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既存業種・既存顧客の案件割合|業種経験を求めすぎない採用
監修・編集責任者:牛尾 昭昌(株式会社LASSIC 執行役員)
この記事の結論
- 開発案件の9割前後は、開発する会社がすでに手がけた業種の案件か、取引のある顧客の案件です。
- 業種の知識が要る作業と要らない作業を分ければ、業種の経験を条件にするのは一部の作業の担当者だけで済みます。
- 図表ごとに回答した案件の数が違うため、割合は項目ごとの目安として使います。
※ 本記事は2026年9月時点の公式情報(省庁・公的機関、および製品やサービスを提供する事業者が公開している資料)に基づきます。
遅れている開発案件に人を追加したいが、業種の経験まで求めるべきか迷う。加わる人に求める条件を全部書き出してみたら、当てはまる人がなかなか見つからない——。開発の遅れを取り戻そうとしている現場では、こうした迷いが起こりがちです。手がかりになるのが、案件の性質を集計したデータです。IPA(情報処理推進機構)の資料では、既存業種・業務の案件の割合は94.3%、既存顧客の案件の割合は91.0%でした。*1 既存業種の案件とは、開発する会社がすでに手がけたことのある業種・業務を対象にした案件を指します。
この割合を使うと、社外から加わる人に求める条件を絞り込みやすくなります。ただし、この割合だけで条件を決められるわけではありません。業種の経験がある人を入れれば遅れを取り戻せるかどうかまでは、資料に示されていないためです。本記事では、遅れた案件に人を追加する担当者に向けて、データの中身、既存業種と既存顧客の割合、業種と業務の内訳、そして加わる人の条件を決める手順を整理します。
目次
案件の性質を示すデータとは
使うのは、IPAの「ソフトウェア開発分析データ集2022」です。IPAがこれまでに収集した5,546プロジェクトの定量データから分析した資料で、2022年9月26日に公開され、最終更新は2025年8月28日となっています。*2 事業終了に伴い今後の発行予定はないとされているため、2022年より後の傾向はこの資料では追えません。
本記事で取り上げるのは、本編のA3.1節です。案件の特徴を表す項目のうち、主な項目以外をまとめた節で、開発の形、顧客が新規か既存か、業種・業務が新規か既存か、対象業種、対象業務の5つの図表が並んでいます。*1 規模や工数ではなく、誰に向けて、どんな業務のシステムを作った案件なのかを表す項目です。
注意したいのは、図表ごとに回答した案件の数が違うことです。資料ではこの数をNと呼び、5つの図表のNは1,182から1,479まで幅があります。つまり、5つの図表は同じプロジェクトの集まりを数えたものではありません。そのため本記事では、各項目の中での割合を示すにとどめ、項目どうしの割合を引き算して比べることはしません。
既存業種・既存顧客の割合
業種・業務が新規か既存かを示す図A3-1-3では、既存業種・業務が1,116件、新規業種・業務が68件でした。Nは1,184で、既存業種の割合は94.3%、新規は5.7%です。*1 本編も「既存業種・業務が約95%、新規業種・業務は5%強」と記しています。20件のうち19件は、開発する会社がすでに手がけた業種・業務の案件ということになります。
顧客が新規か既存かを示す図A3-1-2では、既存顧客が1,076件、新規顧客が106件でした。Nは1,182で、既存顧客の割合は91.0%、新規顧客は9.0%です。*1 本編の記述は「既存顧客が9割強、新規顧客は1割弱」です。9割を超える案件で、発注した相手はすでに取引のある顧客だということです。
開発の形を示す図A3-1-1では、注文を受けて作る受託開発が1,310件で、Nの1,468件のうち89.2%を占めました。残りは、市販するソフトを作る商用パッケージ開発が114件で7.8%、その他が26件で1.8%、自社で使うために作るインハウスユースが16件で1.1%、研究や試作のための実験研究試作が2件で0.1%です。*1 本編も、受託開発がほとんど(約9割)を占めると記しています。
対象業種と対象業務の内訳
対象業種を大分類で示した表A3-1-4では、第1回答(案件ごとに最初に挙げられた業種)の合計1,479件のうち、金融・保険業が550件で37.2%といちばん多く、製造業が202件で13.7%、公務が186件で12.6%、情報通信業が148件で10.0%と続きます。*1 この4業種の比率を足し合わせると73.4%になり、全体の4分の3近くを占めます。
残りは、卸売・小売業が101件で6.8%、運輸業が86件で5.8%、医療・福祉が47件で3.2%、電気・ガス・熱供給・水道業が46件で3.1%などで、ほかの9業種は合わせて44件でした。*1
対象業務を20の区分で示した表A3-1-5では、第1回答の合計1,384件のうち、いちばん多い区分が「その他」で292件、21.1%でした。次が営業・販売の221件で16.0%、管理一般の152件で11.0%、顧客管理の115件で8.3%です。*1 いちばん多い区分が「その他」なので、業務の種類だけで案件の中身を絞り込むことはできません。
それでも、営業・販売と顧客管理を合わせると336件になり、2つの区分で2割以上を占めます。続いて会計・経理が92件で6.6%、生産・物流が76件で5.5%、総務・一般事務が72件で5.2%でした。*1 自社の案件の業務を書き出すときは、この区分の名前を使うと資料と比べやすくなります。
なぜ加わる人の条件に関わるのか
遅れた案件に人を追加するとき、候補者探しが止まりやすいのは条件が広すぎる場合です。業種の経験も、使う技術の経験も、参加できる期間も、すべて満たす人を探すことになり、当てはまる候補者がなかなか見つかりません。条件を絞るには、どの作業に業種の知識が要るのかを先に分けておく必要があります。
ここで既存業種の割合が参考になります。既存業種・業務の案件が94.3%ということは、多くの案件では、その業種の仕事を以前に手がけた経験が社内にあることになります。業種の事情を社員に確かめられるのであれば、社外から加わる人全員に同じ業種の経験を求めなくても済みます。ただし、その経験を持つ人がいまも社内にいるかどうかは、この資料には示されていません。その点は、案件の担当者が自社で確かめる必要があります。
反対に、新規業種・業務の5.7%に当たる案件では、社内に業種の事情を尋ねられる相手がいません。この場合は、社外から加わる人にも業種の理解を求めることになります。既存顧客の案件が91.0%であることは、顧客との窓口を誰が担うかを決めるときに役立ちます。相手が初めての取引先でなければ、期日や作業の順番の相談を、顧客とのやり取りに慣れた社員が引き受けやすくなります。
加わる人の条件をどう決めるのか
ここまでのデータを使って、遅れた案件に加わる人の条件を決める手順を4つに分けると、次のようになります。下の表は、5つの項目それぞれで、いちばん多い区分をまとめたものです。
| 項目 | いちばん多い区分 | 比率 | 件数 | N |
|---|---|---|---|---|
| 業種・業務が新規か既存か | 既存業種・業務 | 94.3% | 1,116 | 1,184 |
| 顧客が新規か既存か | 既存顧客 | 91.0% | 1,076 | 1,182 |
| 開発の形 | 受託開発 | 89.2% | 1,310 | 1,468 |
| 対象業種(第1回答) | 金融・保険業 | 37.2% | 550 | 1,479 |
| 対象業務(第1回答) | その他 | 21.1% | 292 | 1,384 |
1つ目は、自社の案件の業種と業務を書き出すことです。表の第1回答と同じように、業種を1つ、業務を1つに絞って書きます。2つ目は、相手が既存の顧客か、初めて取引する顧客かを確かめることです。既存の顧客なら、これまでのやり取りを知る社員に、顧客との相談の窓口を任せられます。新規の業種や新規の顧客であれば、この時点で、業種の理解を条件にする作業を多めに見込んでおきます。
3つ目は、作業を業種の知識が要るものと要らないものに分けることです。たとえば、顧客の業務の決まりを踏まえて仕様を決める作業には業種の知識が要ります。一方で、決まった仕様どおりにプログラムを作る作業やテストの実施には、業種の経験がなくても加われる場合があります。4つ目は、業種の知識が要らない作業を、期間を決めて社外の人に委託することです。
この順番で進めると、業種の経験を求めるのは仕様を決める一部の人だけになり、それ以外の作業では技術と参加できる期間だけを条件にできます。仕様や優先順位は社員が判断し、分けた作業をフリーランスや開発会社に業務委託すれば、遅れを取り戻すまでの数か月だけ人を増やす形も取れます。同じ資料で外部委託の工数を見た記事は「外部委託工数比率とは、中央値63.4%が示す体制の相場」です。
つまずきやすい点
一つ目は、項目どうしの割合を引き算して比べてしまうことです。既存顧客の91.0%と受託開発の89.2%は、Nが1,182と1,468で違うため、その差には意味がありません。既存顧客で、しかも新規業種の案件が何件あるかといった組み合わせの集計も公表されていません。割合は、それぞれの項目の中で使います。
二つ目は、業種の経験がある人を入れれば遅れを取り戻せると考えてしまうことです。この資料には、業種と遅れやすさの関係や、業種の経験と遅れの解消との関係を示す集計はありません。業種の経験は、作業を分けたうえで本当に必要な作業にだけ求めます。条件を増やすほど候補者は減るため、どの作業では業種の経験を「あれば望ましい」程度にするかも決めておきます。
三つ目は、2022年の資料だと忘れることです。直近の傾向ではなく、自社の案件と比べるときの目安として使います。要員が足りないまま古いシステムの刷新を進めたときに何が起きるかは「レガシー刷新を止めるのは理解不足ではなく要員の不足」で扱っています。
まとめ:既存業種の割合で確かめておきたい3つの点
既存業種・既存顧客の割合を、遅れた案件に加わる人の条件づくりに使ううえで、確かめておきたい点は3つに整理できます。第一に、自社の案件が既存業種か新規業種か、既存顧客か新規顧客かを確かめること。第二に、業種の知識が要る作業と要らない作業を分け、業種の経験は要る作業にだけ求めること。第三に、図表ごとにNが違う点と2022年の資料である点を踏まえ、割合を項目ごとの目安として使うことです。この3点を踏まえておけば、「条件を並べすぎて、いつまでも加わる人が決まらない」という事態を避けやすくなります。作業の分け方や人の探し方に迷いがあれば、外部の手を借りるのも一つの選択肢です。
よくある質問
「既存業種」と「既存顧客」は何が違いますか
既存業種は、案件の対象の業種・業務を、開発する会社がすでに手がけたことがあるかどうかを指します。既存顧客は、発注した相手がすでに取引のある顧客かどうかを指します。資料では別々の図表で集計されており、Nも1,184と1,182で違います。*1
特定の業種だけを分析したデータはありますか
あります。IPAは、プロジェクト数の多い金融・保険業、情報通信業、製造業の3業種について、本編と同じ分析をした業種編を公開しています。*2 自社の案件がこの3業種に当たるなら、本編とあわせて見ると比べやすくなります。
資料の図表を社内の説明資料に使ってもよいですか
グラフデータの著作権はIPAが持っており、使用条件に従って使う必要があります。条件では著作権表示の明記が求められており、本記事でも表と図に「Copyright 2022 IPA」を記しています。*3 使う前に、IPAの使用条件を確かめておきます。
新規業種の案件では、どんな人を探せばよいですか
社内に業種の事情を尋ねられる相手がいないので、仕様を決める作業に加わる人には、その業種の理解を条件にするのがおすすめです。一方で、決まった仕様どおりに作る作業やテストは、業種の経験を条件にしなくても任せられる場合があります。作業ごとに条件を分けて探すと、候補者を見つけやすくなります。
遅れた案件に加わる人を探したいとき
どの作業を社外に任せるかの切り分けからご相談いただけます。
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出典
- *1 参考:IPA「ソフトウェア開発分析データ集2022」本編(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/metrics/hjuojm000000c6it-att/000102171.pdf)。出典:本編A3.1節(その他のプロダクトプロファイル)の図A3-1-1〜図A3-1-3、表A3-1-4、表A3-1-5の件数・比率・合計と本編の記述を参照(2026年9月確認)
- *2 参考:IPA「ソフトウェア開発分析データ集2022」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/metrics/metrics2022.html)。出典:公開日(2022年9月26日)・最終更新日(2025年8月28日)、5,546プロジェクトの定量データから分析したこと、今後の発行予定がないこと、業種編3編の対象業種を参照(2026年9月確認)
- *3 参考:IPA「ソフトウェア開発分析データ集2022グラフデータ」(https://www.ipa.go.jp/digital/software-survey/metrics/hjuojm000000c6it-att/000103288.zip)。出典:図表の値の確認と、著作権表示(Copyright 2022 IPA)を参照(2026年9月確認)