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業務委託の再委託を承諾するかの判断基準|5つの問いで決める手順
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論
- 準委任で頼んでいる業務委託では、民法上、発注側の許諾かやむを得ない事由がなければ再委託できません。
- 承諾するかは、契約の定め、相手と範囲、個人データ、秘密保持、責任と指示の経路の順に確かめます。
- 承諾するときは、再委託先・任せる範囲・負わせる義務・責任を書面にそろえ、口頭で済ませません。
※ 本記事は2026年10月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
業務委託で開発に加わってもらっているエンジニアから、「作業の一部を知り合いのエンジニアに手伝ってもらいたい」と相談された。認めてよいのか、断るべきか、認めるなら何を書面に残すのか——。外部人材と一緒に働く現場で、急に判断を求められやすい場面です。
本記事は、外部のエンジニアに業務委託で仕事を頼んでいる企業の実務者に向けて、業務委託の再委託を承諾するかを5つの問いの順番で決める手順と、承諾するときに書面にそろえる項目を示します。よりどころには民法、個人情報保護委員会のガイドライン、IPA(情報処理推進機構)のモデル契約書を使います。個別の契約の解釈は、契約書を見たうえで弁護士などの専門家に確認してください。
目次
業務委託の再委託とは
再委託は、仕事を受けた側(受託者)が、その作業の一部をさらに別の会社や個人に任せることです。業務委託の契約は、請負(仕事の完成を約束する契約)か準委任(作業を行うこと自体を約束する契約)の形をとることが多く、どちらかで再委託の扱いが変わります。
- 準委任:民法第644条の2は、受任者は「委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない」と定めています。この規定は、法律行為でない事務の委託(準委任)にも準用されます*1
- 請負:民法の請負の規定(第632条から第642条)には、これに当たる定めが置かれていません。*1 再委託ができるかは、契約書の定めから読み始めます
準委任で頼んでいて契約に定めがなければ、発注側の許諾かやむを得ない事由がない限り、本人は別の人に任せられません。認めるかを決めるのは発注側だと分かっていれば、慌てて返事をせずに済みます。契約の種類の違いは「システム開発の準委任契約と請負契約の違い」で扱っています。
開発会社との契約書の確認点は「システム開発の契約書で発注側が確認すべきチェックポイント」にまとめています。本記事は、業務委託のエンジニアから再委託の相談を受けた場面に絞り、承諾するかを決める順番を示します。
再委託を承諾するか決める5つの問い
相談を受けたら、次の5つの問いを上から順に確かめます。右に外れた問いがあれば、行き先の対応をとります。最後まで通れば、書面で承諾します。
| 問い | 確かめること | よりどころ | 当てはまらないときの行き先 |
|---|---|---|---|
| 問1 契約に再委託の定めがあるか | 承諾が要るか、どんな手続きで承諾するか | 民法第644条の2・第656条、モデル契約書第7条 | 準委任なら許諾が要る前提で、手続きを書面で決めてから問2へ |
| 問2 再委託先と作業の範囲を先に示せるか | 誰に、どの作業を、いつから任せるか | モデル契約書第7条1項・2項 | 承諾しない。本人に続けてもらうか、社内で引き取る |
| 問3 個人データの取扱いを含むか | 再委託先の相手・業務内容・取扱方法 | 個人情報保護法第25条、通則編 | 含むなら扱い方を確かめる。確かめられなければ個人データを外した作業だけにする |
| 問4 秘密情報に同じ義務を課せるか | 再委託先に開示する範囲と秘密保持の義務 | モデル契約書第41条4項 | 秘密情報を渡さない作業に絞るか、承諾しない |
| 問5 責任と指示の経路を受託者に残せるか | 再委託先の作業の責任と、指示や報告の通り道 | モデル契約書第7条4項・5項 | 体制を組み直してもらうか、承諾しない |
問2から問5は、IPAのモデル契約書の再委託と秘密情報の条項、個人情報保護委員会のガイドラインが再委託について求めている点を、確かめやすい順に並べたものです(本記事の整理)。*2*3 行き先は次の4つに分かれます。
- 書面で承諾する:5つの問いがすべて通った
- 範囲を絞って承諾する:個人データや秘密情報に触れない作業だけを任せる
- 承諾しない:これまでどおり本人に作業を続けてもらう
- 承諾しない:作業を社内で引き取るか、別の外部人材と直接契約する
個人データと秘密情報で迷いやすい点
任せる作業に顧客の個人データの取扱いが含まれるなら、問3がいちばん重い問いになります。個人情報保護法第25条は委託先の監督を求めており、通則編は、委託先が再委託を行おうとする場合、委託元は「委託先から事前報告を受け又は承認を行うこと」が望ましいとしています。確かめる対象は、再委託する相手方、再委託する業務内容、再委託先の個人データの取扱方法などです。*2

通則編は、監督が足りない例として次の2つを挙げています。*2
- 再委託の条件を委託先に指示せず、取扱状況の確認も怠った結果、再委託先が個人データを漏えいした
- 契約に再委託の実施状況を把握すると盛り込みながら報告を求めず、委託元の認知しない再委託が行われた結果、再委託先が個人データを漏えいした
委託元が委託先を必要かつ適切に監督していない場合に、再委託先が不適切な取扱いを行うと、「元の委託元による法違反と判断され得る」とも注意されています。*2 個人データに触れる作業の再委託は、本人の申し出だけで認めず、相手と扱い方を確かめてから書面で承諾します。個人データの扱い全体は「業務委託エンジニアの情報セキュリティ」をご覧ください。
秘密情報も同じ考え方です。モデル契約書の秘密情報の条項は、開示してよい相手を目的のために知る必要のある役員と従業員(再委託先を含む)に限り、同等の秘密保持の義務を課すとしています。個人情報の条項には、再委託先の選定を受託者に任せる案を選んだ場合でも、個人情報の取扱いは発注側の事前の承諾がなければ再委託してはならないという定めがあります。*3
承諾するときに書面にそろえる項目
承諾すると決めたら、口頭やチャットのやり取りだけで済ませず、承諾の中身を書面に残します。モデル契約書の再委託の条項(第7条A案)は、受託者が再委託先の名称と住所などを書いた書面で承諾を申請し、発注側が期限内に理由を明記して拒否しなければ承諾したものとみなす形を示しています。承諾を拒否するには合理的な理由を要するとも定めています。*3

契約書にこの形の条項があるなら、申請が届いてから返事をするまでの期限を先に確かめます。承諾の書面には、次の項目をそろえます。
| 項目 | 書く中身 | よりどころ |
|---|---|---|
| 再委託先 | 会社名か氏名と、住所などの連絡先 | 第7条2項(名称及び住所等を記載した書面) |
| 任せる作業の範囲 | 任せる作業と任せない作業。始める時期 | 第7条1項・2項(各個別業務の一部・再委託開始時期) |
| 個人データの扱い | 扱う個人データの有無と範囲、扱い方、安全管理の措置 | 通則編(再委託の相手方・業務内容・取扱方法) |
| 秘密情報 | 再委託先に見せる範囲と、再委託先が負う秘密保持の義務 | 第41条4項(同等の義務) |
| 再委託先に負わせる義務 | 元の契約で受託者が負う義務と同じ義務を、再委託先との契約でも課すこと | 第7条4項 |
| 責任 | 再委託先の作業について、受託者が自分で行った場合と同じ責任を負うこと | 第7条5項 |
| 報告と変更 | 作業の状況の報告と、再委託先を変えるときの事前の連絡 | 通則編(事前報告・定期的な監査) |
| 返還 | 渡した資料と個人データの返し方 | 第41条5項・第42条4項(第39条を準用) |
個人のエンジニアに業務委託で頼んでいる場合は、もう1つの見方もあります。労働基準法研究会報告は、本人が自らの判断で補助者を使うことが認められている場合を、指揮監督関係を否定する要素のひとつとしています。*4 再委託を一律に禁じるか、範囲を決めて認めるかは、頼み方そのものの記録にもなります。
判断に迷ったときに外部に相談できる範囲
契約書の読み方で迷うときは、5つの問いのどこで止まったかを書き出してから専門家に見てもらいます。一方、再委託の相談の背景に作業量の増加があるなら、契約の問題とは別に、人をどう確保するかを考える必要があります。外部人材の紹介を受ける相手には、次のような相談ができます。
- 再委託ではなく、発注側が直接契約する追加の外部人材を探す
- 個人データに触れる作業と触れない作業を分け、頼む相手を分ける
- 承諾しないと決めた作業を社内で引き取る間の、つなぎの人材を探す
相談の前に次の5つを書き出しておくと、条件の合う人を探す話が早く進みます。
- 範囲:任せたい作業と、個人データや秘密情報に触れるかどうか
- 期間:始める時期と、契約の区切り
- 体制:社内で指示や確認をする人と、いま作業している人との分担
- 費用の決まり方:作業の単位で払うのか、成果物で払うのか
- 引き継ぎ:いまの作業者から受け取る資料と作業の記録
まとめ:業務委託の再委託を承諾するか決める手順
業務委託の再委託は、頼まれた側が自由に決めてよいものではありません。第一に、準委任で頼んでいるなら、民法上、発注側の許諾かやむを得ない事由がなければ再委託できないことを押さえます。第二に、契約の定め、再委託先と範囲、個人データ、秘密保持、責任と指示の経路の5つの問いを順に確かめ、外れた問いがあれば範囲を絞るか承諾しません。第三に、承諾するときは再委託先・任せる範囲・負わせる義務・責任を書面にそろえます。
よくある質問
契約書に再委託の定めがない場合はどうなりますか
契約の種類で変わります。準委任なら、民法第644条の2により、委任者の許諾を得たときか、やむを得ない事由があるときでなければ復受任者を選任できません。*1 請負の規定には同じ定めがないため、相談を受けた時点で再委託の扱いを書面で決めておきます。
再委託を口頭で承諾しても問題ありませんか
後で範囲や責任が分からなくならないよう、書面に残しておきます。モデル契約書は、事前に書面で承諾を得た場合に再委託できる形を示しています。*3 個人データを扱う作業なら、相手方・業務内容・取扱方法も書面で確かめます。
再委託先が問題を起こしたら誰が責任を負いますか
モデル契約書は、受託者は発注側に帰責事由がある場合を除き、再委託先の履行について自ら業務を行った場合と同様の責任を負うとしています。*3 個人データでは、監督が足りなければ元の委託元の法違反と判断され得る点にも注意します。*2
再委託に頼らず外部人材を確保する
任せたい作業の範囲と期間が分かっていれば、そのままご相談いただけます。再委託を認めるか検討している段階でも構いません。
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出典
- *1 参考:民法(明治29年法律第89号)第632条・第644条の2・第656条(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)。出典:e-Gov法令検索(法令API)。請負の定義、復受任者の選任等、準委任への準用を参照(確認日2026年10月24日)(2026年10月確認)
- *2 参考:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(PDF)(https://www.ppc.go.jp/files/pdf/260614_guidelines01.pdf)。出典:個人情報保護委員会(平成28年11月、令和8年6月一部改正)。委託先の監督(法第25条関係)の再委託の記述と事例を参照(確認日2026年10月24日)(2026年10月確認)
- *3 参考:IPA「情報システム・モデル取引・契約書」第二版(ソフトウェア開発委託基本モデル契約書 条文抜き出し版)(https://www.ipa.go.jp/digital/model/model20201222.html)。出典:独立行政法人情報処理推進機構。第7条(再委託)A案・B案、第41条(秘密情報の取扱い)、第42条(個人情報)を参照(確認日2026年10月24日)(2026年10月確認)
- *4 参考:労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)(https://www.mhlw.go.jp/content/001477330.pdf)。出典:昭和60年12月19日。厚生労働省掲載。代替性の有無(指揮監督関係の判断を補強する要素)を参照(確認日2026年10月24日)(2026年10月確認)