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2026.08.19 らしくコラム

秘密計算とは|データを見せずに計算する技術

他社とデータを持ち寄って分析したい。でも、生のデータをそのまま渡すのは、さすがにためらわれる——。あるいは、機微なデータをクラウドで処理したいが、中身を見られたくない。そんな悩みに応える技術が「秘密計算」です。ひとことでいえば、データの中身を見せないまま、計算だけを行う仕組みになります。ふつうは、計算をするために、いったんデータの中身を見せる必要があります。秘密計算は、その常識をくつがえし、隠したまま計算し、結果だけを取り出すことを狙った技術なのです。

とはいえ、暗号などの数学が関わるため、言葉だけではつかみにくい面もあります。本記事では、データの活用やプライバシー保護に携わる情報システム部門・事業部門の担当者に向けて、秘密計算とは何か、どんな方式があるのか、何がうれしいのか、先に取り上げた機密コンピューティングとどう違うのか、そして受託・委託開発で押さえるべき点を整理します。なお、本記事は一般的な情報の整理です。方式の適否や成熟度は用途によって変わるため、具体は公式情報や専門家にご確認ください。

秘密計算とデータを見せずに計算する仕組みを表すイメージ

秘密計算とは——中身を見せずに計算する

秘密計算とは、データの中身を隠したまま、その上で計算を行う技術の総称です。プライバシーを守る技術の一つとして、近年、関心が高まっています。ふだんのコンピューターは、足し算でも集計でも、いったんデータの中身をメモリ上で扱ってから計算します。つまり、処理の最中は中身が見える状態になりがちです。秘密計算は、ここに切り込みます。データを暗号などで隠したまま計算し、答えだけを取り出す。生のデータを、計算する側にも見せずにすませようという発想です。

身近なたとえでいえば、中身の見えない封筒に入れたまま、いくつかの金額を足し合わせ、合計だけを受け取るようなものです。渡す側は中身を明かさず、受け取る側は合計だけを知る。秘密計算がめざすのは、こうした「見せずに、活かす」やり方になります。データは守りたい、でも活用もしたい——その二つを両立させる手立てとして、注目を集めているのです。全体像を図にまとめました。

秘密計算がデータの中身を見せずに計算する仕組み・準同型暗号とMPC・機密コンピューティングとの違いを示す図

この記事のポイント

  • 秘密計算は、データの中身を隠したまま計算し、結果だけを取り出す、プライバシーを守る技術です。
  • 主な方式は、暗号化したまま計算する「準同型暗号」と、複数社が生データを見せずに計算する「秘密分散・MPC」です。
  • ハードウェアで隔離する機密コンピューティングとは守り方が異なり、計算の負荷や方式の見極めが要ります。

主な2つの方式

秘密計算を支える代表的なやり方は、大きく二つに分けられます。全体像を一覧にまとめました。

方式 おおまかな仕組み
準同型暗号 データを暗号化したまま計算し、結果も暗号化された形で受け取る
秘密分散・マルチパーティ計算(MPC) 複数の当事者が、互いに生データを見せずに、一緒に計算する

一つ目が「準同型暗号」です。これは、データを暗号化したまま計算できる、風変わりな暗号を使います。ふつうの暗号は、計算するには一度もとに戻す(復号する)必要がありますが、準同型暗号なら、暗号化されたまま足したり掛けたりでき、その結果もやはり暗号化された形で得られます。暗号の基礎を踏まえると、その特別さが分かりやすいでしょう。二つ目が「秘密分散・マルチパーティ計算(MPC)」になります。こちらは、複数の当事者が、それぞれ手元のデータを外に出さずに、力を合わせて一つの計算をやり遂げる仕組みです。互いを深く信頼していなくても、まるで信頼できる第三者に任せたかのように、答えだけを共有できます。目的や状況に応じて、これらの方式が使い分けられます。

何がうれしいのか——データを持ち寄らずに活かす

秘密計算の値打ちは、「データを外に出さずに、活かせる」点に尽きます。とりわけ持ち味を発揮するのが、複数の組織にまたがるデータ連携です。たとえば、複数の会社や機関が、それぞれの機微なデータを一つにまとめて分析したい、という場面。ふつうなら、生データを一か所に集める必要があり、そこに漏えいや目的外利用の不安がつきまといます。秘密計算を使えば、生データを持ち寄らずに、必要な分析結果だけを得ることが目指せるのです。

この考え方は、機械学習とも相性がよく知られています。データを一か所に集めずに学習を進める連合学習と組み合わせるなど、プライバシーを守りながらデータを活かす取り組みが広がりつつあります。金融機関どうしでの不正の検知や、医療機関にまたがる研究など、一社だけでは見えないものを、データを明かさずにつかむ。そうした場面で、秘密計算は新しい可能性を開きます。守りと活用は相反しがちですが、その間をつなぐ橋渡しになる技術だといえます。

機密コンピューティングとの違い

データを守りながら処理する技術としては、先に取り上げた機密コンピューティングもあります。両者はねらいが似ているため、混同されがちですが、守り方は大きく異なるのです。この違いを押さえておくと、使い分けの見通しが立ちます。機密コンピューティングは、ハードウェアの力で処理の場を隔離し、その「箱」の中でデータを扱う技術です。箱の中では、データはいったん元の姿に戻して処理されます。守っているのは、あくまで隔離された箱の内側です。

これに対して秘密計算は、暗号などの数学の力で守ります。データは隠されたまま計算され、処理する側にも中身は見えません。いわば、機密コンピューティングが「頑丈な部屋の中で扱う」なら、秘密計算は「中身を隠したまま扱う」というイメージです。どちらが優れているという話ではなく、前提や得手不得手が異なります。両者を組み合わせて、守りを重ねる考え方もあるのです。自社が何を、どこまで守りたいのかに応じて、適した方を選ぶ、あるいは併せて使うことになります。

使いどころと、気をつける点

秘密計算が向くのは、これまで見てきたとおり、複数社でのデータ連携や、機微なデータの分析・学習といった場面です。生のデータを外に出したくない、けれども、そこから価値は引き出したい——そんな動機がある場合に、選択肢に上がります。近年は、扱える処理の幅や速さも少しずつ広がってきました。

いっぽうで、気をつけたい点もあります。まず、計算の負荷です。中身を隠したまま計算するぶん、ふつうに計算するより、時間や処理の重さがかさみやすくなります。とりわけ、あらゆる計算に対応する高機能な準同型暗号は、負荷が大きくなりがちです。用途に見合うかを、よく見極める必要があります。次に、方式の選定です。準同型暗号とMPCでは、得意な場面や前提が異なるため、やりたいことに合わせて選ぶことが欠かせません。そして、これを入れれば守りが万全になるわけではない点も、忘れずにおきたいところです。全体の設計のなかで、どこに秘密計算を効かせるかを見定める姿勢が大切になります。

受託・委託開発で押さえる実務ポイント

秘密計算の活用を外部と進める場合は、いくつかの点をすり合わせておくと見通しが立ちます。まず、何を守りたくて、何を得たいのかの整理です。守りたいデータと、そこから引き出したい結果をはっきりさせると、そもそも秘密計算が見合うのか、見合うならどの方式か、という判断の土台ができます。目的があいまいなまま高度な技術に飛びつくと、負荷ばかりが大きくなりかねません。

次に、方式の選定と性能の見極めです。準同型暗号とMPCのどちらが用途に合うか、処理の重さは実用に足るかを、小さく試しながら確かめていくと危なげがありません。あわせて、機密コンピューティングなど、ほかの守り方とどう組み合わせるかも、視野に入れておきたいところです。何を守るかの整理から、方式の選定、性能の検証、他の技術との組み合わせまでを見通して一緒に描ける相手だと、任せたあとも落ち着いて進めやすくなります。

まとめ:秘密計算で押さえる3つの視点

秘密計算は、データを守りながら活かす、という二つの願いをつなぐ技術です。押さえておきたい視点は三つに整理できます。第一に、秘密計算はデータの中身を隠したまま計算し、結果だけを取り出す、プライバシーを守る技術であること。第二に、主な方式は、暗号化したまま計算する「準同型暗号」と、複数社が生データを見せずに計算する「秘密分散・MPC」であり、データを持ち寄らずに活かせること。第三に、ハードウェアで隔離する機密コンピューティングとは守り方が異なり、計算の負荷や方式の見極めが要ることです。まずは、自社が何を守りたくて、何を得たいのかを見定めるところから。判断に迷う部分があれば、公式情報の確認とあわせて、外部の知見を頼るのも堅実な選び方といえます。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、元請(プライムベンダー)として、データの活用や分析基盤の開発を、プライバシーの守りまで含めて一貫して受託しています。何を守りたく、何を得たいのかの整理から、準同型暗号やMPCといった方式の選定、性能の検証、機密コンピューティングなど他の技術との組み合わせまで、秘密計算の活用を見据えてご提案できるのが強みです。どこから手を付けるべきか、現状把握の段階からご相談いただけます。

よくある質問

秘密計算は、ふつうの暗号化と何が違うのですか。

扱える範囲が違います。ふつうの暗号化は、保存中や通信中のデータを守るもので、計算するにはいったん元に戻す必要があります。秘密計算は、データを隠したまま計算までできる点が特徴です。とくに準同型暗号は、暗号化されたまま足したり掛けたりでき、結果も暗号化された形で得られます。処理の最中も中身を見せずにすむわけです。

準同型暗号とMPCは、どう使い分けるのですか。

得意な場面が異なります。準同型暗号は、暗号化したデータを預けて計算してもらう、といった使い方に向くものです。MPC(マルチパーティ計算)は、複数の当事者が、それぞれ手元のデータを見せずに一緒に計算する場面に向きます。やりたいことや、関わる当事者の構図に応じて選ぶわけです。両方を組み合わせる場合もあります。

機密コンピューティングとは、どちらを使えばよいのですか。

前提が違うため、目的で選びます。機密コンピューティングはハードウェアで処理の場を隔離して守り、秘密計算は暗号などの数学でデータを隠したまま計算するのです。負荷や導入のしやすさ、どこまで基盤を信頼できるかによって、向き不向きが変わるわけです。どちらか一方に限らず、組み合わせて守りを重ねる考え方もあります。

処理は遅くならないのですか。

負荷は大きくなりやすいです。中身を隠したまま計算するぶん、ふつうに計算するより時間や処理の重さがかさみがちで、とりわけ高機能な準同型暗号はその傾向が強くなります。近年は改善も進んでいますが、用途に見合うかの見極めは欠かせません。小さく試して、実用に足るかを確かめる進め方が現実的です。

まず何から着手すればよいですか。

何を守りたくて、何を得たいのかの整理から始めるとよいでしょう。守りたいデータと、引き出したい結果をはっきりさせると、秘密計算が見合うか、見合うならどの方式かの判断がしやすくなります。そのうえで、小さく試して性能を確かめ、他の守り方との組み合わせも検討します。判断に迷う部分は、公式情報の確認と専門家への相談を組み合わせるのが堅実です。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑

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元請(プライムベンダー)として、守りたい対象の整理から、方式の選定・性能の検証・他技術との組み合わせまで、貴社のデータ活用に合わせてご提案します。まずはお気軽にご相談ください。

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  1. *1 参考:NIST「Privacy-Enhancing Cryptography (PEC)」(https://csrc.nist.gov/projects/pec)。準同型暗号・マルチパーティ計算などの一般的な参考として。
  2. *2 参考:NIST「Fully-Homomorphic Encryption (FHE)」(https://csrc.nist.gov/projects/pec/fhe)。暗号化したまま計算する考え方の参考として。


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