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スケールアップとスケールアウトの違い|選び方
LASSIC IT事業部|元請(プライムベンダー)としてシステム開発・検証を受託
アクセス増加や処理量の拡大を見据えたシステム設計を検討する場面で、「スケールアップとスケールアウトのどちらで対応すべきか」という論点に直面する発注担当者やPMは少なくありません。どちらも「システムの処理能力を高める」という目的は共通していますが、1台のサーバーを強化するのか、台数を増やして分散させるのかという方式そのものが異なります。この違いを整理しないまま設計を進めると、想定していた負荷に耐えられなかったり、逆に過剰な分散構成でコストと運用負荷だけが増えてしまったりする恐れがあるでしょう。
本記事では、スケールアップ(垂直スケール)とスケールアウト(水平スケール)という二つの方式の仕組みの違いを整理したうえで、システムの発注担当者・PM・設計者が基盤設計の判断軸として押さえておきたいポイントを解説します。特定クラウドサービスにおけるオートスケーリングの設定手順やコスト最適化の実務そのものには踏み込みません。あくまで「2方式の違い」と「どちらを選ぶべきかの判断」が本記事の焦点です。
この記事のポイント
- スケールアップはサーバー1台の性能(CPU・メモリ等)を増強する垂直スケール、スケールアウトはサーバー台数を増やして負荷を分散する水平スケールという、拡張の方向そのものが異なります。
- 性能上限・可用性(単一障害点の有無)・コスト特性という観点で得意不得意が分かれるため、優劣ではなく要件に応じた選択が必要です。
- スケールアウトを機能させるには、アプリケーションのステートレス化やデータベースの分散設計といった「状態管理」の壁を越える必要があり、この点が実装の難所になりやすい傾向にあります。
目次
スケールアップとは
スケールアップ(垂直スケール)とは、サーバー1台のCPU・メモリ・ストレージといったスペックを強化することで、処理能力を高める方式です。物理サーバーの部品交換や、クラウド上のインスタンスタイプをより上位のものへ変更するといった対応が該当します。サーバー台数は増やさず、既存の1台をそのまま強くするという発想が特徴といえるでしょう。
仕組み:1台の性能を増強する
スケールアップでは、アプリケーションやデータベースの構成自体を大きく変える必要がありません。1台のサーバーで完結する設計のまま、スペックだけを引き上げることで処理能力の向上を図れます。複数台に処理を分散させる仕組みや、サーバー間でデータを同期させる仕組みを別途用意しなくてよいため、実装や運用の面ではシンプルに済ませやすい方式です。
メリットとデメリット
スケールアップの利点は、アプリケーションの構成をほぼ変更せずに対応できる手軽さにあります。トランザクション処理やデータの整合性を重視するデータベースのように、複数台への分散が難しい処理とも相性がよい傾向にあるでしょう。一方で、サーバー1台が処理を担う構造そのものは変わらないため、そのサーバーに障害が起きるとシステム全体が停止する「単一障害点」になりやすい点は弱点です。また、スペックの引き上げには上限があり、ある水準を超えると同じ方式では対応しきれなくなる場面も出てきます。
スケールアウトとは
スケールアウト(水平スケール)とは、サーバーの台数を増やし、複数台で処理を分担することで全体の処理能力を高める方式です。増設したサーバー群にリクエストを振り分けるロードバランサーを組み合わせ、利用者からのアクセスを複数台で分散して受け止める構成が一般的といえます。
仕組み:台数を増やして分散する
スケールアウトでは、同じ役割を持つサーバーを複数台並べ、ロードバランサーがアクセスを各サーバーへ振り分けます。負荷が増えた際にはサーバーを追加し、負荷が落ち着けば台数を減らすといった調整のしやすさが特徴です。クラウド環境では、この増減を自動化する仕組みも普及しています。ただし、複数台のどのサーバーがリクエストを処理しても同じ結果になるよう設計しておく必要があり、この前提が整っていないと単純に台数を増やすだけでは機能しません。
メリットとデメリット
スケールアウトの利点は、理論上は台数を追加し続けることで処理能力を拡張していける点、そして1台に障害が起きても他のサーバーが処理を引き継げるため可用性を高めやすい点にあります。反面、複数台にまたがる構成となるためアーキテクチャは複雑になりやすく、後述する状態管理の設計をあらかじめ行っておく必要があるでしょう。設計を誤ると、台数を増やしても期待した効果が得られない場合もあります。
両者の違い:対比表と仕組み図
スケールアップとスケールアウトは、どちらも「処理能力を高める」という目的は共通していますが、拡張の方向・実装の難易度・可用性の考え方が異なります。次の表に主要な観点を整理します。
| 観点 | スケールアップ(垂直) | スケールアウト(水平) |
|---|---|---|
| 拡張の方向 | サーバー1台の性能を増強 | サーバー台数を追加して分散 |
| 実装の難易度 | 既存構成のまま対応しやすい | 分散前提の設計変更が必要になりやすい |
| 性能の上限 | 選べるスペックの上限に達すると頭打ちになる | 台数を追加することで拡張の余地を持たせやすい |
| 可用性 | 1台に依存し単一障害点になりやすい | 1台が停止しても他が処理を継続しやすい |
| コスト特性 | 上位スペックほど単価が割高になりやすい | 台数に応じて積み上がるが増減の調整がしやすい |
| 切替に伴う影響 | 再起動などダウンタイムを伴う場合がある | 稼働中のまま台数を増減させやすい |
| 状態管理の要否 | 1台完結のため意識しなくてよい場合が多い | セッションやデータの分散設計が前提となる |
| 典型的な用途 | 整合性重視のデータベース、小規模システム | Webサーバー層、アクセス変動が大きいサービス |
対比表からわかるとおり、スケールアップとスケールアウトはどちらが優れているというものではなく、性能・可用性・実装のしやすさに関する設計思想の違いです。次の図で、それぞれの仕組みのイメージを確認しておきましょう。
性能上限・可用性・コストの観点
基盤設計を検討するうえでは、性能の上限・可用性・コストという三つの観点から両者の特性を比較しておくと、判断がしやすくなります。
性能の上限
スケールアップは、選択できるサーバースペックの上限に達すると、それ以上の性能向上が難しくなります。クラウドサービスであっても、インスタンスタイプには上限があり、その水準を超える処理量に対しては別の対応を検討せざるを得ません。一方のスケールアウトは、台数を追加していくことで処理能力を積み増していける余地を持たせやすい方式です。ただし、台数を増やせば増やすほど無制限に性能が伸びるわけではなく、ロードバランサーやデータベースなど共有部分がボトルネックになる場合もある点は留意しておく必要があるでしょう。
可用性(単一障害点の有無)
スケールアップは処理を1台に集約するため、そのサーバーに障害が発生するとシステム全体が停止するリスクを抱えます。冗長化構成を別途組まない限り、単一障害点になりやすい構造といえるでしょう。スケールアウトは複数台で処理を分担しているため、1台が停止しても残りのサーバーで処理を継続しやすく、可用性を高めたいシステムとは相性がよい傾向にあります。
コスト特性
スケールアップは、上位スペックのサーバーやインスタンスほど単価が割高になりやすく、性能向上とコストが比例しない場面も出てきます。スケールアウトは標準的なスペックのサーバーを積み増す形になるため、台数に応じたコスト増加を見通しやすい一方、需要に応じて台数を柔軟に増減できる仕組みを整えれば、無駄なコストを抑えやすくなる面もあります。ただし、いずれの方式もサーバー台数や構成が増えるほど、監視・運用にかかる工数も増える点は考慮すべきでしょう。
状態管理という壁
スケールアウトを機能させるうえで実務上つまずきやすいのが、アプリケーションやデータの「状態」をどう扱うかという課題です。この壁を越えられないと、台数を増やしても期待通りに負荷が分散されない事態が起こり得ます。
アプリケーションのステートレス化
複数台のサーバーでリクエストを分担するには、どのサーバーが処理を受け持っても同じ結果を返せる状態にしておく必要があります。ログイン情報などのセッションデータを各サーバーのメモリ内だけに保持していると、次のリクエストが別のサーバーに振り分けられた際にセッションが認識されないといった不具合につながりかねない点には注意が必要です。こうした事態を避けるため、セッション情報を外部のデータストアに集約し、アプリケーション自体は状態を持たない「ステートレス」な設計にしておくことが、スケールアウトの前提条件になります。
データベースの水平スケールという難所
アプリケーション層のステートレス化に比べ、データベースの水平スケールはさらに設計難度が上がる領域です。整合性を重視するリレーショナルデータベースは、複数台にデータを分割して書き込みを分散させる「シャーディング」という手法を用いる場合がありますが、テーブル結合やトランザクションの整合性を保ったまま分割する設計には相応の検討が必要になります。読み取り処理については、複製(レプリカ)を追加して負荷を分散させる方法が比較的取り入れやすい一方、書き込みの分散は難易度が高く、データベース層がスケールアウト全体のボトルネックになりやすい部分といえるでしょう。
どちらを選ぶかの判断軸(ユースケース別)
基盤設計にあたっては、次のような判断軸を確認しておくと、スケールアップとスケールアウトのどちらが適しているかを整理しやすくなります。
- 負荷の性質――アクセスの増減が読みにくく変動が大きいか、比較的安定した負荷か
- 可用性要件――1台の停止が業務に大きな影響を及ぼす、単一障害点を避けたいシステムか
- 状態管理への投資――セッションのステートレス化やデータ分散の設計に工数をかけられるか
- 性能の見通し――将来的な処理量の増加が、現行スペックの上限を超える見込みがあるか
- 運用体制――複数台にまたがる分散構成を監視・運用できる体制があるか
ユースケース別の傾向
これらの判断軸を踏まえると、システムの性質によって次のような傾向が見えてきます。
- 小規模なシステムや、まずは様子を見たい立ち上げ期のサービス――スケールアップでシンプルに対応する選択肢が現実的
- 整合性を重視するデータベースで、書き込みの分散が難しい処理――当面はスケールアップで対応し、限界が見えてから分散を検討
- Webサーバーのように、アクセス数の変動が大きく可用性も重視したい層――スケールアウトが向く場面が多い
- 夜間バッチなど、決まった時間に決まった処理量をこなす用途――処理時間内に収まる範囲でスケールアップの方が扱いやすい場合がある
- キャンペーンなどで短期的にアクセスが急増する見込みがあるサービス――台数を柔軟に増減できるスケールアウトが適しやすい
あくまで一般的な傾向であり、実際の判断はシステムごとの要件や将来の成長見通し、既存資産の状況を踏まえて個別に検討する必要があります。
併用という現実解
実務では、スケールアップかスケールアウトかを二者択一で決める必要はありません。システムの層ごとに適した方式を組み合わせる設計が現実的な解決策になる場面が多くあります。
たとえば、Webサーバーやアプリケーションサーバーの層はステートレス化を施したうえでスケールアウトを前提とし、整合性を重視するデータベース層はまずスケールアップで対応しつつ、読み取りが多い処理にはレプリカを追加するといった構成は、多くのシステムで見られる設計です。立ち上げ当初はスケールアップでシンプルに運用し、事業の成長に応じてステートレス化を進めながらスケールアウト前提の構成へ段階的に移行するというロードマップも考えられます。なお、クラウド環境でサーバー台数の増減を自動化する仕組み自体は、本記事で扱うスケールアウトの活用例の一つですが、その設定・運用の実務は別のテーマとして扱われることが一般的です。
まとめ:拡張の方向を見極めて設計する
本記事では、スケールアップ(垂直スケール)とスケールアウト(水平スケール)という二つの方式の違いについて、拡張の方向・性能上限・可用性・コスト特性という観点から整理しました。スケールアップはサーバー1台の性能を強化する方式で実装がシンプルに済みやすく、スケールアウトは台数を増やして分散する方式で可用性を高めやすい反面、状態管理という設計上の壁を越える必要があります。
基盤設計にあたっては、負荷の性質・可用性要件・状態管理への投資・性能の見通し・運用体制といった判断軸を確認し、必要に応じて層ごとに両方式を併用する構成も検討することが、無理のないシステム基盤づくりにつながります。
よくある質問
まずどちらを選ぶべきですか。
小規模なシステムや立ち上げ期のサービスであれば、実装がシンプルなスケールアップから検討するのが無理のない選択になりやすいでしょう。アクセス数の変動が大きい、あるいは可用性を特に重視したい場合は、ステートレス化とあわせてスケールアウトを見据えた設計を検討する余地があります。判断に迷う場合は、想定される負荷や可用性要件を整理したうえで開発会社に相談することをおすすめします。
DBもスケールアウトできますか。
製品や設計次第で可能ですが、Webサーバー層に比べると難易度が上がる領域です。読み取り処理はレプリカを追加することで比較的分散させやすい一方、書き込みを複数台に分ける「シャーディング」はテーブル結合やトランザクションの整合性を保ったままの設計が必要になり、相応の検討を要します。まずはスケールアップで対応し、限界が見えてから分散を検討するという段階的な進め方も現実的な選択肢です。
スケールアップとスケールアウトはどちらがコストを抑えられますか。
一律にどちらが安いとは言い切れません。スケールアップは上位スペックほど単価が割高になりやすく、スケールアウトは台数に応じてコストが積み上がりますが、需要に応じて台数を増減できれば無駄を抑えやすい面もあります。監視・運用にかかる工数も含めて総合的に比較することが望ましいでしょう。
スケールアップからスケールアウトへ途中で切り替えられますか。
可能ですが、アプリケーションのステートレス化やデータの持ち方の見直しが必要になる場合が多く、無計画に進めると手戻りが生じやすい領域です。将来的にスケールアウトへの移行を見込むのであれば、立ち上げ時点からセッションを外部ストアに逃がしておくなど、移行しやすい設計を意識しておくことをおすすめします。
オートスケーリングとスケールアウトは同じ意味ですか。
厳密には異なります。スケールアウトはサーバー台数を増やして負荷を分散させる方式そのものを指す言葉であり、オートスケーリングはその台数の増減を自動化する仕組みを指す言葉です。オートスケーリングを機能させる前提として、本記事で解説したステートレス化などスケールアウトの設計が整っている必要があります。
小規模システムでもスケールアウトを検討すべきですか。
現時点の負荷がスケールアップで十分に対応できる規模であれば、無理にスケールアウトを前提とした複雑な構成にする必要はありません。将来的な成長見通しや可用性要件を踏まえたうえで、段階的にステートレス化を進めるかどうかを検討するのが現実的なアプローチといえるでしょう。
著者:テレリモ総研編集部 鈴木 亮佑
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
- *1 出典:IPA(独立行政法人情報処理推進機構)「情報処理技術者試験」シラバスにおけるシステム構成関連情報(https://www.ipa.go.jp/shiken/)