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ヘッドレスコマース|EC基盤を柔軟にする設計と外注
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)として業務システムの開発・運用を受託
この記事のポイント
- ヘッドレスコマースとは、ECの表示層(フロント)と、カート・在庫・価格・決済といった取引処理(バックエンド)をAPIで分離する設計です。フロントとバックエンドが密結合した従来型の一体型ECとは、改修の自由度が大きく異なります。
- コンテンツ管理を切り出すヘッドレスCMSとは対象が違い、ヘッドレスコマースはカートや価格、決済といった取引ロジックをAPIで提供します。さらに機能を部品として組み合わせる考え方がコンポーザブルコマースです。
- 外注時は、対象とするフロントの範囲、既存の基幹・OMSとの連携、コンポーザブル化の度合い、運用・保守体制が確認の軸になります。従来型ECやヘッドレスCMSとの役割分担を先に整理しておくと要件がぶれません。
目次
従来型の一体型ECが抱える、チャネル拡大と改修スピードの壁
ECサイトの表示画面を少し変えたいだけなのに、なぜか大がかりな改修になってしまう。あるいは、Webサイトとスマートフォンアプリ、実店舗の端末とで、在庫や価格の見え方がそろわない。こうした悩みの背景には、多くの場合、フロント(画面)とバックエンド(取引処理)が一体になった従来型のECの構造があります。従来型のEC基盤は、商品画面や購入導線といった表示層と、カート・在庫・価格・決済などの業務ロジックが密接につながっているのが一般的です*3。
一体型の構造には、統合された環境ですぐに立ち上げられるという利点があります。一方で、画面まわりを一つ変えるだけでも業務ロジックへの影響確認が必要になり、改修に時間がかかりがちです。従来型のシステムでは、見た目やユーザー体験の更新に多くの時間がかかり、手順も複雑になりやすいと整理されています*3。市場の変化に合わせて画面を素早く磨き込みたい事業ほど、この制約が重くのしかかってきます。
販売チャネルの広がりも課題を大きくしています。今日の顧客は、Webサイトだけでなく、モバイルアプリ、実店舗、マーケットプレイス、SNS、音声アシスタントなど、さまざまな接点でブランドと接します*3。チャネルごとに別々のECを用意していると、在庫や価格、商品情報の管理が分断され、顧客に見せる情報がそろわなくなりかねません。本稿では、こうした一体型ECの制約を解きほぐす「ヘッドレスコマース」について、公式ドキュメントなどの一次情報をもとに整理し、従来型ECやヘッドレスCMSとの違い、外注時の確認点まで解説します。
ヘッドレスコマースとは、表示と取引処理をAPIで分離するEC基盤
ヘッドレスコマースとは、ECの表示層(フロント、いわゆる「ヘッド=頭」)と、業務ロジックを担うバックエンド(「ボディ=体」)を切り離すEC基盤の設計を指します*3。フロントには商品画面や購入導線といったユーザーインターフェースが含まれ、バックエンドにはカート、在庫、価格、決済といった取引処理が含まれます。両者を分離し、その間をAPIでつなぐのが基本的な考え方です。
ここでいうAPI(Application Programming Interface)とは、複雑な処理を呼び出しやすい形で外部に提供するための仕組みです*1。Web上でデータをやり取りするAPIの多くは、HTTPを使ったREST(Representational State Transfer)と呼ばれる設計に沿って構築されます*2。RESTは、標準的なWebの仕組みで呼び出せる、言語に依存しないインターフェースとして広く使われています*2。ヘッドレスコマースでは、フロントがこうしたAPIを通じてバックエンドの取引処理を呼び出す形になります。
この分離によって、フロントとバックエンドを別々に開発・更新できるようになります。市場の変化に合わせて画面側だけを作り替えたり、逆にバックエンドを入れ替えたりといった対応が取りやすくなるわけです*3。実装例として公開されているものを見ても、認証、顧客データ、商品データ、価格、カート、チェックアウト、注文取り込みといった取引の中核機能がAPIとして提供されています*4。
もう一つの特徴が、複数チャネルへの配信のしやすさです。フロントとバックエンドを切り離しておくと、Webサイト、モバイルアプリ、SNS、音声エンゲージメント、店舗端末といった多様なチャネルに対して、同じ取引ロジックを使いながら一貫した体験を届けやすくなります*3。表示側は各チャネルに合わせて自由に作り込み、取引処理は共通化するという役割分担が可能になる点が、ヘッドレスコマースの核といえるでしょう。バックエンドのコマースエンジンにAPIを通じて任意のフロントをつなぎ、Web・モバイル・店舗端末など多様な接点を同じ取引ロジックで動かすという整理は、コマース専業ベンダーの解説でも共通しています*5。
従来型一体EC・ヘッドレスCMSとの違い——分離する対象はどこまでか
ヘッドレスコマースは、「従来型の一体型EC」や「ヘッドレスCMS」と混同されやすい概念です。しかし、何を分離し、何を扱うのかという点で役割が異なります。ここを整理しておかないと、要件定義の段階で対象範囲がぶれてしまいます。
従来型一体EC(モノリシック)との違い——密結合か、疎結合か
従来型の一体型ECは、モノリシックとも呼ばれ、すべての構成要素が密接に結びついた構造です*3。フロントとバックエンドが一体になっているため、統合環境として扱いやすい反面、一部を変更するとほかの部分に影響が及びやすく、更新に手間がかかります*3。これに対してヘッドレスコマースは、フロントとバックエンドを分けて別々に構築・更新できる設計であり、市場の変化に適応しやすい点が違いになります*3。
ヘッドレスCMSとの違い——扱うのはコンテンツか、取引処理か
ヘッドレスCMSは、記事やページといったコンテンツの管理を表示層から切り離し、APIで配信する仕組みです。当サイトでも「Strapiでヘッドレスなコンテンツ基盤を構築する」といったテーマで解説しています。一方、ヘッドレスコマースが切り出すのはコンテンツではなく、カート・在庫・価格・決済・注文といった「取引処理」です*4。商品を選び、カートに入れ、価格を計算し、決済して注文を確定するという一連の業務ロジックをAPIで提供する点が、コンテンツ配信を主目的とするヘッドレスCMSとの決定的な違いになります。実際のサイト構築では、ヘッドレスコマースとヘッドレスCMSを組み合わせ、商品情報や取引はコマース側、記事や特集ページはCMS側で扱うといった構成も取られます。
三者の違いを整理すると、次の通りです。
| 観点 | 従来型一体EC | ヘッドレスCMS | ヘッドレスコマース |
|---|---|---|---|
| フロントとバックの関係 | 密結合(一体)*3 | 分離(APIで配信) | 分離(APIで連携)*3 |
| 主に扱う対象 | 表示と取引を一括 | 記事・ページなどコンテンツ | カート・在庫・価格・決済など取引*4 |
| 改修の自由度 | 影響範囲が広く手間がかかる*3 | 表示側を独立して更新しやすい | フロント・バックを別々に更新*3 |
| 複数チャネル配信 | チャネルごとに個別対応になりがち | コンテンツを各チャネルへ配信 | 取引ロジックを共通化し多チャネルへ*3 |
いずれが優れているという話ではなく、目的に応じた使い分けが前提になります。表示の作り込みを重視しつつ取引の共通化を図りたいならヘッドレスコマース、コンテンツ配信が主眼ならヘッドレスCMS、素早く立ち上げたいなら一体型、といった具合に、自社の狙いから逆算して選ぶことが大切です。
ヘッドレスコマースの構成要素——API・コンポーザブル・オムニチャネル
ヘッドレスコマースを検討するには、それを形づくる主な構成要素を押さえておく必要があります。ここでは、取引を提供するAPI、機能を組み合わせるコンポーザブルコマース、複数チャネルへの配信、そして既存の基幹・OMSとの連携という4つの観点から整理します。
取引を提供するAPI——カート・価格・決済を呼び出す窓口
ヘッドレスコマースの中心にあるのが、取引処理をフロントに提供するAPIです。ヘッドレスコマースは、拡張性が高く摩擦の少ない購買体験を実現するための、API駆動のフレームワークとして位置づけられています*4。APIは業務ロジックを包む窓口として機能し、フロント側はこの窓口を通じて処理を呼び出します*4。具体的には、認証、顧客データ、商品データ、価格、カート、チェックアウト、注文取り込みといった中核シナリオがAPIとして提供されます*4。こうしたAPIをHTTPで呼び出せるよう、RESTなどの標準的な設計に沿って構築するのが一般的です*2。
コンポーザブルコマース——必要な機能を部品として組み合わせる
ヘッドレスの考え方をさらに進めたものが、コンポーザブルコマースです。コンポーザブルコマースは、必要な構成要素をベンダーの垣根を越えて選び、自社に合わせたEC環境を組み上げる考え方を指します*3。決済、分析、ロイヤルティ、検索といった機能を、それぞれ最適なサービスを部品として選び、APIファーストの発想でつなぎ合わせます*3。この考え方の背景には、マイクロサービス・APIファースト・クラウドネイティブ・ヘッドレスという設計原則の頭文字をとった「MACH」と呼ばれる潮流があります*6。ヘッドレスとコンポーザブルは重なりつつも同じではなく、コンポーザブルな構成はいずれもヘッドレスである一方、ヘッドレスであってもそのすべてがコンポーザブルとは限らない、という関係にあります*6。取引の中核だけをヘッドレス化するのか、周辺機能まで部品化してコンポーザブルに組み上げるのかは、要件を左右する分かれ目です。
オムニチャネル配信——複数の接点へ一貫した体験を届ける
フロントとバックエンドを分離しておくと、一つの取引基盤から複数のチャネルへ配信しやすくなります。Webサイト、モバイルアプリ、コールセンター、店舗、マーケットプレイス、SNS、会話型コマースといった多様なチャネルが、同じコマースAPIを利用して一貫した体験を実現する構成が示されています*4。顧客がどの接点から接しても、在庫や価格、商品情報がそろった状態で買い物ができる——このオムニチャネルの実現しやすさが、ヘッドレスコマースを採用する大きな動機の一つになっています*3。
既存の基幹・OMSとの連携——社内システムとつなぐ
ECは単独で完結するものではなく、社内の基幹システムや在庫、注文管理(OMS)とのデータのやり取りが欠かせません。取引データやマスターデータは、バックオフィスとチャネルの間で相互にやり取りされます*4。ヘッドレスコマースでは、これらの連携もAPIを介して設計するのが基本です。パートナー製のアプリや各種コネクタが同じAPIを利用できる構成も想定されており*4、既存資産をどこまで活かし、どこを新設するかが設計の要点になります。連携の対象と方式を早い段階で見極めておくことが、後戻りを防ぐ鍵といえます。
ヘッドレスコマースの開発を外注する際に確認したいこと
ヘッドレスコマースは、分離ゆえに自由度が高い一方、フロント・API・バックエンド・外部連携と関わる範囲が広く、設計次第で工数が大きく変わります。開発を外注する際は、次の点を委託先とすり合わせておくと、認識のずれを抑えやすくなります。
対象とするフロントとチャネルの範囲を明確にする
まず、どのフロントを対象にするのかを定めます。Webサイトのみなのか、モバイルアプリや店舗端末まで含むのか、将来的にどのチャネルへ広げたいのかを整理しておくことが出発点です*3。対象チャネルによってAPIに求められる機能や性能が変わるため、範囲があいまいなままだと見積りが揺れやすくなります。自社の販売接点を棚卸しし、優先度を委託先と共有しておきましょう。
既存の基幹・OMSとの連携方式を設計する
ヘッドレスコマースは、既存の基幹システムやOMS、在庫管理などとデータを連携させて動きます*4。連携の対象、方式、データの持ち方を早い段階で設計しておくと、二重入力や整合性のずれを防ぎやすくなります。既存システムの改修範囲を、あわせて見積りに含めることが大切です。どのマスターデータをどちらを正とするか、といった整合ルールも先に決めておきたいところです。
コンポーザブル化の度合いを見極める
取引の中核だけをヘッドレス化するのか、決済や検索、分析といった周辺機能まで部品として組み合わせるのかによって、必要な設計と統合の手間は変わります*3*6。多くの部品を組み合わせるほど柔軟になる反面、それぞれのAPI連携や運用の負荷は増えていきます。自社にとって必要な柔軟性はどこまでか、どのコンポーネントを内製し、どこを既製サービスに任せるかを、委託先と早めに検討しておくとよいでしょう。
運用・保守とドキュメントの体制を見据える
ヘッドレスコマースは複数のコンポーネントとAPIで構成されるため、稼働後の運用・保守の設計も重要です。APIの認証やバージョン管理、障害時の切り分け、各コンポーネントの更新方針をどう扱うかを確認しておきます。稼働後の内製移管を見据えるなら、API仕様や連携設計のドキュメントがどこまで整備されるかも見ておきたい点です。作り切りで終わらせず、変化に追随できる体制を含めて委託範囲を定めることが、長く使えるEC基盤につながります。
まとめ:ヘッドレスコマースでEC基盤を柔軟にする要点
本稿では、ヘッドレスコマースの考え方と構成要素を、公式ドキュメントなどの一次情報に沿って整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、ヘッドレスコマースはECの表示層と、カート・在庫・価格・決済といった取引処理をAPIで分離する設計であり、フロントとバックエンドを別々に更新できる点に特徴があります*3*4。第二に、コンテンツを扱うヘッドレスCMSや密結合の従来型一体ECとは、分離する対象と改修の自由度が異なり、機能を部品として組み合わせるコンポーザブルコマースへと発展させることもできます*3*6。第三に、外注時は対象とするフロントとチャネルの範囲、既存の基幹・OMSとの連携、コンポーザブル化の度合い、運用・保守体制が確認の軸になります。自社の販売接点と既存システムを棚卸ししたうえで、どこまでを分離し部品化するかを見極めることが、外注判断の出発点になるといえるでしょう。
よくある質問
ヘッドレスコマースとヘッドレスCMSはどう違いますか。
ヘッドレスCMSは記事やページといったコンテンツの管理を表示層から切り離し、APIで配信する仕組みです。一方、ヘッドレスコマースが切り出すのはコンテンツではなく、カート・在庫・価格・決済・注文といった取引処理です*4。商品を選んで購入を確定するまでの業務ロジックをAPIで提供する点が、コンテンツ配信を主目的とするヘッドレスCMSとの違いになります。両者を組み合わせて使う構成もよくあります。
従来型の一体型ECと比べて、ヘッドレスコマースの利点は何ですか。
従来型の一体型ECはフロントとバックエンドが密結合しているため、一部の変更がほかに影響しやすく、更新に手間がかかります*3。ヘッドレスコマースはフロントとバックエンドを分離し、別々に構築・更新できる設計です*3。市場の変化に合わせて画面側を素早く磨き込みやすく、複数チャネルへ一貫した体験を届けやすい点が利点になります*3。
コンポーザブルコマースとヘッドレスコマースは同じものですか。
重なる部分はありますが、同じではありません。コンポーザブルコマースは、必要な機能をベンダーの垣根を越えて部品として選び、組み合わせる考え方です*3。コンポーザブルな構成はいずれもヘッドレスである一方、ヘッドレスであってもそのすべてがコンポーザブルとは限りません*6。取引の中核だけを分離するのか、周辺機能まで部品化するのかで、設計や統合の手間が変わってきます。
既存の基幹システムやOMSとは連携できますか。
連携を前提に設計するのが一般的です。ヘッドレスコマースでは、取引データやマスターデータをバックオフィスとチャネルの間でやり取りします*4。パートナー製のアプリやコネクタが同じAPIを利用できる構成も想定されています*4。連携の対象と方式、どのデータを正とするかを早い段階で設計しておくと、二重入力や整合性のずれを防ぎやすくなります。
ヘッドレスコマースの開発を外注する場合、何を確認すればよいですか。
対象とするフロントとチャネルの範囲、既存の基幹・OMSとの連携方式、コンポーザブル化の度合いが、まず確認したい項目です*3*4。加えて、API仕様や連携設計のドキュメント整備、稼働後の運用・保守や内製移管のしやすさもすり合わせておくと、後戻りを抑えやすくなります。自社の販売接点と既存システムを棚卸ししたうえで、優先度を共有することが出発点です。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:MDN Web Docs「Introduction to web APIs」(Mozilla)(https://developer.mozilla.org/en-US/docs/Learn/JavaScript/Client-side_web_APIs/Introduction)
- *2 出典:MDN Web Docs「REST(用語集)」(Mozilla)(https://developer.mozilla.org/en-US/docs/Glossary/REST)
- *3 出典:Microsoft Learn「Architecture for Composable Commerce for E-Commerce Success」(Dynamics 365 Guidance)(https://learn.microsoft.com/en-us/dynamics365/guidance/reference-architectures/composable-commerce-architecture)
- *4 出典:Microsoft Learn「Headless commerce architecture」(Dynamics 365 Commerce)(https://learn.microsoft.com/en-us/dynamics365/commerce/dev-itpro/retail-server-architecture)
- *5 出典:commercetools「What Is Headless Commerce And Why Does It Matter?」(commercetools GmbH)(https://commercetools.com/mach-architecture/headless-commerce )
- *6 出典:commercetools「The Differences Between Composable, Headless and MACH」(commercetools GmbH)(https://commercetools.com/blog/the-differences-between-composable-headless-and-mach )