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生成AIの個人利用の引き継ぎ|異動後も同じ資料を作る記録
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 生成AIの組織での利用状況では、「個人で業務利用している」が63.3%で最も高い項目でした。
- 「部署の業務プロセスに組み込まれている」は11.9%にとどまり、使い方の多くは手順書に書かれていません。
- 引き継ぎでは、何に使い、手順のどこで使い、どう確かめ、何を入れないかの4つを記録に残します。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
担当者が異動したあと、同じ資料が同じ速さで作れなくなった。手順書には「調べて書く」としか書かれていないのに、前任者は生成AIに下書きを作らせてから手で直していた——。生成AIを取り入れ始めた職場では、こうした食い違いが起こりがちです。IPA(情報処理推進機構)の調査でも、生成AIの組織での利用状況でいちばん多いのは「個人で業務利用している」で、63.3%でした。*2 生成AIの個人利用とは、会社の手順や仕組みに組み込まれないまま、社員一人ひとりが自分の判断で業務に生成AIを使っている状態を指します。
個人利用は、会社の仕組みが整うのを待たずに始められる使い方です。ただし万能ではなく、使っていた本人が離れると、どの作業にどう使っていたかが手順書に残りません。本記事では、開発チームの体制づくりを担当する方に向けて、個人利用と組織での利用の違い、調査に表れた生成AIの使われ方、引き継ぎで残しておきたい4つの記録、そして記録づくりを外部の人に頼むときに確認したい点を整理します。
目次
個人利用と組織での利用の違い
IPAの調査は、生成AIの組織での利用状況を4つの形に分けて尋ねています。「個人で業務利用している」「個人や部署で試験利用している」「部署の業務プロセスに組み込まれている」「全社的なサービスに組み込まれている」の4つです。前の2つは、組織の手順に組み込まれていない使い方です。後の2つは、生成AIを使う工程が、部署の手順や全社で使うサービスの中に入っている使い方です。
引き継ぎで差が出るのは、この違いです。全社のサービスとして入っていれば、後任も同じものを使えます。部署の手順に入っていれば、手順書を読めば、どの工程で生成AIを使うのかが分かります。個人利用では、どの作業で使い、出てきたものをどう確かめていたかは、使っていた本人しか知りません。
引き継ぎでは、担当していた作業を一覧にするのが普通です。仕様の確認、資料の作成、テストの実行のように、名前のついた作業は書き出せます。一方で、資料の作成のうち下書きを生成AIに作らせていた部分は、作業の名前には表れません。担当者が離れると、作業の一覧は残っても進め方は残らず、後任は同じ品質で仕事を進めるために、進め方を最初から作り直すことになります。
記録が残らないこと自体は、生成AIに限った話ではありません。ノウハウの蓄積や共有の難しさを別の調査から見た記事として「ノウハウの蓄積・共有の課題を立場別に見た記事」もあわせてご覧ください。
調査に表れた生成AIの使われ方
IPAの「DX動向2026」は、2026年4月17日から6月12日にかけて日本の企業を対象に行った調査をまとめた資料で、2026年7月30日に公開されました。*1 調査対象数は10,000、有効回答数は1,799です。*3 ここで取り上げる設問は、生成AIやAIを「導入している」「現在、試験利用をしている」「利用に向けて検討を進めている」と答えた企業に尋ねたもので、まだ手を付けていない企業は含まれていません。*2
生成AIの組織での利用状況は、「個人で業務利用している」が63.3%で最も高く、「個人や部署で試験利用している」が44.8%で続きました。*2 「全社的なサービスに組み込まれている」は18.6%、「部署の業務プロセスに組み込まれている」は11.9%です。63.3%を11.9%で割ると、個人で業務利用している割合は、部署の業務プロセスに組み込まれている割合の約5.3倍になります。
資料も、生成AIの利活用は個人利用と試験利用が中心で、組織的・戦略的な利活用に至っている企業はまだ少ないと述べています。*2 いずれの項目も、2024年度の傾向と大きな変化はないとされています。
生成AIで業務がどう変わるかを、企業がどこまで把握しているかは「AIで変わる業務の把握を扱った記事」で取り上げています。
どの部署で使われているのか
生成AIを利用している部署では、ITシステムが71.9%で最も高く、経営企画が69.0%、総務・法務が68.4%と続きます。*2 一方で、製造(設計、生産管理を含む)は35.7%、調達は31.3%、流通は23.9%でした。資料は、バックオフィス系・管理系部門(総務・法務や経営企画など)での利活用が先行し、現場業務に近い部署では相対的に低い水準にとどまっているとまとめています。
開発チームにとって見逃せないのは、ITシステムの部署がいちばん高いことです。開発や運用の担当者が異動や退職で離れるときは、その人も生成AIを何らかの形で使っていたと考えて準備しておきます。引き継ぎの一覧を作る前に、生成AIを使っていた作業があるかを本人に尋ねておくと、あとで進め方が分からなくなるのを防げます。
なお、AIエージェント(指示を受けて作業を自動で進めるAI)の利用は、いずれの部署でも低い水準にとどまるとされています。*2 いま引き継ぎで気にかけたいのは、社員が自分で指示を書き、出てきた答えを自分で直して使う生成AIの使い方です。
社内ルールとリスク管理の整備状況
AIの社内ルールについては、「社内ガイドラインやルールは全社的なものを定めている」が32.5%、「AIポリシーを定め、社内に周知している」が28.8%でした。*2 「どちらも定めていない」は16.7%で、6社に1社ほどになります。「AIポリシーを定め、社外に公表している」は3.7%です。資料は、AI導入が急速に広がる中で、ガバナンス(ルールづくりと管理の仕組み)の整備が追いついていない企業が一定数あると述べています。
「AIや生成AI独自のリスクマネジメントを実施している」は14.2%にとどまりました。*2 資料は、生成AIにはハルシネーション(事実と異なる内容をもっともらしく出力すること)や学習データの情報漏洩などのリスクが挙げられている中でも、リスク対策はまだ途中の段階だとしています。
ルールが無い職場では、何を生成AIに入力してよいかの判断も、担当者ごとに違っていることになります。前任者が入力を避けていた顧客の情報を、後任が知らずに入力してしまうこともあり得ます。引き継ぎの記録には、使い方だけでなく、入力してはいけないものも書いておきます。
引き継ぎで残す4つの記録
生成AIの個人利用を引き継ぎで残すには、次の4つを記録しておきます。1つ目の一覧がないと、2つ目以降を何について書くのかが決まらないので、上から順に書いていきます。
| 記録 | 書く内容の例 |
|---|---|
| 1 何に使っているかの一覧 | 担当者ごとに、生成AIを使っている作業を1行ずつ書き出す(仕様の確認、資料の下書きなど) |
| 2 どの手順のどこに入っているか | 下書きを作る段階か、確認の段階かを、既存の手順書の該当する行に書き添える |
| 3 出てきたものをどう確かめるか | 生成AIが出した下書きのどこを目で確認し、何と照らし合わせて直しているかを書く |
| 4 入れてはいけないもの | 顧客の情報や未公開の仕様など、生成AIに入力してはいけない情報を明記する |
1つ目と2つ目は、個人の使い方を部署の手順に近づけるための記録です。手順書の行に「この段階で生成AIに下書きを作らせる」と一言添えるだけでも、後任は作業の流れを追えるようになります。
3つ目は、後任が同じ品質を保つための記録です。前任者が、出てきた下書きのどこを確かめ、何と照らし合わせて直していたかが分かれば、後任も同じ確認から始められます。4つ目は、社内ルールの整備が追いついていない職場ほど欠かせません。ルールが無ければ、入力してよい情報の判断は担当者ごとに違ったままになるからです。
つまずきやすい点
一つ目は、担当者が離れると決まってから記録を書き始めることです。後任や周りの社員は、進行中の案件を進めながら記録を書くことになり、記録は後回しになりがちです。本人に確かめる時間も足りなくなります。生成AIを使い始めた時点で、何に使っているかの一覧(1つ目の記録)だけでも作っておくと、引き継ぎのときに慌てずに済みます。
二つ目は、全社のサービスとして生成AIが入っていれば、引き継ぎで書くことは無いと考えてしまうことです。同じサービスを使えても、どの作業で使い、出てきたものをどう確かめていたかは担当者ごとに違います。出てきたものの確かめ方(3つ目の記録)は、全社のサービスを使っている場合にも残しておきます。
三つ目は、記録の整備を外部の人に任せるときに、入力してはいけないものの線引きまで任せてしまうことです。何を生成AIに入力してはいけないかは、自社の顧客や契約の中身を知らない人には決められません。入力してはいけないもの(4つ目の記録)は社内で決め、そのうえで、作業の一覧や手順の書き起こし、確認の手順を文書にする作業を手伝ってもらう形にします。
まとめ:生成AIの引き継ぎで確かめたい3つの点
生成AIの個人利用を引き継ぎで残すうえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、担当者が生成AIをどの作業で使っていたかを一覧にし、手順書の該当する行に書き添えること。第二に、出てきたものをどこで確かめ、何と照らし合わせて直していたかを書き残すこと。第三に、生成AIに入力してはいけない情報を社内で決め、記録に明記することです。この3点を踏まえておけば、「前任者と同じ資料が、後任には同じ速さで作れない」という事態を避けやすくなります。記録を書く人手や進め方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
生成AIの使い方の記録は、誰が書けばよいですか
使っている本人が書くのが基本です。本人が離れる前に書けなかった場合は、後任が実際に作業を回しながら、前任者の成果物と手順書を照らし合わせて書き起こします。入力してはいけない情報だけは、本人ではなく部署として決めておきます。
記録はどのタイミングで見直せばよいですか
生成AIを使う作業が増えたときや、使う生成AIのサービスを変えたときに見直します。担当者の異動や退職が決まってから見直すと、本人に確かめる時間が足りなくなりがちです。
個人で使っている生成AIを部署の手順に組み込むには、何から始めればよいですか
まず、部署の中で1つ目と2つ目の記録を集めます。同じ作業に複数の人が生成AIを使っていれば、その作業から手順書に書き加えると、部署の手順として扱いやすくなります。
業務委託で加わる人が生成AIを使う場合も、同じ記録が要りますか
要ります。委託先の担当者が交代すると、社員の場合と同じように使い方が残らなくなるためです。契約の前に、生成AIを使うかどうかと、入力してはいけない情報を伝えておくと、あとで記録にまとめやすくなります。
引き継ぎの人手を相談したいとき
記録を書く人手をどう確保するか、任せる作業の決め方から担当が一緒に検討します。
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出典
- *1 参考:IPA「DX動向2026」広がるAI導入、DXは変われるか(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2026.html)。出典:IPA「DX動向2026」の公開ページ。公開日(2026年7月30日)と収録章の構成を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:IPA「DX動向2026」(本文)(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/rcu1hd0000017uk8-att/dx-trend-2026.pdf)。出典:第3章の図表3-6(生成AIの組織での利用状況)、図表3-7(生成AIを利用している部署)、図表3-17・図表3-18(AIポリシー・ガイドラインの整備状況、リスクマネジメントの実施状況)についての本文の記述を参照。集計対象は、生成AIまたはAIの導入状況の設問で「導入している」「現在、試験利用をしている」「利用に向けて検討を進めている」を選択した企業(2026年9月確認)
- *3 参考:IPA「DX動向2026」(データ集)(https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/rcu1hd0000017uk8-att/dx-trend-data-collection-2026.pdf)。出典:調査の概要(調査対象は日本の企業、調査期間2026年4月17日〜6月12日、調査対象数10,000、有効回答数1,799、調査項目60問)を参照。2026年7月30日第1版発行(2026年9月確認)