LASSIC Media らしくメディア
建築物衛生法の空気環境測定と管理記録を仕組み化
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム保守・運用を受託
この記事のポイント
- 建築物衛生法(ビル管法)は、事務所ビルや店舗・学校など一定規模の「特定建築物」に対し、空気環境測定・給水排水管理・清掃・防除などの維持管理基準を義務づけています*1。
- 空気環境測定は原則2か月以内に1回実施し、測定記録を含む帳簿書類は5年間保存する義務があります*3*4。
- 多棟・多店舗を管理する事業者ほど、測定・点検のスケジュール管理や基準値の判定、記録の証跡管理を仕組み化する必要性が高くなります。
目次
建築物衛生法とは?特定建築物の該当要件
建築物衛生法(正式名称:建築物における衛生的環境の確保に関する法律)は、興行場・百貨店・店舗・事務所・学校・旅館等の用途に使われる一定規模以上の建築物を「特定建築物」と位置づけ、その所有者・管理者に対して衛生的な環境の確保を求める法律です*1。目的は建築物内の衛生的環境を確保し、公衆衛生の向上と増進に資することにあります*1。
なお、本稿が扱うのは建築物衛生法に基づく特定建築物の環境衛生管理と記録の仕組み化です。労働安全衛生法に基づく作業環境測定や、消防法に基づく消防用設備点検は根拠法・対象がそれぞれ異なる別制度であり、当サイトでは別記事で扱っています。
想定される読者は、オフィスビル・商業施設・学校等を保有する所有者、これらを受託するビル管理会社、複数拠点の施設運営を担う情報システム部門・総務部門の担当者です。単独の建物を管理する場合は年間の測定・点検スケジュールを手元で把握することも可能ですが、保有・管理する建物が増えるほど、どの建物でどの義務が発生しているかを横断的に把握する負担が大きくなります。
特定建築物に該当する3つの要件
厚生労働省は、特定建築物の要件として次の3点を示しています*1。第一に建築基準法上の建築物であること、第二に興行場・百貨店・集会場・図書館・博物館・美術館・遊技場・店舗・事務所・学校(研修所を含む)・旅館のいずれかの用途に使われていること、第三にその特定用途に使われる部分の延べ面積が3,000平方メートル以上(学校教育法第1条に定める学校は8,000平方メートル以上)であることです*1。
複合施設や増改築を伴うビルでは、用途区分の算定や延べ面積の合算方法によって該当・非該当の判断が分かれる場合があります。自社の建物が特定建築物に該当するかどうかは、最終的に所轄の保健所または都道府県の窓口に個別確認することが望ましいでしょう。
所有者・管理者に生じる主な義務
特定建築物に該当すると、所有者や維持管理権原者には主に次の義務が生じます。
- 使用開始から一定期間内に都道府県知事等へ届け出ること
- 建築物環境衛生管理技術者を選任すること
- 建築物環境衛生管理基準に従って維持管理を行うこと
- 維持管理に関する帳簿書類を備え付け、一定期間保存すること*1
これらは建物単位で発生する義務であるため、複数棟・複数拠点を保有する企業ほど管理対象が増え、抜け漏れなく運用する体制づくりが課題になりやすい領域です。
建築物環境衛生管理技術者の選任と役割
特定建築物の所有者等は、維持管理の監督にあたらせるため、建築物環境衛生管理技術者を選任しなければなりません*2。選任できるのは、厚生労働大臣が定める国家試験に合格した者、または登録講習機関の講習を修了した者のいずれかです*2。
管理技術者は、維持管理業務の実施について所有者等に意見を述べることができ、所有者等はその意見を尊重しなければならない立場にあります*2。原則として1人の管理技術者が同一企業内で2つ以上の特定建築物を兼ねることはできませんが、令和4年4月の制度改正により、兼任しても業務の遂行に支障がないことを所有者等が確認できた場合に限り、複数の特定建築物を兼任できる仕組みが設けられました*2。
多棟展開する企業にとって、管理技術者をどう配置するかは運用コストに直結します。兼任の可否を判断するには、各建物の点検スケジュールや技術者の稼働状況を横断的に把握できる状態にしておく必要があるでしょう。管理技術者が所有者等へ述べた意見や、それに対する対応の記録も、後日の経緯確認や引き継ぎの場面で参照する機会があるため、日々の測定・点検記録とあわせて管理しておくと実務上の手戻りを減らせます。
また、管理技術者は法令上の資格者であって、測定・点検作業そのものを一人で担うとは限りません。実際の測定・点検は専門業者へ委託し、管理技術者はその結果を確認・監督する立場をとる運用も広く行われています。誰が何を実施し、誰が確認したかという役割分担を記録として残しておくことも、維持管理の実効性を示すうえで重要な要素です。
建築物環境衛生管理基準:空気環境測定・給水排水・清掃・防除
特定建築物の維持管理は「建築物環境衛生管理基準」に沿って行う必要があります*1。基準は大きく空気環境の調整、給水・排水の管理、清掃、ねずみ昆虫等の防除の4分野に分かれます。項目ごとの基準値・頻度は次のとおりです(詳細は自治体窓口・厚生労働省資料で要確認)*3。
| 測定項目 | 基準値の目安 | 測定頻度の目安 |
|---|---|---|
| 浮遊粉じんの量 | 0.15mg/立方メートル以下 | 2か月以内ごとに1回*3 |
| 一酸化炭素の含有率 | 6ppm以下 | 2か月以内ごとに1回*3 |
| 二酸化炭素の含有率 | 1,000ppm以下 | 2か月以内ごとに1回*3 |
| 温度 | 18度以上28度以下が目安 | 2か月以内ごとに1回*3 |
| 相対湿度 | 40%以上70%以下が目安 | 2か月以内ごとに1回*3 |
| 気流 | 0.5m/秒以下 | 2か月以内ごとに1回*3 |
新築・大規模修繕直後の建築物ではホルムアルデヒドの測定も加わり、使用開始後の一定期間は月1回程度の測定が求められる場合があります*3。自社の建物が該当するかどうかは個別の状況によって変わるため、公式情報での確認が必要です。
給水・排水・清掃・防除についても、それぞれ頻度が定められています。貯水槽の清掃は1年以内ごとに1回、水道水のみを使用する場合の水質検査は6か月以内ごとに1回、末端給水栓での残留塩素の確認は日常的に行う必要があります*3。排水設備の点検は1か月以内ごとに1回、排水槽の清掃は4か月以内ごとに1回以上が目安です*3。清掃は日常的な清掃に加え、定期清掃を6か月以内に1回実施し、ねずみ昆虫等の防除は6か月以内ごとに1回の生息状況等の点検と、状況に応じた措置が求められます*3。
これらはいずれも建物単位・設備単位で発生する定期業務であり、拠点数が増えるほど「どの建物の、どの項目が、いつ期限を迎えるか」を横断的に把握する負担が大きくなります。
項目ごとに頻度が異なる点も運用を難しくする要因です。空気環境測定は2か月、排水設備点検は1か月、貯水槽清掃は1年というように周期がそろっていないため、建物ごとに複数の周期表を並行して管理する必要があります。担当者が個人の記憶やカレンダーだけで管理していると、繁忙期に一部の項目だけ期限を超過してしまう、といった見落としが起こりやすくなります。基準値を外れた場合には、原因の調査と是正措置、再測定までを一連の流れとして記録に残すことも、維持管理基準を遵守するうえで欠かせないポイントでしょう。
測定・点検記録の保存という管理上の課題
建築物衛生法は、特定建築物の維持管理に関し環境衛生上必要な事項を記載した帳簿書類を備え付けることを義務づけており、この帳簿書類は5年間保存する必要があります*4。対象となるのは、空気環境測定の記録、給排水設備の点検・清掃記録、水質検査結果、清掃記録、ねずみ昆虫等の防除記録といった維持管理に関する帳簿書類です*4。なお、これらの記録は書面に限らず電磁的記録による保存も認められています*4。一方で建築図面や設備系統図といった図面類は、性質上より長期の保存が前提とされる書類として扱われる点にも留意が必要です*4。
紙の測定表やExcelファイルで記録を管理している現場では、次のような課題が生じやすくなります。
- 拠点ごとに記録の様式や保存場所がばらつき、立入検査時にすぐ提示できない
- 次回測定日の管理が担当者の記憶やカレンダー任せになり、期限超過に気づきにくい
- 基準値超過があった際の是正対応の履歴が、測定記録と別管理になっている
- 担当者の異動・退職時に、過去の経緯や保存場所の引き継ぎが漏れる
特定建築物を単独で保有する場合は手作業でも対応できる範囲かもしれませんが、複数棟・複数拠点を抱える企業では、記録の保存自体が目的化し、本来の目的である衛生的環境の維持という観点が後回しになりかねません。
保健所による立入検査では、帳簿書類の提示を求められる場面があります。その際に「どの棚に何年分の記録があるか」を探すところから始めていては、確認対応に時間がかかり、担当者の負担も大きくなります。逆に、建物・年度・項目で検索できる状態に記録を整えておければ、必要な書類をその場で提示しやすくなり、日常の維持管理そのものにも目を向けやすくなるでしょう。
多棟・多点管理を仕組み化するシステム要件
特定建築物を複数保有・管理する企業では、次の4つの要素を備えたシステムで測定・点検記録を一元管理する発想が有効です。
建物台帳:棟・用途・面積・技術者選任状況の一元管理
棟ごとの用途区分・延べ面積・特定建築物への該当状況・選任している管理技術者を台帳として一元管理できると、新規物件の取得や用途変更があった際に、特定建築物への該当判断や義務発生の見落としを防ぎやすくなります。テナントの入退去やフロア用途の変更によって延べ面積の算定が変わる場合もあるため、台帳を都度更新できる運用にしておくことが前提になります。
測定・点検スケジュールとアラート
空気環境測定の2か月周期、給水関連の6か月・1年周期、排水・清掃・防除のそれぞれの周期を建物ごとに自動算出し、期限が近づいた項目を担当者へ通知する仕組みがあれば、期限超過のリスクを大きく下げられます。拠点数が多いほど、この自動化による効果は大きくなるでしょう。
基準値の判定と記録の証跡
測定結果を入力すると基準値との超過有無を自動判定し、超過時には是正対応の記録も紐づけて残せる設計にしておくと、立入検査や監査への対応がスムーズになります。記録は法定の5年間はもちろん、検索・抽出しやすい形で保存しておくことが、複数拠点を横断した状況把握にもつながります。
建物ごとの実施状況を一覧化できれば、経営層や施設管理を委託しているオーナーへの定期報告もつくりやすくなります。個々の測定結果を単発の記録として扱うのではなく、拠点横断で状況を可視化する仕組みとして捉え直すことが、多棟・多点管理を仕組み化する出発点になるでしょう。
まとめ:特定建築物の管理記録を仕組み化する3つの視点
本稿では建築物衛生法に基づく特定建築物の環境衛生管理と記録保存の要点を、厚生労働省および自治体の公式情報に基づき整理しました。第一に、自社の建物が特定建築物に該当するかどうかは、用途と延べ面積の要件を公式情報で確認する必要があります*1。第二に、空気環境測定・給水排水・清掃・防除はそれぞれ定められた頻度で実施し、建築物環境衛生管理技術者による監督のもとで管理基準を遵守することが求められます*2*3。第三に、測定・点検記録は帳簿書類として5年間保存する義務があり、多棟・多点で管理する企業ほど、台帳・スケジュール・判定・記録保存を一つの仕組みとして統合する価値が高くなります*4。
よくある質問
自社の建物が特定建築物に該当するかどうかは、どう判断すればよいですか。
興行場・百貨店・店舗・事務所・学校・旅館等の用途に使われ、特定用途の延べ面積が3,000平方メートル以上(学校は8,000平方メートル以上)であることが要件です*1。複合用途や増改築がある建物は面積算定が複雑になりやすいため、最終判断は所轄の保健所へ確認することをおすすめします。
空気環境測定はどのくらいの頻度で実施する必要がありますか。
浮遊粉じん・一酸化炭素・二酸化炭素・温度・相対湿度・気流の6項目は、原則として2か月以内ごとに1回の測定が求められます*3。新築・大規模修繕直後の建築物ではホルムアルデヒドの測定が加わる場合もあるため、該当性は個別に確認が必要です。
測定・点検記録は何年間保存すればよいですか。
維持管理に関する帳簿書類は5年間保存する義務があります*4。書面に限らず電磁的記録での保存も認められているため、システムでの一元管理と相性の良い分野といえます。
複数の建物を管理している場合、測定記録をどう一元管理すればよいですか。
棟ごとの用途・面積・技術者選任状況を記録する建物台帳、頻度別の測定/点検スケジュールとアラート、基準値の自動判定、記録の保存と証跡管理という4つの機能を1つの仕組みに統合する方法が有効です。拠点数が多い企業ほど、システム化による負担軽減の効果は大きくなります。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:厚生労働省「建築物の衛生(建築物衛生法の概要)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000132645.html)
- *2 出典:厚生労働省「建築物環境衛生管理技術者について」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei11/index.html)
- *3 出典:東京都健康安全研究センター「特定建築物の衛生管理基準」(https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/k_kenchiku/bldg/kijyun/)
- *4 出典:東京都健康安全研究センター「備付け帳簿書類」(https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/k_kenchiku/bldg/shorui/)