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2026.08.27 らしくコラム

EUプラットフォーム労働指令、アルゴリズム管理のリスク




監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)

この記事の結論

  • 期限は2026年12月2日:加盟国はこの日までに必要な法令を施行することとされています*1。
  • 扱えないデータが列挙された:感情や私的な会話、就業外の収集、生体照合などが名指しで禁じられます*1。
  • システムの勘どころ:アカウント停止や報酬拒否は、書面の理由と2週間の見直しが伴います*1。

※ 本記事は2026年8月時点の公式情報(省庁・公的機関・ベンダー公式ドキュメント)に基づきます。

アルゴリズムで人の仕事を割り振る仕組みに、条文が直接に手を入れる法律ができました。EUのプラットフォーム労働指令(指令(EU)2024/2831)です*1。

この指令は2024年10月23日に採択され、官報は2024年11月11日付で、加盟国は2026年12月2日までに必要な法令等を施行することとされています*1。目的は、プラットフォーム労働における労働条件の改善と個人データの保護という二つとされています*1。

本記事では、業務の割当や評価を自動化している企業の情報システム担当と、そうした仕組みを受託して作る立場に向けて、禁じられる処理と、決定に伴う説明の義務を整理します。制度の解釈が要る部分は指令の本文と専門家の確認を経て進めてください。

配達用のボックスを載せたスクーターで走る配達員

扱ってはいけないデータが列挙された

この指令でもっとも具体的なのが、第7条です*1。

EUのプラットフォーム労働指令(指令(EU)2024/2831)が2024年10月23日に採択され官報が11月11日、国内法化の期限が2026年12月2日であること、第5条によりデジタル労働プラットフォームと就労者の契約関係に指揮命令と管理を示す事実があれば雇用関係と法的に推定され覆す立証はプラットフォーム側が負うこと、第7条が自動化された監視・意思決定について感情や心理状態・私的な会話・就業していない時間の収集・基本的権利の行使の予測・人種や健康状態などの推定・生体データの照合を禁じること、第11条が決定について書面で理由を示し説明のための担当者を置き見直しの請求に2週間以内に理由を備えた回答を返し権利を侵害する決定は2週間以内に是正することを求めることを整理した図

デジタル労働プラットフォームは、自動化された監視システムまたは自動化された意思決定システムによって、次の処理を行ってはならないとされています*1。

表1:第7条が禁じる処理
禁じられる処理 条文の内容 実装で当たりやすい場面
(a) 感情・心理状態 就労者の感情的または心理的な状態に関する個人データの処理 音声や表情からの感情推定
(b) 私的な会話 他の就労者やその代表とのやり取りを含む私的な会話に関する個人データの処理 チャットの本文解析
(c) 就業していない時間 就労を申し出ても行ってもいない間の個人データの収集 常時の位置情報の取得
(d) 基本的権利の行使の予測 結社の自由、団体交渉と団体行動の権利、情報提供と協議の権利の行使を予測する処理 離反や組織化の予兆スコア
(e) 属性の推定 人種・民族的出自、移民の地位、政治的意見、宗教・哲学的信条、障害、健康状態(慢性疾患やHIVの状態を含む)、感情・心理状態、労働組合員であること、性生活、性的指向の推定 行動ログからの属性推定
(f) 生体データの照合 データベース上の生体データと比較して本人性を確定するための、GDPR第4条(14)にいう生体データの処理 顔照合による本人確認

適用の範囲にも注意が要ります*1。この条は、採用または選考の手続きの開始時点から、プラットフォーム労働を行うすべての者に適用されるとされています*1。登録前の段階も対象ということです。

さらに第7条第3項は、自動化された監視システムと自動化された意思決定システムに加えて、就労者に何らかの形で影響する決定を行う、あるいは支援する自動化されたシステムを用いる場合にも適用されるとしています*1。「完全な自動化ではないから対象外」という整理は取りにくくなります。

個人データを扱う仕組みそのものの設計は、差分プライバシーの実装で扱うような選択肢とあわせて考えることになります。ただしこの条文は加工の巧拙ではなく、そもそも扱わないことを求めている点が異なります。

影響評価と、開示する項目

禁止の次に来るのが、評価と開示です*1。

第8条は、デジタル労働プラットフォームが自動化された監視・意思決定システムによって個人データを処理することを、GDPR第35条第1項にいう「高いリスクをもたらす可能性が高い処理」に当たる類型としています*1。GDPR第35条第1項は、新しい技術を用いる処理などで自然人の権利と自由に高いリスクをもたらす可能性が高い場合、管理者が処理の前に影響評価を行うことを求めています*2。

指令はこれに上乗せをしています*1。影響評価を行う際、管理者としてのデジタル労働プラットフォームは就労者とその代表の意見を求めることとされ、評価を労働者代表に提供することとされています*1。

第9条は透明性です*1。プラットフォームは、就労者、労働者代表、そして請求に応じて所管当局に対し、自動化された監視・意思決定システムの使用を知らせることとされています*1。

監視システムについて知らせる内容は、そうしたシステムが使われている、あるいは導入されつつあるという事実、監視・監督・評価の対象となるデータと行動の類型(サービスの受け手による評価を含む)、監視の目的とその方法、そして処理された個人データの受領者または受領者の類型と、企業グループ内を含む送信・移転です*1。

意思決定システムについては、使用または導入の事実、決定の類型、システムが考慮するデータの類型と主要なパラメータおよびその相対的な重要度(就労者の個人データや行動が決定にどう影響するかを含む)、そしてアカウントを制限・停止・終了する決定や、行った仕事への支払いを拒否する決定の根拠などとされています*1。

この「主要なパラメータの相対的な重要度」という要求は、実装に直接に効いてきます。モデルの説明可能性が、法令上の開示項目として現れる形です。AIガバナンス体制の構築で扱うような、モデルの設計と根拠を残す仕組みが土台になります。

決定には説明と、2週間の見直しが伴う

第11条が、この指令の運用面での中心です*1。

就労者は、自動化された意思決定システムによって行われた、または支援された決定について、口頭または書面での説明を不当に遅れることなく得る権利を持つとされています*1。説明は透明で理解しやすい方法により、明確で平易な言葉で行うこととされています*1。

加えて、プラットフォームは就労者に対し、決定に至った事実・状況・理由を話し合い明らかにするための担当者(contact person)へのアクセスを提供することとされています*1。そして、その担当者が職務を果たすために必要な能力、訓練、権限を持つことを確保することとされています*1。窓口を置くだけでは足りない、という書き方です。

書面での理由が求められる決定も列挙されています*1。アカウントの制限・停止・終了、行った仕事への支払いの拒否、契約上の地位に関する決定、これらと同様の効果を持つ決定、そして雇用その他の契約関係の本質的な側面に影響する決定です*1。理由は不当に遅れることなく、遅くともその決定が効力を生じる日までに示すこととされています*1。

そして期限が二つ置かれています*1。

見直しの請求への回答は2週間以内です*1。就労者と、国内法や慣行に従いその代理として行動する代表は、これらの決定の見直しを請求する権利を持つとされ、プラットフォームは十分に具体的で適切に理由を備えた回答を書面(電子的な形式でもよい)で、不当に遅れることなく、いかなる場合も請求の受領から2週間以内に提供することとされています*1。

是正も2週間以内です*1。決定が就労者の権利を侵害する場合、プラットフォームは遅滞なく、いかなる場合も決定の採択から2週間以内にその決定を是正することとされています*1。是正が不可能な場合は、被った損害に対する相応の賠償を申し出ることとされています*1。

さらに、いずれの場合も、将来そうした決定を避けるために必要な措置をとることとされ、その措置には自動化された意思決定システムの修正、あるいはその使用の中止が適切な場合には含まれるとされています*1。

この条は、規則(EU)2019/1150にいうビジネスユーザーでもある就労者には適用されないとされ、国内法・労働協約・慣行に定める懲戒や解雇の手続きに影響しないとされています*1。

実装への含意を挙げます。

決定のたびに理由を生成できることです。ログに結果だけを残す設計では、書面の理由を作れません。どの入力がどう効いたのかを、決定と同時に残す必要があります。

2週間を測れることです。請求の受領日時と回答日時、決定の採択日時と是正日時。四つの時刻が記録されていなければ、期限を守ったことを示せません。

是正が機能として要ることです。誤った停止を戻す、支払いを実行する。運用の手作業に頼ると、2週間は容易に溶けます。

雇用関係の推定と、安全衛生

もう一つの柱が、契約上の地位に関する規定です*1。

第5条は法的推定を定めています*1。デジタル労働プラットフォームと、そのプラットフォームを通じてプラットフォーム労働を行う者との契約関係は、国内法・労働協約・慣行および欧州司法裁判所の判例に照らして指揮命令と管理を示す事実が認められる場合、法的に雇用関係と推定されるとされています*1。

推定を覆そうとする場合、その契約関係が雇用関係ではないことを証明するのはプラットフォームの側とされています*1。加盟国は、就労者の利益となる手続上の便宜を構成する、実効的で反証可能な法的推定を設けることとされ、この推定によって就労者やその代表の立証の負担が増えることのないようにするとされています*1。

この推定は、就労者の正しい雇用上の地位が争点となるすべての関連する行政・司法手続に適用されるとされ、税、刑事、社会保障に関する手続には適用されないとされています*1。

第12条は安全衛生です*1。デジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働者について、自動化された監視・意思決定システムがその安全と健康にもたらすリスク(とくに労働災害、心理社会的リスク、人間工学上のリスク)を評価し、それらのシステムの保護措置が特定されたリスクに照らして適切かを評価し、適切な予防・保護の措置を導入することとされています*1。

そして第12条第3項は、プラットフォームが自動化された監視・意思決定システムを、プラットフォーム労働者に不当な圧力をかける形で、あるいはその安全と身体的・精神的な健康を危険にさらす形で用いてはならないとしています*1。ノルマや評価の設計そのものが、この条文の射程に入るという読み方になります。

日本で業務委託の形で人を動かす仕組みを持っている企業にとっては、フリーランス新法で扱うような取引条件の明示や、労働条件の明示で扱う枠組みと、問題意識が重なります。制度は別ですが、「自動で決めた結果を人に説明できるか」という論点は共通です。

着手の順序と、受託で進めるときの要点

優先順位をつけるなら、次の順になります。

第一に、対象の切り分けです。EU域内でプラットフォーム労働にあたる仕組みを運営しているか*1。運営していなくても、設計の参照点としては読む価値があります。

第二に、扱っているデータの棚卸しです。第7条が挙げる六つに触れていないか*1。とくに就業外の位置情報と、チャットの本文解析は見落とされやすい部分です。

第三に、決定の一覧です。アカウントの制限・停止・終了、支払いの拒否*1。どの処理がこれに当たるかを列挙するところから始まります。

第四に、説明と見直しの導線です。理由の提示、担当者、2週間の回答と是正*1。

受託で進める場合の要点も挙げます。

「支援する」システムも対象である前提で設計することです。第7条第3項と第12条第4項は、決定を行うシステムだけでなく、決定を支援するシステムにも適用されるとしています*1。スコアを出すだけの仕組みも射程に入ります。

理由を決定と同時に保存することです。後から再計算して理由を作ると、モデルが更新されている場合に当時の説明になりません。決定の時点のパラメータと入力を残す形が確かです。

担当者の運用まで含めて見積もることです。能力・訓練・権限を備えた担当者を置くこととされています*1。システムだけを納めても、この要件は満たせません。

他のAI関連の枠組みと項目を揃えることです。EU AI規則への対応で扱う要求と、モデルの説明や記録という点で重なります。別々の台帳を立てると、片方だけが更新されなくなります。

体制としては、プロダクトの設計と労務の実務、その双方に触れられる要員が入れるかが分かれ目になります。どのデータを取っているか、どの処理が「決定」に当たるか、停止や支払い拒否を誰が実行しているか。これらは仕様書の項目名だけを見ていても判断できません。業務側と設計側が同じ場で話せる形を作れるかを、委託先を選ぶ観点に入れておくとよいでしょう。

まとめ:プラットフォーム労働指令で押さえる3つの視点

EUのプラットフォーム労働指令(指令(EU)2024/2831)は2024年10月23日に採択され、加盟国は2026年12月2日までに必要な法令等を施行することとされています。押さえたい視点は三つです。第一に、扱ってはいけないデータが列挙されたこと。自動化された監視システムや意思決定システムによって、感情的・心理的な状態、私的な会話、就労を申し出ても行ってもいない間の収集、基本的権利の行使の予測、人種や健康状態などの推定、データベースとの照合による本人性の確定のための生体データを処理してはならないとされ、この規定は採用や選考の開始時点から適用されます。第二に、決定に説明と見直しが伴うこと。アカウントの制限・停止・終了や支払いの拒否といった決定については、遅くとも効力が生じる日までに書面で理由を示すこととされ、見直しの請求には2週間以内に十分に具体的で理由を備えた回答を返し、権利を侵害する決定は2週間以内に是正することとされています。説明のための担当者には能力・訓練・権限が求められます。第三に、契約上の地位に推定が働くこと。指揮命令と管理を示す事実があれば契約関係は雇用関係と法的に推定され、これを覆す立証はプラットフォームの側が負うとされています。まずは扱っているデータの棚卸しと、どの処理が「決定」に当たるかの列挙から着手するのが堅実でしょう。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、業務の割当や評価を扱うシステムの開発と改修を受託しています。決定と同時に理由を残す設計、扱うデータを絞り込む実装、請求から回答・是正までの時刻を追える記録、担当者の運用まで含めた設計まで、説明が求められる仕組みに耐える形をご提案できるのが強みです。

よくある質問

EUプラットフォーム労働指令はいつまでに対応が必要ですか。

指令(EU)2024/2831は2024年10月23日に採択され、官報は2024年11月11日付です。加盟国は2026年12月2日までに、この指令に従うために必要な法律、規則、行政規定を施行することとされています。実際の義務は各国の国内法で定まります。

どんなデータを扱ってはいけないのですか。

第7条は六つを挙げています。就労者の感情的または心理的な状態に関する個人データ、他の就労者やその代表とのやり取りを含む私的な会話に関する個人データ、就労を申し出ても行ってもいない間の個人データの収集、結社の自由や団体交渉などの基本的権利の行使を予測する処理、人種・民族的出自や健康状態などを推定する処理、そしてデータベース上の生体データと比較して本人性を確定するための生体データの処理です。

完全な自動化でなければ対象外ですか。

そうとは限りません。第7条第3項は、自動化された監視システムと自動化された意思決定システムに加えて、就労者に何らかの形で影響する決定を行う、あるいは支援する自動化されたシステムを用いる場合にもこの条が適用されるとしています。第12条第4項にも同様の規定があります。

アカウントを停止するとき何が必要ですか。

第11条は、アカウントの制限・停止・終了、行った仕事への支払いの拒否、契約上の地位に関する決定などについて、不当に遅れることなく、遅くともその決定が効力を生じる日までに書面で理由を示すこととしています。就労者は説明を得る権利と見直しを請求する権利を持ち、プラットフォームは請求の受領から2週間以内に十分に具体的で理由を備えた回答を書面で提供することとされています。

業務委託の形なら雇用の問題は生じませんか。

第5条は法的推定を置いています。デジタル労働プラットフォームと就労者の契約関係は、国内法や判例に照らして指揮命令と管理を示す事実が認められる場合、法的に雇用関係と推定されます。推定を覆そうとする場合、雇用関係ではないことを証明するのはプラットフォームの側とされています。ただしこの推定は、税・刑事・社会保障に関する手続には適用されないとされています。

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元請(プライムベンダー)として、決定と同時に理由を残す設計から扱うデータの絞り込み、請求から是正までを追える記録づくりまでご提案します。まずはお気軽にご相談ください。

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出典

  1. *1 参考:EUR-Lex「指令(EU)2024/2831(プラットフォーム労働における労働条件の改善、官報 OJ L, 2024/2831, 2024年11月11日)」(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=OJ:L_202402831)。2024年10月23日の採択、労働条件の改善と個人データの保護という二つの目的、第5条(雇用関係の法的推定、指揮命令と管理を示す事実、反証責任がプラットフォーム側にあること、手続上の便宜と立証負担、税・刑事・社会保障の手続への不適用)、第7条(自動化された監視・意思決定システムによる六つの禁止処理、採用・選考の開始時点からの適用、決定を支援するシステムへの適用)、第8条(GDPR第35条第1項にいう高リスク類型であること、就労者と代表の意見聴取、労働者代表への評価の提供)、第9条(監視システムと意思決定システムについて知らせる項目、主要なパラメータとその相対的重要度、アカウントの制限・停止・終了や支払い拒否の根拠)、第11条(説明を得る権利、能力・訓練・権限を備えた担当者、書面での理由と効力発生日までの提示、見直し請求への2週間以内の回答、2週間以内の是正と賠償、システムの修正または使用中止、ビジネスユーザーへの不適用)、第12条(自動化システムのリスク評価、不当な圧力の禁止、決定を支援するシステムへの適用)、第29条(2026年12月2日までの国内法化)の一次情報として(2026年8月確認)
  2. *2 参考:EUR-Lex「規則(EU)2016/679(GDPR)」(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32016R0679)。第22条(もっぱら自動化された処理に基づく決定に服さない権利、契約の締結・履行や明示的同意などの例外、人の介入を得る権利・意見を表明する権利・決定に異議を申し立てる権利といった保護措置、特別な種類の個人データに基づく決定の制限)、第35条(新しい技術を用いる処理などで権利と自由に高いリスクをもたらす可能性が高い場合に処理の前に影響評価を行うこと、データ保護責任者への助言の求め、影響評価が特に必要となる場合=自動処理に基づく体系的で広範な評価、特別な種類の個人データの大規模処理、公にアクセス可能な区域の大規模な体系的監視)の一次情報として(2026年8月確認)




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