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評価制度が壁になるリモート採用、社内合意をとる4つの決めごと
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- リモート採用の評価制度は作り直さず、今の制度のまま運用の決め事をそろえて社内合意を取ります。
- 在宅勤務を実施する企業の77.0%は、人事評価で成果を重視する程度にオフィス勤務との違いを設けていません。
- 求める水準、確かめる場、行動評価の中身、評価に入れない事柄の4つを採用前に決め、候補者にも伝えます。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
リモートで働くエンジニアを採ること自体には賛成が集まったのに、人事からは「顔の見えない社員をどう評価するのか」と聞かれ、出社している社員からは「同じ物差しで比べてもらえるのか」という声が出る——。リモート採用を社内で進めると、評価の話で足が止まることがあります。リモート採用の社内合意のうち評価制度についての合意とは、リモートで働く人をどの基準で、どんな材料をもとに評価するかを、人事・配属先の上司・経営層と採用の前にそろえておくことです。
評価の話になると、制度を一から作り直す大仕事に見えがちです。ただ、厚生労働省の委託調査では、在宅勤務を実施している企業の77.0%が、人事評価で成果を重視する程度にオフィス勤務との違いを設けていません。*1 本記事では、評価が社内合意の論点になる理由、制度を分けるかどうかの判断、採用の前に決めておく4つのこと、候補者への伝え方を整理します。
目次
評価制度の社内合意とは
リモート採用で評価制度について合意しておく相手は、主に3者です。人事には、評価の基準と手続きをリモートで働く人にもそのまま使えるかを確かめてもらいます。配属先の上司には、日々の仕事のどこを評価の材料にするかを決めてもらいます。経営層には、処遇への反映の仕方が出社している社員と比べて公平だと認めてもらいます。
採用の前に決めておきたいのは、入社後に決めようとすると最初の評価期間に間に合わないからです。本人は何を見られているのか分からないまま働き、上司は期末に材料の不足に気づきます。面接で候補者から「リモートでも評価のされ方は同じですか」と聞かれたときに、その場で答えられないことも起こります。
本記事で扱うのは、会社が雇用する社員の評価です。業務委託で開発に加わってもらう人は人事評価の対象ではなく、契約で決めた作業の結果を確かめる形になるので、最後の節で触れます。賃金の決め方を変える、就業規則を改めるといった制度の改定そのものは、人事と専門家が進める話として扱いません。
評価が論点になる理由
厚生労働省の委託で三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った「テレワークの労務管理等に関する実態調査」は、2020年8月から10月にかけて、従業員10人以上の企業に郵送で回答を求めたものです(有効回答3,788件)。在宅勤務を実施している1,256社に、在宅勤務で感じた課題を尋ねたところ、「評価が難しい」は28.5%でした。「テレワークできない従業員との間で不公平感がある」は38.1%です。*1
人事や経営層が評価を気にするのは、この2つが重なるからです。リモートで働く人の働きぶりが見えにくいという心配と、出社している社員から見て公平かという心配です。テレワークガイドラインも、テレワークは非対面の働き方なので、業務の進み具合や成果を生み出す過程で発揮される能力を把握しづらい面があるという指摘があると書いています。*2
一方で、働く側の受け止めは少し違います。同じ調査の従業員調査で、在宅勤務のデメリットとして「仕事が適正に評価されない」を選んだ人は8.3%でした(回答1,343人、複数回答)。*1 最も多かったのは同僚や部下とのコミュニケーションの取りにくさです。ただし回答者は企業が選んだ従業員なので、この差は参考として見ておく程度にとどめます。
また、在宅勤務をしていない人も含めた従業員4,184人に、テレワークを活用するために必要なことを尋ねた設問では、「適正な人事評価の実施」が26.9%でした。*1 評価は、会社が心配するほど働く側の不満の中心ではないものの、決め事がないまま放っておいてよい話でもない、というのが調査から読み取れる位置づけです。
評価制度を分けるかどうか
社内合意の場で最初に出やすいのが、リモートで働く人だけ別の評価制度にするべきかという問いです。先の調査は、在宅勤務を実施している企業に、オフィス勤務のときと比べて人事評価で成果を重視する程度に違いがあるかを尋ねています。結果は次のとおりです。
全体の77.0%が「違いは設けていない」と答えました。「テレワークの方が、より成果を重視する仕組みになっている」は0.6%、「オフィス勤務の方が、より成果を重視する仕組みになっている」は0.2%にとどまります。「成果を重視する仕組みはない」は9.8%でした。*1 従業員規模別に見ると、99人以下では65.9%、100〜299人では74.0%で、300〜999人は83.5%、1,000人以上は83.1%と、300人以上ではどちらも8割を超えます。
評価の仕組みを分ける企業はまれで、多くは同じ制度のままリモートで働く人も評価しているということです。リモート採用の1人目、2人目の段階なら、制度は今のものを使い、運用の決め事をそろえる進め方のほうが社内合意を取りやすいと考えられます。
分ける場合の注意点もガイドラインにあります。テレワークを行う場合の評価方法をオフィス勤務と区別するときは、誰もがテレワークを行えるようにすることを妨げないよう工夫し、テレワークを選ぼうとする人にその扱いを前もって説明することが望ましいとしています。*2 採用の場面に置き換えると、リモートで働く前提の候補者には、選考の段階で評価の扱いを伝えておくということです。
求める水準と確かめる場
制度を変えない代わりに、採用の前に決めておきたいことは4つあります。求める内容と水準、達成状況を確かめる場、行動を評価するときの中身、評価に入れない事柄です。どれもテレワークガイドラインの人事評価の節に書かれている考え方をもとにしています。
1つ目は、求める内容と水準です。ガイドラインは、上司は部下に求める内容や水準などをあらかじめ具体的に示しておくのがよいとしています。*2 エンジニアなら、担当する機能、期日、品質の目安を書き出しておく形になります。
| 評価で見る項目 | あらかじめ示す内容の例 | リモートで確かめる材料の例 |
|---|---|---|
| 担当した仕事の成果 | 担当する機能と期日、テストが通りレビューの指摘が残っていない状態で完了とすること | 課題管理ツールのチケットの記録、リリースの記録 |
| 仕事の進め方 | 設計の段階で方針を共有すること、詰まったときに相談する目安 | 設計書の更新履歴、相談した記録 |
| チームへの貢献 | コードレビューを担うこと、手順書を残すこと | レビューのコメント、手順書の更新履歴 |
2つ目は、達成状況を確かめる場です。ガイドラインは、評価対象の期間中にも必要に応じて達成状況について上司と本人が共通の認識を持つための機会を柔軟に設けるのがよいとしています。*2 月に1度など、オンラインで達成状況を話す日を決め、話した内容を短く記録に残す形が考えられます。記録の様式は人事が用意すると、部署ごとのばらつきを抑えられます。
行動評価の中身を見える形に
3つ目は、行動を評価するときの中身です。多くの評価制度には、成果とは別に、積極性や協調性といった行動や態度を見る項目があります。オフィスでは、こうした項目を日々の様子から判断していることが少なくありません。声をかけてくれる、遅くまで残って手伝っている、といった見え方です。
リモートで働く人にはこの見え方がありません。ガイドラインは、行動面や勤務意欲、態度などの情意面を評価する企業は、評価の対象になる具体的な行動などの内容や評価の方法をあらかじめ見える化して示すのがよいとしています。*2 項目の名前は変えずに、その項目で何を見るかを書き足すということです。
たとえば協調性なら、「ほかの人のプルリクエストに期日までにレビューを返している」「チャットの質問に答えている」のように、リモートでも記録に残る行動に言い換えます。積極性なら、「改善の提案を課題管理ツールに起票している」などです。言い換えた中身は出社している社員にも当てはまるので、同じ基準で比べられるようになり、不公平感の心配への答えにもなります。
評価者と評価に入れないこと
4つ目は、評価に入れない事柄です。ガイドラインは、時間外や休日、深夜のメールなどに対応しなかったことを理由に不利益な評価をすることや、テレワークをせずに出社していることを理由に出社している人を高く評価することを、適切な人事評価とはいえないとしています。*2 社内合意では、この2つを評価に入れないことを先に確かめておきます。
このほか、チャットツールの在席表示の時間や、オンライン会議で顔を映していた時間も、評価の材料にしないと決めておくとよいでしょう。働いた時間の把握は勤怠管理で行うもので、評価で見るのは先に示した内容と水準に対する結果と行動です。
評価する側の準備も要ります。ガイドラインは、評価者に対しても、非対面の働き方で適正な評価ができるよう訓練などの機会を設けるといった工夫を挙げています。*2 リモートで働く部下を初めて持つ上司には、評価の前に、記録をもとに評価を付ける練習をしてもらう、ほかの上司と評価の付け方を見比べる場を設けるといった方法が考えられます。
候補者への伝え方
決めた内容は、採用の段階で候補者に伝えます。リモートで働く前提で応募してくる人ほど、評価のされ方を気にしています。面接では、評価制度は出社している社員と同じであること、求める内容と水準をどう示すか、達成状況をどの頻度で話すかを説明できるようにしておきます。
伝え方で気をつけたいのは、約束できないことを言わないことです。「成果さえ出せば評価される」と一言で済ませると、行動の項目も見ている制度との食い違いが入社後に表に出ます。評価の項目と、それぞれをリモートでどう確かめるかを具体的に話すほうが、入社後の行き違いを減らせます。
内定時に渡す書面に、評価期間や面談の頻度を添えておくのも一つの方法です。賃金や昇給の決め方そのものに関わる記載は、人事と相談し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家に確かめてください。
外部に委託するときに確認しておきたい点
社員の採用が決まるまでの開発を、業務委託の専門人材に任せる場合もあります。業務委託の人は人事評価の対象ではないので、評価制度の社内合意とは切り分けて考えます。確かめるのは、契約で決めた作業が期日までに終わったか、決めた品質の目安を満たしているかです。社員向けに書き出した「求める内容と水準」は、任せる作業と完了の条件として、そのまま発注の前の整理に使えます。
リモート採用の反対の理由と答え方はリモート採用の社内合意が進まない理由と、反対への答え方で扱っています。
配属先の上司と日々の指示やレビューのやり方を決める段取りはリモート採用の社内合意|現場責任者と合わせる指示と評価の材料にまとめました。
時間外の連絡の扱いと対応時間の決め方はリモート採用の勤務条件、対応時間の枠と求人票への書き方で整理しています。
まとめ:評価制度で確かめておきたい3つの点
リモート採用の社内合意で評価制度を扱ううえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、在宅勤務を実施する企業の多くは評価の仕組みを分けていないことを踏まえ、制度は今のものを使い、運用の決め事をそろえる進め方を選ぶこと。第二に、求める内容と水準、達成状況を確かめる場、行動評価の中身、評価に入れない事柄の4つを、人事・配属先の上司・経営層と採用の前に決めること。第三に、決めた内容を面接と内定の段階で候補者に具体的に伝えることです。この3点を踏まえておけば、「入社してから評価の基準が決まっておらず、最初の期末に本人と上司の認識が食い違った」という事態を避けやすくなります。評価の決め事がそろっても候補者の探し方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
リモートで働く社員だけ成果を重視する評価にしてもよいですか
分けること自体は企業の判断ですが、テレワークガイドラインは、評価方法をオフィス勤務と区別するときは、誰もがテレワークを行えるようにすることを妨げないよう工夫し、テレワークを選ぼうとする人に前もって説明するのが望ましいとしています。*2 賃金や処遇に関わる変更になる場合は、就業規則や労働契約との関係を人事と確かめ、必要に応じて専門家に相談してください。
評価者の訓練には何をすればよいですか
ガイドラインは訓練などの機会を設ける工夫を挙げるだけで、中身までは示していません。リモートで働く部下を初めて持つ上司なら、課題管理ツールやレビューの記録をもとに評価を付けてみる練習や、ほかの上司と評価の付け方を見比べる場が始めやすい方法です。
チャットの在席時間を評価の材料にしてもよいですか
ガイドラインは在席表示の扱いには触れていませんが、働いた時間の把握は勤怠管理で行うものとして、評価とは分けておくのが無難です。評価では、あらかじめ示した内容と水準に対する結果と、見える形にした行動を見ます。在席時間を評価に使うと、画面の前を離れにくくなり、仕事の中身とは関係のない差が評価に入りやすくなります。
評価の決め事がそろったら相談
リモートで働く人に任せる仕事と、求める内容と水準が決まっていれば、そのままご相談いただけます。評価の決め事を社内で調整している段階でも構いません。
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出典
- *1 参考:厚生労働省委託事業「テレワークの労務管理等に関する実態調査【概要版】」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング、PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000782363.pdf)。出典:令和2年度テレワークの労務管理に関する総合的実態調査研究事業「テレワークの労務管理等に関する実態調査【概要版】」(令和3年3月)。企業調査(郵送、令和2年8月20日〜10月8日、有効回答3,788件)のQ21 オフィス勤務時と比較して、人事評価で成果を重視する程度の違い(在宅勤務実施企業 全体n=1,256、従業員規模別)、Q26(4)① テレワーク(在宅勤務)で感じた課題(全体n=1,256)、従業員調査(WEB、令和2年8月20日〜9月25日、有効回答4,184件)のQ47 テレワーク(在宅勤務)のデメリットとして感じること(全体n=1,343)、Q58 テレワークを活用するために必要なこと(全体n=4,184)を参照(確認日2026年10月8日)(2026年10月確認)
- *2 参考:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(PDF)(https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf)。出典:4 労務管理上の留意点 (1) テレワークにおける人事評価制度を参照(確認日2026年10月8日)(2026年10月確認)