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EM・VPoE不足を外部支援で補う進め方|エンジニア組織の課題解決
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- EM(エンジニアリングマネージャー)はピープルマネジメント・デリバリ管理・技術組織の健全化を担い、VPoE(VP of Engineering)は採用・育成・評価制度・組織体制の統括責任者として機能します。テックリードとは「技術設計」ではなく「人と組織のマネジメント」が核心という点で異なります。
- EM/VPoEが不在または育っていない場合、1on1・評価・採用設計がオーナーレスになり、エンジニアのキャリア停滞や離職リスクが生じます。リモート・分散チームではマネジメント負荷がさらに増大します。
- 外部支援による補完アプローチは4種類あります。フラクショナルEM/VPoE、育成体制の伴走支援、技術顧問、評価・採用設計の専門委託です。委託先は「組織設計・1on1・評価制度・採用設計の実績」と「内製移行計画への合意」で評価します。
目次
EMとVPoEの役割——組織マネジメントが専門領域
エンジニアリングマネージャー(EM)とは、エンジニアチームにおけるピープルマネジメント・デリバリ管理・組織の健全性維持を専門とするマネジメント職を指します。技術そのものの設計やアーキテクチャ判断を主業務とするテックリードとは役割が明確に異なります。
EM(エンジニアリングマネージャー)の3つの責任領域
EMの責任領域は大きく3つに整理できます。第一にピープルマネジメントで、メンバーとの定期的な1on1(個別面談)、目標設定・評価、キャリア開発の支援を担います。第二にデリバリ管理で、チームの開発スプリットや進捗把握、ボトルネックの解消をマネジメント視点で行います。
第三に組織の健全性維持です。心理的な発言しやすさの醸成、チームメンバー間の関係性管理、燃え尽きリスクの把握などが含まれます。これらはいずれも「人と組織」に関わるマネジメント機能であり、コードレビューや技術選定を主業務とするテックリード(id1071で詳述)とは本質的に異なります。
VPoE(VP of Engineering)が担う組織全体の統括
VPoE(VP of Engineering、エンジニアリング担当副社長)は、エンジニア組織全体の採用戦略・育成体制・評価制度・組織設計を統括する責任者です。複数のEMチームを束ね、エンジニア組織を事業成長に合わせてスケールさせる役割を担います。
CTOが技術戦略・技術的方向性の意思決定を担うのに対し、VPoEは「その技術戦略を実行できる組織をどう作るか」を担います。採用要件の設計、グレード・レベル定義、評価制度の構築、エンジニア組織のカルチャー形成がVPoEの中心業務となります。
テックリードとEMの違い——技術設計 vs 人のマネジメント
テックリードとEMは混同されやすいポジションですが、専門領域が異なります。テックリードは技術設計・アーキテクチャ判断・コードレビュー・技術的意思決定を主業務とします。一方、EMは1on1・評価・採用設計・組織健全性を主業務とします。
規模が小さいスタートアップでは1人が両方を兼務するケースがありますが、組織が拡大すると「技術専門家」と「組織マネジメント専門家」は分離が必要になります。テックリードの外部支援については別記事(テックリード不足の外部支援補完)で整理しています。
EM/VPoE不在が引き起こすエンジニア組織の課題
エンジニア組織にEM/VPoEが不在であっても、短期的には問題が顕在化しないことがあります。しかし組織の成長や人数増加に伴い、マネジメント機能の欠如が複数の課題として同時に現れてきます。
1on1・評価・採用設計がオーナーレスになる
EM/VPoEが不在の組織では、エンジニアメンバーとの1on1が行われないか、CTOやプロダクトマネージャー(PdM)が片手間で対応する状況になりがちです。1on1の頻度・質が不安定になると、メンバーの悩みや課題が組織に伝わらなくなります。
評価制度も同様です。技術職に適した評価軸(コード品質・設計能力・チームへの貢献・メンタリング)を体系化するには、エンジニア組織のマネジメント経験が必要です。人事部門が一般的な評価軸を流用するだけでは、エンジニアが自分のキャリアを描けず、モチベーション低下につながります。
採用設計においても、EM/VPoEが不在だとジョブディスクリプション(JD)の精度が下がります。入社後のミスマッチや期待値ギャップが生じやすくなり、早期離職につながるリスクがあります。
リモート・分散チームでマネジメント負荷が増大する
リモートワーク・ニアショア・オフショアを組み合わせたエンジニア組織では、対面で察知できた「メンバーの状態変化」を意図的に拾う仕組みが必要になります。EM/VPoEが不在だと、この仕組みを整える責任者がいません。
コミュニケーションツール(Slack等)でのやり取りが主になると、感情の変化・業務負荷の偏り・チーム間の連携不足が見えにくくなります。これらを定期的にチェックし、介入するのがEMの役割です。組織が分散するほど、EM機能の重要性は高まります。
エンジニアキャリア停滞と離職リスク
エンジニアメンバーが「自分はどのように成長できるのか」「組織の中でどのようなキャリアを歩めるのか」を描けない状況は、離職の主要因の一つです。EM/VPoEが不在だとキャリアパスの設計者がいないため、優秀なエンジニアほどキャリア机上で評価される環境を求めて転職を選ぶ傾向があります。
採用難と離職が同時に発生すると、エンジニア組織の拡大がほぼ不可能になります。この悪循環を断ち切るには、EM/VPoE機能を組織内で確立するか、外部支援で補完するかの判断が必要です。
外部支援でEM/VPoE機能を補う4つのアプローチ
EM/VPoEを自社で採用・育成するには時間がかかります。採用市場においてEM/VPoEは希少であり、内製での育成も数年単位のリードタイムを要します。外部支援を活用することで、組織課題の深刻化を防ぎながら内製体制を整える時間を確保できます。
フラクショナルEM/VPoE(部分的な役割代行)
フラクショナル(Fractional)EM/VPoEとは、週2〜3日や月に数日といった形で外部の専門家がEM/VPoEの役割を部分的に担うアプローチです。正社員採用ではなく業務委託契約で組織に関与し、1on1の実施・評価制度の整備・採用面接への参加・マネジメント体制の構築を担います。
このアプローチはスタートアップや成長期のスケールアップに向いています。正社員EMを採用するコストや時間をかけずに、即戦力のマネジメント機能を得られます。ただし、組織の内情を理解するまでに一定の時間が必要なため、短期スポットより3〜6か月以上の継続関与が成果につながりやすい傾向があります。
育成体制構築の伴走支援
「外部の人がEMを代行する」のではなく、「社内のシニアエンジニアやリードをEMに育てるための伴走」を依頼するアプローチです。1on1の型・評価制度の設計・採用面接の進め方・マネジメント会議の運用など、EM業務に必要なプラクティスを社内に移植することを目的とします。
このアプローチは内製化を前提とした場合に適しています。伴走支援が終了した後も組織内に知識・プロセスが残るため、長期的な自立を見据えた判断ができます。ただし、伴走対象となる社内候補者がいることが前提です。
技術顧問・アドバイザリー契約
月に数時間の相談対応・レビュー・助言を行う顧問・アドバイザリー契約は、EM/VPoEが自社にいる場合の補完として機能します。経験豊富な外部VPoEが自社のEM陣を支援する「EMのEM」として機能することで、組織マネジメントの質を高められます。
フルタイムや週次での関与が難しい場合でも、月2〜4回の相談機会を設けることで、組織設計の判断精度が上がります。特定の課題(評価制度の再設計・採用計画の策定など)に集中したスポット支援にも向いています。
評価制度・採用設計の専門委託
EM/VPoEの業務のうち「評価制度の設計」「採用設計・JDの整備」「組織グレード定義」など、成果物が明確なプロジェクト型の業務を専門会社に委託するアプローチです。EM/VPoEを常駐させるのではなく、特定のアウトプットを得ることを目的とします。
委託先としては、人事制度設計の専門コンサルタントや、エンジニア組織設計に特化した支援会社、IT人材領域に強いエージェント系の組織設計部門などがあります。成果物の品質が委託先の経験に大きく依存するため、エンジニア組織への理解度を選定時に確認することが大切です。
外部支援の進め方——課題特定から委託先選定まで4ステップ
外部支援を活用してEM/VPoE機能を補完する場合、最初にやるべきことは「どの課題を解決したいか」の明確化です。アプローチや委託先の選定は、課題特定の後に行います。
ステップ1:自社のEM/VPoE課題を特定する
まず自社のエンジニア組織が抱える課題を洗い出します。「1on1が実施されていない」「評価制度がエンジニア職に合っていない」「採用でミスマッチが続いている」「エンジニアの離職が増えた」「リモートチームのコミュニケーションが希薄になった」など、具体的な症状から始めるのが有効です。
課題の深刻度と緊急度を分類することで、外部支援の優先順位が決まります。「今すぐ離職が起きそう」という緊急課題はフラクショナルEM型の支援が向いており、「組織拡大に備えた評価制度整備」という中期課題は伴走支援や専門委託が向いています。
ステップ2:支援スコープと期間を定義する
外部支援の範囲と期間を事前に決めておくことで、委託先との認識齟齬を防げます。具体的には「週2日・3か月間でEMロールを担ってもらう」「評価制度のグレード定義と目標設定フォーマットを3か月で設計してもらう」など、成果物・期間・関与頻度を明文化します。
スコープが曖昧なまま支援を開始すると、「どこまで依頼してよいか」が不明確になり、委託先も動きにくくなります。初回の契約では範囲を絞ったうえで試し、効果を確認してから範囲を広げる進め方がリスクを抑えられます。
ステップ3:組織設計・1on1・評価・採用の実績で委託先を評価する
委託先の評価では、「EM/VPoEとして何を経験してきたか」を具体的に確認します。過去に担当した組織の規模・業種・課題内容、1on1や評価制度の設計事例、採用設計の経験、リモートチームのマネジメント経験などがチェックポイントになります。
技術理解(プログラミング言語・アーキテクチャへの基本的な知識)も必要ですが、EM/VPoEの本質は「技術を作る人をどう育てるか」です。採用候補者や委託先候補と話す際、技術の話より組織・人の話のほうが豊かかどうかを確認するとよいでしょう。
ステップ4:内製移行計画を最初に合意しておく
外部支援をいつまでも続けることは現実的ではありません。最初の契約段階で「どのような状態になったら支援を終了するか」「社内のだれがEM機能を引き継ぐか」を委託先と合意しておくことが大切です。
内製移行計画がないまま外部支援が続くと、依存関係が生まれ、外部支援の終了が難しくなります。支援の最終フェーズに「社内EM候補者への引き継ぎ・ノウハウ移転」を組み込んだロードマップを描くことで、持続可能な組織体制に移行できます。
委託先の評価軸——組織設計/1on1/評価/採用の実績で選ぶ
外部支援を検討する際、委託先の選定基準が明確でないと「話は上手いが成果が出ない」というミスマッチに陥ります。以下の比較軸で候補を整理すると判断しやすくなります。
| 評価軸 | 内製(社内EM育成) | 外部支援(フラクショナルEM等) |
|---|---|---|
| 即効性 | 低い。候補者の育成に半年〜数年かかります。 | 高い。経験者が即日〜数週間で関与を開始できます。 |
| コスト | 育成コスト・機会損失がかかります。年収水準は採用市場に依存します。 | 月次の業務委託費用が発生します。正社員採用よりリスクが低い場合があります。 |
| 組織理解 | 高い。社内事情・文化・人間関係を熟知しています。 | 初期は低い。3か月以上で深まります。文化適合を最初に確認する必要があります。 |
| 継続性 | 長期安定。ただし本人の離職リスクは残ります。 | 契約更新が必要。内製移行を見据えたロードマップが不可欠です。 |
| 知識移転 | 自然に蓄積されます。退職時にリスクが集中します。 | 意図的な引き継ぎ設計が必要です。ドキュメント化・伴走移転を明示的に組み込みます。 |
| 向いている状況 | 中長期の組織設計を見据え、候補者が既に社内にいる場合。 | 急成長期・即座にマネジメント機能が必要・採用が困難な場合。 |
委託先を選ぶ際は、過去のEM/VPoE経験を具体的に語れるかどうかが重要な指標です。「何人のチームを率いたか」「評価制度をどう設計したか」「採用でどんな課題をどう解決したか」を面談で掘り下げることで、実力を見極められます。
自社のカルチャーとの適合も確認します。スピード重視のスタートアップと安定重視の大企業では、EMに求めるスタイルが異なります。試験的に1か月の短期スポット支援から始め、適合性を確認してから本格契約に移行する方法も有効です。
まとめ——EM/VPoE不足を外部支援で補う3つの判断軸
本稿ではEM・VPoEの役割定義から、不在時の課題、外部支援の4アプローチ、委託先の選び方までを整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。
第一に、EMとVPoEは「技術設計」ではなく「組織・人のマネジメント」を専門とするポジションです。テックリードやCTOとの役割分担を明確にしてから外部支援の範囲を決めると、支援効果が高まります。第二に、不在の課題は「1on1・評価・採用設計のオーナーレス化」「リモートチームのマネジメント負荷増大」「エンジニアキャリア停滞・離職」という形で現れます。症状を特定してからアプローチを選ぶことが大切です。
第三に、外部支援の委託先評価では「組織設計・1on1・評価制度・採用設計の実績」と「内製移行計画への合意」が核心的な評価軸です。技術理解も必要ですが、「人と組織のマネジメントに関する実績の豊かさ」を最優先で確認してください。
よくある質問
EMとテックリードはどう違いますか?
EMはピープルマネジメント(1on1・評価・キャリア支援)とデリバリ管理・組織健全性維持を主業務とします。テックリードは技術設計・アーキテクチャ判断・コードレビューを主業務とします。両者は「人と組織のマネジメント」と「技術の設計・判断」という異なる専門領域を担います。組織が成長するにつれ、この2つの役割は分離することが一般的です。
VPoEとCTOはどのような違いがありますか?
CTOは技術戦略・技術的方向性・技術選定の意思決定を担います。VPoEはその技術戦略を実行できるエンジニア組織を作る責任者です。採用計画・評価制度・グレード設計・エンジニアカルチャー形成がVPoEの中心業務となります。スタートアップでは1人が両方を兼務することもありますが、組織規模が拡大するにつれ分業が必要になります。
フラクショナルEMとはどのような形態ですか?
フラクショナルEMとは、週2〜3日や月に数日といった形で外部の専門家がEMの役割を部分的に担う業務委託形態です。正社員採用ではなく、業務委託契約でチームに関与し、1on1・評価制度整備・採用設計・組織健全性のモニタリングを担います。採用難やコスト制約がある場合に、EM機能を即座に確保できる手段として活用されています。
外部支援はどのくらいの期間が必要ですか?
支援期間は目的によって異なります。評価制度の設計など成果物が明確なプロジェクト型は3か月程度が目安です。フラクショナルEM型で組織全体のマネジメント機能を担う場合は、組織理解が深まる3か月以降に成果が出やすくなるため、6か月〜1年程度の関与が一般的です。内製移行を見据えた伴走支援の場合は、社内候補者の育成スピードに合わせて設定します。
外部EM支援の委託先を選ぶ際に何を確認すればよいですか?
最も重要なのは「過去のEM/VPoE経験の具体性」です。何人規模のチームを担当したか、評価制度をどう設計したか、採用設計でどんな課題を解決したかを面談で掘り下げます。技術理解の深さも確認しますが、人と組織のマネジメントに関する豊富な経験があるかどうかを優先します。自社カルチャーとの適合も重要なため、短期スポット契約から始め、適合性を確認してから本格契約に移行することをお勧めします。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX白書2023」(2023年)