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相互運用可能な欧州法、押さえる4つの仕組み
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 決める前に測る:拘束的要件を決める前に、越境の相互運用性への影響を評価する仕組みです*3。
- 2025年1月12日から適用:評価と、各国の主管当局・単一窓口の指名に関する規定はこの日から適用されています*3。
- システムの勘どころ:評価結果は機械可読な形式で公表されます。文書ではなくデータとして出す前提です*3。
※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。
行政のシステムを「作る前」に縛る規制、という言い方が近いかもしれません。相互運用可能な欧州法(Interoperable Europe Act、規則(EU) 2024/903)は、2024年3月13日に採択され、2024年4月11日に発効しました*2。EU域内の公的部門における高い水準の相互運用性のための措置を定めるものです*1。
狙いは、行政機関どうしがデジタルな処理を通じてデータ・情報・知識を共有し、国境をまたいでやり取りしやすくすることにあります*1。相互運用性評価、各国の主管当局と単一窓口の指名に関する規定は、2025年1月12日から適用されています*3。
本記事は、行政や公共分野のシステムに関わる情報システム担当と、その開発を受託する立場に向けて、この規制が持ち込んだ四つの仕組みを整理します。日本の制度とは別の枠組みですが、公共のシステムをどう共有可能にするかという設計の考え方は参考になります。
目次
四つの仕組みと、その関係
まず全体像です。この規制は、単体の要件ではなく仕組みの束として設計されています*1*3。
四つを一言でいうと、「決める前に測る」評価、再利用の対象を示すラベル、共有の場としてのポータル、実装を後押しする支援措置です*1*3。舵取りをするのがInteroperable Europe Boardで、各加盟国から1名と欧州委員会から1名で構成されます*3。
Boardの任務には、相互運用性評価のガイドラインの採択、欧州相互運用性枠組(EIF)の開発と更新、Interoperable Europeソリューションの推奨、政策実施支援プロジェクトの提案が挙げられています*3。EIFは、法的・組織的・意味的・技術的な相互運用性についての推奨を与える枠組みです*1。
この四層構造は、「規格を決めて守らせる」型ではなく、「判断のたびに影響を測り、使えるものを共有する」型だと読めます。日本の自治体システムの考え方で扱う標準仕様への準拠とは、力の掛け方が違います。
仕組み1:相互運用性評価——決める前に、影響を測る
この規制でもっとも実務に響くのが、この評価です*3。
新規または実質的に変更される拘束的要件について決定を行う前に、EUの機関または公的部門の組織は相互運用性評価を実施しなければなりません*3。手順として挙げられているのは、EIFを支援ツールとして用いて相互運用性への影響を評価すること、影響を受ける利害関係者を特定すること、Interoperable Europeソリューションとの整合を確認すること、そして利用者と協議することです*3。
結果の扱いが特徴的です。評価の結果は、自動翻訳を容易にする機械可読な形式で公式ウェブサイトに公表し、Boardへ電子的に共有するとされています*3。報告書をPDFで置いて終わり、という運用は想定されていません。
実施の体制も整えられました。各加盟国は1つ以上の主管当局を指名し、そのうちから単一窓口を指定して、遅滞なく欧州委員会へ通知し公表します*3。単一窓口の役割には、相互運用性評価の支援、ソリューションの共有の促進、他の加盟国との協力の支援が挙げられています*3。
年次のアジェンダも、この評価の位置づけを補強しています。相互運用性評価は法的な整合性のために重要であり、デジタルと相互運用性に関わる側面が立法の起草の早い段階で考慮されることを確保するものだ、という説明です*1。政策要件が越境の相互運用性に、たとえば既存のデジタルシステムやサービスに与える影響を評価することで、共有されるデジタル基盤とソリューションの一貫した開発と実装を助けるとされています*1。
受託の側から見ると、要件定義より前の工程に、成果物が一つ増えるということです。しかもその成果物は機械可読で公開されます。オンライン申請の仕組みで扱うような、手続きの設計と情報システムの設計が同じ場で議論される流れが強まります。
仕組み2:ソリューションとラベル
共有の対象になる「ソリューション」の幅が広い点が、この規制の特徴です*1。
相互運用性ソリューションは複数の形をとり得るとされ、より上位の枠組みやガイドラインから、リファレンスアーキテクチャ、仕様、標準、具体的なサービス、アプリケーション、ソースコード、成果物、人工知能(AI)モデルといった技術的な要素までが挙げられています*1。ただし条件があり、越境のやり取りの法的・組織的・意味的・技術的な側面に対応するものであることとされています*1。
ラベルには法的な意味があります。共通のニーズが、どのソリューションにInteroperable Europeラベルを与えるかを決め、ラベルを付与されたソリューションは、相互運用性評価において再利用の可能性を評価される対象になります*1。付与の要件としては、公開性と再利用の原則を守ること、Boardが定めた基準を満たすことが挙げられています*3。Boardが推奨を撤回する場合には、ラベルが外され、必要に応じてポータルからも削除されます*3。
設計への含みは二つあります。第一に、成果物の粒度です。ソースコードもAIモデルも「ソリューション」に含まれるため、何を再利用可能な単位として切り出すかを、開発の初期に決めておく必要が出ます。第二に、公開性です。再利用を前提にする以上、ライセンスと依存関係の扱いが後付けでは済みません。API設計の考え方で扱う、外から使われる前提のインターフェース設計が土台になります。
仕組み3と4:ポータルと支援措置
共有の場と、実装を後押しする手当てです*1*3。
Interoperable Europeポータルは、ソリューションのワンストップショップであり、相互運用性ソリューションの共有と再利用のためのコミュニティ・プラットフォームです*1。政策実施支援プロジェクトの成果や、プロジェクトの中で開発された相互運用性ソリューションは、公開されポータルで一般に利用できるようにすることとされています*1。加えて、公的部門のデジタル化を支えるEUの資金プログラムの一覧が、ポータル上で公表され定期的に更新されています*1。
支援措置は規制の第3章に置かれ、四つに整理されています*1。政策実施支援プロジェクト(第9条)、イノベーション措置(第10条)としてのGovTechと相互運用性の規制サンドボックス(第11条・第12条)、訓練(第13条)、そしてピアレビュー(第14条)です*1。GovTechは、公的部門のデジタル変革を支える公的部門と民間部門の主体による技術ベースの協力と定義されています(第2条9)*1。
資金の裏づけも動いています。デジタル・ヨーロッパ・プログラム(DEP)は、公的部門における相互運用性とGovTechを支える欧州委員会の活動を包含します*1。2025年1月には、加盟国による本規制の実施を支え、相互運用性とイノベーションを進めるマルチカントリー・プロジェクト(MCP)の下地を作る1年間の取組としてINVEST CSAが開始されました*1。DEPの2025-2027作業計画では、革新的でつながった行政機関に関するMCPの提案募集が始まる予定とされています*1。
「良いものを作れ」ではなく「作ったものを見つけられるようにせよ」という設計思想が、ポータルと支援措置に共通しています。成功したソリューションは、潜在的な利用者から見えて、見つけられて、再利用できるものであるべきだと明記されました*1。データカタログの整備で扱う、資産を探せる状態にする考え方と重なります。
初回アジェンダ(2025年12月)が示した優先順位
Boardが毎年採択するアジェンダの、第一版が出ています*1。
アジェンダは、越境で使える行政のデジタルサービスの相互運用性を進めるための戦略的な優先事項を示すロードマップで、財政上の義務は課しません*1。規制の第19条(2)により、相互運用性ソリューションの開発に関するニーズ評価、進行中および計画中の支援措置の一覧、イノベーション措置への follow-up の提案、他のEUおよび各国のプログラムとの相乗効果の特定、そして優先事項を支える利用可能な資金機会の指摘を含むこととされています*1。
| 求められているソリューション | 割合 |
|---|---|
| データ標準 | 83%(60件) |
| デジタル主権に資するソリューション | 81%(58件) |
| 複数国が越境の文脈で使っているソリューション | 76%(55件) |
| EU政策の実施に紐づくソリューション | 68%(49件) |
| 多国間プロジェクトで開発されたソリューション | 61%(44件) |
| 標準化機関が開発したソリューション | 60%(43件) |
回答者はさらに、データ交換の形式とプロトコルに関する標準に取り組むこと、そしてEU公的部門のデジタル化に向けた共有ツールボックスとしての「EU GovTechスタック」を提案しました*1。
Boardが挙げた優先領域は二つです。優先事項1は、土台づくり。最初の一群のソリューションに「Interoperable Europeソリューション」のラベルを推奨することで、EUの相互運用性の姿を形づくる重要な一歩を踏み出すという位置づけです*1。ただしBoardは、個々の成熟したソリューションを推奨するだけでは、越境の相互運用性を支える一貫したエコシステムを築くには足りず、業務の観点から見たソリューションの一般的なニーズについての開かれた議論が要ると認めています*1。
優先事項2は、越境のデータ交換のためのソリューション。Boardは、EU全域でのデータの発見・アクセス・交換のために、分野をまたいだ統一的な仕様と意味モデルに根ざした意味的・技術的な相互運用性が必要だと強調しました*1。既存の標準と仕様は統合され、一貫して適用されるべきだとされています*1。
受託・システム側で押さえる要点
日本の現場に引き寄せると、参考になるのは仕組みの形です。
第一に、影響評価を工程に置くことです。拘束的な要件を決める前に、既存システムへの影響を測る*3。制度の側で義務づけられていなくても、要件を決める前に既存の連携先への影響を書き出す工程は、手戻りを減らします。
第二に、評価の結果を機械可読で持つことです。この規制では、評価結果を機械可読な形式で公表することが求められます*3。文書のまま持つと、後から横断して検索できません。
第三に、再利用の単位を先に決めることです。ソリューションにはソースコードやAIモデルまで含まれます*1。何を切り出して共有可能にするかを、開発の初期に決めておきます。
第四に、公開性と再利用の原則を前提にすることです。ラベルの要件には公開性と再利用の原則の遵守が挙げられています*3。ライセンスと依存関係を後から整理するのは骨が折れます。
受託で進める場合の要点も挙げておきます。
枠組みと実装を分けて考えることです。EIFは法的・組織的・意味的・技術的の四層で相互運用性を捉えます*1。技術だけを合わせても、組織や意味の層が食い違うとつながりません。
他のEU規制と土台を共有することです。アジェンダは、データ法や欧州健康データスペース、AI法のガバナンス機関との関係にも触れています*1。分野ごとの相互運用性の取組を、横串でつなぐ位置づけです。
意味の層を軽く見ないことです。意見募集で最も多かったのはデータ標準への要望でした*1。項目名を揃えるだけでは足りず、値の意味をどう定義するかが問われます。マスタデータの管理で扱う、コード体系と意味の管理がここでも土台になります。
体制としては、制度の設計と情報システムの設計を同じ場で話せる要員が入れるかが分かれ目です。手続きの根拠、データの意味、連携の実装。これらは仕様書の項目名だけを見ていても判断できません。EUの枠組みをそのまま持ち込む必要はありませんが、「決める前に測り、作ったものを見つけられるようにする」という二つの型は、公共に限らず大きな組織のシステムづくりで使えます。
まとめ:相互運用可能な欧州法で押さえる3つの視点
相互運用可能な欧州法(規則(EU) 2024/903)は2024年3月13日に採択され、2024年4月11日に発効しました。相互運用性評価、各国の主管当局と単一窓口の指名に関する規定は2025年1月12日から適用されています。押さえたい視点は三つあります。第一に、四つの仕組みの束であること。新規または実質的に変更される拘束的要件を決める前に影響を測る相互運用性評価、再利用の対象を示すInteroperable Europeソリューションとラベル、共有の場としてのポータル、そして政策実施支援プロジェクト・GovTechと規制サンドボックス・訓練・ピアレビューという支援措置です。第二に、評価の結果が機械可読で公表されること。自動翻訳を容易にする機械可読な形式で公式ウェブサイトに公表し、Boardへ電子的に共有するとされています。第三に、共有の対象が広いこと。枠組みやガイドラインから、リファレンスアーキテクチャ、仕様、標準、サービス、アプリケーション、ソースコード、AIモデルまでが相互運用性ソリューションに含まれ、ラベル付きのものは評価の際に再利用を検討する対象になります。2025年12月の初回アジェンダでは、データ標準への要望が意見募集の83%と最も多く、越境のデータ交換のための意味的・技術的な相互運用性が優先領域に挙げられました。
よくある質問
相互運用可能な欧州法はいつから適用されていますか。
規則(EU) 2024/903は2024年3月13日に採択され、2024年4月11日に発効しました。相互運用性評価に関する規定、各国の主管当局の指名、単一窓口の指定に関する規定は2025年1月12日から適用されています。Boardが相互運用性評価のガイドラインを採択する期限も、この日とされていました。
相互運用性評価とは何をするのですか。
新規または実質的に変更される拘束的要件について決定を行う前に、EUの機関または公的部門の組織が実施する評価です。欧州相互運用性枠組(EIF)を支援ツールとして用いて相互運用性への影響を評価し、影響を受ける利害関係者を特定し、Interoperable Europeソリューションとの整合を確認し、利用者と協議します。結果は自動翻訳を容易にする機械可読な形式で公式ウェブサイトに公表されます。
Interoperable Europeソリューションには何が含まれますか。
幅が広く、上位の枠組みやガイドラインから、リファレンスアーキテクチャ、仕様、標準、具体的なサービス、アプリケーション、ソースコード、成果物、AIモデルまでが挙げられています。ただし越境のやり取りの法的・組織的・意味的・技術的な側面に対応するものであることが条件です。ラベルを付与されたものは、相互運用性評価において再利用の可能性を評価される対象になります。
ラベルにはどんな意味がありますか。
法的な意味があります。ラベルを付与されたソリューションは、相互運用性評価の中で再利用の可能性を評価される対象になります。付与の要件は、公開性と再利用の原則を守ることと、Boardが定めた基準を満たすことの二つです。Boardが推奨を撤回する場合には、ラベルが外され、必要に応じてポータルからも削除されます。
初回のアジェンダでは何が優先とされましたか。
二つの優先領域が挙げられました。優先事項1は土台づくりです。最初の一群のソリューションにラベルを推奨することを重要な一歩と位置づけつつ、業務の観点から見た一般的なニーズの議論が要るとしています。優先事項2は越境のデータ交換で、分野をまたいだ統一的な仕様と意味モデルに根ざした意味的・技術的な相互運用性の必要性が強調されました。なお意見募集でもっとも多く挙がったのはデータ標準への要望で、83%を占めています。
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出典
- *1 参考:Interoperable Europe Board「Interoperable Europe Agenda」(2025年12月)(https://interoperable-europe.ec.europa.eu/sites/default/files/file-visibility/resource/2025-12/interoperable-europe-agenda-dec2025.pdf)。規制の目的、アジェンダの構成要素と第19条(2)の記載事項、相互運用性ソリューションの範囲とラベルの法的意味、支援措置の条文と分類、ポータルでの公開と資金プログラムの一覧、意見募集の結果と優先事項1・2の一次情報として(2026年8月確認)
- *2 参考:欧州委員会 Interoperable Europe Portal「Interoperable Europe Act」(https://interoperable-europe.ec.europa.eu/interoperable-europe/interoperable-europe-act)。規則が2024年4月11日に発効したこと、ポータルがソリューションのワンストップショップかつコミュニティ・プラットフォームであることの確認として(2026年8月確認)
- *3 参考:欧州委員会 Interoperable Europe Portal「Interoperable Europe Act Regulation」(https://interoperable-europe.ec.europa.eu/Interoperable-Europe-Act-Regulation)。相互運用性評価・各国主管当局・単一窓口に関する規定が2025年1月12日から適用されること、評価の対象と手順・機械可読な形式での公表、Boardの構成と任務、ラベルの要件と撤回の確認として(2026年8月確認)