょう。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、Webサービス・業務システム・機器上のソフトウェアの開発と改修を受託しています。現状測定と改修範囲の切り分け、判定基準の合意、機械的な検査の組み込みと人による確認の手順づくり、運用側の手順整備まで、崩れない形をご提案できるのが強みです。

よくある質問

Webサイトだけ直せば足りますか。

足りない場合があります。指令が挙げる分野には、コンピュータとOS、ATM・券売機・チェックイン機、スマートフォン、テレビ関連機器といった機器も含まれます。機器の中で動くソフトウェアを受託で作っている企業も、取引先からの要求として関わることになります。まず自社の何が該当するのかを分野の一覧に照らして確かめてください。

既存のECサイトでいちばん問題が多いのはどこですか。

入力フォームです。ラベルが入力欄に結び付いていない、エラーの表示が色だけで示されている、入力の制限が説明されていない——この三つは既存サイトで頻出します。次に多いのが、絞り込みの操作がマウス前提で作られていて、一覧の変化が読み上げの利用者に伝わらない箇所です。

国内向けの対応があれば足りますか。

技術的な項目は重なる部分が多く、片方に向けて作った実装は他方にも効きます。ただし位置づけと、どのようにアクセシブルかを説明する情報を用意するという要求が異なります。実装の基準は一本にまとめ、説明の文書だけ地域ごとに用意する形が現実的です。

いちばん優先すべき作業は何ですか。

現状の測定です。対象となる画面や機能の数、検出される問題の種類と分布を押さえないと、改修の範囲も費用も見立てられません。そのうえで、利用者が多い画面と、購入や申込のように途中で止まると困る流れから順に進めます。

改修しても時間が経つと崩れませんか。

崩れます。だからこそ検証を工程に組み込むことが要点になります。機械的に検出できる項目は自動の検査に載せ、判定できない項目は人による確認の手順を決めておきます。あわせて、日々更新されるバナーや商品情報の代替テキストを誰が用意するのかを運用の手順に入れておきます。

アクセシビリティ対応の設計・改修はLASSICへ

元請(プライムベンダー)として、現状測定から判定基準の合意、実装の改修、検査の組み込み、運用手順の整備までご提案します。まずはお気軽にご相談ください。

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出典

  1. *1 参考:European Commission「European accessibility act」(https://commission.europa.eu/strategy-and-policy/policies/justice-and-fundamental-rights/disability/union-equality-strategy-rights-persons-disabilities-2021-2030/european-accessibility-act_en)。指令の番号と正式名称、加盟国の国内法化の期限、対象となる製品・サービスの分野の一次情報として(2026年8月確認)




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