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2026.10.09 採用支援コラム

新規事業の技術責任者が見つからない|エンジニア採用で見る経験

監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

黒い天板の机で、ノートパソコンのキーボードを打ちながらマウスを操作する手元。画面には開発用のツールと小さな文字のコードが映り、手前にスマートフォンと本が置かれている。顔は写っていない

この記事の結論

  • 新規事業の技術責任者は、既存事業で成果を上げた人を選ぶのではなく、新規事業に要る経験と熱意を確かめて選びます。
  • 段階によって仕事の比重が変わるので、試作から運用までのどこを任せるかを書き出し、選考で同じ場面の経験を尋ねます。
  • 決裁できる金額の範囲と評価の物差しは入社前に決めておき、既存事業と同じ基準で成果を問わないようにします。

※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。

新規事業を始めることになり、技術の判断を任せる責任者をエンジニア採用で迎えたい。けれども、どんな経歴の人を選べばよいのか、入社してから何をどこまで任せればよいのかが決まらない——。新規事業の技術責任者とは、事業の構想から試作、開発、提供後の改善までを通して、技術にかかわる判断を社内の立場で引き受ける人を指します。

既存事業の開発部門で実績のある人を選べば間違いない、と考えがちですが、新規事業では求められる力が違います。本記事では、経済産業省の行動指針とIPA(情報処理推進機構)のデジタルスキル標準を手がかりに、選ぶときの考え方と選考で確かめる経験、そして入社前に決めておく3つのこと(任せる段階、決裁の権限、評価の物差し)を整理します。

新規事業の技術責任者とは

技術責任者という呼び名に決まった定義はなく、CTO、開発責任者、テックリードなどとも呼ばれます。何を作るか、どの技術で作るか、いつまでに何を作れるかを決め、その判断について社内に説明する立場です。

近い役割に、事業全体を推し進める人がいます。IPAのデジタルスキル標準は、プロダクトマネージャーの役割を「構想策定からリリース、その後の改善までのプロセスを関係者をリードしながら一気通貫して推進すること」と説明しています。*2 こちらは事業の側から全体を率いる役割です。技術責任者は、その人と並んで、作る側の判断を受け持ちます。小さく始める新規事業では、1人が両方を兼ねることもあります。

本記事で扱うのは、社員として技術責任者を迎える場合です。新規事業でエンジニアが足りなくなる理由と役割の分け方は、エンジニア採用が新規事業で課題になる理由と、役割の分け方で整理しています。

既存事業の物差しで選ばない

技術責任者を選ぶときにまず気をつけたいのは、既存事業での評価をそのまま当てはめないことです。経済産業省とイノベーション100委員会が2019年10月4日にまとめた「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針」は、新規事業の担い手を選ぶ場面で企業が陥りやすい課題として、「新規事業に関するコンピテンシーを確認せず、既存事業のエース級人材を選んでいる」ことを挙げています。*1

同じ指針は、新しい価値を生み出す活動には短期的な事業上の成果を期待できないとしたうえで、既存事業の基準で評価される人材が適任とは限らず、「推進主体の価値創造に対する情熱と経験値が重要な要素となる」と述べています。*1 指針の主な対象は大企業ですが、外から技術責任者を採用する場合にも同じことが言えます。

たとえば、大規模なシステムを止めずに運用してきた経験は、既存事業では大きな強みです。一方、新規事業の初めの段階では、要件が固まらないまま作り始め、利用者の反応を見て作り直すことが続きます。安定して動かす力と、決まっていないことを決めながら進める力は、同じ人に備わっているとは限りません。経歴の華やかさではなく、新規事業で求められる場面を経験しているかで見るようにします。

段階ごとに変わる仕事

技術責任者に求める経験を決めるには、新規事業がどんな段階を通るかを先に押さえておくと整理しやすくなります。行動指針は、イノベーション・マネジメントシステムの国際規格であるISO56002が、活動を「機会の特定」「コンセプトの創造」「コンセプトの検証」「ソリューションの開発」「ソリューションの導入」の5段階の非線形の活動と定義していることを紹介しています。*1 非線形とは、順番どおりに一度だけ進むのではなく、前の段階に戻りながら進むという意味です。

新規事業の5つの活動と、各段階で技術責任者が担う主な仕事を、左から右へ5つの箱で示した図。1つ目は機会の特定で、技術の動向から事業の種を出す。2つ目はコンセプトの創造で、作れるかどうかと手間を見立てる。3つ目はコンセプトの検証で、試作を小さく作って確かめる。4つ目はソリューションの開発で、設計を決めて開発チームを率いる。5つ目はソリューションの導入で、運用の体制を整えて改善を回す。下の帯には、段階によって仕事の比重が変わり、初めは見立てと試作、後半は設計・チームづくり・運用が中心になることが書かれている。経済産業省の行動指針が紹介するISO56002の5段階の活動をもとに作成し、技術責任者の仕事は本記事の整理。

5段階に沿って技術責任者の仕事を整理すると、図のようになります。初めの3段階では、技術の動向から事業の種を出し、作れるかどうかと手間を見立て、試作を小さく作って確かめる仕事が中心です。後の2段階では、本番で使う設計を決め、開発チームを率い、提供したあとの運用と改善を回す仕事に比重が移ります。

どの段階で入社してもらうかによって、求める経験は変わります。構想の段階から加わる人なら、試作を自分の手で作れることが欠かせません。開発の段階で加わる人なら、設計の判断とチームづくりの経験が重くなります。採用を始める前に、いまどの段階にいて、入社後の1年でどこまで進めたいのかを書き出しておくと、求める人物像がぶれにくくなります。

求める経験を書き出す

求める経験を言葉にするときの手がかりになるのが、IPAのデジタルスキル標準 ver.1.2(2024年7月)です。この標準は、ソフトウェアエンジニアを「デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材」と定義しています。*2 そのうえで、顧客やユーザーの「ニーズを自ら発掘・理解する姿勢も必要である」とし、要望が大きく変わったときにも柔軟に対応できる力を求めています。新規事業の技術責任者に求める経験と重なる部分です。

標準は、ソフトウェアエンジニアとビジネスアーキテクトが協働する業務の例として、顧客ニーズに基づく開発要件の定義やソフトウェアアーキテクチャの設計、開発の優先順位の決定を挙げています。*2 両者の関係は、どちらかが指示や依頼をする形ではなく、協働の関係として描かれています。技術責任者には、事業の側から出た要望をそのまま受けるのではなく、優先順位を一緒に決められることを求めたいところです。

もう一つ押さえておきたいのが、1人に任せる範囲の広さです。標準はソフトウェアエンジニアの得意領域を4つのロールに分けていますが、その前提は「約50名以上のソフトウェアエンジニアチームを擁する規模の企業」です。これより小規模な企業では、すべてのロールを「少数又は一人のソフトウェアエンジニアが担うこともあり」とされています。*2 立ち上げ期の新規事業はまさに少人数なので、画面の側からサーバー、クラウドの環境まで、ひととおり自分で手を動かせるかを確かめておきます。

選考で確かめること

書き出した経験は、選考で具体的な場面として尋ねます。たとえば「要件が固まっていない段階から作り始めた経験はありますか。そのとき最初に何を作り、何を後回しにしましたか」と聞けば、試作の進め方と優先順位の付け方が分かります。「作ったものを途中でやめた、または大きく作り直した経験はありますか」と尋ねるのも有効です。新規事業では、やめる判断や作り直す判断を早く下せることが、作る力と同じくらい大切になります。

事業の側の人との議論の仕方も確かめておきます。技術的にできないことを頼まれたとき、どう説明し、代わりに何を提案したかを聞くと、協働の関係を築けるかどうかが見えてきます。新規事業の責任者が面接に加わり、事業の構想に対して技術の面からどう進めるかを話してもらうと、入社後の議論に近い形で見極められます。経歴書でも、扱った技術の名前より、何人のチームで何を自分で決めたかを見ます。

入社前に決める権限

技術責任者を迎えても、技術の判断をするたびに既存事業と同じ手続きを踏むのでは、試作を早く回せません。行動指針は、既存事業とは別に新しい価値を生み出すためのリソース投入のプロセスを設けることを勧めています。*1 さらに、価値創造の活動に一定の予算枠を確保し、「一定の金額と総額の中であれば、稟議なしで投資できる権限を責任者に付与し」て、適切なタイミングで資金を投じられる体制を整えることを挙げています。*1

指針が紹介する企業の事例には、CTOが一定の金額範囲内の決裁権限を持つ仕組みを設け、成功の確率が低くてもCTOの判断で早く着手を認め、仮説の検証を早く回している例もあります。*1 技術責任者を採用するなら、試作に使うクラウドの費用や開発の道具、外部の専門人材への発注について、どこまでを本人の判断で決めてよいかを入社前に決めておきます。

権限の範囲は、募集の段階で候補者に伝えておくのが望ましいでしょう。範囲が分からないまま入社すると、本人は判断のたびに確認を取り、会社は任せたつもりで待つ、という食い違いが起こります。

評価の物差しを分ける

権限と並んで、評価の物差しも入社前に決めておきます。行動指針は、価値創造の活動の成果は「既存事業の評価基準(売上、顧客数、ROI、市場シェアなど)ではすぐに成果が見えにくい」ことを理解し、成功の予兆を見える化できる指標として、「挑戦に係る活動量、失敗からの学びと活かし方など」を設けて評価することを挙げています。*1

技術責任者に当てはめるなら、初めの1年は売上ではなく、試作を何回作って確かめたか、そこから何を学んで次の試作に生かしたか、本番で使える設計と開発の体制がどこまでできたか、といった点で見ることになります。何を評価するかが決まっていないと、新規事業がまだ売上を生まない段階で、技術責任者の働きが低く見られてしまいかねません。少なくとも評価の項目と時期は、入社前に本人と合意しておきます。

つまずきやすい点

最も多いのは、技術責任者が決まるまで何も始められなくなることです。新規事業にふさわしい人は簡単には見つからず、採用に時間がかかることも珍しくありません。行動指針も、自社のリソースだけで取り組もうとすると「人材の不足やスピード感の欠如から、軌道に載らないケースもある」として、社外のリソースと組み合わせることを勧めています。*1 採用を進める間も、試作を外部の専門人材と進めておけば、入社した技術責任者がその結果を引き継いで判断できます。

もう一つは、技術責任者に頼りきりになることです。指針は、価値創造の活動が属人的な活動にとどまる課題として、「経営者と推進責任者の交代が、活動継続の最大の懸念事項」であることを挙げています。*1 技術の判断の理由、設計の前提、残っている課題を文書に残す習慣を、入社した直後から求めておきます。

外部に委託するときの確認点

技術責任者の採用と並行して、試作や開発の一部を業務委託の専門人材に任せる場合は、任せる作業と期間、成果物、作ったものの権利の扱いを契約の前に書き出しておきます。技術の判断のうち、どの技術を使うか、何を作り何を作らないかといった事業の方向を左右するものは社内に残し、外部の人には選択肢と比較の材料を出してもらう形にすると、技術責任者が入社したあとに判断を引き継ぎやすくなります。契約の細かな取り決めは、契約の担当者や専門家に確かめてください。

まとめ:技術責任者の採用で確かめておきたい3つの点

エンジニア採用で新規事業の技術責任者を迎えるうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、既存事業での評価をそのまま当てはめず、新規事業に要る経験と熱意を確かめて選ぶこと。第二に、新規事業がいまどの段階にあり、入社後に試作から運用までのどこを任せるかを書き出し、選考で同じ場面の経験を尋ねること。第三に、決裁できる金額の範囲と評価の物差しを入社前に決め、既存事業と同じ基準で成果を問わないことです。この3点を踏まえておけば、「実績のある人を迎えたのに、判断のたびに確認待ちになり試作が進まなかった」という事態を避けやすくなります。採用を進める間の開発の進め方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。

LASSICに相談するメリット

技術責任者に任せる段階と、求める経験が書き出せたら、次はその条件に合う人を探す段階です。試作を自分の手で作れるか、どの規模のチームで何を決めてきたかがはっきりしていれば、新規事業の段階に合う候補者に絞って声をかけやすくなります。

Remoguは、株式会社LASSICが運営するフリーランス・業務委託のITプロ人材サービスです。リモート前提で全国から登録が集まっており、登録は約20,000名規模、その約8割が開発系です。人材が必要になった時点から4時間以内に候補者を提案し、最短1週間で実際の業務開始まで進みます(条件によっては実現できない場合があります)。

よくある質問

技術責任者は事業の責任者と兼ねてもよいですか

立ち上げの初めで人数が少ないうちは、兼ねることもあります。デジタルスキル標準も、小規模な企業では複数のロールを少数又は一人が担うことがあるとしています。ただ、作る側の判断と事業の判断を1人で抱えると、どちらかが後回しになりがちです。事業が開発の段階に進むころには、分けることを考えます。

社内のエンジニアを技術責任者にするか、外から採用するかはどう決めますか

社内に候補がいるなら、まず新規事業で求める場面の経験があるかを確かめます。行動指針は、新規事業に関するコンピテンシーを確認せずに既存事業のエース級人材を選ぶことを、陥りやすい課題として挙げています。社内で求める経験に合う人が見つからなければ、外からの採用を検討します。

決裁の権限はどのくらいの金額にすればよいですか

行動指針は一定の金額と総額の範囲で権限を与えることを勧めていますが、具体的な金額は示していません。試作に使うクラウドの費用や開発の道具など、技術責任者が日常的に判断する支出の大きさをもとに決め、事業の段階が進んだら見直すのが現実的です。

任せる段階が決まったら相談

新規事業のいまの段階と、技術責任者に任せたい仕事が分かっていれば、そのままご相談いただけます。社員として採るか、まず業務委託の専門人材と試作を進めるか決めきれていない段階でも構いません。

Remoguとリラシクなら、リモートワークで働く社員の候補者も、業務委託で開発に加わる専門人材も探せます。

Remoguは、リモート前提で全国から即戦力のITプロ人材を調達するサービスです。リラシクは、扱う求人がすべてリモートワークのITエンジニア専門転職エージェントです。どちらもLASSICが運営しています。

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出典

  1. *1 参考:経済産業省「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針~イノベーション・マネジメントシステムのガイダンス規格(ISO56002)を踏まえた手引書~」(PDF)(https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kodoshishin/pdf/20191004003-1.pdf)。出典:経済産業省・イノベーション100委員会(令和元年10月4日)。3章(ISO56002の活動の5段階)、5章の行動指針3(企業が陥りやすい課題と本文)・行動指針5・行動指針6(課題克服のための具体アクション)と同節の企業事例・行動指針7・行動指針8(課題克服のための具体アクション)・行動指針12(企業が陥りやすい課題)を参照(確認日2026年10月8日)(2026年10月確認)
  2. *2 参考:IPA(情報処理推進機構)・経済産業省「デジタルスキル標準 ver.1.2」(PDF)(https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-standard/dss/rcu1hd000000j76k-att/dss_ver1.2.pdf)。出典:2024年7月。第Ⅲ部第3章 a.ビジネスアーキテクトのプロダクトマネージャー補記(p.105)と、d.ソフトウェアエンジニアの定義・期待される役割・ロール(p.129〜132)を参照(確認日2026年10月8日)(2026年10月確認)




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