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2026.07.17 らしくコラム

食品トレーサビリティシステム|ロット追跡とリコール対応の要件

LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)として食品業界の業務システム開発・保守を受託

食品トレーサビリティのイメージ

この記事のポイント

  • 食品トレーサビリティシステムは、原材料の入荷から製造・出荷までをロット単位で記録し、問題が起きたときに流通経路を遡及・追跡して回収範囲を絞り込むための業務システムです。
  • 農林水産省はトレーサビリティを「食品の移動を把握できること」と定義し、各事業者が入荷と出荷の記録を作成・保存する「一歩川上・一歩川下」の考え方を基本に置いています。
  • 米トレーサビリティ法・HACCP・食品表示制度など、記録や伝達を求める複数の制度と連動する点が、在庫管理や生産管理のシステムとの違いになります。

回収時に流通経路を追えない——食品事業者が抱える課題

食品物流のイメージ

食品を扱う事業では、原材料の仕入から製造、出荷までの間に、いつ・どのロットの原料を・どの製品に使い、どこへ出荷したのかという記録が日々積み上がっていきます。平時はこの記録を意識する場面がそう多くありません。問題が表面化するのは、原材料に異物や規格外が見つかったとき、あるいは取引先や行政から特定ロットの回収を求められたときです。

この局面で問われるのは、対象となる製造ロットがどの原材料に由来し、どの出荷先まで届いているのかを短時間で言えるかどうかにあります。紙の伝票やExcelが事業場ごとに分かれていると、原料ロットと製品ロットの対応を人手でたどる作業になりがちです。結果として回収範囲を絞り込めず、必要以上に広い範囲を回収せざるを得ない事態も起こり得ます。

図
図:原材料・製造・出荷・販売の各段階をロットで記録し、回収時に遡及と追跡で範囲を絞る流れ

農林水産省は、食品のトレーサビリティを「食品の移動を把握できること」と定義しています*1。各事業者が入荷と出荷の記録を作成・保存しておけば、食中毒などの事故時に問題食品の出所を調べる「遡及」と、流通先を追う「追跡」ができるという考え方です*1。近畿農政局の解説も、記録を書類等で特定し、原因究明や商品回収を円滑に行うための仕組みだと説明しています*2

食品トレーサビリティシステムとは

食品トレーサビリティシステムとは、原材料の入荷から製造・出荷までの各工程をロット単位で記録し、問題が起きたときに流通経路を遡及・追跡できるようにする業務システムを指します。中心にあるのは、農林水産省が示す「一歩川上・一歩川下」の考え方です。ものの流れに沿って一歩川上の事業者を仕入先、一歩川下の事業者を販売先ととらえ、それぞれの入荷・出荷を記録します*1

自社が扱った範囲の記録さえ整っていれば、川上・川下の事業者が残す記録とつなぐことで、チェーン全体の追跡が成り立ちます。農林水産省は導入にあたり、入荷元と出荷先の記録に加えて、農産物や原材料の識別とロット管理を基本要素として挙げており、業種別の記録様式集も公開しています*1。つまりシステムに求められる骨格は、識別・記録・保存の3点に整理できるわけです。

この記録と伝達という骨格は、品目ごとの制度にも共通して現れます。米トレーサビリティ法(正式名称「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」)は、米穀事業者に入荷・出荷記録の作成・保存(2010年10月1日施行)と、産地情報の伝達(2011年7月1日施行)を義務づけています*3。対象は、もみ・玄米・精米から米菓・清酒まで幅広く、生産者を含む米・米加工品の事業者が該当します*3。牛肉の分野では、個体識別番号によって一元管理し、生産から流通・消費の各段階でその番号を伝達する仕組みが運用されています*5

在庫管理・生産管理システムとの違い——ロット追跡と回収対応に特化する

らしくメディアでは、在庫管理システムや生産管理システム、倉庫管理(WMS)といったテーマも扱ってきました。食品トレーサビリティシステムは、これらと重なる部分を持ちながらも、狙いどころが異なります。在庫管理は在庫数量と入出庫、生産管理は製造計画・工程・原価を主眼に置くのに対し、食品トレーサビリティシステムは追跡可能性、すなわち「あるロットがどこから来てどこへ行ったか」を後から復元できることに主眼を置くからです。

生産管理でも製造ロットは扱いますが、その主目的は歩留まりや納期の管理にあります。トレーサビリティで成果物になるのは、原料ロットと製品ロットの対応関係、そして出荷先ごとのロット割当という「つながり」の記録そのものです。参照するタイミングも、日常の運用ではなく、事故・回収・監査といった事後の照会が中心になります。両者の違いを整理すると次の通りです。

観点 在庫管理・生産管理システム 食品トレーサビリティシステム
主な目的 在庫の最適化・製造の効率化 ロットの遡及・追跡と回収範囲の特定*2
記録の中心 数量・工程・原価 原料ロットと製品ロットの対応・入出荷先*1
主に参照する場面 日常の運用・計画立案 事故・回収・監査など事後の照会
よりどころとなる考え方 社内の採算・計画 一歩川上・一歩川下の記録*1
制度との関係 直接の法令要件は限定的 米トレサ法・HACCP・表示制度と連動*3*4*6

言い換えると、在庫・生産管理が「今どれだけあるか」「効率よく作れているか」を問うのに対し、食品トレーサビリティシステムは「後から追えるか」を問います。既存の生産管理や販売管理と一部の項目を共有しつつ、ロットのつながりと記録の保存に特化させる点が設計上の分かれ目です。

食品トレーサビリティシステムの主な機能要素

品質検査のイメージ

食品トレーサビリティシステムの機能は、大きく四つの領域に整理できます。ロット単位の記録、一歩川上・一歩川下の入出荷記録、遡及・追跡による回収対応、そして食品表示やHACCPの記録との連携です。以下、順に見ていきます。

ロット単位の記録と識別

出発点になるのは、原材料と製品にロットという識別の単位を与えることです。原材料の入荷時に仕入先・入荷日・原料ロットを記録し、製造の段階でその原料ロットを製品ロットへ引き当てます。農林水産省も、識別とロット管理をトレーサビリティの基本要素に位置づけています*1。ロットの粒度をどう決めるかは後段の回収範囲に直結するため、製造バッチや日付など、事業の実態に合わせた設計が要点になります。

一歩川上・一歩川下の入出荷記録

次に、仕入先(一歩川上)からの入荷と、販売先(一歩川下)への出荷を記録します*1。記録すべき項目の具体例は、米トレーサビリティ法が参考になります。同法では、品名・産地・数量・年月日・取引先名・搬出入場所を記録することとされています*3。こうした項目をシステムで定型的に残しておけば、後からの照合が容易です。記録は紙でも電子媒体でも認められますが、量が増えるほど電子的な一元管理の利点が大きくなります*3

遡及・追跡による回収対応

記録がそろって初めて、問題発生時の回収対応が機能します。問題のあった製品ロットから使用した原料ロットへさかのぼるのが遡及、その原料ロットを使った他の製品や出荷先へ広げるのが追跡です*2。両方向をたどれれば、影響のあるロットだけを特定でき、回収範囲を過不足なく絞り込みやすくなります。この回収範囲の特定こそ、システムが果たす中心的な役割といえます。

食品表示・HACCP記録との連携

ロットの記録は、他の制度対応の記録とも結びつきます。加工食品では、2017年9月から国内で製造されたすべての加工食品に原料原産地の表示が義務づけられ、原則として重量割合が最も高い原材料の産地を表示します*6。原料ロットに産地情報をひも付けておけば、この表示の根拠づけにも使えます。またHACCPは、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程で危害要因を管理し、その実施状況を記録・保存する衛生管理の手法です*4。工程の記録とロットの記録を関連づければ、衛生管理と追跡の両面を一つの流れで扱えます。

開発を外注する際に確認したい点

食品トレーサビリティシステムの開発を外部に委託する場合、まず確かめたいのは、関連制度への理解です。米トレーサビリティ法の記録項目、加工食品の原料原産地表示、HACCPの記録要件などを、仕様へ正しく落とし込めるかどうかが品質を左右します*3*4*6。制度は改正が重ねられてきた分野でもあるため、最新の情報に追随できる体制かも見ておきたいところです。

二つめは、ロット設計の粒度です。ロットを細かく切りすぎると現場の記録負担が重くなり、粗すぎると回収時に対象が広がってしまいます。自社の製造単位や出荷の実態を踏まえ、どの粒度で識別するのかを委託先とすり合わせておくと、稼働後の手戻りを抑えやすくなります。この設計は、要件定義の早い段階で握っておきたい論点です。

三つめは、既存システムとの連携範囲です。生産管理・販売管理・会計といった既存の仕組みと、ロット情報をどこまで受け渡すのかを整理します。二重入力を避けたいのか、まずは記録の一元化から始めるのか、目的の切り分けが連携方針の出発点になるでしょう。あわせて、表示制度の様式変更や取引先の追加に対応できる保守の範囲も、契約前に確認しておくと認識のずれを防げます。

まとめ:目的は最終的な回収範囲の特定

本稿では、食品トレーサビリティシステムの位置づけと機能要素を、農林水産省・厚生労働省・消費者庁の情報をもとに整理しました。要点は次の三つです。第一に、このシステムは原材料〜製造〜出荷をロット単位で記録し、問題発生時に遡及・追跡して回収範囲を絞り込むためのもので、在庫管理や生産管理とは狙いが異なります*1*2。第二に、中心となる機能は、ロット単位の記録、一歩川上・一歩川下の入出荷記録、遡及・追跡による回収対応、そして表示・HACCP記録との連携です*1*6

第三に、米トレーサビリティ法や加工食品の原料原産地表示、HACCPといった制度と連動するため、外注では制度理解・ロット粒度・既存システム連携という三つの軸で委託先の対応範囲をすり合わせることが欠かせません*3*4*6。記録と識別を積み重ね、いざというときに影響範囲を過不足なく言い当てられる状態をつくること。それが、食品トレーサビリティシステムの目的だといえます。

LASSICに相談するメリット

LASSIC IT事業部は、食品業界の業務システムの受託開発・保守を元請(プライムベンダー)として担っています。関連制度の読み解きから、ロット設計、一歩川上・一歩川下の入出荷記録、遡及・追跡による回収対応、食品表示・HACCP記録との連携を見据えた要件定義まで、一貫してご相談いただけます。既存の生産管理・販売管理との兼ね合いを踏まえ、現状の整理からご一緒します。

よくある質問

食品トレーサビリティシステムは在庫管理や生産管理システムで代用できますか。

在庫管理や生産管理はロットを扱う場合もありますが、主目的は在庫の最適化や製造の効率化です。食品トレーサビリティシステムは、原料ロットと製品ロットのつながりや出荷先を記録し、問題発生時に遡及・追跡して回収範囲を絞る点に特化します*2。既存システムと項目を共有しつつ、追跡のための記録を補う設計が現実的です。

すべての食品事業者にトレーサビリティが法律で義務づけられているのですか。

農林水産省は食品全般にトレーサビリティ(入荷・出荷記録の作成・保存)を推奨しています*1。品目別では、米・米加工品に米トレーサビリティ法の記録・伝達義務があり*3、牛肉には個体識別番号による制度があります*5。まずは自社の取扱品目に関わる制度を確認したうえで、記録の範囲を設計することをおすすめします。

ロットの単位はどのくらいの細かさで設計すればよいですか。

一律の正解はありません。ロットを細かくすると回収範囲を狭められる一方で現場の記録負担が増え、粗くすると負担は軽い反面、回収対象が広がりがちです。製造バッチや日付など自社の実態に合う単位を選び、回収時に許容できる範囲との兼ね合いで決めるのが実務的です。

HACCPや食品表示の記録とトレーサビリティは連携できますか。

連携できます。HACCPは入荷から出荷までの全工程で危害要因を管理し記録・保存する手法で*4、加工食品では重量割合が最も高い原材料の原料原産地表示が求められます*6。原料ロットに産地や工程の記録をひも付けておけば、衛生管理・表示・追跡を一つの流れで扱いやすくなります。

開発を外注するとき、まず何を委託先に確認すべきですか。

確認したい軸は三つあります。米トレーサビリティ法や表示制度・HACCPといった制度要件を仕様へ落とし込めるか*3*6、ロットの粒度をどう設計するか、そして生産管理や販売管理など既存システムとの連携範囲です。あわせて、制度改正や取引先追加に対応する保守の範囲も契約前にすり合わせておくと、認識のずれを防ぎやすくなります。

著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑


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  1. *1 出典:農林水産省「トレーサビリティ関係」( https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trace/index.html )
  2. *2 出典:農林水産省 近畿農政局「食品トレーサビリティ」( https://www.maff.go.jp/kinki/syouhi/mn/sinrai/syokuhintoresa.html )
  3. *3 出典:農林水産省「米トレーサビリティ法の概要」( https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/kome_toresa/ )
  4. *4 出典:厚生労働省「HACCP(ハサップ)」( https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html )
  5. *5 出典:農林水産省「牛・牛肉のトレーサビリティ」( https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/trace/ )
  6. *6 出典:消費者庁「新たな加工食品の原料原産地表示制度に関する情報」( https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/country_of_origin/ )


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