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業務委託エンジニアの離任で引き継ぎが漏れる理由と防ぎ方
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 経済産業省のシステム管理基準は、業務委託先も要員に含め、計画的な交替と不測の交替の両方に備えるよう求めています。
- 引き継ぎが漏れやすいのは、1人にしか担当させていない作業と、本人の手元にしかない知識です。
- 担当作業の書き出しと、本人がいるうちに後任が実際に作業する期間を、離任が決まる前から用意しておきます。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
来月で契約が終わる業務委託エンジニアから、残りの作業をどう渡せばよいかと聞かれた。あるいは、担当者が急に来られなくなり、障害の直し方を知っている人が社内にいなかった——。外部のエンジニアに開発や保守を任せている現場では、こうした事態が起こりがちです。業務委託エンジニアの離任とは、契約にもとづいて作業に加わっていたエンジニアが、契約の終了や本人・委託先の事情でその作業から外れることを指します。
離任の日が早く分かっていれば、引き継ぎは後任が決まってから始めても間に合うことがあります。ただし、このやり方は万能ではなく、急な離任では準備の時間そのものがありません。本記事では、開発の現場を預かるマネージャーに向けて、引き継ぎが漏れる理由、交替に備えて決めておくこと、渡すもの、進め方、そして外部に委託するときに確認したい点を整理します。
目次
業務委託エンジニアの離任とは
業務委託エンジニアの離任には、大きく2つの形があります。1つは、契約期間が満了して更新しない、別の案件に移るといった、前もって日付が分かる離任です。もう1つは、本人の体調や家庭の事情、委託先の都合などで、急に作業に加われなくなる離任です。2つの違いは、引き継ぎの準備に使える時間があるかどうかにあります。
この2つを分けて考える手がかりになるのが、経済産業省の「システム管理基準」です。2023年4月26日に改訂された文書で、情報システムの企画から開発、運用、保守、廃棄までを管理するときに目指す状態(達成目標)と、そのために行う作業の例(管理活動の例)を示しています。情報システムの監査でチェックの基準として使われるだけでなく、経営者が情報システムを管理するときにも使えるようにまとめられています。*1
この基準の用語集は、「要員」を「管理者、担当者及び業務委託先等の人的資源全般を指す」と定めています。*1 社員だけでなく、業務委託先から加わっているエンジニアも要員に含まれるということです。基準のなかで要員について書かれている交替への備えや作業の割り振りは、業務委託エンジニアが担当している作業にもそのまま当てはまります。
なぜ引き継ぎが漏れるのか
業務委託エンジニアは、特定の改修や保守の作業のために加わることが多く、その作業の進め方や過去の経緯は本人しか知らないままになりやすくなります。設計書に書かれていない判断の理由、障害が起きたときに最初に見るログの場所、連携先のシステムの担当者への連絡の取り方などがその例です。
システム管理基準は、個人の知識や技能を組織の資産として管理する知識資産管理の項目で、「個別に得た知識、技能を基に、組織体として知識資産を蓄積し有効利用する」ために、知識資産を再利用可能な状態で管理するよう求めています。*1 個人が仕事のなかで得た知識を、組織が使える形で残しておくという考え方です。離任が決まってから初めて書き出そうとすると、何を本人しか知らないのかを、周りの誰も把握していないことに気づきます。
もう1つの理由は、作業の割り振り方にあります。基準は、作業分担と作業量を「要員の知識、能力等から割り振る」としています。*1 得意な人に作業を集めるのは自然な判断ですが、その結果、ある作業を1人しか担当していない状態が生まれます。1人に集まっている作業ほど、その人の離任で止まりやすくなります。
交替に備えて決めておくこと
システム管理基準の業務遂行の管理の項目には、「要員の計画的及び不測の交替に備え、交替要員の育成が図られている」という達成目標があります。*1 前もって日付が分かる離任と、急な離任の両方を想定し、代わりに担当できる人を育てておくということです。要員には業務委託先も含まれるので、業務委託エンジニアが担当している作業についても、代わりに担当できる人をあらかじめ決めておくことになります。
代わりの人を決める手がかりとして、基準は教育・訓練の管理の項目で、要員のスキルや資格の一覧表を作るよう挙げています。*1 この一覧表に業務委託エンジニアも載せ、それぞれが担当している作業を並べておくと、誰の離任でどの作業が止まるのかが見えます。担当者が1人しかいない作業から順に、2人目を決めていくと進めやすくなります。
責任と権限も見直しの対象です。基準は、業務の特性に応じて要員の責任及び権限を定めて周知し、業務環境の変化に対応して見直すよう求めています。*1 業務委託エンジニアにリリースの判断や作業の承認を任せていたなら、離任のあとに誰がその判断をするのかを決めておきます。離任のあとのアカウントの扱いや情報の持ち出しを防ぐ対策は、「業務委託エンジニアの離任時に情報漏えいを防ぐ3つの対策」で扱っています。
引き継ぎで渡すもの
保守の作業を引き継ぐときに何を渡すかは、システム管理基準の保守体制の整備の項目が参考になります。基準は、「保守対象のハードウェアやソフトウェアの構成管理情報、システム構成図、プログラム一覧等」を含む保守で必要な情報を、開発や運用の工程から保守の工程へ引き渡すよう挙げています。*1 これは工程から工程への受け渡しの項目ですが、担当者が替わるときにも同じものが要ります。構成管理情報とは、システムを組み立てている機器やソフトウェアとその版、設定の記録のことです。
| 渡すもの | 中身の例 | 対応する項目 |
|---|---|---|
| 構成管理情報 | 使っているサーバーやソフトウェアとその版、設定値 | 構成管理・変更管理、保守体制の整備 |
| システム構成図とプログラム一覧 | 担当していたプログラムの名前と役割、連携するシステム | 保守体制の整備 |
| 管理対象のドキュメント | 設計書や手順書と、それぞれが最新の版かどうか | ドキュメント管理 |
| 作業中の案件 | 途中の改修、原因が分かっていない障害、約束している期日 | 保守計画 |
| 責任と権限 | 承認やリリースの判断をしていた作業、使っていたアカウント | 責任と権限の管理 |
ドキュメントについて、基準は、管理する文書の形式と、文書の状態を見分ける方法を明確にしておくことを達成目標に挙げています。*1 たとえば、その文書が最新の版なのか、改訂で使われなくなった版なのかを見分けられるようにしておくことです。あわせて、改訂によって無効になった文書や、内容が正しいか確認できない文書は廃棄・消去するよう求めています。 引き継ぎの資料に古い版の手順書が混ざっていると、後任はどれに従えばよいか迷います。どの文書が最新かは、離任する本人がいるうちに確かめておきます。
作業中の案件は、書き出さないと最も漏れやすいものです。途中まで進んだ改修の状態、原因を調べている障害、利用部門と約束している期日などは、設計書にも手順書にも載っていません。案件ごとに、どこまで終わっていて、次に何をするのかを1行ずつ書いてもらうだけでも、後任が最初の1週間に迷う時間は減らせます。
どう進めるのか
最初に、離任するエンジニアが担当している作業を、作業名と期間で書き出します。「月次の請求データの取り込みと確認を毎月第2営業日に」「決済画面の改修を11月末まで」——このくらいまで書けていれば、次に誰が何を引き継ぐかを決められます。担当作業の一覧表をふだんから作っていれば、それを見直すだけで済みます。
次に、受け手を決めます。社員が引き継ぐのか、後任の業務委託エンジニアが引き継ぐのかで、準備の中身が変わります。どの作業を社員に残し、どの作業を後任に任せるかを分けておくと、渡す資料も決めやすくなります。
そのうえで、前の節の表にあるものをそろえ、本人がいるうちに後任が実際に作業します。資料を読むだけでは、書いた本人が当たり前だと思って省いた手順が見えないためです。月に1回の作業なら、少なくとも1回は前任と一緒に行い、後任が手を動かすのを本人が横で確かめる形にすると、抜けていた手順がその場で分かります。
引き継ぎの資料を契約上の成果物に含めているなら、受け取る側の確認も要ります。システム管理基準は外部委託管理の項目で、契約にもとづいて検収(納品物を確かめて受け取ること)を行い、成果物を受け入れることを管理活動の例に挙げています。*1 受け取った資料で後任が作業できるかどうかを見てから受け入れると、あとで足りない資料に気づく事態を避けやすくなります。
つまずきやすい点
一つ目は、離任が決まってから準備を始めることです。前もって日付が分かる離任なら間に合うこともありますが、急な離任には間に合いません。担当作業の一覧表と、管理対象の文書の版をふだんから最新にしておくことが、急な離任への備えになります。
二つ目は、資料を渡したところで引き継ぎを終えることです。後任が実際に作業してみる時間がないまま本人の契約が終わると、資料にない手順を聞く相手がいなくなります。契約の終了日から逆算して、後任が作業する期間を先に確保しておきます。
三つ目は、システム管理基準の項目をすべて当てはめようとすることです。基準自身が前文で、項目を網羅的に適用するような利用法は有効ではないとし、事業目的や組織の特性を踏まえて項目を取捨選択・修正して適用することが望ましいとしています。*1 小さなチームなら、担当者が1人しかいない作業の書き出しから始めれば十分です。
外部に委託するときに確認しておきたい点
引き継ぎの準備は、業務委託エンジニアが加わる前、契約を結ぶ段階から始められます。システム管理基準は、保守業務を外部委託する場合には外部委託先との間で契約を締結し、保守体制を外部委託先も含めて整備するよう挙げています。*1 保守計画に盛り込む事項の一つとしても、「保守作業実施体制(外部委託先との連携を含む)」を挙げています。*1
委託先と話しておきたいのは、交替のときの進め方です。引き継ぎの資料を成果物に含めるのか、前任と後任が一緒に作業する期間を設けるのか、後任をどう探すのか。この3つを契約の前に決めておくと、離任の連絡を受けてから慌てずに済みます。契約の条項に何を書くかは「外部人材活用のトラブル、早期離任に備えて契約で決めておくこと」で整理しています。
同じ会社から後任が来る場合と、委託先そのものが替わる場合では、引き継ぎの進め方が違います。その違いは「SES契約終了の後任への引き継ぎ、要員交代と会社交代の違い」にまとめました。社内で技術情報が特定の担当者にしか分からない状態になっていないかを洗い出す手順は「担当者の離脱に備えて技術情報の個人依存を洗い出す」で扱っています。
まとめ:離任の引き継ぎで確かめておきたい3つの点
業務委託エンジニアの離任で引き継ぎを漏らさないために、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、業務委託エンジニアも要員に含め、担当している作業を作業名と期間で一覧にしておくこと。第二に、担当者が1人しかいない作業から順に、代わりに担当できる人を決めておくこと。第三に、構成管理情報や最新の手順書をそろえたうえで、本人がいるうちに後任が実際に作業する期間を取ることです。この3点を踏まえておけば、「担当者が急に来られなくなり、障害の直し方を誰も知らなかった」という事態を避けやすくなります。後任の探し方や引き継ぎの進め方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
引き継ぎにはどれくらいの期間を見ておけばよいですか
システム管理基準に期間の目安は示されていません。担当している作業のうち、周期が最も長いものを後任が1回は実際に経験できる期間を目安にすると決めやすくなります。月に1回の作業なら、少なくとも1回は前任と一緒に行えるように日程を組みます。
引き継ぎの資料はだれが作るのですか
中身を書くのは離任する本人ですが、資料を管理するのは発注する側です。後任や社員が読んで分からない点を本人に尋ね、その場で直してもらいます。資料の保管場所と最新版の見分け方は、社内のドキュメント管理のルールに合わせておきます。
システム管理基準には従う義務がありますか
法令ではなく、情報システムの監査のときのチェックの基準や、経営者が情報システムを管理するときの参考として使う文書です。前文でも、組織の特性を踏まえて項目を取捨選択・修正し、組織に合った形で適用することが望ましいとしています。*1
後任が社員の場合と業務委託エンジニアの場合で、準備は変わりますか
変わります。社員が引き継ぐなら、教育・訓練の計画に組み込み、ほかの仕事との兼ね合いを調整します。後任が業務委託エンジニアなら、後任の契約開始日を前任の契約終了日より前に置き、一緒に作業できる期間を確保します。
引き継ぐ作業が決まったら相談
引き継ぐ作業と、前任の契約が終わる日が分かっていれば、そのままご相談いただけます。後任を社員にするか業務委託にするか決めきれていない段階でも構いません。
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出典
- *1 参考:経済産業省「システム管理基準」(令和5年4月26日)(PDF)(https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/sys-kansa/sys-kanri-2023.pdf)。出典:経済産業省「システム管理基準」(令和5年4月26日)。前文(「基準」の適用方法)、Ⅱ.1.6 知識資産管理、Ⅱ.2.6 外部委託管理、Ⅱ.2.9 ドキュメント管理、Ⅱ.6.1 保守体制の整備、Ⅱ.6.2 保守計画、Ⅱ.10.2 責任と権限の管理、Ⅱ.10.3 業務遂行の管理、Ⅱ.10.4 教育・訓練の管理、用語集(要員)を参照(2026年9月確認)